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第二十八話 硬い手を忘れない④
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それにしても人間の成長というのは早い。
俺よりも小さかった恵美がもう小学生というのになった。
すっかり俺よりも大きくなったが中身はかなりの甘えん坊だ。よく俺に抱きつき、たまに夜も一緒に寝たりする。
恵美がせがむので俺も仕方なく一緒に寝てやっているのだ。けっして布団で寝るのが気持ちいいからではない。
大きくなった恵美と貴美と孝司で旅行にも行ったことがある。
広い原っぱで風を感じながら走るのは爽快な気分にさせてくれた。
恵美も一緒に走りまわり、疲れきった俺たちはまた一緒の布団で眠るのだった。
「二人とも気持ち良さそうに眠っているじゃないの」
うとうとしながら聞こえるのは貴美の声だ。
「そうだな。恵美がロンと仲良くなって本当によかったよ。ロンのやつすっかりお兄さんきどりだしな」
それは孝司の声だ。
俺たちが眠っているあいだ、二人はいろいろ話していた。
今度はどこにいくつもりだろうか。
俺は海でも山でもどっちでも大歓迎だけどな。
その日は孝司は仕事というやつで家にはいなかった。
俺は貴美と恵美の間にはさまって眠っていた。
けど、夜中に妙な気配を感じて俺は家の一番広い部屋に向かった。
そこには仕事というのにいっているはずの孝司が立っていた。
そしてその横には見覚えのある目の細い女が立っている。
こいつは前に俺が狭い鉄の檻に閉じ込められていたときにみたことがある。
「ありがとう細井瞳さん。最後に貴美と恵美の顔を見ることができたよ」
孝司は言った。
なんだ、なんだか孝司の様子がおかしい。
孝司の体からはにおいというものが一切しない。
「これぐらいはお安いご用よ。あなたは大切な人命を何人も救ったのだからきっと天国にいけるでしょう」
細井瞳と呼ばれた黒髪の女は胸のポケットから飴玉をとりだし、うまそうに舐めた。
俺はよくわからないが妙な胸騒ぎのようなものを感じて孝司にかけよった。
すると孝司は俺の好きなあの固い手で頬や背中、頭を撫でるのだった。
俺はそんな孝司の様子をじっと見ている。
「細井瞳さん、どうやらロンには僕たちが見えるようですね」
孝司は言った。
「そうね、動物の中には私たちを視認することができる者もいるのよ。それに彼は私たちの言葉も理解できるようね」
細井瞳はその大きな胸の前で腕を組みながら言った。
「そうなのですね。ならちょうどよかった。なあロン、おまえに頼みがあるんだ。貴美と恵美を守ってやってくれないか」
孝司、何を言っているんだ。
それはおまえの役目じゃないか。
おまえが貴美と恵美を守らないでどうするんだ。
孝司はまたあの固い手で俺の頭を撫でる。
「なあ、ロン。約束してくれないか」
嫌だ!!
そんなのは俺の仕事じゃない。
それは孝司、おまえがはたすべきことだろう。
「僕はもうそれができなくなったんだ。だからロン、おまえにまかせたい」
孝司は俺を抱きあげる。
しかし孝司からはもう人間のにおいはしない。
「さあ、そろそろいきましょう。孝司さん、あなたにはこの運命の輪のカードを渡しておくわ。またロン君に会うためにね」
細井瞳が孝司にカードを握らせる。
わかった、約束でもなんでもするからその女のいうことは聞くな、聞かないでくれ。
俺の心の中は不安という黒い気持ちでいっぱいになった。
その手に持ったカードは捨てるんだ。
「じゃあな、ロン。貴美と恵美のことはまかせたよ」
そう言い、孝司は細井瞳と一緒に背をむけて歩きだした。
おかしい、ここは部屋の中なのにあの二人のところだけ道のようなものがつながっていた。
駄目だ、孝司。
そいつと一緒に行ったらだめだ。
戻ってくるんだ。
戻って貴美と恵美と一緒にまた海や山に行こう。
近所の公園でもいい。
とにかく行ったら駄目だ。
俺は孝司のごつごつとした固い手が好きなんだ。
だからその女と一緒に行くんじゃない。
俺が必死に叫び、鳴き、吠えたが孝司は振り返らずついに見えなくなってしまった。
