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「……?」
何がいけなかったのかと問う言葉を出す前に、また唇が塞がれる。上顎を舐められ、舌を食う気かと思う程吸われた。
本当に、この男はキスが好きらしい。されすぎて抵抗感が無くなってきた。
そしてしばらくすると、今度は竿を握られた。痛みはなく、あくまでソフトに、俺の精液で濡れた茎を上下に扱く。
ここからまた急に尿道口でも責められてのパターンかな、と若干舐めていた。だが、いつまでたっても痛みがこない。擦られた肉は気怠くも快感を伝えてきて、舌同士が擦れるのも気持ち良い。まだかまだかと待つが、ひたすらに気持ち良いだけ。
「カナメさま……? なぁ、まだ?」
焦れて執拗なキスから逃れ、責める視線を向けても、カナメは表情も変えず。ただ、唇を首筋に移して柔らかい動脈の上を舐められる。ぞわわ、と鳥肌が立つのもしょうがないだろう。舐められ、軽く噛まれる。ちゅう、ちゅう、と吸う音がする。
この男が、何も考えずこんな事をしているとは思えない。だが、これは、あまりにも。
「カナメ、俺、もう待つの無理っぽい。お願いだから、痛いの、ちょーだい? スパンキングとか鞭とか、蹴るのでもいいから」
擦り続けられた茎はガチガチに勃ち上がっているのに、それでもまだ精液が生成できず開放されない。吐息のかかる首筋がビリビリとした快さで震える。俺の上半身を支えるように背中に回したカナメの指が皮膚を撫でる度、今度こそ、と思う。なのに、なのに。
「カナメ、……なあ、カナ、メ、ってば……っ!」
イけない。絶頂を迎えられない身体が、ただただ快楽だけに責められる。肉が熱い。皮膚が痺れる。カナメの吐息が耳朶に当たる度、痙攣する身体が憎らしい。
「いやだ、カナメ、もう無理、だ」
「何が無理なんだ」
やっと返事がきた安心感に、ぎゅう、と彼に抱き着く。息が荒い。カナメのシャツに乳首が擦れて涙目になった。さっきまでいじられても痛いだけだったはずのソコが、甘い痺れで股間を打つ。
「三回とか、無理だから。な、他の」
「無理な事させなきゃ仕置きじゃねえだろ」
それなのに、カナメはやけに優しい声音で額にキスをして、酷な事を言う。背中に回された腕が外され、ひんやりとした床に押し倒された。太腿の上に座り込まれ、本格的に逃げられなくなる。
覆い被さってきた男が、耳たぶから首筋、肩を舐めていく。茎を握る指に力が込められ、空いた左手が乳首を弄り始めた。
「……っ、……や、ぁ」
もどかしさに首を振る。気持ち良いだけが、続く。終わらない。ぞくぞくと悪寒が背中を駆け巡る。腰が浮く。乳首を捏ね回され、甘い刺激に小さく喘ぎ声が出た。嫌だ。こんなのは嫌だ。痛いのが好きだ。気持ち良いのは好きじゃない。その、はず。なのに。
「も……やだ、無理、むりぃっ」
気持ち良いのが、終わらない。イけない。辛い。いっそ暴れて逃げようとするのに、上に乗る男の体はビクともしない。
「いやだ、いやだ、やだ、カナメ」
カナメの肩に爪を立てて握り込むのに、彼は何故だかやたらに嬉しそうにニヤつき、舌なめずりさえしている。身体は快楽に押し上げられているのに、頂点が見えない。乳首が気持ち良い。イけない代わりに透明な蜜を溢しだした肉茎がはち切れそうだ。痛くないのに、気持ち良い。苦しい。イきたい。脳味噌が焼き切れそうに気持ち良い。
「かな、カナメ、おねが、ぃ」
やめてくれ。
イけない。もうイけないから、助けてくれ。あん、あん、と情けない声が我慢出来ない。嫌だ、こんなのは嫌だ。気持ち良いのは嫌だ、好きじゃない、やめてくれ。痛いのを。痛いのは、こんなに苦しくない。
苦しい。そうか、苦しいからこんなに気持ち良いのか。乱れる自分にやっと合点がいったが、だからといってどうなるわけでもなく。
