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しおりを挟む「……悪かった」
かけられた言葉の意味が分からない。ちら、と上目遣いに覗えば、ぽんと頭に掌が落ちてきて、優しく撫でられる。
「二ヶ月も放ったらかしにしたら、そりゃ溜まるよな。悪かった」
謝られてしまって、しかし何と返答すべきか分からない。返事に困っている俺を見兼ねて、カナメは俺の頭を撫でたまま更に謝罪を付け足した。
「でも、だからって浮気は、なぁ。紫さんにコレ預けておいて良かった」
まだ俺の左手にぶら下がったままの手錠を弄りながら、からかうような苦笑のような、微妙な表情のカナメに、胸が冷える。
「……浮気じゃないだろ」
「浮気だ。お前は俺の物なんだから」
呟く声を、聞き咎められて叱られた。錘に来た時のカナメは、怒っているように見えたのに。今目の前の彼は、未遂ならそれでいいと笑う。笑い飛ばせる程度にしか、怒っていない。
毛足の長い絨毯の上なのに、正座した膝が痛い。最近あまり休んでないからな、とふくらはぎを撫でた。こんなに不毛な片思いなのに、なぜ俺は諦めきれないんだろう。
「だったら、お前はどうなの。こうやって俺を飼うの、彼女も知ってんの?」
「彼女?」
責めるような俺の声音に不思議そうにした後、ああ、と何かを納得したようにカナメは何度も頷いて。
「週刊誌見たのか。あいつ……、えっと、ユミ? ユメ?」
「有茉だろ。なんで彼女の名前……」
忘れるんだよ、と聞こうとして、彼女ならば本名の方で呼んでいるのだろうかと途中で口を噤んだ。余計な事を言って、余計に自分を傷つけて。馬鹿みたいだ。
「知らね、覚えるつもりも無いし。彼女じゃねえし、家に来たのもあれ一度きりで……」
自宅に連れ込んだのは本当なんだな。一度きりの関係だなんて、簡単に言うカナメを、軽蔑した目で見ていると、
「おい、なんか勘違いしてねーか。あの女以外にも三人いたんだ、その日は。モデル仲間の男二人と、その彼女と、あいつ。写真撮られたのは、夜中になって急にアイス食べたいとか言い出したから、一人で夜道歩かせるのも危ねーからついてってやった時で」
心外だとばかりに言い訳された。タイミングが良すぎるから、おそらく仕組まれたんだと。面倒臭げに肩を竦めるのを、ふぅんと興味なさげにすると、カナメはやおらニヤついた。
「なんだ、ヤキモチか」
分かっていない癖に、とその表情にムカついて、「そうだよ」と真顔で見つめてやった。
「お前が彼女作ったと知って、嫉妬した」
無表情で本音を吐く俺は、カナメにはどう見えるだろうか。じぃ、と瞬き少なく視線を合わせ続けると、困ったように視線を逸らされた。
「あー……、分かった、俺の負け。悪かったって。俺が連絡しなかったのが悪かったです。他の奴とプレイしようとしてたのも俺のせいです。だから俺には怒る資格が無いです」
やはり何も分かってない。安心して、笑った。
「あんたやっぱり、笑った顔がすごくイイ」
カナメがまた頭を撫でてこようとした所で、ピロン、とチャットアプリの着信音がする。パンツのポケットからスマホを出したカナメが、「紫さんからだ」と言って、おそらくはチャットを読み出した。
紫と連絡をとっているなんて、いつの間にかそこまで仲良くなっていたのか。大人しく待っているが、見上げたカナメの眉間に、みるみるうちに皺が寄る。スマホをローテーブルに置く仕草がゆっくり過ぎて、怒りを抑えているみたいで嫌な予感がした。
「ユギ」
呼ぶ声が、既に怒っている。紫め、何を告げ口したのか。「ん?」と、何も気付いていない風ににっこりと唇をU字に曲げて上目遣いまでしてみせるが、見下ろす目が据わっている。ストレスで手のひらにどっと汗が出てきて気持ちが悪い。
「男に、自分を抱けるか聞いてたんだって?」
それかー! とさっと俯く。本当の事なのだ、言い訳できない。下手に言い訳して嘘の上塗りをしても、後からバレればそれこそ本当に殺されそうだ。
