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新しい決意
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村での日々は、あっという間に過ぎていった。
朝はエリーと一緒に市場へ出かけ、新鮮な野菜や果物を選ぶ。料理の手伝いでは、ぎこちなくながらも野菜を洗ったり鍋をゆっくりかき混ぜ、エリーに笑顔で励まされた。
昼には子どもたちに誘われ、少しずつ走る練習を重ねた。転んで泥だらけになることもあったけれど、そのたびにノアや村の子どもたちが笑って手を差し伸べてくれた。
夜になるとライナスが狩りの話をしてくれ、炎の明かりの中で聞くその物語に胸をときめかせた。
そして一日の終わり、ノアと並んで星空を見上げる時間が、わたしにとって何よりの宝物になっていった。
「シエル、これからどんなふうに生きたい?」
そんな問いかけに、胸の奥で答えが少しずつ形になっていく。
どんなふうに…
「ねぇ……この村の人たちって、魔法を使ってないよね?」
わたしがぽつりと口にすると、ノアが尻尾を揺らして答えた。
「そうだな。村の外に出る者は少ないし、狩りや畑仕事が生活の中心だからね。魔法を補助に使うことはあっても、日常ではほとんど使わないんだ」
その答えに、胸の奥で小さなざわめきが広がる。
(わたしは……もっと魔法を知りたい)
風と遊んだときのあの感覚がよみがえり、心が強く引き寄せられていく。
「ノア……わたし、魔法を学びたい。もっとどんな魔法があるのか知りたいの」
ノアは静かに耳を揺らし、星の光を映す瞳でわたしを見つめた。
「うん、いいと思うよ。シエルの望みなら、僕も一緒に探そう。魔法を学べる場所を」
その言葉に、胸の奥が熱くなる。
村のあたたかさを大切に思いながらも、心はもう次の場所へと向かい始めていた。
翌朝。
朝食のあと、わたしは胸の奥に残った昨夜の想いを言葉にする勇気を出した。
「……あのね、エリー、ライナス」
少し緊張して二人を見上げる。
「わたし……もっと魔法を知りたいの。だから、この村を出て、町に行きたい」
エリーは一瞬驚いた顔をしたけれど、すぐにやわらかく微笑んだ。
「そう……やっぱりね。シエルの目を見ていれば分かるの。きっと、この村だけじゃ収まらないって」
ライナスは腕を組み、じっと考えるように目を細めた。
「町までの道は楽じゃない。けれど……ノアがいるなら大丈夫だろう。あいつは頼りになる」
そう言って笑みを浮かべる。
ノアは得意げに尻尾を揺らし、わたしの肩に軽く前足を置いた。
「もちろん。僕が一緒にいる」
わたしは小さくうなずいた。
すると、ライナスが机の引き出しから羊皮紙と羽ペンを取り出した。
「町に行くなら、これを持っていけ」
ペン先を走らせながら、真剣な声で続ける。
「冒険者ギルドに古い知り合いがいる。お前が最初の一歩を踏み出すとき、きっと力になってくれるはずだ」
エリーはじっと夫を見つめ、それから優しく微笑んだ。
「そうね……ライナスの紹介なら安心だわ」
彼女はわたしの手を取って、温もりを込めて握る。
「寂しくなるけど……夢に向かうあなたを応援するわ。必ず元気で戻ってきてね」
ライナスは署名を終えた羊皮紙を折り畳み、封蝋で閉じてわたしに差し出した。
「道は決して楽じゃない。だが、この手紙があれば、少なくとも町の入り口で迷うことはないだろう」
両手で受け取った瞬間、胸の奥が熱くなる。
「……ありがとう」
小さくそうつぶやくと、ライナスは頷き、穏やかな声で続けた。
「無理はするなよ。けれど、どうしても進みたいなら、その歩みを止める理由はない」
エリーも隣でにっこりと微笑む。
「シエルなら大丈夫。きっと素敵な出会いが待ってるわ」
そう言ったあと、彼女は少しだけ声をやわらげて続けた。
「でもね、焦ることはないの。旅に出るのは大きな決断だから、準備をして、心の整理をしてからでいいのよ。まだこの村で過ごす時間だって、大切な経験になるはずだから」
その言葉に胸がじんわりと温かくなり、わたしは小さくうなずいた。
そして数日後、出発の朝。
村の入り口には、エリーとライナスを中心に、たくさんの人たちが見送りに集まっていた。
市場で声をかけてくれた人たち、遊んだ子どもたち、井戸端で出会ったおばあさん、みんなが見送りに来てくれていた。
エリーはわたしの手を握り、そっと胸に抱きしめる。
「無理はしないでね。疲れたら、またいつでも帰ってきていいのよ」
その声に思わず涙がにじむ。
ライナスは紹介状をもう一度手渡し、肩を軽く叩いた。
「困ったときは、これを見せろ。……そして、ノアを信じろ」
ノアは得意げに尻尾を揺らし、「もちろん」と笑う。
「シエル、また遊ぼうね!」
子どもたちが元気いっぱいに声をあげ、手を振ってくれる。
「気をつけてお行き!」
おばさんやおじいさんたちの声も重なり、村の入り口はあたたかな声で満ちていた。
わたしは振り返り、涙をこらえながらも笑顔で言う。
「……ありがとう!」
村の温かな声を背に受けながら、わたしはノアと並んで歩き出した。
