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12 喜ぶ理由に自覚はない
しおりを挟む試合前とは打って変わって友好的になってくれた3人と違い、鹿花さんは厳しかった。
「守っておくっていったって限度があるわよ。せめて何するか先に言いなさいよねぇ。アンタが楽しそうにバズーカぶっぱしてる間、アタシが何人倒したか分かってる? あんなの毎回やるような後衛要らないわぁ。アンタの為にゲームしてるんじゃないのよ? いくら腕が良いって言ったって後衛は後衛、スナは所詮スナ。前衛がいるから芋ってられるの。前線で頑張る味方がいるから狙撃だけに集中出来るの。スナも出来る、ならまだしも、アンタはスナしか出来ないんでしょう? 前線に出張れないお荷物なんだから、味方に負担かけないなんて大前提条件なのよ、フツーは」
仁王立ちの鹿花さんに説教され、いつのまにか体育座りから正座になっていた。
「ただのチーム戦ならまだしも、今回は城戦の動きを確認する、っていう前提があったわけよね? アンタもそれを分かってた筈よね? チームコロシアムは初心者だっていうアンタの為に、もう言われなくても分かってる序盤の動きをアンタに教えてやる為だけに4人も時間割いてあげてるのよ? それなのに……」
「あー、なあ鹿姉、亀吉だって悪気があってやったんじゃねぇし」
「そうだよ。というか、ルーが言ったんじゃん。『一掃しちゃって』って」
「……あぁら。二人とも、今日は随分余裕そうな顔ねぇ?」
項垂れて耳に痛い正論を受け続けるしかない俺を見兼ねてオルテガさんとマシューさんが鹿花さんを宥めてくれようとしたのだけど、すると今度は矛先が彼らにも向いてしまった。
「オルテガ。アンタ、なんでわざわざ家の中のアイテムボックスを開けたの?」
「……んー?」
「どうせ初心者教習なんて面倒くさかったんでしょ。奇襲好きのアンタがまだ敵も透明化してる奇襲されやすい場所で奇襲を想定しないなんて有り得ないもの。さっさとプレイアウトしてサボろうとしたわね?」
鹿花さんにお見通しとばかりに鼻で笑われ、オルテガさんが笑顔のまま固まった。
「ぼ、僕は、今日はちゃんと……」
「マシュー、アンタさっき自分で言ってたわよね。『特攻』って。アンタが特攻って呼ぶ無謀な突っ込みを、アタシが毎週毎週どれだけ不必要な行為だったか順を追って教えてあげてるの、忘れちゃったのかしらぁ?」
「……」
「ほら。アンタたちもお座りなさい。反省は『自分がどうしてそうしたのか』を覚えてるうちにしか出来ないのよ。鳥頭のアンタたちは1戦ずつ教えてあげなきゃ次の試合でまた同じこと繰り返すんだから」
まったく世話が焼けるわぁ、と言いつつ指の骨をポキポキ鳴らす鹿花さんに促され、俺の両脇にオルテガさんとマシューさんが黙って腰を下ろす。
地球さんはいつの間にかティーセットを出して一人紅茶を楽しんでいて、ブラパは窓際で煙草をふかしていた。
止めようとする素振りの無さに、これはきっと普段からよくある光景なんだな、と察した。
前試合の行動を叱る鹿花さんと、叱られるオルテガさんとマシューさん。……と、俺。
結局説教は30分くらい続いた。
鹿花さんの説教はちょっと嫌味ったらしい言い方をするけれど内容自体は納得出来るもので、むしろだからこそオルテガさんとマシューさんも我慢しているみたいだった。
合間にちょこちょこ反論する二人を見ていれば、彼らの我が弱くないのは見てとれる。
俺みたいに無闇な行動ではなく、彼らには彼らなりの戦闘の美学というか、勝ち筋があるらしい。
鹿花さんはそれ自体を否定したり、しかしたまに肯定しながらももっと確率の高い勝ちを得る為に取るべき択があった、と教えていた。
俺への説教はとにかくチームワークの基本がなっていない、というところから始まり周りをもっと見て声を聞いてチームワークを乱すな地球さんを見習え、というところに着地した。