「もう、やだ……っ、カナメ、カナメぇ」
「どうしてほしい」
耳の中に直接流し込まれたような甘い声に、犯される。吐息ですら、脳が痺れる。
「無理だからっ、他の言う事ならなんでも聞くからっ」
「違うだろ?」
まるで駄々をこねた子供の相手をするように、穏やかな表情でカナメは俺の頬を撫でた。ぞぞぞ、と鳥肌が立つ。頬から首筋、鎖骨、また胸の突起へと、ゆっくりと指が滑っていく。ひ、と情けない声を溢しても、カナメは微笑むだけ。くるくると硬く尖った先端に触れないように円を描かれて、とうとう目の端から涙が溢れた。待っていたかのようにそれを舌で舐めとられて、首を振って逃げる。
「なん、なんだ、よ……っ。もう無理だってっ」
イきそうでイけないもどかしさと、絶頂寸前を繰り返される酷すぎる快感。
助けてと縋ろうにも、縋る相手がこの苦しさの根源だ。好き放題人の身体を弄り回して、欲しがっているのはおそらく「イかせて下さい」という哀願。
言えばいい。楽になれる。分かっている。けれど、ここまできてまた、俺の悪癖が邪魔をする。堕とされたくない。ただ命令を聞くのとは違う。今、彼の望む言葉は、俺の本心。奥の奥、本音を引き出されたら、堕ちてしまう。それは嫌だ。俺は、落とされたら──。
「やだ、やめ、やめ……、ろっ」
必死の抵抗。限界まで勃起させながら、大の男が泣きながら。
見下ろすカナメの表情から、徐々に笑みが消えていく。これだけ強情を張られれば萎えてしまうのも仕方ない。けれど、俺にその余裕はない。全身が性感帯になったような強烈な快感と、中々堕ちずに苛立っているだろうカナメの心中を思って更に興奮が増してしまう。
「ぁ、あっ、んん、もうや、だ……ぁっ」
熱い。くらくらする。身体の奥が燃える。イけない。触るのをやめて、正気に戻る時間が欲しい。呼吸するのも煩わしい。
「……聞きしに勝る強情者、ってか」
ボソ、とカナメが独り言つ。
何と言ったのか、反芻しようとする間もくれず、急に俺の茎を扱く手が速くなる。優しく甘やかされていた乳首が引っ張られ、痛みに腰が浮いた。
「う、あッ」
目の前に白黒の光が瞬く。目眩がする。耳朶を噛まれ、耳の穴に舌が挿入ってきた。ずちゅ、ぺちゃ、という水音と、熱い吐息の音で耳から脳が犯される。グリグリグリ、と乳首に爪を立てながら引っ張られて、急激に催すのを感じた。
「は……ぁ、ああぁ」
でろ、と先端から熱い白濁を吐いた。勢いのないとろりとした蜜が、鼓動と連動して何度か波のように湧き出て、やっと迎えた絶頂に体全体が痙攣しながら歓喜する。
「ふ、あ……ぁ」
大きく一つ、ため息を吐いた。ゆっくりと深い呼吸を繰り返す。酸素と共に、ようやくまともな思考力が戻ってくる。
「……申し訳、ありませ、ん」
そして、己の大失態に今さら青くなり、慌てて土下座でもしようかと暴れるが、上に乗ったままの大男の重さに敵わない。
「カナメさま、あの」
「あんた、素の方が可愛いから敬語禁止」
「は?」
「禁止」
どうやら先のプレイに非常に満足げな年下男は、口元を綻ばせてそう繰り返す。身体を起こしたカナメが俺の上から退いて横に膝をつき、掌を差し出してきた。
「起きられるか?」
気遣い慣れた仕草に感心しつつ手をとり上半身を起こそうとするが、力の入らなさに笑えた。後ろに肘をついて倒れずには済んだが、肩がガクガクと震えてキツい。
「イくのって、こんな疲れるっけ……」
苦笑する俺の独り言に、カナメが首を傾げる。
「なんだその、最近出してねえみたいな言い方」
「あーうん、たぶん自分でしたのも半年くらい前だから。すげー久々」
だからこそ、短時間で三回も達せたのかもしれないが、それは黙っておく。が、みるみる曇るカナメの表情を見るにつけ、なんとなく察してしまったのかもしれない。
