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第2話 旅立ち
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「とりあえず、飯でも食うか?」
グレイの意見にエリナは反対する術を知らなかった。
「あの……私これしかもっていないんですけど」
エリナはてのひらに乗せた数枚の銅貨をグレイに見せる。
ご飯を食べるというグレイの意見に反対はしないが、彼女のもちあわせはわずかだ。
「あはっはつ。飯ぐらいおごらせてくれよ。あんたは俺の嫁さんになるんだからな」
気持ちのいい笑いをグレイは浮かべる。
「まだ、私はあなたと結婚するなんていってませんけど」
エレナは頬をふくらませる。
「まあ、飯をくいながらゆっくりはなそうじゃないか」
グレイはエリナの右手をぐっと握る。これも不思議なことだが、ついさっき会ったばかりの男だというのに嫌な気はまったくしない。それどころか、こうやって手を握られていると心が落ち着くのである。
「さあ、そいつも持ってやろう」
そう言い、グレイはあまった右手で魔導書のつまった鞄を軽々ともった。
グレイに手をひかれ、大通りのある酒場に入った。
夕刻にはまだ早い時間であったがけっこうな人でにぎわっていた。
その酒場の名は白兎亭といい、豊満な体をした女将さんがきりもりしていた。
「あんたら、ここいらじゃあ見ない顔だね」
女将はルイーザとなのり、グレイに注文をきいた。
「ああ、東のワイバーンからこの王都のバビロンにきたのさ」
グレイは言い、いくつか注文する。
「へえ、ワイバーンってこっから半月はかかるってところだろう。また遠くからきたんだね」
女将のルイーザは豊かな胸の前で腕を組み、関心する。
「ああっ、アレクの奴に剣術大会にさそわれてな」
アレクという名前を聞いて、ルイーザは目を大きく見開いた。
「それってもしかしてアレク王子のことかい」
「ああっあいつやたらえらそうだと思ったら王子だったらしいな」
グレイは言う。
世間にうといエリナでもアレク王子の名前は知っている。
このヴァヴェル王国の第二王子で剣聖の異名を持っている。
「アレク王子と引き分けた騎士がいたってきいたけど、もしかしてあんたなのかい」
「まあ、そうだな。剣術では引き分けたが、俺が得意なのは槍だからな。槍だったらまけなかったさ」
不遜な笑みをグレイは浮かべる。
やがてルイーザが料理を持ってきた。
鳥もも肉の香草焼きに豆と茸のスープ、分厚くきったベーコンをソテーしたものにライ麦パン。
エリナは眼の前の料理に思わずごくりと生唾をのみこんだ。
ルイーザはグレイの眼の前によく冷えたエール酒を置く。
「すまない、俺は酒はのめないんだ」
グレイはばつの悪そうな顔で言う。
「もしかしてこの酒はそっちの緑毛のお嬢ちゃんなのかい」
ルイーザはわかりやすい驚いた顔で酒を置きなおす。
グレイの前にはレモンをしぼった水が置かれた。
ルイーザが豊満な尻をふりながら、厨房にきえたあと、エリナはグレイの黒い瞳を見る。
「そんないかつい風貌で酒が飲めないんですね」
エリナは言い、鶏もも肉にかぶりつく。肉なんて食べるのはいつぶりだろうかと彼女は感慨深い気分となった。
「格好は関係ないだろう。飲めないものはしかたがないだろう」
豆と茸のスープを飲み、ライ麦パンをかじる。
「さっきいってましたけど王子様と知り合いなのですか?」
気になっていたことをエリナはきいた。
「まあ、一応友人ってやつだな。悪友っていったほうがいいかな」
豪快に笑い、グレイも鳥もも肉にかぶりつく。こいつは美味いなと付け足した。
「あいつの誘いでギルフォード魔法魔術学園を見学していたんだ。そこで俺は研究成果を講堂で発表しているあんたをみつけたんだ」
グレイは言う。
その言葉を聞き、エリナはうつむいた。あの講堂にあつまった教授と講師ら、生徒たちからの嘲笑と冷笑を思いだしたからだ。
「あのとき言っていた空気から肥料をつくるってのは本当にできるのか?」
真剣な眼差しでグレイはエリナを見つめる。
「ええできますよ。この世界の空気は色々なものがまじっているのです。その中から肥料に使える成分だけを選んで集めるのです。四大元素の風の魔法を使えばけっこう簡単なんです」
エリナはそこまで言うとごくごくとエールを喉に流し込んだ。
「それってすごいじゃないか。ということは荒れ地なんかを農地にできるってことだろう」
感心した様子でグレイは言う。
「ええそうです。農作物の収穫量はおおはばにあがるでしょうね。私の理論を採用してくれる人がいればの話ですけど……」
そこでエレナは魔法魔術学園のルキフグス教授の顔を思い出した。そんなものが真理に到達するためになんの役にたつのだというのだ。この学園の創立目的は人間を進化させ、神に一歩でも近づくことである。農作物が多少ふえたからといって、それが人の進歩にいったいどれほど貢献できるというのだ。
人を見下したルキフグス教授の顔がエリナの頭から離れない。
「なら、俺の領地で実践してくれ。あんたの魔術に必要なものは俺が用意する。あんたの実力を俺の村で発揮してくれ」
黒い髪の頭を下げ、グレイは頼み込む。