孝司と目の細い女の気配はこの部屋から失くなってしまった。
俺よりも小さかった恵美がもう小学生というのになった。
すっかり俺よりも大きくなったが中身はかなりの甘えん坊だ。よく俺に抱きつき、たまに夜も一緒に寝たりする。
恵美がせがむので俺も仕方なく一緒に寝てやっているのだ。けっして布団で寝るのが気持ちいいからではない。
大きくなった恵美と貴美と孝司で旅行にも行ったことがある。
広い原っぱで風を感じながら走るのは爽快な気分にさせてくれた。
恵美も一緒に走りまわり、疲れきった俺たちはまた一緒の布団で眠るのだった。
「二人とも気持ち良さそうに眠っているじゃないの」
うとうとしながら聞こえるのは貴美の声だ。
「そうだな。恵美がロンと仲良くなって本当によかったよ。ロンのやつすっかりお兄さんきどりだしな」
それは孝司の声だ。
俺たちが眠っているあいだ、二人はいろいろ話していた。
今度はどこにいくつもりだろうか。
俺は海でも山でもどっちでも大歓迎だけどな。
その日は孝司は仕事というやつで家にはいなかった。
俺は貴美と恵美の間にはさまって眠っていた。
けど、夜中に妙な気配を感じて俺は家の一番広い部屋に向かった。
そこには仕事というのにいっているはずの孝司が立っていた。
そしてその横には見覚えのある目の細い女が立っている。
こいつは前に俺が狭い鉄の檻に閉じ込められていたときにみたことがある。
「ありがとう細井瞳さん。最後に貴美と恵美の顔を見ることができたよ」
孝司は言った。
なんだ、なんだか孝司の様子がおかしい。
孝司の体からはにおいというものが一切しない。
「これぐらいはお安いご用よ。あなたは大切な人命を何人も救ったのだからきっと天国にいけるでしょう」
細井瞳と呼ばれた黒髪の女は胸のポケットから飴玉をとりだし、うまそうに舐めた。
俺はよくわからないが妙な胸騒ぎのようなものを感じて孝司にかけよった。
すると孝司は俺の好きなあの固い手で頬や背中、頭を撫でるのだった。
俺はそんな孝司の様子をじっと見ている。
「細井瞳さん、どうやらロンには僕たちが見えるようですね」
孝司は言った。
「そうね、動物の中には私たちを視認することができる者もいるのよ。それに彼は私たちの言葉も理解できるようね」
細井瞳はその大きな胸の前で腕を組みながら言った。
「そうなのですね。ならちょうどよかった。なあロン、おまえに頼みがあるんだ。貴美と恵美を守ってやってくれないか」
孝司、何を言っているんだ。
それはおまえの役目じゃないか。
おまえが貴美と恵美を守らないでどうするんだ。
孝司はまたあの固い手で俺の頭を撫でる。
「なあ、ロン。約束してくれないか」
嫌だ!!
そんなのは俺の仕事じゃない。
それは孝司、おまえがはたすべきことだろう。
「僕はもうそれができなくなったんだ。だからロン、おまえにまかせたい」
孝司は俺を抱きあげる。
しかし孝司からはもう人間のにおいはしない。
「さあ、そろそろいきましょう。孝司さん、あなたにはこの運命の輪のカードを渡しておくわ。またロン君に会うためにね」
細井瞳が孝司にカードを握らせる。
わかった、約束でもなんでもするからその女のいうことは聞くな、聞かないでくれ。
俺の心の中は不安という黒い気持ちでいっぱいになった。
その手に持ったカードは捨てるんだ。
「じゃあな、ロン。貴美と恵美のことはまかせたよ」
そう言い、孝司は細井瞳と一緒に背をむけて歩きだした。
おかしい、ここは部屋の中なのにあの二人のところだけ道のようなものがつながっていた。
駄目だ、孝司。
そいつと一緒に行ったらだめだ。
戻ってくるんだ。
戻って貴美と恵美と一緒にまた海や山に行こう。
近所の公園でもいい。
とにかく行ったら駄目だ。
俺は孝司のごつごつとした固い手が好きなんだ。
だからその女と一緒に行くんじゃない。
俺が必死に叫び、鳴き、吠えたが孝司は振り返らずついに見えなくなってしまった。
孝司と目の細い女の気配はこの部屋から失くなってしまった。
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