「オナっててもさぁ、痛くないから途中で飽きるんだよ、俺。三回どころか一日に二回出したのとかたぶん十代以来って感じだし。気持ち良くイけたの初めてかも……」
「見え見えのお世辞やめねぇと四回目するぞ」
プライドを傷つけまいと足した言葉があからさま過ぎたらしい。唇を突き出した拗ね顔さえイケメンなのだから憎らしい。
「……風呂入るか」
汚れた下半身を横目に、カナメが立ち上がる。ちょいちょいと手招きされ、ふらつきながらも後を付いていく。部屋の左奥のドアを開けると、四畳半くらいの広さの洗面室だった。正面の壁全体が鏡張りになっていて、照明を反射して眩しい。真っ暗な部屋からのいきなりの差に視界がチカチカ瞬く。ちょっと高い居酒屋で見るような、腰高のテーブルの上に載った形の白い洗面ボウルでさえ大理石の様だ。入って右にトイレで、左にバスルーム。壁もドアもガラス張りなのが、ザ・金持ち感だ。常々不思議なのだが、風呂はともかくトイレは恥ずかしくないのだろうか……。
白い大理石の床をぺたぺたと素足で歩く俺に、カナメは壁面収納からミニタオルを出して押し付ける。
「バスタオルもここに入ってるから出して使え」
それだけ言って洗面室から出ていこうとするのを、
「カナメは?」
と引き止める。
「……一緒に入りたいのか? 男と?」
あれだけ男にキスしておいてそんな事を言うので、はたと気付いた。カナメはまだイっていない。カナメにとっての最終的な満足がイく事だとすれば、まだ彼は中途半端な筈。それを言い出さないのは、先程、車の中でした約束を気にしての事だろうか。
『あんたの嫌がる事はしない』──か。確かに男相手なんて嫌だと思っていたが、もう何を今さら、という感じだ。
「カナメが嫌じゃなければ、入りたい」
ごくストレートに返事をすれば、意外そうな視線が向いた。人差し指で自分の唇を開いて誘う。
「後ろはヤダけど。ここの処女はお前にやるよ」
ニヤ、といやらしく笑ってみせると、カナメは決まり悪そうにこめかみのあたりを指でぼりぼりと掻いた。
「……あんたが売れ残ってる理由が分かった気がする」
「なんだよ今さらだな。嫌なら嫌で良い、帰る」
「ほら、そういうとこ。可愛げないっつーか」
服を脱ぎつつも俺を罵倒してくるのに、むっとして睨みつければ、呆れたようにため息が返ってくる。
「いらねぇよ、可愛げとか」
身を翻しさっさと風呂場に入る。シャワーのコックを捻ると、勢い良く熱い湯が出てきた。高級マンションとは給湯設備までもが良いものなのだろうか、水を出してから一分は冷水のままのうちのアパートとは大違いだ。そんな事にすら苛立つ。
可愛げが無いのなんて知っている。可愛い奴隷が欲しいなら紹介してやるとも言った。それでも俺が良いと言ったのはどこのどいつだ──分かっている、子供じみた八つ当たりだ。
今だって、「気持ちよかったからお礼がしたい」とかなんとか、カナメが喜ぶ台詞ならいくらでもあった。それを、わざと挑発するような『可愛げのない』台詞を選んだのは、無意識じゃない。自分本位で、身勝手な、俺の性癖。
「湯船、張るか?」
後から入ってきたカナメが、無言でシャワーに打たれる俺の背後で囁く。当然のように抱き締めようとしてきた腕を振り払って、両膝をついて了解もとらず彼の股間にかぶりついた。
「っ、おい」
頭頂部の髪を掴まれるのも構わず、根本まで口に含む。まだ血流の少ない茎は柔らかく、簡単に全てが咥内に収まった。
意外と臭いがしないことに、まず安心した。舌に当たる感触はゴムのおもちゃみたいで、しかし舌先を動かしていると段々と質量を増していく。
タイルについた膝が冷たいが、背中に当たるシャワーのおかげで寒さに震えずにすむ。カナメは呆れたのか頭に置いた手を動かさず、ただされるがままにされて突っ立っている。
「ん……ん」
唇を前後させ、二分程でやっと皮から亀頭が顔を出し、勃起させる事が出来たが、そこからが長かった。
