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第一話 落第錬金術師のエリナは王都で黒騎士と出会う。
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エリナ・レイ・コカトリスは失意のただなかにあった。二年に一度の研究結果の発表をギルフォード魔法魔術学園で行い、落第の評価をもらってしまった。前回もエリナの評価は落第であった。二回連続で落第の評価をうけるとその者は学園に籍をおけなくなる。
エリナは今回の研究成果に魔術師生命をかけていた。
しかし、帰ってきたのは嘲笑と冷笑がいりまじったものであった。
「はあっ、今回の研究に全財産つぎこんだのに」
王都の大通りからはずれた裏道で、一人うずくまり、彼女は誰ともなくつぶやく。
薄暗い、じめじめとした路地裏だ。
そこに魔導書をつめこんだ革鞄の上にすわり、エリナは途方にくれていた。
彼女の財産はこの九冊の魔導書とコートのポケットにわずかに残った銅貨数枚のみだ。この銅貨を使えば、この日のパンは買える。しかし、それで終わりだ。明日から、エリナは食べるものを買うお金は文字通り一銭もなくなるのだ。
エリナは何度もため息をつく。
この魔導書を売れば、さらにわずかに生き延びることができるだろう。
しかし、その後どうする。
魔法魔術学園を追放されたエリナには行くあてはまったくない。
彼女は孤児だった。
彼女が育った孤児院はすでに存在しない。
どうやらヴァヴェル王国の政策でそのようになったという。
そう、エリナには帰るところはないのである。
帰るところもなければ、行くあてもないのが現在のエリナの状況であった。
「やっとみつけたぞ」
低い男の声がする。
エリナがその声の方向に視線をおくると、そこには見たこともない背の高い男が立っていた。
短い黒髪に精悍な顔立ち。身長はエリナよりも頭三つほど高いだろう。まあ、エリナは女性でも小柄な部類にはいるのだが。それでもその男はかなりの上背があると思われた。背中には大剣を背負い、漆黒の旅装をまとっていた。マントまで真っ黒であった。最初、エリナは闇が動いたと思った。それほどその男は黒につつまれていた。
「あんた、錬金術師のエリナ・レイ・コカトリスだろう。俺はグレイ。グレイ・シグルズ・ワイバーン。辺境の黒騎士なんて呼ぶ者もいる」
じっとエリナの顔を見つめながら、その漆黒の装いの男は言った。
瞳も黒いんだ。みつめられながら、エリナはそんなことをぼんやりと思った。
「そ、その黒騎士様が私になんのようなんですか?」
エリナは黒騎士の顔を見る。けっして美男子とは言えないが、頼りがいのある強い視線をその男はもっていた。グレイにみつめられながら、エリナはそう思った。
「エリナ・レイ・コカトリス。あんた、俺の嫁にならないか」
グレイは言い、そっとエリナの頬にふれる。
不思議だが、エリナはまったく嫌な気持ちにならなかった。むしろ、どこか安心感を覚えた。
「ちょっあなた、何いってるの」
しかし、その言葉の内容に正直エリナはあわてふためいた。
ついさっきまで途方にくれていたが、今はこの突然あらわれた黒騎士に求婚されている。
頭脳にはあるていどの自信があるエリナだったがこの自体に頭が完全においついていない。
「あんたメルクド人だろう。その緑の髪を見たらわかる。昔、おれの祖父がメルクド人に命をすくわれてな。子供のときから、結婚するならメルクド人の女ときめていたんだ。それに俺はあの学園で研究成果をかたっているおまえを見て、一目惚れしたんだ。聞けばいくあてもないのだろう。なら俺と結婚して、領地にきてくれないか」
グレイはそうかたる。
エリナはメルクド人とよばれる種族であった。人間よりも魔力が高く、魔術師や錬金術師になるものがおおい。その特徴は小柄で細身、深緑の髪、ややとがった耳であった。その容姿から森の精霊なんて呼ぶものもいる。明確には森の精霊とは別の種族であるが。
メルクド人は人間よりも魔力は高いが、森の精霊のように長命ではなかった。その寿命はほぼ人間と同じであった。
「そ、そんな。初めてあった人と結婚だなんて」
あまりに急なことにエリナはそういうのが精一杯であった。
「じゃあ心に決めた人でもいるのか?」
グレイはきく。
「いや、そんな人はいません」
エリナは小さな首を左右にふる。
ギルフォード魔法魔術学園に入学して以来、研究ばかりしていた。異性と交際はおろか知り合うひますらない生活であった。そんな私生活をすべてすててまで打ち込んだ研究がまったくといっていいほど評価されなかった。
エリナの心にはむなしい失望だけが残った。
「ならいいじゃないか。俺の領地にきたら食うにはこまらないぞ。それにもちろん寝るところも着替えも用意しよう。どうだ、今のあんたにとって破格の条件だと思うけどな」
にこりと白い歯をみせてグレイは微笑む。まったくもって憎めない笑みだ。おもわずエリナはみとれてしまう。それに食うにこまらないという言葉は魅力的であった。
それを証明するようにエリナのお腹はその存在を証明するようにぐうっと盛大な音をたてた。
