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神は絶対に手放さない
19、染井川先生のやや優しい授業(二日目)
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風呂から上がってきた志摩宮と、本館の売店まで菓子をやら飲み物を買いに行き、離れに戻ってきたところだ。
いつもはふわふわとうねった癖毛が、半乾きでぺったりと後ろに撫でつけられている。座卓を挟んで正面に座る志摩宮の、珍しく露出した額を見ながら「お前、ポテチ何味派?」なんてどうでもいい事を聞く。
「塩ですかね」
「ほんとアッサリ好きなー」
売店は旅館らしく地元のお土産からスナック菓子、果ては乾電池まで、旅行で急に欲しくなる物は殆ど置いているような品揃えだった。
何組かの女性グループが、志摩宮を見てヒソヒソと話す素振りが目について不愉快だったので、さっと買うだけ買って帰ってきた。
窓際の座卓に買ってきたお菓子を広げて一つ開けて食べ始めると、志摩宮は自分のスマホを開いて、俺のも寄越せと言ってくる。
「昨日のデイリークエやってないでしょ。俺がやっとくんで、ほら出して」
マメな男である。
スマホを渡すと、ゲームのアプリを開いて器用に一人で二つのキャラクターを操作し始めた。
「器用だな」
「静汰の方のは移動しながら回復魔法打ってるだけだから」
ゲームをする志摩宮を眺めながら、貰ってきた割り箸でポテトチップスを摘んでいると、一戦終わった志摩宮が目線を上げて不思議そうな顔をした。
「静汰、潔癖?」
箸で食べているからかそんな事を聞かれ、いいやと首を横に振る。
「食べながら他の事したい時とか、いちいち指拭くの面倒だろ」
「食べ終わってからにすればいいのに」
「そんな一気に食べなくね?」
「菓子類食べる時は無性に食べたい時だけなんで、一気食いしますね」
「ほーん」
志摩宮の食生活は、聞けば聞くほど男子高校生とは思えない。
こんな嗜好で、よくもまあラーメン屋巡りに付き合ってくれていたものだ。俺が連れ回すから三食食べるようになったというのも、あながち冗談でもないかもしれない。
一食増えただけでぐんぐん伸びるようになった身長を鑑みても、志摩宮は栄養を充分にとっていない気がした。
ここでの仕事が終わったら、ラーメン屋以外の外食も行こう。
「あのさ、この仕事が終わった後の休み中って……」
予定はあるのか、と聞こうとして、ピルルルル、と高い音に阻まれた。
音の発信源は志摩宮のスマホで、ゲームを中断して着信画面に切り替わった事に志摩宮が舌打ちしている。
「……ちょっと出てきます」
見るとも無しに見てしまった着信画面には、名前の表示は無かった。090から始まる携帯番号を見た志摩宮は、相手が誰だか分かるようでスマホを持って部屋の外へ出て行った。
胸によぎる、微かな不快感。彼女が同じ事をしたら、たぶんその場で問い詰めてしまうだろうと考えて、思ったより自分が束縛の強いタイプなのだと自覚した。
志摩宮は彼女どころかただの友人だ。そんな事をしてはいけないし、考えるのもよくない。
頭を振って、志摩宮の事を考える前に蛍吾に電話を掛けた。寝起きの悪い俺の精神安定剤だが、さすがにもう起きているだろう。
『……はい』
低い声で出た蛍吾は、外に居るらしい。彼の背後から、ザワザワとした雑踏特有の音が聞こえてきていた。
「見えない壁を作る紋、って分かる?」
『昨日、染井川が志摩宮に掛けてたやつか』
「そそ」
『壁作らねーで紋掛けて失敗したんだな。お前ほんと覚えが悪いよな』