カリと茎の境目や裏筋を舐めたり、AVばりにじゅぽじゅぽ音をさせながらストロークしたり、躍起になってはみたが、カナメが達する様子はなく。暇潰しなのか慰めなのか、優しく頭を撫でられるのが悔しい。
体感でおよそ二十分、顎が疲れてとうとう彼の肉を吐き出した。
「なんで俺がイかないか分かるか?」
疲れ切って肩で息をする俺に、カナメが問いかける。項垂れ、首を横に振った。男の経験はなくとも、女性への奉仕はそれなりに手練のつもりだ。声を出さない相手の、身体の反応をつぶさに覚え、弱い所を責めたてればいいのは、男だって同じな筈。巧くはなくとも、ここまで飽きられる程下手だとも思えない。
「あんたが痛くないとイけねぇのと同じだ。俺も、痛めつけてねぇと気分が乗らねー」
だから、ちょっと我慢しててな? と。前髪を掴まれて上向かされて、穏やかな笑みが言葉の物騒さを押し隠す。
ぞわ、と背筋に走る悪気。それが意味するのは──喜び。
はい、と俺が小さく返事をしたのを待って、カナメはゆっくりと俺の唇を割って怒張を押し込んできた。すっかり勃起したそれが何度かやんわりと喉を押して、そこが口の一番奥であることを確認する。頭頂部を撫でていた掌が後頭部に回り、一つだった手が二つになった。
そして、ぐい、と股間の方に引き寄せられる。当然、肉が喉まで侵入してきて、瞬間的に吐き気に咽る。うぇ、とえずく俺に興奮したのか、頭を掴むカナメの指に力が篭もった。カリ首あたりまで引き出されたかと思えば、また喉奥目掛けて突き立てられる。
「ぅっ、え、げぇっ」
容赦なく喉で肉を擦られ、何度も嘔吐感に喉奥が締まり、その締め付けを愉しむ為にまた突き立てられ。オナホみたいな乱暴な使われ方に、苦しみながらも愉悦が滲む。
「いい、あんたのその顔。超……イイ。喉、締まって、ヤバい」
ぶじゃじゃ、ぷじゅう、とおおよそフェラチオでは出なそうな粘つく水音をさせながら、カナメは好き勝手に俺の喉で陰茎を扱く。連続する吐き気に、鳩尾が攣りかけている。喉が灼けるように痛み、やけに冷たい唾液がとめどなく溢れてくる。鼻から呼吸をしようにも、飛び散る自分の唾液に溺れてしまいそうだ。思考が真っ白で、とにかく倒れないようにカナメの膝を掴むのだけに必死だった。
「あー……、そろそろ、出る。このまま出して、いいよな? 吐いてもいいから、全部飲めよ」
ガクガクと頭を揺す振られ、脳震盪を起こしそうになりながら、やっとのことで喉奥に粘液を流し込まれた。
青臭いような、生臭さに吐いてしまいたいのに、咥内にはまだ怒張が収まっていて叶わない。若干鼻腔に逆戻りしたのを感じつつも、なんとか飲み下した。
「……まっず」
ずるりと喉から肉が抜かれ、何度か咳き込む。悪態をついた俺に、しかしそれすら嬉しいみたいにカナメは頭を撫でてきて、壁に掛かったままだったシャワーを外して喉元を洗い流してくれた。
「あんた……ユギは酒呑む?」
「……別に、好きでもないけど弱くはない」
「じゃ今度飲みに行こ。今日は無理だから、今度」
「何それ、次の約束つけたつもり?」
「風呂上がったらたぶん俺即寝するから、今のうちにな」
手早くシャワーを浴びて身体を洗い、二人して眠気でふらつきながらリビングに戻ってきた。着替えと言って渡された長袖のTシャツとジャージズボン、どちらも裾が長いのも癪に触らない程度に眠かった。
「俺、5時に起きてここ出るから、そん時あんたも起こす」
「おっけー」
リビングを挟んで風呂と逆側の扉の向こうは寝室で、キングサイズのベッドだけが置かれた寝る為だけの部屋だった。男二人が寝ても肩も当たらないその大きさに、同じベッドで寝る違和感ももう感じる方が面倒くさくなる。
「おやすみ」
「おやすみー」
寝る前の挨拶なんて何年ぶりだか、懐かしい気分で眠りの底に落ちた。
