80 / 81
第八十話 取調室③
しおりを挟む
私が机の上に置いたタロットカードを早川はじっと見る。
「これは?」
早川は訊いた。
「その前に早川さん、約束してほしいことがあります」
私は小さく拳を握る。
私がこれから語ることはとうてい常識の範囲の外にあるからだ。
そんなことを言えばふざけるなと言われかねない。
だが、事実なのである。
ここまで来たら、私は嘘をつく気はこれっぽっちもない。
「分かりました。約束しましょう」
早川は静かに言った。
「まず、どこから話しましょうか。そうですね、このタロットカードは私の祖母目仁美の形見、遺産なのです」
私はミネラルウォーターを一口飲む。
早川はこくりと頷く。
相変わらず下日尾千帆はカタカタとキーボードを叩いている。どこかロボットめいている。
「祖母である目仁美はおそらく記録の上では行方不明になっていると思います。ですが本当は死んでいます。それはこの世界ではなく、別の私がいた世界で祖母は亡くなりました。その時に受け継いだのがこのタロットカードなのです」
私がそこまで言い、早川の様子を探る。
早川は明らかに訝しげな顔をしている。
ただ最初に約束したので、口を挟まないようにしているようだ。
私が言っているのは妄想といわれたらそれまでの事だ。だけど、私にとっては事実なのである。
私は一文字も嘘をついていない。
私は話を続けることにした。
「このタロットカードを使えば別の世界に行くことができるのです。祖母の能力がこのタロットカードには込められているのです。あっそうです、早川さん。昔、少年少女たちを誘拐し殺害した犯人を逮捕されましたね」
私がいうと早川は分かりやすいほどの驚いた顔をした。
「ええ、あります。私が交番勤務をしていたときです」
早川は一度天井を見て、思いだしたような口調で言う。
「実はあの時の犯人Aもタロットカードを持っていたのです。犯人Aは祖母が作ったこのタロットカードを盗み、そして犯行を行っていました。ちなみに犯人Aが持っていたのは吊るされた男です」
私が早川に微笑みかけると、彼は真剣な顔で頷いた。
「話を戻します。祖母のタロットカードは強い感情を持つものしか使えません。ですので母は使えませんでした。母は普通の人でした。普通の家にうまれていたらよかったのですが、運悪く目教なるカルト宗教の家に生まれました。祖母と違い母は何の能力も持ちませんでした。母は周囲の期待にこたえることは一切できませんでした。目教は祖母のカリスマと特殊能力で保たれていたのです。そして教団内で権力争いが起こりました。それはどこの組織も同じです。それを見て、祖母は嫌気がさし違う世界に行きました」
私はここまで言うと、一つ息を吐く。
早川は黙って話を聞いてくれている。
「祖母がいなくなり、教団内は跡目争いでますます混乱しました。誰も祖母のあとを継ぐほどの能力をもっていなかったのです。そしてその争いをしている幹部の一人があの西岡恒一だったのです」
私の言葉に早川は僅かに身を乗り出す。
ようやく本題に入ったのだ。
「たしかに西岡恒一は若いときに目《さがん》教に入信していたという記録がありますね」
早川は手帳をめくる。
どうやらこれで私の話と辻褄が合うと認めてくれたようだ。
「そうです、西岡恒一も強い精神力でこのタロットカードを使えたのです、彼が使ったのは魔術師のタロットカードです。そうそう、この世界での西岡恒一は実は別の世界の西岡恒一なのです」
私の言葉に早川ははいと言い、首をかしげる。
「早川さん、覚えていますか。私が殺人課ではなく捜査一課ではといったことを」
早川は頷く。
「はい、覚えています」
早川は言った。
「私がいた世界では殺人などの凶悪犯罪を扱うのは捜査一課というところです。この世界では殺人課となっているようですが……」
私が言うと早川は指でずれたメガネを直した。
「ちょっと待って下さい。それではあなたも違う世界から来たということですか?」
さすがは刑事だ。
話が早い。それに理解力が高い。
話がスムーズに進むのでありがたい。
「そうです、西岡恒一はこの世界の西岡恒一と入れ替わったのです。私と同じようにね」
私は言った。
早川は黙って私の話を聞こうとしてくれている。
私は話をつづける。
「西岡恒一は元の世界で私の母に暴行を働いたのです。すでに心神喪失状態にあった母は何をされたかわからなかったようです。母のお腹が大きくなり、ようやく周囲は気づきました。しかしその時には西岡恒一は行方不明になっていました。こちらの世界に逃げてきたのです」
私がここまで言うと早川はまさかと口をおさえた。
「刑事さん、そうですご想像の通りです。私の父親はその西岡恒一なのです」
私は自分の手のひらを見る。
じっとりと汗がにじんでいる。
この話を人にするのは初めてだ。
「私は十五歳のときにこの世界に来ました。ちょうどこの世界の白鷺月子はひどいいじめをうけてとある港から海に身を投げて自殺していました。私もこの世界の白鷺月子と入れ替わったのです。どうやらこの世界の白鷺月子はひどいいじめを受けていたようです。いじめはいけませんよね。そうして、入れ替わった私は母に暴行した西岡恒一を探しました。心神喪失状態の母を暴行した西岡恒一に鉄槌を下すためです。私に奴の血が流れていると思うと頭がおかしくなりそうでした。奴がいなくなればきっとこの気持ちは晴らされると考えたのです」