のぞき込むように顔を寄せてくるカナメから必死に顔を背け、目を泳がせる。それを知って怒って来たのではなく、知らなかったから許されそうになっていたのか。どうしようか、焦る俺の前髪を掴まれ、上向かされた。
「抱かせるつもりだったのか」
もはや疑問系ですらない質問に、視線を合わせず乾いた笑いしか出てこない。
「お、お前とは、終わったと思ってたから」
「だとしても、俺にはNGだって言っておいて」
「終わりって言われずに捨てられたと思ったから、ヤケクソで」
キスしそうな近さで尋問され、それでも目を合わせられない。久々の、カナメの匂いが鼻孔を刺激する。今日は汗の匂いも混じって、やけに濃く香る。スパイシーなシナモンとバニラみたいな甘さが混じった不思議な匂いは、柔軟剤か何かなのだろうか。香水ほどキツくないが、記憶に残る匂い。こんな状況なのに、肩口に顔をうずめて深呼吸したら安らげるだろうなと現実逃避だ。
「だったら、今から俺が抱いても文句ねえな?」
「……なんでそうなる」
遠慮がちに拒否すれば、前髪を掴む指に力が籠もり、引っ張られて痛い。
「なんで、は俺の台詞だろうが。他の奴に処女やるくらいなら、俺でいいだろうが」
優しくしてやる、と囁かれて、思わずカナメの手を振り払って立ち上がった。
「絶対、嫌だ」
抱かれたらきっと、もう諦められない。奴隷の一人でいいなんて言えない。怒りにも似た感情にまかせて拒絶を吐くと、カナメもゆっくりと立ち上がる。俺より十五センチは高いその背に、本能的に恐れが走るが、それを感じとったようにカナメは優しげに微笑んでくる。
「優しくしてるうちに、抱いてって言え」
彼は確かに笑っている筈なのに、怖くて仕方がない。震えだす肩をやんわりと掴まれ、引き寄せられて、抱き締められる。背中を背骨に沿って撫でられ、額に口付けられた。
「ぶっ壊されたくねぇだろ?」
低く響く声に、喉元が熱く火照る。鳩尾から股間に痺れが抜けて、カナメの肩に顔を押し付けてやり過ごす。
ごめん、カナメ。俺は。
「……壊されたい」
身体の力を抜いた俺に、カナメは一瞬喜んだようだったが、続く言葉に唇を引き結んだ。
「いいよ、ぶっ壊して。めちゃくちゃにして、……それで、終わりにしよ」
「終わり……?」
「終わり。パートナー解消」
「は?」
鳩が豆鉄砲を喰らったみたいな、って、こんな感じかな。目を丸くして、ポカンと口を開けて。何故そんな事を言うのか、皆目見当つかないみたいに。
ああ。可愛らしい。愛しい。だから、最後まで嘘はつきたくなくて。
「俺、カナメが好きだ」
独り言みたいに、いっそ聞こえなければいいとも思う声量で呟く。
「だから、抱かれたら勘違いするからな。俺を、そういう意味で、俺と同じ好きなんだって」
いっそ憐れな程、驚きで固まってしまっているカナメに、苦笑と同時に同情する。俺が勝手に好きになったから、お気に入りの奴隷を失う事になって、可哀想に。傷を最小限に留めようと、弱い心が防衛本能を発揮し、思考を他人事のように誘導しているのを感じる。
カナメの顔が、驚きから、嫌悪のような、戸惑いのような、顰め面に変わっていく。ゆっくりとカナメから離れたが、さっき抱き締めてきた手は、もう俺を追ってこない。
「じゃーな」
踵を返し、エレベータへ向かう。帰る為にスイッチを押そうと左手を上げて、まだ手錠が掛かったままなのに気付いて振り向いた。
「カナ、っ」
鼻のすぐ前にカナメの首があって、息を飲む。真後ろについてきていたカナメに、今度は俺が驚きで硬直した。
「な、なん」
「嘘だろ」
手首を掴むみたいにラフに、首を掴まれて部屋の奥へ引きずり戻されていく。掠れた呻きしか出せないまま、絞め落とされないように、カナメの早足について行く。ベッドルームへのドアを開いたかと思えば、投げられるみたいにベッドへ突き飛ばされた。
「何が、好き、だ。好きな相手に抱かれるのを嫌がる奴がいるか」