何がいけなかったのかと問う言葉を出す前に、また唇が塞がれる。上顎を舐められ、舌を食う気かと思う程吸われた。
本当に、この男はキスが好きらしい。されすぎて抵抗感が無くなってきた。
そしてしばらくすると、今度は竿を握られた。痛みはなく、あくまでソフトに、俺の精液で濡れた茎を上下に扱く。
ここからまた急に尿道口でも責められてのパターンかな、と若干舐めていた。だが、いつまでたっても痛みがこない。擦られた肉は気怠くも快感を伝えてきて、舌同士が擦れるのも気持ち良い。まだかまだかと待つが、ひたすらに気持ち良いだけ。
「カナメさま……? なぁ、まだ?」
焦れて執拗なキスから逃れ、責める視線を向けても、カナメは表情も変えず。ただ、唇を首筋に移して柔らかい動脈の上を舐められる。ぞわわ、と鳥肌が立つのもしょうがないだろう。舐められ、軽く噛まれる。ちゅう、ちゅう、と吸う音がする。
この男が、何も考えずこんな事をしているとは思えない。だが、これは、あまりにも。
「カナメ、俺、もう待つの無理っぽい。お願いだから、痛いの、ちょーだい? スパンキングとか鞭とか、蹴るのでもいいから」
擦り続けられた茎はガチガチに勃ち上がっているのに、それでもまだ精液が生成できず開放されない。吐息のかかる首筋がビリビリとした快さで震える。俺の上半身を支えるように背中に回したカナメの指が皮膚を撫でる度、今度こそ、と思う。なのに、なのに。
「カナメ、……なあ、カナ、メ、ってば……っ!」
イけない。絶頂を迎えられない身体が、ただただ快楽だけに責められる。肉が熱い。皮膚が痺れる。カナメの吐息が耳朶に当たる度、痙攣する身体が憎らしい。
「いやだ、カナメ、もう無理、だ」
「何が無理なんだ」
やっと返事がきた安心感に、ぎゅう、と彼に抱き着く。息が荒い。カナメのシャツに乳首が擦れて涙目になった。さっきまでいじられても痛いだけだったはずのソコが、甘い痺れで股間を打つ。
「三回とか、無理だから。な、他の」
「無理な事させなきゃ仕置きじゃねえだろ」
それなのに、カナメはやけに優しい声音で額にキスをして、酷な事を言う。背中に回された腕が外され、ひんやりとした床に押し倒された。太腿の上に座り込まれ、本格的に逃げられなくなる。
覆い被さってきた男が、耳たぶから首筋、肩を舐めていく。茎を握る指に力が込められ、空いた左手が乳首を弄り始めた。
「……っ、……や、ぁ」
もどかしさに首を振る。気持ち良いだけが、続く。終わらない。ぞくぞくと悪寒が背中を駆け巡る。腰が浮く。乳首を捏ね回され、甘い刺激に小さく喘ぎ声が出た。嫌だ。こんなのは嫌だ。痛いのが好きだ。気持ち良いのは好きじゃない。その、はず。なのに。
「も……やだ、無理、むりぃっ」
気持ち良いのが、終わらない。イけない。辛い。いっそ暴れて逃げようとするのに、上に乗る男の体はビクともしない。
「いやだ、いやだ、やだ、カナメ」
カナメの肩に爪を立てて握り込むのに、彼は何故だかやたらに嬉しそうにニヤつき、舌なめずりさえしている。身体は快楽に押し上げられているのに、頂点が見えない。乳首が気持ち良い。イけない代わりに透明な蜜を溢しだした肉茎がはち切れそうだ。痛くないのに、気持ち良い。苦しい。イきたい。脳味噌が焼き切れそうに気持ち良い。
「かな、カナメ、おねが、ぃ」
やめてくれ。
イけない。もうイけないから、助けてくれ。あん、あん、と情けない声が我慢出来ない。嫌だ、こんなのは嫌だ。気持ち良いのは嫌だ、好きじゃない、やめてくれ。痛いのを。痛いのは、こんなに苦しくない。
苦しい。そうか、苦しいからこんなに気持ち良いのか。乱れる自分にやっと合点がいったが、だからといってどうなるわけでもなく。
「もう、やだ……っ、カナメ、カナメぇ」
「どうしてほしい」
耳の中に直接流し込まれたような甘い声に、犯される。吐息ですら、脳が痺れる。