私は残り少ないミネラルウォーターを飲みほす。
なんだか微熱を帯びているような気がする。
私は自分の気持ちを初めて人に吐露し、若干興奮していた。
「私は計画しました。西岡恒一を殺すためです。自分がどうなっているのかも分からない母に暴行した卑怯者を殺す計画です。それは祖母を怪異として蘇らせることです。このタロットカードを使えば可能でした。私は母と違い祖母の不思議な力を受け継いでいたのです。怪異として発生させるためには他者の認知が必要なのです。私は細井瞳という祖母に似たキャラクターを創造し、ネットに広めました。徐々にですが細井瞳は認知されていきました。怪異として蘇った祖母こと細井瞳に西岡恒一を殺害してもらいました。厳密には細井瞳の友人になった真奈美という吸血鬼にです。真奈美も新しい体を手に入れたがっていました。真奈美は西岡恒一の娘の体を奪ったのです。事件現場には娘の首しかなかった。そうでしょう刑事さん」
私が言うと早川は額の汗を拭う。
「そ、そうです。娘は頭部しか残っていませんでした」
早川は言った。
「私は細井瞳という怪異に依頼して、母を暴行した西岡恒一を殺害しました。ですが、当初に言った通り怪異による犯行では、私を逮捕起訴できないですよね。それに私にはアリバイがあります。犯行日時、私は会社で残業をしていました。何人もの人が証人になってくれるでしょう」
私は立ち上がり、コートを着る。
取調室を出ようとする私を早川は止めない。
「もう遅いです。自宅までお送りしましょう」
今まで黙っていた下日尾千帆がノートパソコンを閉じて、そう言った。
「これは?」
早川は訊いた。
「その前に早川さん、約束してほしいことがあります」
私は小さく拳を握る。
私がこれから語ることはとうてい常識の範囲の外にあるからだ。
そんなことを言えばふざけるなと言われかねない。
だが、事実なのである。
ここまで来たら、私は嘘をつく気はこれっぽっちもない。
「分かりました。約束しましょう」
早川は静かに言った。
「まず、どこから話しましょうか。そうですね、このタロットカードは私の祖母目仁美の形見、遺産なのです」
私はミネラルウォーターを一口飲む。
早川はこくりと頷く。
相変わらず下日尾千帆はカタカタとキーボードを叩いている。どこかロボットめいている。
「祖母である目仁美はおそらく記録の上では行方不明になっていると思います。ですが本当は死んでいます。それはこの世界ではなく、別の私がいた世界で祖母は亡くなりました。その時に受け継いだのがこのタロットカードなのです」
私がそこまで言い、早川の様子を探る。
早川は明らかに訝しげな顔をしている。
ただ最初に約束したので、口を挟まないようにしているようだ。
私が言っているのは妄想といわれたらそれまでの事だ。だけど、私にとっては事実なのである。
私は一文字も嘘をついていない。
私は話を続けることにした。
「このタロットカードを使えば別の世界に行くことができるのです。祖母の能力がこのタロットカードには込められているのです。あっそうです、早川さん。昔、少年少女たちを誘拐し殺害した犯人を逮捕されましたね」
私がいうと早川は分かりやすいほどの驚いた顔をした。
「ええ、あります。私が交番勤務をしていたときです」
早川は一度天井を見て、思いだしたような口調で言う。
「実はあの時の犯人Aもタロットカードを持っていたのです。犯人Aは祖母が作ったこのタロットカードを盗み、そして犯行を行っていました。ちなみに犯人Aが持っていたのは吊るされた男です」
私が早川に微笑みかけると、彼は真剣な顔で頷いた。
「話を戻します。祖母のタロットカードは強い感情を持つものしか使えません。ですので母は使えませんでした。母は普通の人でした。普通の家にうまれていたらよかったのですが、運悪く目教なるカルト宗教の家に生まれました。祖母と違い母は何の能力も持ちませんでした。母は周囲の期待にこたえることは一切できませんでした。目教は祖母のカリスマと特殊能力で保たれていたのです。そして教団内で権力争いが起こりました。それはどこの組織も同じです。それを見て、祖母は嫌気がさし違う世界に行きました」
私はここまで言うと、一つ息を吐く。
早川は黙って話を聞いてくれている。
「祖母がいなくなり、教団内は跡目争いでますます混乱しました。誰も祖母のあとを継ぐほどの能力をもっていなかったのです。そしてその争いをしている幹部の一人があの西岡恒一だったのです」
私の言葉に早川は僅かに身を乗り出す。
ようやく本題に入ったのだ。
「たしかに西岡恒一は若いときに目《さがん》教に入信していたという記録がありますね」
早川は手帳をめくる。
どうやらこれで私の話と辻褄が合うと認めてくれたようだ。
「そうです、西岡恒一も強い精神力でこのタロットカードを使えたのです、彼が使ったのは魔術師のタロットカードです。そうそう、この世界での西岡恒一は実は別の世界の西岡恒一なのです」
私の言葉に早川ははいと言い、首をかしげる。
「早川さん、覚えていますか。私が殺人課ではなく捜査一課ではといったことを」
早川は頷く。
「はい、覚えています」
早川は言った。
「私がいた世界では殺人などの凶悪犯罪を扱うのは捜査一課というところです。この世界では殺人課となっているようですが……」