俺を熟知してくれている蛍吾は話が早い。元々俺の教育係も兼任していた彼は、俺の失敗原因すら先に予想していたようだ。『画像送るわ』と言ってさっさと切ってしまった蛍吾が、三秒後には紋の描かれた画像を送ってくる。
「さんきゅー」と吹き出しのついた猫のスタンプを送ると、「邪魔すんな」という吹き出しのついた怒った顔のスタンプが返ってきた。どうやら取り込み中だったらしい。
画像の紋を確認し、どこから描こうかと思案する。それほど複雑ではないが、配置が繊細だ。丁寧に描かないと、線が重なってしまいそう。染井川はこれを一瞬で描いて飛ばしていた。どれだけ練習すればあれだけの速さで紋を飛ばせるのか——。
「誰かと話してました?」
部屋に入ってきた志摩宮に聞かれ、いやと首を横に振った。志摩宮が不思議そうに顎に手をやって首を傾げる。
「静汰の声がしたから、呼ばれたのかと思って電話中断してきたんだけど」
「呼んでないから、もっかい掛けてこいよ」
「はぁ。……まぁ、別に俺に用事は無いんスけど」
なんとなく雰囲気から、察してしまった。
電話番号だけで誰だかを覚えていて、掛けてきた電話に出てやるくらいの愛着はある相手。たぶん、恋人なんだろう。志摩宮のことだから、恋人相手にも淡白そうだ。少し相手が可哀想になる。
「掛けてきてやれよ」
俺が再度言うと、不承不承といった体で志摩宮は立ち上がった。出て行く背中に視線を向けないように、スマホに表示された紋に集中する。
守ってやらなきゃ。じゃないと、傍に置いておけなくなる。
報酬すら受け取ってくれない志摩宮が俺の傍に居る理由はいまだに分からない。だからこそ、一つでも危険は取り除いていきたい。
幸いにも壁の紋は習得しやすく、数十回描く練習をしただけでちゃんと機能するようになった。
あとは志摩宮が戻ってくるのを待つだけだ。彼がスマホゲームをしている間に、さっきの紋も描いてしまおう。
待っている間に防御紋の練習も数度した。蛍吾に言われた通り左から描くと、バランスが取りやすく描きやすくなった。
志摩宮の電話は、今度は長い。待っている間にポテチを食べきってしまって、冷蔵庫から冷やしておいたジュースのペットボトルを取り出した。冷たいオレンジ炭酸が喉を通る。炭酸はあまり飲まないのだが、甘くないからこれは好きだ。
「お茶じゃないの、珍しいな」
戻ってきた志摩宮が、俺の飲むボトルを見て言う。
「別に、お茶が好きなわけでもないし」
「え、そうなの」
「甘くないの選ぶと、大体お茶になるだけ」
一番は無糖の炭酸が好きなのだが、自動販売機や小さな売店では売っていない。だから消去法でお茶になるだけだ。それは口に出さず、肩を竦めた。
「じゃあ、一番好きな飲み物ってなに?」
「どうでも良くね」
聞いてくる志摩宮を、邪険に扱ってしまう。何故か苛立ってしまって、それに気付いて自分でも困惑した。少し考えれば、理由なんてすぐ気が付いたが。
「……炭酸水。甘くないやつ」
嫉妬だ。恋人と電話してきた志摩宮に嫉妬して、あてつけのように八つ当たりしたのだ。自分の狭量さに、自分で引いた。
もしかしなくても俺、恋とかしない方が良い人間なのかもしれない。
志摩宮は気にした風もなく「なんか静汰っぽい」と笑っているが。恋人でもないうちから独占欲を持つような人間、俺なら距離を置く。だって気持ち悪いし扱いが面倒。
静かに深呼吸して、前途多難だと目を閉じた。
恋なんて、知らない方が良かった。
午後十時。迎えに来た車に乗って組織の施設へ向かうと、今夜はやけに人が少なかった。見下ろす砂浜には、呼霊班と紋浄班の姿はあるが、浄霊班の姿が無い。嫌な予感がする。
玄関ポーチには、昨夜と同じく染井川が蛍吾と並んで待っていた。
車から降りた俺と志摩宮を見て、染井川がククッと愉しげに笑う。
