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基礎の一歩
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翌朝。
やすらぎ亭の窓から差し込む柔らかな朝日で目を覚ました。
昨日の出会いや食堂でのにぎやかな声がまだ耳に残っていて、小さな期待がじんわりと広がっていた。
ノアはすでに目を覚まし、尻尾をゆったり揺らしていた。
「準備はいい?」
その問いかけに、わたしは深くうなずく。
今日から、魔法を学ぶ日々が始まるのだ。
やすらぎ亭を出ると、石畳の道に朝の光が反射してきらめいていた。
通りには露店が並び、パンを売る声や馬車の車輪の音が重なり合う。町全体が目覚める音に、胸が少しずつ高鳴っていく。
ギルドの扉を押し開けると、昨日のざわめきとは違い、まだ人も少なく落ち着いた空気が漂っていた。受付の女性がにこやかに迎えてくれ、わたしたちは奥の部屋へと案内される。
そこにはすでにグレイが待っていた。
机の上には数冊の分厚い本と、水晶のように透き通った球体が置かれている。
グレイはわたしを一瞥し、短くうなずいた。
「来たな。では、始めよう。魔法の基礎からだ」
硬い声だけれど、その奥にある確かな導きが伝わってくる。
わたしは深呼吸をして、ノアと視線を交わした。
(ここから、本当に始まるんだ……)
グレイは羊皮紙に整った字で「炎」「水」「風」「光」「闇」と書き並べた。
「……これが、世界に流れる“理(ことわり)”の一部だ」
シエルが小さく首をかしげるのを見ると、彼は少し言い直す。
「つまり、世界の“決まりごと”のようなものだ。
火は熱くて、物を燃やす。水は冷たくて、流れる。
その決まりを知り、どう使うかを考えるのが、魔法を学ぶということだ」
そう言って、彼はゆっくりと手のひらを上に向けた。
淡い光が集まり、小さな炎がぽっと灯る。
「たとえば、この炎。燃やすことも、照らすこともできる。
でも、“温めたい”と思えば、やさしく人を包む火にもなる」
炎が消えると、彼は静かに続けた。
「大事なのは力じゃなく、“どうしたいか”という想いだ。
それを理に重ねて、初めて魔法は形になる」
シエルはただ、見入っていた。
小さな炎が消えたあとも、その温かさがまだ指先に残っているような気がした。
グレイは炎を消す。
「……さて。見ているだけでは掴めない。今度は君がやってみる番だ」
「……うん、やってみる」
小さく息を整えながら答えると、グレイは静かにうなずいた。
「難しく考えるな。自分の中にある“理”を感じろ。
水でも風でも、光でもいい。君の想いが一番強く響くものを思い浮かべてみろ」
わたしは深く息を吸い、両手を胸の前でそっと合わせた。
静かな空気の中で、しろきつねの時のことを思い出しながら、“照らしたい”という気持ちを思い浮かべる。
その瞬間、手のすき間からふわりと光がこぼれた。
小さな灯のように揺れ、部屋の中を柔らかく照らしている。
「……できた?」
わたしがつぶやくと、グレイは目を細め、静かに頷いた。
「できている。しかも光の理とは、珍しい」
わずかに驚きを含んだ声だった。
「光と闇は、古くから“対となる理”とされている。扱える者は少なく、特に光は癒しと導きの力を持つ。君のような年でその片鱗を見せるのは、なかなかないことだ」
ノアが嬉しそうに尻尾を揺らした。
「すごいじゃないか、シエル!」
その言葉に、わたしは思わず頬が熱くなるのを感じた。
「えへへ…ありがとう」
照れくさく笑いながらノアの方を見つめると、自然と笑みがこぼれた。
グレイは腕を組み、短くうなずいた。
「今日はここまでだ。次回は身を守るために攻撃魔法も覚えよう。焦らず、ひとつずつ覚えていけ」