私が言うと早川は指でずれたメガネを直した。
「ちょっと待って下さい。それではあなたも違う世界から来たということですか?」
さすがは刑事だ。
話が早い。それに理解力が高い。
話がスムーズに進むのでありがたい。
「そうです、西岡恒一はこの世界の西岡恒一と入れ替わったのです。私と同じようにね」
私は言った。
早川は黙って私の話を聞こうとしてくれている。
私は話をつづける。
「西岡恒一は元の世界で私の母に暴行を働いたのです。すでに心神喪失状態にあった母は何をされたかわからなかったようです。母のお腹が大きくなり、ようやく周囲は気づきました。しかしその時には西岡恒一は行方不明になっていました。こちらの世界に逃げてきたのです」
私がここまで言うと早川はまさかと口をおさえた。
「刑事さん、そうですご想像の通りです。私の父親はその西岡恒一なのです」
私は自分の手のひらを見る。
じっとりと汗がにじんでいる。
この話を人にするのは初めてだ。
「私は十五歳のときにこの世界に来ました。ちょうどこの世界の白鷺月子はひどいいじめをうけてとある港から海に身を投げて自殺していました。私もこの世界の白鷺月子と入れ替わったのです。どうやらこの世界の白鷺月子はひどいいじめを受けていたようです。いじめはいけませんよね。そうして、入れ替わった私は母に暴行した西岡恒一を探しました。心神喪失状態の母を暴行した西岡恒一に鉄槌を下すためです。私に奴の血が流れていると思うと頭がおかしくなりそうでした。奴がいなくなればきっとこの気持ちは晴らされると考えたのです」
私は残り少ないミネラルウォーターを飲みほす。
なんだか微熱を帯びているような気がする。
私は自分の気持ちを初めて人に吐露し、若干興奮していた。
「私は計画しました。西岡恒一を殺すためです。自分がどうなっているのかも分からない母に暴行した卑怯者を殺す計画です。それは祖母を怪異として蘇らせることです。このタロットカードを使えば可能でした。私は母と違い祖母の不思議な力を受け継いでいたのです。怪異として発生させるためには他者の認知が必要なのです。私は細井瞳という祖母に似たキャラクターを創造し、ネットに広めました。徐々にですが細井瞳は認知されていきました。怪異として蘇った祖母こと細井瞳に西岡恒一を殺害してもらいました。厳密には細井瞳の友人になった真奈美という吸血鬼にです。真奈美も新しい体を手に入れたがっていました。真奈美は西岡恒一の娘の体を奪ったのです。事件現場には娘の首しかなかった。そうでしょう刑事さん」
私が言うと早川は額の汗を拭う。
「そ、そうです。娘は頭部しか残っていませんでした」
早川は言った。
「私は細井瞳という怪異に依頼して、母を暴行した西岡恒一を殺害しました。ですが、当初に言った通り怪異による犯行では、私を逮捕起訴できないですよね。それに私にはアリバイがあります。犯行日時、私は会社で残業をしていました。何人もの人が証人になってくれるでしょう」
私は立ち上がり、コートを着る。
取調室を出ようとする私を早川は止めない。
「もう遅いです。自宅までお送りしましょう」
今まで黙っていた下日尾千帆がノートパソコンを閉じて、そう言った。
0
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
もしかして寝てる間にざまぁしました?
ぴぴみ
ファンタジー
令嬢アリアは気が弱く、何をされても言い返せない。
内気な性格が邪魔をして本来の能力を活かせていなかった。
しかし、ある時から状況は一変する。彼女を馬鹿にし嘲笑っていた人間が怯えたように見てくるのだ。
私、寝てる間に何かしました?
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
復讐のための五つの方法
炭田おと
恋愛
皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。
それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。
グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。
72話で完結です。
母の下着 タンスと洗濯籠の秘密
MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。
颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。
物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。
しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。
センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。
これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。
どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる