神は絶対に手放さない

wannai

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神と貴方と巡る綾

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 気が付くと、徹さんの家の前にいた。
 玄関前で煙草をふかしている長身は、間違いようもなく徹さんだ。よくもまぁ、小雨の中なのに外で吸うものだ。呆れてじっと見つめていると、焦れたみたいに指で手招きしてきた。
 ……ああ。俺を待ってたのか。

「こっち来てまで吸うのかよ」
「暇だとどうしてもな」

 癖だなこりゃ、と煙草の火を消して、徹さんが俺へ腕を伸ばしてくる。ぎゅ、と抱き締められて、死んでも温かいんだ、とホッとした。けれど、胸に耳を当てても鼓動の振動はない。

「俺、ちゃんと生きて帰ったのに」
「よくやった」
「徹さんの方が死んでるとか、何の冗談だよっていうね」
「……悪い」
「仇はとれた?」
「ああ」

 だったらいい、とぎゅっと抱き締めた。
 キスしようと顔を上げて背伸びすると、徹さんの後ろの玄関扉が中から開かれた。

「来たんだったら中に入りなよ。風邪引くよ」

 扉を開けて顔を見せたのは、シマミヤだった。数度その銀髪に際どい衣装の姿を見てはいるけれど、やはり俺には馴染みがない。俺の知る志摩宮はずっと敬語だったから、言葉遣いも違和感の原因かもしれない。

「こっちでも風邪引くの?」
「こっちでは精神の負担が体調に現れるからね。ストレス溜まると熱出たりするよ」
「マジか」

 万能じゃないのか、と思いつつ、玄関をくぐっていつも通り「ただいま」と言った。

「「おかえり」」

 と徹さんとシマミヤの声がハモって、シマミヤの中にもちゃんと志摩宮が居るんだ、と安心した。

「お茶淹れるから、向こうに座ってて」
「え、神様なのに自分で淹れるの!?」
「うちは自分のことは自分でやる社なんで」

 なんだそれ、と笑いながら靴を脱いで部屋の方へ上がって、襖を開けるとそこに座っていた男と目が合った。

「……え。もしかして、俺?」

 俺より少し年上くらいだろうか。俺みたいな男はすっくと立ち上がったかと思うと──。

「え、待って、なんか背ぇ高くない?」
「ふふん」
「えー!? いいなー! なんでそんな伸びたの!? ずるくない俺!」

 正面に立つと、志摩宮を見上げる時くらい視線が上がる。五センチ以上は伸びているのは確実で、いいないいなと騒ぎ立てると、背の高い俺は満足そうに唇を弧に曲げた。

「ああ、静汰、それで『その静汰』なんだ? 一番背が伸びたもんね」
「う、うるさい! 余計なこと言うなっ」

 その静汰? と首を傾げると、座敷の方のちゃぶ台にお茶を置いたシマミヤは「姿は変えられるから」と説明を始めた。
 神様曰く、こっちでは自分の好きに姿を変えられるらしい。姿をイメージし続けるのにも結構精神力が必要だから『自分だと思っているもの』以外になるのは難しいらしいけど、背の高い俺は色んな世界線(?)の俺の統合体だから、そのうちから選ぶならどれでも『自分』だから選び放題なんだとか。
 それで一番身長が高いのを選ぶあたり、俺は自分で思っていたより身長がコンプレックスだったみたいだ。

「イメージを固め続けられれば、動物とかにもなれるよ」
「……」
「徹さん、なんか色々考えてるのが顔にダダ漏れだからな」

 エロ妄想してるだろ、とツッコミを入れる俺を見て、背の高い俺が眉を顰めて「よく染井川となんて……」ともごもご言った。

「そっちの俺は俺の記憶とか無いの?」

 シマミヤの中には志摩宮の記憶があるみたいなのに、と不思議がると、今度はシマミヤが俺を見て眉を顰める。

「ここに来たら他の静汰にはこの静汰の中に統合してもらうんだけど……」
「え、何それ、やなんだけど」
「だよね」

 うんうんと分かっているみたいに頷いて、シマミヤは湯呑みに注いだお茶を啜った。
 自分のことは自分で、と言った通り、俺たちの方へ急須を押してきて、注いではくれない。

「俺からすれば何回も繰り返してるから確定してるんだけどね。静汰は静汰のままでいいよ」

 俺はこっちの静汰とラブラブだから、と言われ、ホッとした。

「そっか。もう俺、徹さんとだけ……」

 徹さんだけで、いいんだ。横に座る徹さんに視線を向けると、彼も俺を見て嬉しそうに目を細めた。
 が、正面に座る背の高い俺が見つめ合う俺たちを見て「うげ」と引いたような声を出して、徹さんが少し傷付いた顔をした。