素早くうつ伏せの背中側で両手に手錠を掛けられる。暴れようとする前に、下着ごとチノパンを引きずり降ろされ、露わになった太ももの上に座り込まれてしまった。
「俺、ほんとに」
必死に言い募る言葉に、はぁ、と深いため息を重ねられた。
「だったらなんで嫌がる」
応じるのも面倒臭そうな声に、言い訳としか思われていないのだと切なくなった。背後のカナメは、ベッドサイドの小物入れを漁って何かを探しているようである。何と言えば伝わるか、必死に考えた。
「……好きな相手とセフレになれたら、カナメは嬉しいか?」
我ながら一番分かりやすい例を挙げられたと思うのに、カナメは鼻で笑う。
「嬉しいだろ、そりゃ」
「はあっ? セフレだぞ? 彼氏彼女じゃないんだぞ?」
「少なくとも身体の相性は良いんだから、そっから落とせばいいだろ」
言葉の内容を理解して、そういやこいつ人生イージーモードの金持ちイケメン糞野郎なんだったと思い出す。カナメにとって、努力して落ちない女なんていなかったのだろう。
「ならお前、俺に落とされてくれんのか……ひっ」
うつ伏せの俺に乗っかって何かしていたカナメが、唐突に尻穴に何か冷たくてぬるぬるしたものを入れてきた。浅い所で軽く何度か抜き差しされて、それが彼の指だと気付いて顔から火を噴きそうになった。そんな所に指だなんて、なんて事をするのか。
正直な所、感覚的にはただ気持ち悪い。排泄以外で意識した事もないソコに、わざわざ触れられるという違和感。それなのに、おそらくローションだろう、冷たかったそれが体温で温まってくると、指の滑りをよくして更に深くまで侵攻してくる。
「俺はゲイじゃねーって」
今まさにアナルセックスの準備をしながら、よく言えたものだ。
「ふざけんな、やめろ……っ!」
背筋に力を入れ、海老反りながら暴れようとしたのだが、素早く後頭部を殴りつけられて視界に星が散る。
「う……」
悔しさに涙が出てきた。好きだと言って拒否されるならまだしも、信じてすら貰えないとは。
「……っ」
酒のせいもあるのか、決壊した涙腺からは溢れて止まらない。体温で温まった涙がベッドシーツに吸い込まれて、瞬く間に冷たく顔を濡らす。俺が声を殺して泣く間も、カナメは容赦無く後ろの窄まりを解す作業を続行する。
「こんなガチガチのケツ穴で……、なにが好きだ。一回でもオナってから言えっつーの」
身体の内側を指で抉られ、擦られる。違和感と、気持ち悪さ、それなのにカナメの指だというだけで悦びそうになるチョロい体。どれも嫌だ。最悪だ。こんな経緯のセックスに、なんの意味がある。それなのに、どこかでこうなった事を喜んでいる自分が、一番気持ち悪い。
「おい、やりにくいからケツ上げろ」
太ももの上に乗っているのは自分だろうに、苛立ち露わに俺の尻を叩いて膝を立てろと怒られる。上から退いたカナメに腰を掴んで持ち上げられ、膝を立てようとするが、背中に固定された両腕のせいで相当痛い。しならせた背骨が軋む音が聞こえるみたいで、こんな時なのに己の体の固さに年齢を感じた。
外気に触れた窄まりに、指先が二つ当たるのを感じるが、まだキツくて入れないらしい。無理やり一本を捩じ込まれ、それを追うように二本目が入ってこようとして俺が痛みに呻くと、舌打ちして一本のままぐりぐりと中を抉られる。
「こんなんで、他の奴に抱かせるつもりだったのか? 入れるまで何時間かかんだよ」
ぐっちゃぐっちゃと粘っこい音をさせながら、指が乱暴に抜き差しされて背筋に寒気が走る。同じ粘膜なら、まだ口の中を掻き回された方が気持ちいいんじゃないかと思うくらい、後ろの穴は快楽に繋がらない。ただただ気持ち悪くて、指で擦られた所が痒くなるだけで。
カナメが何度も探るように中を擦るのに、半ば諦めて体を弛緩させようとするのに、内側を弄られるのが気持ち悪くてどうしても出来ない。
チッ、とまたカナメは舌打ちして、指を抜いた。金具の音と、ジッパーの下がる音、衣擦れ。耳に届くそれらで、穴を緩めるのを諦めたのだと悟った。