お腹の虫の音を聞かれて、エリナはとがった耳の先まで真っ赤になった。
「はははっ体は正直じゃないか。そうだな、俺も腹が減ったことだし、飯でも食いにいこう」
グレイはそう言い、エリナの小さくて白い手をギュッと握った。
エリナは今回の研究成果に魔術師生命をかけていた。
しかし、帰ってきたのは嘲笑と冷笑がいりまじったものであった。
「はあっ、今回の研究に全財産つぎこんだのに」
王都の大通りからはずれた裏道で、一人うずくまり、彼女は誰ともなくつぶやく。
薄暗い、じめじめとした路地裏だ。
そこに魔導書をつめこんだ革鞄の上にすわり、エリナは途方にくれていた。
彼女の財産はこの九冊の魔導書とコートのポケットにわずかに残った銅貨数枚のみだ。この銅貨を使えば、この日のパンは買える。しかし、それで終わりだ。明日から、エリナは食べるものを買うお金は文字通り一銭もなくなるのだ。
エリナは何度もため息をつく。
この魔導書を売れば、さらにわずかに生き延びることができるだろう。
しかし、その後どうする。
魔法魔術学園を追放されたエリナには行くあてはまったくない。
彼女は孤児だった。
彼女が育った孤児院はすでに存在しない。
どうやらヴァヴェル王国の政策でそのようになったという。
そう、エリナには帰るところはないのである。
帰るところもなければ、行くあてもないのが現在のエリナの状況であった。
「やっとみつけたぞ」
低い男の声がする。
エリナがその声の方向に視線をおくると、そこには見たこともない背の高い男が立っていた。
短い黒髪に精悍な顔立ち。身長はエリナよりも頭三つほど高いだろう。まあ、エリナは女性でも小柄な部類にはいるのだが。それでもその男はかなりの上背があると思われた。背中には大剣を背負い、漆黒の旅装をまとっていた。マントまで真っ黒であった。最初、エリナは闇が動いたと思った。それほどその男は黒につつまれていた。
「あんた、錬金術師のエリナ・レイ・コカトリスだろう。俺はグレイ。グレイ・シグルズ・ワイバーン。辺境の黒騎士なんて呼ぶ者もいる」
じっとエリナの顔を見つめながら、その漆黒の装いの男は言った。
瞳も黒いんだ。みつめられながら、エリナはそんなことをぼんやりと思った。
「そ、その黒騎士様が私になんのようなんですか?」
エリナは黒騎士の顔を見る。けっして美男子とは言えないが、頼りがいのある強い視線をその男はもっていた。グレイにみつめられながら、エリナはそう思った。
「エリナ・レイ・コカトリス。あんた、俺の嫁にならないか」
グレイは言い、そっとエリナの頬にふれる。
不思議だが、エリナはまったく嫌な気持ちにならなかった。むしろ、どこか安心感を覚えた。
「ちょっあなた、何いってるの」
しかし、その言葉の内容に正直エリナはあわてふためいた。
ついさっきまで途方にくれていたが、今はこの突然あらわれた黒騎士に求婚されている。
頭脳にはあるていどの自信があるエリナだったがこの自体に頭が完全においついていない。
「あんたメルクド人だろう。その緑の髪を見たらわかる。昔、おれの祖父がメルクド人に命をすくわれてな。子供のときから、結婚するならメルクド人の女ときめていたんだ。それに俺はあの学園で研究成果をかたっているおまえを見て、一目惚れしたんだ。聞けばいくあてもないのだろう。なら俺と結婚して、領地にきてくれないか」
グレイはそうかたる。
エリナはメルクド人とよばれる種族であった。人間よりも魔力が高く、魔術師や錬金術師になるものがおおい。その特徴は小柄で細身、深緑の髪、ややとがった耳であった。その容姿から森の精霊なんて呼ぶものもいる。明確には森の精霊とは別の種族であるが。
メルクド人は人間よりも魔力は高いが、森の精霊のように長命ではなかった。その寿命はほぼ人間と同じであった。
「そ、そんな。初めてあった人と結婚だなんて」
あまりに急なことにエリナはそういうのが精一杯であった。
「じゃあ心に決めた人でもいるのか?」
グレイはきく。
「いや、そんな人はいません」
エリナは小さな首を左右にふる。
ギルフォード魔法魔術学園に入学して以来、研究ばかりしていた。異性と交際はおろか知り合うひますらない生活であった。そんな私生活をすべてすててまで打ち込んだ研究がまったくといっていいほど評価されなかった。
エリナの心にはむなしい失望だけが残った。
「ならいいじゃないか。俺の領地にきたら食うにはこまらないぞ。それにもちろん寝るところも着替えも用意しよう。どうだ、今のあんたにとって破格の条件だと思うけどな」
にこりと白い歯をみせてグレイは微笑む。まったくもって憎めない笑みだ。おもわずエリナはみとれてしまう。それに食うにこまらないという言葉は魅力的であった。
それを証明するようにエリナのお腹はその存在を証明するようにぐうっと盛大な音をたてた。
お腹の虫の音を聞かれて、エリナはとがった耳の先まで真っ赤になった。
「はははっ体は正直じゃないか。そうだな、俺も腹が減ったことだし、飯でも食いにいこう」
グレイはそう言い、エリナの小さくて白い手をギュッと握った。
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