「鹿花。煙草切れたしそろそろ終われ」
まだまだ続きそう、どころかなんならもう一戦行っておきましょうかとでも言い出しそうな鹿花さんを止めてくれたのは、ブラパの生欠伸混じりのそんな声。
ようやく解放された俺は立ち上がろうとしてVRの中でも足が痺れることを初めて知って悶絶し、オルテガさんに爆笑され、何故かギラギラした目のマシューさんに足をつつかれて半泣きで這って逃げ回った。
「隆也?」
後ろから声を掛けられ、浮ついていた意識が現実に引き戻される。
「父さん。おかえり」
「まだ着いてないけど、ただいま。今日は遅かったんだな」
振り向いた先の歩道にいたのは紺のコート姿の父だった。
スタンドカラーをきっちり上まで立てた父は寒いのか両手をポケットに入れたまま早足で歩いてきて、俺の横に並んだ。
「今日は、ギルドに入って……遊んでたら、こんな時間に」
一瞬、叱られるかも、と淡い期待を抱いて言い訳がましく答えたが、父の返事は「そうか」という短いものだった。
父と現実で顔を合わせたのは久々で、それきり二人して黙って家路を歩く。
俺から話題を振りもしないし、父から振られもしない。
高校生までの俺なら、父はどんな話を喜ぶのか、どんな話を嫌がるのかと頭を悩ませ沈黙に苦しんでいただろう。
横目でそっと父の様子を窺う。
暗くてよく分からないが、こちらを気にする素振りが無いのだけは分かる。
父は、──いや、母も。
俺がどんな生活をしているか、聞いてこない。
興味無いから。
きっと俺が話せば聞いてくれるし、反応してくれる。
ただ彼らにとって、『俺が普段どう過ごしているか』は重要視されていないだけ。
重要なのは『健康に生きているかどうか』で、それがクリア出来ていなければどうにかしようと動いてくれるだろう。
祖父が亡くなった後の頃のように。
ただ、そうなるまでは基本的に放置だ。
この境遇を気楽で良いと割り切れるようになったのはいつ頃だったろう。
親からの過干渉を愚痴っていた同級生がいた高校時代?
それとも、親が専業主婦だから恋人を家に呼べないと嘆くのを食堂で聞いたつい最近?
……どっちにしろ、関係ない。どうでもいい。
そう。
人間関係に悩まないコツは、考えないこと。
誰にも深く踏み入らず、傷付けられても忘れてしまえば無かったことに出来る。
楽しかったこと以外、全部忘れてしまえばいい。
「ご飯、どうする?」
家に着いて鞄から鍵を出す父の背中に訊いた。
「食べてきた」
何を、とか。
お前はまだなのか、とか。
そんな些細な一言ですら付け加えられはしない。
ただいま、と暗い家に反射みたいに一人で呟いて、まっすぐ2階の自室へ向かった。
リュックサックを背負ったまま、硬いスプリングに低反発マットレスを置いた跳ねないベッドにうつ伏せで横たわり、目を閉じる。
「ブラパが入ろうが、防衛チームの司令塔はアタシよ」
脳裏に腰に手を当て胸を張る鹿花さんの姿が蘇る。
あの人のおかげで、今日のあの説教のおかげで、ギルド内での俺の『立ち位置』が決まった。
『ギルマスの連れてきた新規』じゃなく、『防衛チームに入ってきた初心者スナイパー』。
オルテガさん、マシューさんと一緒に『鹿花さんに叱られる側』。
そして『同じスナイパーとしての地球さんの後輩』。
とても良い位置を与えられた。
もう鹿花さん様様と言うしかない。
立ち位置の不安定な人間が群れの中でどういう扱いを受けるのか、高校時代に嫌というほど体験した。
目標ポイント達成までの短い間だとしても、ストレスが少なく済むのはとても有難いことだ。
肘が冷えて体が震えたので、リュックを降ろして掛け布団の中に潜り込んだ。
明日は今日録画したものを見返して復習しよう。
楽しいこと、嬉しいこと。
今日のそれで頭をいっぱいにしていないと、寒くて凍えそうな気がした。
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