「無理だからっ、他の言う事ならなんでも聞くからっ」
「違うだろ?」
まるで駄々をこねた子供の相手をするように、穏やかな表情でカナメは俺の頬を撫でた。ぞぞぞ、と鳥肌が立つ。頬から首筋、鎖骨、また胸の突起へと、ゆっくりと指が滑っていく。ひ、と情けない声を溢しても、カナメは微笑むだけ。くるくると硬く尖った先端に触れないように円を描かれて、とうとう目の端から涙が溢れた。待っていたかのようにそれを舌で舐めとられて、首を振って逃げる。
「なん、なんだ、よ……っ。もう無理だってっ」
イきそうでイけないもどかしさと、絶頂寸前を繰り返される酷すぎる快感。
助けてと縋ろうにも、縋る相手がこの苦しさの根源だ。好き放題人の身体を弄り回して、欲しがっているのはおそらく「イかせて下さい」という哀願。
言えばいい。楽になれる。分かっている。けれど、ここまできてまた、俺の悪癖が邪魔をする。堕とされたくない。ただ命令を聞くのとは違う。今、彼の望む言葉は、俺の本心。奥の奥、本音を引き出されたら、堕ちてしまう。それは嫌だ。俺は、落とされたら──。
「やだ、やめ、やめ……、ろっ」
必死の抵抗。限界まで勃起させながら、大の男が泣きながら。
見下ろすカナメの表情から、徐々に笑みが消えていく。これだけ強情を張られれば萎えてしまうのも仕方ない。けれど、俺にその余裕はない。全身が性感帯になったような強烈な快感と、中々堕ちずに苛立っているだろうカナメの心中を思って更に興奮が増してしまう。
「ぁ、あっ、んん、もうや、だ……ぁっ」
熱い。くらくらする。身体の奥が燃える。イけない。触るのをやめて、正気に戻る時間が欲しい。呼吸するのも煩わしい。
「……聞きしに勝る強情者、ってか」
ボソ、とカナメが独り言つ。
何と言ったのか、反芻しようとする間もくれず、急に俺の茎を扱く手が速くなる。優しく甘やかされていた乳首が引っ張られ、痛みに腰が浮いた。
「う、あッ」
目の前に白黒の光が瞬く。目眩がする。耳朶を噛まれ、耳の穴に舌が挿入ってきた。ずちゅ、ぺちゃ、という水音と、熱い吐息の音で耳から脳が犯される。グリグリグリ、と乳首に爪を立てながら引っ張られて、急激に催すのを感じた。
「は……ぁ、ああぁ」
でろ、と先端から熱い白濁を吐いた。勢いのないとろりとした蜜が、鼓動と連動して何度か波のように湧き出て、やっと迎えた絶頂に体全体が痙攣しながら歓喜する。
「ふ、あ……ぁ」
大きく一つ、ため息を吐いた。ゆっくりと深い呼吸を繰り返す。酸素と共に、ようやくまともな思考力が戻ってくる。
「……申し訳、ありませ、ん」
そして、己の大失態に今さら青くなり、慌てて土下座でもしようかと暴れるが、上に乗ったままの大男の重さに敵わない。
「カナメさま、あの」
「あんた、素の方が可愛いから敬語禁止」
「は?」
「禁止」
どうやら先のプレイに非常に満足げな年下男は、口元を綻ばせてそう繰り返す。身体を起こしたカナメが俺の上から退いて横に膝をつき、掌を差し出してきた。
「起きられるか?」
気遣い慣れた仕草に感心しつつ手をとり上半身を起こそうとするが、力の入らなさに笑えた。後ろに肘をついて倒れずには済んだが、肩がガクガクと震えてキツい。
「イくのって、こんな疲れるっけ……」
苦笑する俺の独り言に、カナメが首を傾げる。
「なんだその、最近出してねえみたいな言い方」
「あーうん、たぶん自分でしたのも半年くらい前だから。すげー久々」
だからこそ、短時間で三回も達せたのかもしれないが、それは黙っておく。が、みるみる曇るカナメの表情を見るにつけ、なんとなく察してしまったのかもしれない。
「オナっててもさぁ、痛くないから途中で飽きるんだよ、俺。三回どころか一日に二回出したのとかたぶん十代以来って感じだし。気持ち良くイけたの初めてかも……」