「必死だな、神子サマ」
「……うるせぇよ」
志摩宮への紋の付与は、ちゃんとしてきた。これで、昨夜のように志摩宮を人質に無理難題を吹っかけられる事もないだろう。
「しかしよ、そんな過保護な事してきたトコ悪いんだが、今夜そいつは中で蛍吾と座学だ」
「へ」
「今日の人質はお前自身だ、神無神子。せいぜい頑張れ」
染井川が手を動かしたので、紋を掛けられるのかと反射的に加護を使ったのだが、そうではなかった。
大きく手を振り、砂浜の方へ呼び掛けた。
「神子様が到着したぞ! 始めろ!」
染井川の大声に、構成員達がこちらを振り向いて俺を見た。そのどれもが、なんだか憐憫に満ちている気がして染井川を仰ぎ見た。
「どういう意味だ……?」
「今日の浄霊班はお前一人だ。紋浄班は大物しか相手しねぇように言ってある」
おら行くぞ、と染井川に腕を掴まれ、砂浜へ引っ張られていく。
「せっ……」
「志摩宮はこっち」
「蛍先輩、でも」
「いいから」
「よくねぇよ!!」
蛍吾達を振り向いて助けを求めるのに、蛍吾は笑顔でこちらに手を振っている。志摩宮はそんな蛍吾の様子に、俺を助けるか迷っているようだ。
「不甲斐ねぇ神子様だな。無能力に心配されてんのか」
染井川にボソッと囁かれ、奥歯を噛んだ。そうだ。俺は志摩宮を守りたいのに、心配させてちゃ安心して守らせてはくれないだろう。
「自分で行くから離せ」
染井川に掴まれていた手を振り払い、自分で階段を降りる。
「気が強くて可愛いが、そんなだから虐めたくなるんだよなぁ」
「気色わりーんだよ、オッサン」
「鳴け鳴け、雑魚が。その方がシゴき甲斐がある」
このおっさんは、たぶんドSってやつだ。きっとそうだ。おーこわ、と肩を竦めて震える素振りをすると、染井川がまた笑った。
「来たぞ」
呼霊班の経に呼ばれて、波打ち際から黒い影が立ち昇る。闇夜に紛れて、人だった者たちが砂浜に上がってきていた。
「昨日のでコツは掴んだからな。神子舐めんなよ」
俺が威勢のいい台詞を後悔したのは、その数時間後の話だ。
いつもはふわふわとうねった癖毛が、半乾きでぺったりと後ろに撫でつけられている。座卓を挟んで正面に座る志摩宮の、珍しく露出した額を見ながら「お前、ポテチ何味派?」なんてどうでもいい事を聞く。
「塩ですかね」
「ほんとアッサリ好きなー」
売店は旅館らしく地元のお土産からスナック菓子、果ては乾電池まで、旅行で急に欲しくなる物は殆ど置いているような品揃えだった。
何組かの女性グループが、志摩宮を見てヒソヒソと話す素振りが目について不愉快だったので、さっと買うだけ買って帰ってきた。
窓際の座卓に買ってきたお菓子を広げて一つ開けて食べ始めると、志摩宮は自分のスマホを開いて、俺のも寄越せと言ってくる。
「昨日のデイリークエやってないでしょ。俺がやっとくんで、ほら出して」
マメな男である。
スマホを渡すと、ゲームのアプリを開いて器用に一人で二つのキャラクターを操作し始めた。
「器用だな」
「静汰の方のは移動しながら回復魔法打ってるだけだから」
ゲームをする志摩宮を眺めながら、貰ってきた割り箸でポテトチップスを摘んでいると、一戦終わった志摩宮が目線を上げて不思議そうな顔をした。
「静汰、潔癖?」
箸で食べているからかそんな事を聞かれ、いいやと首を横に振る。
「食べながら他の事したい時とか、いちいち指拭くの面倒だろ」
「食べ終わってからにすればいいのに」
「そんな一気に食べなくね?」
「菓子類食べる時は無性に食べたい時だけなんで、一気食いしますね」
「ほーん」
志摩宮の食生活は、聞けば聞くほど男子高校生とは思えない。