痛いだろうな。むしろ、痛ければ気持ち良くなれるだろうか。窄まりに硬い肉が押し付けられるのを、大人しく受け入れる。
「……おい。入れるぞ?」
今さら確認されても。俺が反応を返さないのが気に入らないのか、後ろ髪を掴まれて引き上げられる。喉が反って苦しく、振り払うように頭を振ると簡単に離された。
背後から覆いかぶさるように俺の顔の横に手をついたカナメが、「冷てっ」と驚く。
「ユギ……?」
シーツに顔を埋めて動かない俺の横顔を、濡れているかを確認するようにカナメが指でなぞってきた。嫌がるように顔を動かすと、また後頭部の髪を鷲掴まれて上向かされた。覗き込んできたカナメが、涙でふやけた俺の目元を見て、睨む。
「泣くほど、嫌か」
地を這うような低音を、鼻で笑った。
「……嬉し泣き」
どうせ信じて貰えないなら、最後まで信用ならない奴でいいや。そう開き直って口にするのに、カナメはそれを聞いて急に怯えた表情をして。
「あんたを、離したくない」
目元に口付けられ、瞼を閉じる。覆いかぶさるように抱き締められ、体勢がキツいのに触れ合った肌が温かい。耳元で震える声が、彼の本気を伝えてくる。
「他の奴に渡したくない。俺だけの物にしたい。でも……」
「……でも、好きじゃ、ないんだろ」
言い淀んだ続きを俺が口にすると、カナメが心底申し訳無さそうに眉を下げるのを見て、すとんと諦めがついた気がした。
どうにも、俺はこの顔に弱い。こいつが、好きな人が、俺を必要だと言っている。それだけでいいじゃないか。最初に決めた通り、こいつが飽きるまで付き合おうじゃないかと、弱い心が誘惑に負けた。
「……他に奴隷を飼わないでくれ。好きな人が出来たら、すぐに捨ててくれ。その二つだけ守ってくれればいい」
それだけ。普通の主従関係ならば、贅沢過ぎて笑われるような提案をすると、カナメは息を飲んだ。それから、言葉の意味を理解して、
「もっと言え」
とカナメは俺の身体をひっくり返して、何度もキスを落としてくる。
「それだけじゃ今までと変わらねぇ。もっとなんか、我儘言ってくれ」
「我儘? 我儘……ねぇ」
本当にそれだけで十分なのだが。あまりに多く与えられては、そのうち勘違いしてしまいそうだ。考え込む俺に、カナメはしつこくちゅうちゅうと皮膚を吸うだけのキスを頬だの額だの色々な場所に繰り返してきて、少しうざったい。
「あんたがどうしてもって言うなら、付き合ってみてもいい。恋人として。そうしたら、俺もあんたを自分の物だって言いふらせるし」
ギブアンドテイク、と名案みたいに微笑まれて頭痛がした。なんで俺はこんな天然馬鹿を好きになったんだろう。
「それ、二度と言うな。次言われたら本気でキレそう」
深い深いため息を吐く俺に、不思議そうなのが更に頭にくる。詐欺だこんなの。
「じゃあ、他に」
「ねーよ。なんも無い。奴隷は俺一人、好きな女が出来たら終了。それだけ。他全部、今まで通り」
「今まで通り?」
そう、と頷くと、数秒考えたカナメも「ユギがそれでいいなら」と頷き返してきた。
安堵する。場の雰囲気は一応の落ち着きを取り戻し、深く息を吐いた。
「とりあえず、手錠外してくれ」
「それはダメ」
外側に反らした肩が痛いと文句を言うが、アッサリ却下された。
「まだ入れてねーだろ」
仰向けの俺の膝裏を掴んで開脚されて仰天する。まだするつもりなのか。
「いやいやいや、無理じゃん、指一本しか入らないんだろ? 自分のサイズ考えろよ、物理的に無理だから!」
話しているうちに乾いていた孔に新しいローションを垂らされ、もう勘弁してくれと泣きつく。ずぬぬ、と今度は簡単に指が入ってきて、小さく悲鳴を上げそうになるのを噛み殺した。穴が指の大きさを覚えたみたいで恥ずかしい。締め付けが緩んだのを感じたのか、カナメが二本目をねじ込んできて、思わずぎゅっと尻穴を締め上げた。
「……っ、は……ぁ」
締めたせいでより鮮明に指の形を感じることになって、腰が震える。腹の中で蠢くそれらが、粘膜を擦って何かを探る。