「いや、あんたの俺はこっちだから」

 そっち見んな、と正面に居るのに無理を言うと、俺に視線を向けた徹さんにぎゅうぎゅうに抱き締められた。

「……で、神様って結局なんなの? 何か仕事とかあんの?」

 俺を膝の上に乗せて覆うように抱き締めてくる徹さんをそのままに、お茶菓子に手を伸ばす。煎餅と月餅と麩菓子。これ、完全に志摩宮チョイスだな。

「さあ? 俺は常に静汰をつけ回してるだけかな」

 背の高い俺を連れて現世に入り浸っていると言われ、暇そうだな、と煎餅を選んで齧りついた。お茶も飲めるし、煎餅も食える。死んだと言われても、イマイチ実感が湧かない。

「なあ徹さん、暇そうだし二人でどっか現世に旅行行こうぜ」
「いいな」

 どうせやる事が無いなら二人きりを堪能しよう、と盛り上がると、目を眇めたシマミヤが強めにちゃぶ台に湯呑みを置いた。ゴン、と中の茶が揺れるほどの衝撃に驚くと、シマミヤはぐっと自分の心臓辺りを掴んだ。

「……そういうことなら、俺の分身も連れて行って」
「は?」

 言うが早いかシマミヤは自分の身体からべりべりと引き剥がし、黒髪のよく見慣れた志摩宮を作り出した。
 シマミヤから剥がれた志摩宮は、俺の隣に座ってきて緑の目を丸くして覗き込んでくる。

「約束ですよね? 一緒に連れてってくれますよね?」
「う……」
「コラ静汰、負けんな。やっと二人きりなんだぞ、おい」

 徹さんが志摩宮との間に腕を割り込ませて抱き寄せてくるけれど、志摩宮はそれを邪魔する素振りもなく、ただ俺の手を握ってきた。あ、無理、かわいい。

「静汰、おい、まさかこっちでまで」
「いや、だって約束したし……」
「俺だけじゃ不満だってのかシマミヤ」
「そんなんじゃない。あっちはあっち、俺は俺」

 唇を尖らせて拗ねる背の高い俺を、シマミヤは抱き締めて撫で回している。
 あっちでもこっちでも、志摩宮は俺の機嫌を取って取り入るのが上手いんだな。

「揉めんのヤだし全員で行きゃ良くね?」

 俺が提案すると、

「あ、じゃあ今まで不参加だった神様の集会にでも行ってみましょうか」

 とシマミヤが言い出した。

「集会とかあんの?」
「地鎮当番もあるみたいですよ。全部シカトしてましたけど」

 パリパリ煎餅を食べるシマミヤの姿に、嫌な予感がして俺は徹さんの服を掴んでぐいぐい引いて後ろへ囁きかけた。

「……なぁ徹さん、俺たちってシマミヤの依代だからたぶん部下扱いなわけじゃん?」
「まあな」
「俺らが怒られそうじゃない?」
「……慈悲深い神様だらけなのを祈るしかねぇな」

 前途多難、の四文字が俺と徹さんの頭上に浮かぶみたいだった。
 徹さんの膝の上に横向きに座り直して、見つめ合ってから、ちゅ、と唇に口付ける。

「俺なんかに惚れて、可哀想な人」

 死んだ後すら独り占め出来ないのに、と言ったら、ふ、と徹さんの表情が緩んだ。

「俺なんかに惚れられて、可哀想な奴だよ。死んでも追い掛けられて」

 もう逃げ場ねぇぞ、と頬を揉みくちゃにされて、くすくすと笑っていたら志摩宮が横から腕に巻き付いてきた。ぎゅう、としがみ付かれて、また笑う。

「……俺は」

 志摩宮は邪魔か、と。聞こうとしてくる雰囲気を察知して、俺と徹さんが両側からその頬を抓った。

「いひゃい」
「志摩宮がいてこそ、だろ」
「今さらお前無しなんて戻れねぇよ。俺一人じゃこいつの相手しきれねぇ」
「え、こっちでもえっち出来んの?」
「ほらこれだ」
「……待って下さい。体が無いってことは、体力無限ですよね。静汰、満足するんですか……?」
「……」
「…………」
「してみよ♡」
「すいません染井川、俺用事を思い出したので俺の中に戻ります」
「逃さねぇぞ、お前も一緒に枯れろ」
「なんだよ徹さん、もう病気の心配とかしなくていいから変態プレイし放題だぞ?」
「静汰、まずはそうだな」
「染井川! それ以上仕込むのは自分の首絞めるようなもんだって分かるでしょ!?」

 俺と徹さんと志摩宮と、三人で色ボケた会話をするのを、シマミヤと背の高い俺は呆れたように笑っていた。
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