こんな嗜好で、よくもまあラーメン屋巡りに付き合ってくれていたものだ。俺が連れ回すから三食食べるようになったというのも、あながち冗談でもないかもしれない。
一食増えただけでぐんぐん伸びるようになった身長を鑑みても、志摩宮は栄養を充分にとっていない気がした。
ここでの仕事が終わったら、ラーメン屋以外の外食も行こう。
「あのさ、この仕事が終わった後の休み中って……」
予定はあるのか、と聞こうとして、ピルルルル、と高い音に阻まれた。
音の発信源は志摩宮のスマホで、ゲームを中断して着信画面に切り替わった事に志摩宮が舌打ちしている。
「……ちょっと出てきます」
見るとも無しに見てしまった着信画面には、名前の表示は無かった。090から始まる携帯番号を見た志摩宮は、相手が誰だか分かるようでスマホを持って部屋の外へ出て行った。
胸によぎる、微かな不快感。彼女が同じ事をしたら、たぶんその場で問い詰めてしまうだろうと考えて、思ったより自分が束縛の強いタイプなのだと自覚した。
志摩宮は彼女どころかただの友人だ。そんな事をしてはいけないし、考えるのもよくない。
頭を振って、志摩宮の事を考える前に蛍吾に電話を掛けた。寝起きの悪い俺の精神安定剤だが、さすがにもう起きているだろう。
『……はい』
低い声で出た蛍吾は、外に居るらしい。彼の背後から、ザワザワとした雑踏特有の音が聞こえてきていた。
「見えない壁を作る紋、って分かる?」
『昨日、染井川が志摩宮に掛けてたやつか』
「そそ」
『壁作らねーで紋掛けて失敗したんだな。お前ほんと覚えが悪いよな』
俺を熟知してくれている蛍吾は話が早い。元々俺の教育係も兼任していた彼は、俺の失敗原因すら先に予想していたようだ。『画像送るわ』と言ってさっさと切ってしまった蛍吾が、三秒後には紋の描かれた画像を送ってくる。
「さんきゅー」と吹き出しのついた猫のスタンプを送ると、「邪魔すんな」という吹き出しのついた怒った顔のスタンプが返ってきた。どうやら取り込み中だったらしい。
画像の紋を確認し、どこから描こうかと思案する。それほど複雑ではないが、配置が繊細だ。丁寧に描かないと、線が重なってしまいそう。染井川はこれを一瞬で描いて飛ばしていた。どれだけ練習すればあれだけの速さで紋を飛ばせるのか——。
「誰かと話してました?」
部屋に入ってきた志摩宮に聞かれ、いやと首を横に振った。志摩宮が不思議そうに顎に手をやって首を傾げる。
「静汰の声がしたから、呼ばれたのかと思って電話中断してきたんだけど」
「呼んでないから、もっかい掛けてこいよ」
「はぁ。……まぁ、別に俺に用事は無いんスけど」
なんとなく雰囲気から、察してしまった。
電話番号だけで誰だかを覚えていて、掛けてきた電話に出てやるくらいの愛着はある相手。たぶん、恋人なんだろう。志摩宮のことだから、恋人相手にも淡白そうだ。少し相手が可哀想になる。
「掛けてきてやれよ」
俺が再度言うと、不承不承といった体で志摩宮は立ち上がった。出て行く背中に視線を向けないように、スマホに表示された紋に集中する。
守ってやらなきゃ。じゃないと、傍に置いておけなくなる。
報酬すら受け取ってくれない志摩宮が俺の傍に居る理由はいまだに分からない。だからこそ、一つでも危険は取り除いていきたい。
幸いにも壁の紋は習得しやすく、数十回描く練習をしただけでちゃんと機能するようになった。
あとは志摩宮が戻ってくるのを待つだけだ。彼がスマホゲームをしている間に、さっきの紋も描いてしまおう。
待っている間に防御紋の練習も数度した。蛍吾に言われた通り左から描くと、バランスが取りやすく描きやすくなった。
志摩宮の電話は、今度は長い。待っている間にポテチを食べきってしまって、冷蔵庫から冷やしておいたジュースのペットボトルを取り出した。冷たいオレンジ炭酸が喉を通る。炭酸はあまり飲まないのだが、甘くないからこれは好きだ。