「わっかんねえ。あんた結構感じやすいから、こっちもすぐ分かると思ったんだけど」
「分かるって、何が」
「前立腺? だっけな。男がソコでイクの覚えたらもうチンポ無しじゃ生きてけねーってくらいイイ、って前にゲイの奴が……あ、そうか」
急に何か思いついたように、カナメは俺の尻を弄る指はそのままに、反対の手でパンツのポケットからスマホを取り出した。ぎょっとする俺に構わず、カナメはそれを耳に当て、どうやら電話をかけているらしい。
「おま、ふざけんなっ」
こんな状態で何を考えているのか、慌てて抜かせようとするのに、引っ掛けるように中で指を曲げられて内蔵を圧迫するようなその動きに息を詰める。
「……あ、わり、寝てた?」
恨みがましく睨みつけるのに、彼は平然と誰かと電話をしだした。
「あのさー、お前、前に前立腺がどーの言ってたじゃん? あれってどのへん?」
話す内容に、頭痛を通り越して一瞬気を失いかけた。それなのに、暇潰しみたいに指を抜き差しされて居心地が悪い。
「いや、今指入れてんだけど、よく分かんねーから。……は? 俺じゃねえよ、人のケツ。うん、男。……いや、マジで困ってんだよ俺」
こんなにデリカシーの無い奴だったろうか。蹴り飛ばしてやりたい衝動に駆られるが、表情が至極真面目なので我慢する。
「え、腹側? 第一関節あたり……、あ、なんかある」
どうやら電話の相手も同じくらいデリカシーの無い人物らしい。実況するような真似をされて、意地でも感じるものかと決めたのだが。今まで執拗に弄られていた奥のあたりから、指が引き抜かれてきて、割りと浅い辺りをぐ、ぐ、と押されて、ビリッと刺激が走って驚いた。脚に力を入れて、それを気付かれないようやり過ごす。
「んー……?」
探るようにゆっくりと撫でられ、弱い電流でも流されているみたいに、じっとり汗をかいた。腰が浮かないよう我慢する。カナメから目を逸らし、興味無い風を装うが。
「ん? ……ふーん? おっけー」
何やら言い含められたカナメが、返事の後に今度はゆっくり抜き差しを始めた。抜く時にさっきの場所を指全体で擦っていくようにされて、びりびりびり、と明らかな快感が走って身体が跳ねた。
「……、ふ、っ」
声は噛み殺した筈なのに、吐息が甘い。力なく横の方に垂れていた俺の茎に、急に血が巡って猛り立つのを見られてしまった。
「うん、あった。さんきゅー。……おう、今度奢る」
用件は終えたとばかりにカナメは通話を切ると、スマホをそのへんに放り出して、やたら笑顔で俺に覆いかぶさって唇にキスしてくる。下唇を舐められると反射的に口を開けてしまって、舌を吸い出された。がり、がり、と犬歯に甘噛みされて、ぞくぞくと怖気だけではない感覚が腰に響く。
「ココ、擦ったら、いきなり緩んできた」
言われずとも、指がもたらす圧迫感が減ったので分かる。指を拒否して追い出そうと締め付けていたのが、中の一点を刺激されてあっさり陥落した穴は、今度は引き込もうと動いている。浅ましさに逃げ出したいのに、身体は刺激を求めて勝手に動き、カナメの指にソコを擦りつけようと腰が揺れる。
「これ……す、ご」
陰茎を擦られるより鮮やかな快感に、思考がぼやけていく。気持ち良い事を止められない。自分から腰を動かして、穴を指に擦りつけてしまう。
「ん、んん、……は、ぁ」
気持ち悪かった筈の、内側を擦られる感覚が、いつしか快楽一色に染まっていた。指が三本に増やされ、広げられて歓喜に震える。もっと欲しい。もっと暴いて欲しい。壊れる程広げて、奥まで犯しながら擦って欲しい。
「ゆび、ふやして」
もう頭の中は気持ち良くなる事しか考えられず、早く四本目が欲しいと強請る。カナメが指を動かさなくなっても、俺が自分で腰を前後させてずぽずぽと抜き差しするのを、彼は目を細めて喜ぶようだ。
「そろそろ、俺が限界」
下唇を舐めたカナメが、そう呟いて急に指を抜き、俺の両足を掴んで肩に膝を掛けるように持ち上げた。体格差で浮いた股間に、カナメの肉茎が押し付けられる。直前まで開かれていた孔が、緩みを埋めてくれる物量を強請って呼吸が浅くなる。