わたしは小さくうなずき、深呼吸をした。
明日が少し楽しみに思えた。
やすらぎ亭の窓から差し込む柔らかな朝日で目を覚ました。
昨日の出会いや食堂でのにぎやかな声がまだ耳に残っていて、小さな期待がじんわりと広がっていた。
ノアはすでに目を覚まし、尻尾をゆったり揺らしていた。
「準備はいい?」
その問いかけに、わたしは深くうなずく。
今日から、魔法を学ぶ日々が始まるのだ。
やすらぎ亭を出ると、石畳の道に朝の光が反射してきらめいていた。
通りには露店が並び、パンを売る声や馬車の車輪の音が重なり合う。町全体が目覚める音に、胸が少しずつ高鳴っていく。
ギルドの扉を押し開けると、昨日のざわめきとは違い、まだ人も少なく落ち着いた空気が漂っていた。受付の女性がにこやかに迎えてくれ、わたしたちは奥の部屋へと案内される。
そこにはすでにグレイが待っていた。
机の上には数冊の分厚い本と、水晶のように透き通った球体が置かれている。
グレイはわたしを一瞥し、短くうなずいた。
「来たな。では、始めよう。魔法の基礎からだ」
硬い声だけれど、その奥にある確かな導きが伝わってくる。
わたしは深呼吸をして、ノアと視線を交わした。
(ここから、本当に始まるんだ……)
グレイは羊皮紙に整った字で「炎」「水」「風」「光」「闇」と書き並べた。
「……これが、世界に流れる“理(ことわり)”の一部だ」
シエルが小さく首をかしげるのを見ると、彼は少し言い直す。
「つまり、世界の“決まりごと”のようなものだ。
火は熱くて、物を燃やす。水は冷たくて、流れる。
その決まりを知り、どう使うかを考えるのが、魔法を学ぶということだ」
そう言って、彼はゆっくりと手のひらを上に向けた。
淡い光が集まり、小さな炎がぽっと灯る。
「たとえば、この炎。燃やすことも、照らすこともできる。
でも、“温めたい”と思えば、やさしく人を包む火にもなる」
炎が消えると、彼は静かに続けた。
「大事なのは力じゃなく、“どうしたいか”という想いだ。
それを理に重ねて、初めて魔法は形になる」
シエルはただ、見入っていた。
小さな炎が消えたあとも、その温かさがまだ指先に残っているような気がした。
グレイは炎を消す。
「……さて。見ているだけでは掴めない。今度は君がやってみる番だ」
「……うん、やってみる」
小さく息を整えながら答えると、グレイは静かにうなずいた。
「難しく考えるな。自分の中にある“理”を感じろ。
水でも風でも、光でもいい。君の想いが一番強く響くものを思い浮かべてみろ」
わたしは深く息を吸い、両手を胸の前でそっと合わせた。
静かな空気の中で、しろきつねの時のことを思い出しながら、“照らしたい”という気持ちを思い浮かべる。
その瞬間、手のすき間からふわりと光がこぼれた。
小さな灯のように揺れ、部屋の中を柔らかく照らしている。
「……できた?」
わたしがつぶやくと、グレイは目を細め、静かに頷いた。
「できている。しかも光の理とは、珍しい」
わずかに驚きを含んだ声だった。
「光と闇は、古くから“対となる理”とされている。扱える者は少なく、特に光は癒しと導きの力を持つ。君のような年でその片鱗を見せるのは、なかなかないことだ」
ノアが嬉しそうに尻尾を揺らした。
「すごいじゃないか、シエル!」
その言葉に、わたしは思わず頬が熱くなるのを感じた。
「えへへ…ありがとう」
照れくさく笑いながらノアの方を見つめると、自然と笑みがこぼれた。
グレイは腕を組み、短くうなずいた。
「今日はここまでだ。次回は身を守るために攻撃魔法も覚えよう。焦らず、ひとつずつ覚えていけ」
わたしは小さくうなずき、深呼吸をした。
明日が少し楽しみに思えた。
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