その一歩が、新しい魔法と出会いの扉を開くと信じながら。
朝はエリーと一緒に市場へ出かけ、新鮮な野菜や果物を選ぶ。料理の手伝いでは、ぎこちなくながらも野菜を洗ったり鍋をゆっくりかき混ぜ、エリーに笑顔で励まされた。
昼には子どもたちに誘われ、少しずつ走る練習を重ねた。転んで泥だらけになることもあったけれど、そのたびにノアや村の子どもたちが笑って手を差し伸べてくれた。
夜になるとライナスが狩りの話をしてくれ、炎の明かりの中で聞くその物語に胸をときめかせた。
そして一日の終わり、ノアと並んで星空を見上げる時間が、わたしにとって何よりの宝物になっていった。
「シエル、これからどんなふうに生きたい?」
そんな問いかけに、胸の奥で答えが少しずつ形になっていく。
どんなふうに…
「ねぇ……この村の人たちって、魔法を使ってないよね?」
わたしがぽつりと口にすると、ノアが尻尾を揺らして答えた。
「そうだな。村の外に出る者は少ないし、狩りや畑仕事が生活の中心だからね。魔法を補助に使うことはあっても、日常ではほとんど使わないんだ」
その答えに、胸の奥で小さなざわめきが広がる。
(わたしは……もっと魔法を知りたい)
風と遊んだときのあの感覚がよみがえり、心が強く引き寄せられていく。
「ノア……わたし、魔法を学びたい。もっとどんな魔法があるのか知りたいの」
ノアは静かに耳を揺らし、星の光を映す瞳でわたしを見つめた。
「うん、いいと思うよ。シエルの望みなら、僕も一緒に探そう。魔法を学べる場所を」
その言葉に、胸の奥が熱くなる。
村のあたたかさを大切に思いながらも、心はもう次の場所へと向かい始めていた。
翌朝。
朝食のあと、わたしは胸の奥に残った昨夜の想いを言葉にする勇気を出した。
「……あのね、エリー、ライナス」
少し緊張して二人を見上げる。
「わたし……もっと魔法を知りたいの。だから、この村を出て、町に行きたい」
エリーは一瞬驚いた顔をしたけれど、すぐにやわらかく微笑んだ。
「そう……やっぱりね。シエルの目を見ていれば分かるの。きっと、この村だけじゃ収まらないって」
ライナスは腕を組み、じっと考えるように目を細めた。
「町までの道は楽じゃない。けれど……ノアがいるなら大丈夫だろう。あいつは頼りになる」
そう言って笑みを浮かべる。
ノアは得意げに尻尾を揺らし、わたしの肩に軽く前足を置いた。
「もちろん。僕が一緒にいる」
わたしは小さくうなずいた。
すると、ライナスが机の引き出しから羊皮紙と羽ペンを取り出した。
「町に行くなら、これを持っていけ」
ペン先を走らせながら、真剣な声で続ける。
「冒険者ギルドに古い知り合いがいる。お前が最初の一歩を踏み出すとき、きっと力になってくれるはずだ」
エリーはじっと夫を見つめ、それから優しく微笑んだ。
「そうね……ライナスの紹介なら安心だわ」
彼女はわたしの手を取って、温もりを込めて握る。
「寂しくなるけど……夢に向かうあなたを応援するわ。必ず元気で戻ってきてね」
ライナスは署名を終えた羊皮紙を折り畳み、封蝋で閉じてわたしに差し出した。
「道は決して楽じゃない。だが、この手紙があれば、少なくとも町の入り口で迷うことはないだろう」
両手で受け取った瞬間、胸の奥が熱くなる。
「……ありがとう」
小さくそうつぶやくと、ライナスは頷き、穏やかな声で続けた。
「無理はするなよ。けれど、どうしても進みたいなら、その歩みを止める理由はない」
エリーも隣でにっこりと微笑む。
「シエルなら大丈夫。きっと素敵な出会いが待ってるわ」
そう言ったあと、彼女は少しだけ声をやわらげて続けた。
「でもね、焦ることはないの。旅に出るのは大きな決断だから、準備をして、心の整理をしてからでいいのよ。まだこの村で過ごす時間だって、大切な経験になるはずだから」
その言葉に胸がじんわりと温かくなり、わたしは小さくうなずいた。
そして数日後、出発の朝。
村の入り口には、エリーとライナスを中心に、たくさんの人たちが見送りに集まっていた。
市場で声をかけてくれた人たち、遊んだ子どもたち、井戸端で出会ったおばあさん、みんなが見送りに来てくれていた。
エリーはわたしの手を握り、そっと胸に抱きしめる。
「無理はしないでね。疲れたら、またいつでも帰ってきていいのよ」
その声に思わず涙がにじむ。
ライナスは紹介状をもう一度手渡し、肩を軽く叩いた。
「困ったときは、これを見せろ。……そして、ノアを信じろ」
ノアは得意げに尻尾を揺らし、「もちろん」と笑う。
「シエル、また遊ぼうね!」
子どもたちが元気いっぱいに声をあげ、手を振ってくれる。
「気をつけてお行き!」
おばさんやおじいさんたちの声も重なり、村の入り口はあたたかな声で満ちていた。
わたしは振り返り、涙をこらえながらも笑顔で言う。
「……ありがとう!」
村の温かな声を背に受けながら、わたしはノアと並んで歩き出した。
その一歩が、新しい魔法と出会いの扉を開くと信じながら。
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