「や、だ。後ろ、から……っ」
入り口と化したソコに猛りを充てがわれて、それを眼にするのは嫌だと駄々をこねたのに。
「ゆっくりしてやるから」
俺の反応に大層ご満悦らしいカナメは満面の笑みでそう答えて、言葉通りゆっくりとゆっくりと、自身を埋め込んでくる。俺の呼吸に合わせ、息を吐いている時に少しずつ腰を進め、吸っている時はその締りを楽しんで。早くさっきの全身が痺れるような快楽が欲しいのに、カナメは意地悪く焦らしてなかなか根本までを挿れようとしない。
「は、や……く」
とうとう焦れて急かすのに、カナメは応えない。ローションが乾いてしまうんじゃないかと心配になるくらい時間をかけてやっと、尻たぶがカナメの腰あたりとぶつかった。根本まで埋まると、内側から内蔵を押されているような心地で結構苦しい。
意外な事に、痛みはほとんど無い。繋がった部分が擦れて熱いのと、よく分からない焦燥感とが腹の底から押し上げてくるみたいで気持ち悪くて目眩がする。ああ、気持ち悪いのは酒の所為なのかもしれない。吐きそうだと思った次の瞬間には、さっき指で擦られて気持ち良かったあたりを擦られてそれも吹き飛んだ。
早く内側を擦り上げて欲しいと喚く身体を押し殺しているのに、俺に伸し掛かって串刺したカナメはそこから動かない。急く穴が勝手に彼の雄を締め付け、もっと寄越せと絞り込む。きゅっと締める度に粘膜が擦れて、微かに甘い刺激に腰がわなないた。その刺激を求めて何度も繰り返すのを、じっと視姦される。
「何で……動かない」
息も切れ切れに問うと、予想外の答えが返ってきた。
「なんか、イきたくねぇ」
さすがに言葉の意味を計り兼ねた。
イきたくないとは言っているが、俺に遠慮してそう言っただけで、イけないのだろうか。意外と悦く無かったとか、女性の膣と比べて刺激が足りないとかで。少し凹むが、元々性交に使うべき場所ではないのだからしょうがない。
せめて少しでも刺激になればと、慣れないながらも腹に力を込めてぎゅう、と窄まりに力を入れてみたのだが。
「やめろ」
即座に頬を抓られて怒られた。
締まりが緩いという訳ではないだろう、何しろ俺は初めてなのだ。アナルセックスの良さは膣に比べての圧倒的な締まりの強さだと誰かとの猥談で聞いた覚えがある。それを拒否されてしまったら、どう努力すればいいのか。異性愛者のカナメを興奮させる大きな乳房も細い腰も、柔らかな肌も持たない俺に、何が出来るのか。
考え込む俺の額を撫で、カナメはキスを落としてきた。
「ちょっと待てって。今動いたら出る」
「……え?」
それって。困ったような表情に、察して何故か俺の方が照れる。
「な、なんだ。その、……悦くないのかと思った」
どうやら杞憂で終わった事にホッとして言うと、「なワケねーだろ」と奥まで入ったソコを更に押し付けるみたいに、カナメはぐっぐっと腰を揺らしてきた。たまらず応えるみたいに締め付けると、眉間に皺を寄せて彼は息を詰める。
「こんな、えっろい身体で……よく、そんな事」
睨まれたと思えば、今度は頬を舐められた。そのまま横に移動して耳朶を噛んで引っ張られ、腰が浮いた。尻の中を弄られたのが小さな火種になっていた所に、痛みを与えられてとうとう火を点けられてしまった。
「っあ、……も、無理、我慢、無理ぃ」
ぎゅ、ぎゅ、ぎゅ、と断続的に埋め込まれた茎を締め付ける。背中の下敷きになっている両腕も痛いし、カナメの肩に乗せられたままの脚の太腿裏が攣りそうだ。それでも、中を擦って欲しくてめちゃくちゃに腰を揺らす。
「カナメ……ッ、も、っと……、もっと、欲し……」
体面もプライドも、もう無い。どうせ好きだと伝えてしまった。堕ちてしまった。だったらもう、全てを曝け出してしまいたい。
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