神は絶対に手放さない

wannai

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神と貴方と巡る綾

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 食事を終えて仁科市というのがどこなのか調べて、徹さんの車で向かった。
 おそらくこの辺りだろうというところの近くの公園に車を停めて徒歩で散策していると、平日昼過ぎの住宅街には場違いな黒スーツの集団がいた。

「あ、静汰くんたち、遅かったね」

 迷ってた? と洲月さんがそのスーツ集団の中から出てきて、その後ろから蛍吾も姿を見せた。
 蛍吾はあれから呪具作りを習いたいとかで二年ほどヤモリさんに師事するようになったが、州月さん目当てなのは誰が見ても明らかだ。直接言っても普通に否定されるから言わないけれど。二人は付き合ってるのか、と聞いたらノーと答えられたけれど、洲月さんはニコニコしていたから、蛍吾の照れ隠しかもしれない。

「……やっぱ選ばれたのか」
「残念ながら。ヤモリさんはもう中?」
「お前ら以外はもう入った」

 スーツの男たちは洲月さんたちが俺と志摩宮に話しかけたのを見て路地の入口から退いた。
 小道の入り口には拳大の小さな小さな赤い鳥居があった。玩具のようなそれを見て、深く息を吸う。

「お前らが入ったら、おそらくすぐ始まる。覚悟はいいな?」

 脅すような徹さんの言葉に、黙って頷いた。
 入ったら、始まる。二年の間に何度か五人で集まって、ヤマの中でどんな事が行われるのかの詳細も聞いて、流れは頭に入っている。
 大丈夫、生き残るのを最優先に考えればいい。出てくる妖怪を倒すのは主に鯛さんと砌輪さんがやってくれるから、俺と志摩宮はその補助をする。霊力は中で振る舞われる酒を飲めば回復するという話だけれど、ガブガブ飲んで酔っ払って死んでは元も子もない。酒は最小限に、けれど前衛の補助紋は切らさずに。
 バッファーとヒーラーはパーティの生死握れるんで面白いですよ、なんてゲーム感覚の志摩宮の台詞を思い出して少しだけ緊張が和らいだ。

「俺も居ますから」

 横の志摩宮にぎゅ、と手を繋がれて、この手が繋がっているうちは一安心、と握り返す。
 徹さんが何か言おうと口を開きかけた時、スーツの男たちをかき分けて森さんや沖さんたち、元『トナリグミ』の術師たちも現れて声を掛けてきた。

「染井川さん! こっちはもう準備出来てま……、あれ、静汰くんも志摩宮くんも、まだ出発してないの!?」

 砌輪さんは早朝にはもう入って行ったよ、と言われて、早速叱られるのが確定した。

「これだけ術師が集まってるってことは、こっちも大変なんだろ」
「お前らよりは楽だ。いいからさっさと行って帰ってこい」

 トン、と肩を押され、少しだけ不安になって徹さんを振り返った。けれど、師の顔をした彼は励ます一言すらくれない。
 前に向き直ると、志摩宮がまた手を握ってくれた。隣の志摩宮を見上げて、頷いた。うん、大丈夫。俺には志摩宮がいる。

「行ってく……」

 一歩踏み出そうとしたのを、後ろから抱き締められた。煙草臭いスーツの腕が俺の頭を掻き抱いて、つむじに口付けて、それからすぐに離れて背中を叩かれた。

「最後まで油断すんなよ、お前はいつも詰めが甘い」
「まーた説教かよー」

 たまには甘い言葉くれたっていいんじゃん? とぶつぶつ言いつつ、振り向かずに路地へ足を踏み入れた。にこにこの笑顔になった俺に、「俺が何の神になるか覚えてます?」なんて志摩宮がヤキモチを焼いて不貞腐れているけれど、こればかりはフォロー出来ない。

「あ……」

 鳥居の向こう側へ入った、と思った瞬間、景色が変わった。
 足元には白い玉砂利が敷き詰められ、踏むとジャリと高い音を立てた。足場が悪い。転ばないように気を付けなければ。
 視線を巡らすと、少し遠くに屋根の無い日本家屋のような、謎の建物があった。玉砂利から一段上がった所に縁側のような長い廊下があって、その奥が板張りの大広間になっている。普通の家のように何本も柱が立っているのに、屋根だけが無かった。雨が降ったら全部濡れるだろうな、と考えてから、この空間に雨なんか降らないのか、と思い直す。
 建物があるということはここは庭なのか。
 数歩進むと、急に視界に座布団へ座った三人の姿が現れた。砌輪さんと、ヤモリさん、鯛さん。鯛さんはいつも通り寝ているけれど、砌輪さんは視線で「遅い」と怒りを伝えてきていた。
 気が付けば、俺と志摩宮の前にも、座布団が置かれていた。土足のままそこへ腰を下ろす。
 すると、今度は何処からともなく少女が数人現れた。白や桃色や薄藍の淡い色を重ねた裾の長い着物を引きずってゆっくりと歩き、五人の前まで来ると座ってこちらへ首を垂れた。

「いらっしゃいます」

 きっちり揃った鈴の音のような声に、全員に緊張が走る。急いで頭を下げると、頬をふわりと風が撫でていった。

「──ああ、よく寝た」

 声は、思っていたより若い男のそれだった。「頭を上げなさい」と言われて視線を向けると、板張りの奥、そこから更に一段高くなった畳敷きの座敷に長い黒髪の男が寝転がって欠伸をしていた。
 彼が、件の神様。ヒトを愛するが故に、ヒトが何処まで出来るか試す神。
 彼は身体を起こして胡座をかくと、俺たちへ向かって手招きした。

「さ、こちらへおいで、ヒトの子たちよ。楽しい宴にしようじゃないか」

 座ったばかりの座布団から立ち上がり、それを持って板の間に上がる。ここは土足でも神の機嫌を損なうことは無いと聞いていたけれど、やはり日本人の性なのか、少しばかり躊躇した。
 神様に声が届く距離まで寄って再び座布団に座った俺たち五人の前に、着物の少女たちがお膳を置いていく。一人に一人ずつ少女が横に付き添うように座り、膳の上の徳利からお猪口へ酒を注いだ。
 神様が杯を上げたのを乾杯の合図に、酒に口を付ける。大丈夫、ここまで全て、教わった通りだ。

「さて、私が眠っている間に、なにかあったかな」

 神様に問われて、まず砌輪が頭を下げてから話し始めた。
 この十一年の間に起こった妖怪との大きな諍い、それにどう対処したかを朗々と語る。これをどれだけ神の機嫌を損ねずに長引かせられるかがこれからの三日を乗り切るポイントなのだと聞いていた俺たちは、酒に口を付けているフリをしながらそれを黙って聞くのに徹した。


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