「見え見えのお世辞やめねぇと四回目するぞ」
プライドを傷つけまいと足した言葉があからさま過ぎたらしい。唇を突き出した拗ね顔さえイケメンなのだから憎らしい。
「……風呂入るか」
汚れた下半身を横目に、カナメが立ち上がる。ちょいちょいと手招きされ、ふらつきながらも後を付いていく。部屋の左奥のドアを開けると、四畳半くらいの広さの洗面室だった。正面の壁全体が鏡張りになっていて、照明を反射して眩しい。真っ暗な部屋からのいきなりの差に視界がチカチカ瞬く。ちょっと高い居酒屋で見るような、腰高のテーブルの上に載った形の白い洗面ボウルでさえ大理石の様だ。入って右にトイレで、左にバスルーム。壁もドアもガラス張りなのが、ザ・金持ち感だ。常々不思議なのだが、風呂はともかくトイレは恥ずかしくないのだろうか……。
白い大理石の床をぺたぺたと素足で歩く俺に、カナメは壁面収納からミニタオルを出して押し付ける。
「バスタオルもここに入ってるから出して使え」
それだけ言って洗面室から出ていこうとするのを、
「カナメは?」
と引き止める。
「……一緒に入りたいのか? 男と?」
あれだけ男にキスしておいてそんな事を言うので、はたと気付いた。カナメはまだイっていない。カナメにとっての最終的な満足がイく事だとすれば、まだ彼は中途半端な筈。それを言い出さないのは、先程、車の中でした約束を気にしての事だろうか。
『あんたの嫌がる事はしない』──か。確かに男相手なんて嫌だと思っていたが、もう何を今さら、という感じだ。
「カナメが嫌じゃなければ、入りたい」
ごくストレートに返事をすれば、意外そうな視線が向いた。人差し指で自分の唇を開いて誘う。
「後ろはヤダけど。ここの処女はお前にやるよ」
ニヤ、といやらしく笑ってみせると、カナメは決まり悪そうにこめかみのあたりを指でぼりぼりと掻いた。
「……あんたが売れ残ってる理由が分かった気がする」
「なんだよ今さらだな。嫌なら嫌で良い、帰る」
「ほら、そういうとこ。可愛げないっつーか」
服を脱ぎつつも俺を罵倒してくるのに、むっとして睨みつければ、呆れたようにため息が返ってくる。
「いらねぇよ、可愛げとか」
身を翻しさっさと風呂場に入る。シャワーのコックを捻ると、勢い良く熱い湯が出てきた。高級マンションとは給湯設備までもが良いものなのだろうか、水を出してから一分は冷水のままのうちのアパートとは大違いだ。そんな事にすら苛立つ。
可愛げが無いのなんて知っている。可愛い奴隷が欲しいなら紹介してやるとも言った。それでも俺が良いと言ったのはどこのどいつだ──分かっている、子供じみた八つ当たりだ。
今だって、「気持ちよかったからお礼がしたい」とかなんとか、カナメが喜ぶ台詞ならいくらでもあった。それを、わざと挑発するような『可愛げのない』台詞を選んだのは、無意識じゃない。自分本位で、身勝手な、俺の性癖。
「湯船、張るか?」
後から入ってきたカナメが、無言でシャワーに打たれる俺の背後で囁く。当然のように抱き締めようとしてきた腕を振り払って、両膝をついて了解もとらず彼の股間にかぶりついた。
「っ、おい」
頭頂部の髪を掴まれるのも構わず、根本まで口に含む。まだ血流の少ない茎は柔らかく、簡単に全てが咥内に収まった。
意外と臭いがしないことに、まず安心した。舌に当たる感触はゴムのおもちゃみたいで、しかし舌先を動かしていると段々と質量を増していく。
タイルについた膝が冷たいが、背中に当たるシャワーのおかげで寒さに震えずにすむ。カナメは呆れたのか頭に置いた手を動かさず、ただされるがままにされて突っ立っている。
「ん……ん」
唇を前後させ、二分程でやっと皮から亀頭が顔を出し、勃起させる事が出来たが、そこからが長かった。