「お茶じゃないの、珍しいな」
戻ってきた志摩宮が、俺の飲むボトルを見て言う。
「別に、お茶が好きなわけでもないし」
「え、そうなの」
「甘くないの選ぶと、大体お茶になるだけ」
一番は無糖の炭酸が好きなのだが、自動販売機や小さな売店では売っていない。だから消去法でお茶になるだけだ。それは口に出さず、肩を竦めた。
「じゃあ、一番好きな飲み物ってなに?」
「どうでも良くね」
聞いてくる志摩宮を、邪険に扱ってしまう。何故か苛立ってしまって、それに気付いて自分でも困惑した。少し考えれば、理由なんてすぐ気が付いたが。
「……炭酸水。甘くないやつ」
嫉妬だ。恋人と電話してきた志摩宮に嫉妬して、あてつけのように八つ当たりしたのだ。自分の狭量さに、自分で引いた。
もしかしなくても俺、恋とかしない方が良い人間なのかもしれない。
志摩宮は気にした風もなく「なんか静汰っぽい」と笑っているが。恋人でもないうちから独占欲を持つような人間、俺なら距離を置く。だって気持ち悪いし扱いが面倒。
静かに深呼吸して、前途多難だと目を閉じた。
恋なんて、知らない方が良かった。
午後十時。迎えに来た車に乗って組織の施設へ向かうと、今夜はやけに人が少なかった。見下ろす砂浜には、呼霊班と紋浄班の姿はあるが、浄霊班の姿が無い。嫌な予感がする。
玄関ポーチには、昨夜と同じく染井川が蛍吾と並んで待っていた。
車から降りた俺と志摩宮を見て、染井川がククッと愉しげに笑う。
「必死だな、神子サマ」
「……うるせぇよ」
志摩宮への紋の付与は、ちゃんとしてきた。これで、昨夜のように志摩宮を人質に無理難題を吹っかけられる事もないだろう。
「しかしよ、そんな過保護な事してきたトコ悪いんだが、今夜そいつは中で蛍吾と座学だ」
「へ」
「今日の人質はお前自身だ、神無神子。せいぜい頑張れ」
染井川が手を動かしたので、紋を掛けられるのかと反射的に加護を使ったのだが、そうではなかった。
大きく手を振り、砂浜の方へ呼び掛けた。
「神子様が到着したぞ! 始めろ!」
染井川の大声に、構成員達がこちらを振り向いて俺を見た。そのどれもが、なんだか憐憫に満ちている気がして染井川を仰ぎ見た。
「どういう意味だ……?」
「今日の浄霊班はお前一人だ。紋浄班は大物しか相手しねぇように言ってある」
おら行くぞ、と染井川に腕を掴まれ、砂浜へ引っ張られていく。
「せっ……」
「志摩宮はこっち」
「蛍先輩、でも」
「いいから」
「よくねぇよ!!」
蛍吾達を振り向いて助けを求めるのに、蛍吾は笑顔でこちらに手を振っている。志摩宮はそんな蛍吾の様子に、俺を助けるか迷っているようだ。
「不甲斐ねぇ神子様だな。無能力に心配されてんのか」
染井川にボソッと囁かれ、奥歯を噛んだ。そうだ。俺は志摩宮を守りたいのに、心配させてちゃ安心して守らせてはくれないだろう。
「自分で行くから離せ」
染井川に掴まれていた手を振り払い、自分で階段を降りる。
「気が強くて可愛いが、そんなだから虐めたくなるんだよなぁ」
「気色わりーんだよ、オッサン」
「鳴け鳴け、雑魚が。その方がシゴき甲斐がある」
このおっさんは、たぶんドSってやつだ。きっとそうだ。おーこわ、と肩を竦めて震える素振りをすると、染井川がまた笑った。
「来たぞ」
呼霊班の経に呼ばれて、波打ち際から黒い影が立ち昇る。闇夜に紛れて、人だった者たちが砂浜に上がってきていた。
「昨日のでコツは掴んだからな。神子舐めんなよ」
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