【R18】無能王子の傀儡計画 怠惰に寵姫たちと暮らしたいだけです

白鷺雨月

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第四話 エドワード・グリン侯爵

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 エルクとの気持ちのいい訓練を終えた僕は一度自室に戻る。少し前に大教会の鐘が十二時を知らせていた。
 僕が自室に戻るとジルが着替えと昼食を用意してまっていた。ホテルのスイートルームほとの広さの自室がほこり一つないほど綺麗になっている。
 僕は汗と体液で汚れた服を脱ぎ捨てる。
 さっとそれをジルが拾い、綺麗にたたむ。
 本当はこんな偉そうなことはやりたくないのだけどこれが王族の振る舞いだということなのだ。一度たたんで返したら、赤い方の左目で睨まれた。あれ、怖いんだよな。鱗がない右側が超絶美形なだけに余計だ。
 手際よく服をたたんだジルは熱い湯をはった陶器の洗面器を持ってくる。タオルを濡らし、固く絞る。
 その熱いタオルで僕の身体の隅々まで拭いてくれる。まあこれが気持ちいいのなんのって。
 そしてさっぱりした僕に新しい服を着せる。
 僕がジルを専属メイドにしているのはこれらの身の回りの世話を他の人にやられたくないからだ。
 兄のシリウスなんかはお付きの人が常に十人近く居るらしい。
 そんな大勢に裸を見られるのは恥ずかしいよね。
 家臣の目を気にしないのが高貴は身分の振る舞いらしいが、前世の記憶を取り戻した僕には馴染まない。

 着替えをすませた僕はサンドイッチと紅茶という軽めのお昼をとる。サンドイッチは千年前の勇者ハヤトが広めたものだ。
 勇者ハヤトはいわば転移者だ。記憶を取り戻した僕にはそれがわかる。

 昼食を食べ終わったころ、まるで見計らったようにエドワード・グリン侯爵が僕の私室を訪れた。
「シオン殿下、グリン侯爵様が参られました」
 ジルがそう告げるので僕は部屋に通すように指示する。
「シオン殿下、ご機嫌麗しゅう」
 優雅に礼をするのがエドワード・グリン侯爵だ。僕の実母クラウディアの弟で、三十代前半の秀麗な顔立ちの男であった。もともとは貴族とは名ばかりの下級貴族であったが、姉のクラウディアがロバート王の後妻として迎えられたため、侯爵の爵位をあたえられたのだ。
 兄のシリウスの母親はエリザベスといった。シリウスを産んですぐにこの世を去ってしまった。僕と兄のシリウスは母親が違うのだ。

「伯父さん、そんなにかしこまらなくていいよ」
 僕は応接用のソファーに腰掛ける。
 エドワード伯父さんは一度頭をさげて、僕の向かいに座る。
 ジルが僕とエドワード伯父さんの前に紅茶のカップを置く。彼はジルの事がいないかのように一瞥すらしない。まあ、それが普通の貴族が使用人にする態度だ。相手が亜人ならなおさらだ。
 僕は当てつけのようにジルにありがとうと言う。
 ジルは一見すると無表情のように見えるが、赤い左目を僅かに細めていた。彼女とは長い付き合いなので分かる。それは喜んでいるのを我慢している表情だ。
 亜人に礼を言う僕をエドワード伯父さんは咎めたりはしない。僅かに眉をひそめるだけだ。

「それで伯父さん、今日は何のようなの?」
 僕と違い宮仕えをするエドワード伯父さんはそれなりに忙しい。その彼がわざわざ時間をとって僕に会いに来たのだ。理由というのがあるはずだ。

「シリウス殿下の立太子が決まりました。来月四月のシリウス殿下の誕生日に国内外に正式に発表されます」
 ふーん、ついに兄のシリウスが後継者に決まったのか。これで僕はよりいっそう政治に関わらなくてすむな。何せシリウスは自他ともに認める優秀な男だ。しかも長男なのだから、王太子になって当然だ。
「それは良かったじゃないか」
 僕は紅茶を一口すする。
 エドワード伯父さんは茶色の瞳で僕を見つめる。
 それは悔しくないのかと言っているように見える。僕はあえて無視する。
 政治、外交、軍事なんて面倒なのはシリウスに任せて、僕は女の子たちといちゃいちゃすることに専念したいんだよな。

「シリウス王子の立太子の儀と併せて婚約者であるエレノア公爵令嬢との結婚も正式に決定しました」
 エドワードは淡々と報告する。
 そんな渋い顔をしても僕は担ぎ上げられる神輿にはならないよ。
 エレノア・ハルトムート公爵令嬢は遡れば王族につながる家柄の出だ。そしてその父親マリウスは王国の宰相である。
 シリウスの基盤は盤石すぎるものと思われる。
「ふーんそれはおめでたいね。立太子のパーティーが楽しみだね。美味しい料理が出るといいな」
 僕はあえて間抜けなことを言う。
 女の子と料理にしか興味のないぼんくら無能王子。それが僕が目指す姿だ。
 権力なんかには興味はないし、欲しいとも思わない。僕は前世で果たせなかった可愛い女の子や美女たちとエッチなことしまくるという願いを叶えるだけだ。それにはバカ殿のほうが都合がいいと考える。
 女の子のお尻ばかり追いかける無能王子なら、誰も警戒しないだろう。
 他の仕事は嫌だけど王族を増やすという仕事だけはきっちりとするつもりだ。

 立太子の儀の詳しいスケジュールをエドワード伯父さんは僕に説明した後、苦々しい顔で部屋を去っていった。
 立太子の儀に参加する貴族たちの名簿にはエルディア王国の貴族だけではなく、他国の王侯貴族たちも招かれるようだ。
 そんな中で立太子の儀が行われるのだ。
 次の王はシリウスに決まったようなものだ。
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