カリと茎の境目や裏筋を舐めたり、AVばりにじゅぽじゅぽ音をさせながらストロークしたり、躍起になってはみたが、カナメが達する様子はなく。暇潰しなのか慰めなのか、優しく頭を撫でられるのが悔しい。
体感でおよそ二十分、顎が疲れてとうとう彼の肉を吐き出した。
「なんで俺がイかないか分かるか?」
疲れ切って肩で息をする俺に、カナメが問いかける。項垂れ、首を横に振った。男の経験はなくとも、女性への奉仕はそれなりに手練のつもりだ。声を出さない相手の、身体の反応をつぶさに覚え、弱い所を責めたてればいいのは、男だって同じな筈。巧くはなくとも、ここまで飽きられる程下手だとも思えない。
「あんたが痛くないとイけねぇのと同じだ。俺も、痛めつけてねぇと気分が乗らねー」
だから、ちょっと我慢しててな? と。前髪を掴まれて上向かされて、穏やかな笑みが言葉の物騒さを押し隠す。
ぞわ、と背筋に走る悪気。それが意味するのは──喜び。
はい、と俺が小さく返事をしたのを待って、カナメはゆっくりと俺の唇を割って怒張を押し込んできた。すっかり勃起したそれが何度かやんわりと喉を押して、そこが口の一番奥であることを確認する。頭頂部を撫でていた掌が後頭部に回り、一つだった手が二つになった。
そして、ぐい、と股間の方に引き寄せられる。当然、肉が喉まで侵入してきて、瞬間的に吐き気に咽る。うぇ、とえずく俺に興奮したのか、頭を掴むカナメの指に力が篭もった。カリ首あたりまで引き出されたかと思えば、また喉奥目掛けて突き立てられる。
「ぅっ、え、げぇっ」
容赦なく喉で肉を擦られ、何度も嘔吐感に喉奥が締まり、その締め付けを愉しむ為にまた突き立てられ。オナホみたいな乱暴な使われ方に、苦しみながらも愉悦が滲む。
「いい、あんたのその顔。超……イイ。喉、締まって、ヤバい」
ぶじゃじゃ、ぷじゅう、とおおよそフェラチオでは出なそうな粘つく水音をさせながら、カナメは好き勝手に俺の喉で陰茎を扱く。連続する吐き気に、鳩尾が攣りかけている。喉が灼けるように痛み、やけに冷たい唾液がとめどなく溢れてくる。鼻から呼吸をしようにも、飛び散る自分の唾液に溺れてしまいそうだ。思考が真っ白で、とにかく倒れないようにカナメの膝を掴むのだけに必死だった。
「あー……、そろそろ、出る。このまま出して、いいよな? 吐いてもいいから、全部飲めよ」
ガクガクと頭を揺す振られ、脳震盪を起こしそうになりながら、やっとのことで喉奥に粘液を流し込まれた。
青臭いような、生臭さに吐いてしまいたいのに、咥内にはまだ怒張が収まっていて叶わない。若干鼻腔に逆戻りしたのを感じつつも、なんとか飲み下した。
「……まっず」
ずるりと喉から肉が抜かれ、何度か咳き込む。悪態をついた俺に、しかしそれすら嬉しいみたいにカナメは頭を撫でてきて、壁に掛かったままだったシャワーを外して喉元を洗い流してくれた。
「あんた……ユギは酒呑む?」
「……別に、好きでもないけど弱くはない」
「じゃ今度飲みに行こ。今日は無理だから、今度」
「何それ、次の約束つけたつもり?」
「風呂上がったらたぶん俺即寝するから、今のうちにな」
手早くシャワーを浴びて身体を洗い、二人して眠気でふらつきながらリビングに戻ってきた。着替えと言って渡された長袖のTシャツとジャージズボン、どちらも裾が長いのも癪に触らない程度に眠かった。
「俺、5時に起きてここ出るから、そん時あんたも起こす」
「おっけー」
リビングを挟んで風呂と逆側の扉の向こうは寝室で、キングサイズのベッドだけが置かれた寝る為だけの部屋だった。男二人が寝ても肩も当たらないその大きさに、同じベッドで寝る違和感ももう感じる方が面倒くさくなる。
「おやすみ」
「おやすみー」
寝る前の挨拶なんて何年ぶりだか、懐かしい気分で眠りの底に落ちた。
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