男の人が頭を下げて、頼むなんてエリナには信じられなかった。辺境に住んでいるとはいえ、貴族であろう眼の前の男が頭を下げてたのんでいる。一介のしかも落第追放された魔術師の女にである。
頬に手をあて、エリナは考える。
どのみち行くところもないのだし、この男のいうことをきいてもいいのではないか。
会ってそんなに時間はたっていないが、このグレイという男は裏表のない性格をしている気がする。
もし、見誤ったらそれは自分の見る目がなかっただけだ。
「わかったわ。あなたの領地にいくわ」
エリナのその言葉を聞き、グレイは満面の笑みで彼女に抱きつき、両脇をかかえてだきあげた。
「ちょっちょっとやめてください。恥ずかしいじゃないですか」
とがった耳の先まで赤くして、エリナは抵抗したがそれは無駄であった。
グレイの意見にエリナは反対する術を知らなかった。
「あの……私これしかもっていないんですけど」
エリナはてのひらに乗せた数枚の銅貨をグレイに見せる。
ご飯を食べるというグレイの意見に反対はしないが、彼女のもちあわせはわずかだ。
「あはっはつ。飯ぐらいおごらせてくれよ。あんたは俺の嫁さんになるんだからな」
気持ちのいい笑いをグレイは浮かべる。
「まだ、私はあなたと結婚するなんていってませんけど」
エレナは頬をふくらませる。
「まあ、飯をくいながらゆっくりはなそうじゃないか」
グレイはエリナの右手をぐっと握る。これも不思議なことだが、ついさっき会ったばかりの男だというのに嫌な気はまったくしない。それどころか、こうやって手を握られていると心が落ち着くのである。
「さあ、そいつも持ってやろう」
そう言い、グレイはあまった右手で魔導書のつまった鞄を軽々ともった。
グレイに手をひかれ、大通りのある酒場に入った。
夕刻にはまだ早い時間であったがけっこうな人でにぎわっていた。
その酒場の名は白兎亭といい、豊満な体をした女将さんがきりもりしていた。
「あんたら、ここいらじゃあ見ない顔だね」
女将はルイーザとなのり、グレイに注文をきいた。
「ああ、東のワイバーンからこの王都のバビロンにきたのさ」
グレイは言い、いくつか注文する。
「へえ、ワイバーンってこっから半月はかかるってところだろう。また遠くからきたんだね」
女将のルイーザは豊かな胸の前で腕を組み、関心する。
「ああっ、アレクの奴に剣術大会にさそわれてな」
アレクという名前を聞いて、ルイーザは目を大きく見開いた。
「それってもしかしてアレク王子のことかい」
「ああっあいつやたらえらそうだと思ったら王子だったらしいな」
グレイは言う。
世間にうといエリナでもアレク王子の名前は知っている。
このヴァヴェル王国の第二王子で剣聖の異名を持っている。
「アレク王子と引き分けた騎士がいたってきいたけど、もしかしてあんたなのかい」
「まあ、そうだな。剣術では引き分けたが、俺が得意なのは槍だからな。槍だったらまけなかったさ」
不遜な笑みをグレイは浮かべる。
やがてルイーザが料理を持ってきた。
鳥もも肉の香草焼きに豆と茸のスープ、分厚くきったベーコンをソテーしたものにライ麦パン。
エリナは眼の前の料理に思わずごくりと生唾をのみこんだ。
ルイーザはグレイの眼の前によく冷えたエール酒を置く。
「すまない、俺は酒はのめないんだ」
グレイはばつの悪そうな顔で言う。
「もしかしてこの酒はそっちの緑毛のお嬢ちゃんなのかい」
ルイーザはわかりやすい驚いた顔で酒を置きなおす。
グレイの前にはレモンをしぼった水が置かれた。
ルイーザが豊満な尻をふりながら、厨房にきえたあと、エリナはグレイの黒い瞳を見る。
「そんないかつい風貌で酒が飲めないんですね」
エリナは言い、鶏もも肉にかぶりつく。肉なんて食べるのはいつぶりだろうかと彼女は感慨深い気分となった。
「格好は関係ないだろう。飲めないものはしかたがないだろう」
豆と茸のスープを飲み、ライ麦パンをかじる。
「さっきいってましたけど王子様と知り合いなのですか?」
気になっていたことをエリナはきいた。
「まあ、一応友人ってやつだな。悪友っていったほうがいいかな」
豪快に笑い、グレイも鳥もも肉にかぶりつく。こいつは美味いなと付け足した。
「あいつの誘いでギルフォード魔法魔術学園を見学していたんだ。そこで俺は研究成果を講堂で発表しているあんたをみつけたんだ」
グレイは言う。
その言葉を聞き、エリナはうつむいた。あの講堂にあつまった教授と講師ら、生徒たちからの嘲笑と冷笑を思いだしたからだ。
「あのとき言っていた空気から肥料をつくるってのは本当にできるのか?」
真剣な眼差しでグレイはエリナを見つめる。
「ええできますよ。この世界の空気は色々なものがまじっているのです。その中から肥料に使える成分だけを選んで集めるのです。四大元素の風の魔法を使えばけっこう簡単なんです」
エリナはそこまで言うとごくごくとエールを喉に流し込んだ。
「それってすごいじゃないか。ということは荒れ地なんかを農地にできるってことだろう」
感心した様子でグレイは言う。
「ええそうです。農作物の収穫量はおおはばにあがるでしょうね。私の理論を採用してくれる人がいればの話ですけど……」
そこでエレナは魔法魔術学園のルキフグス教授の顔を思い出した。そんなものが真理に到達するためになんの役にたつのだというのだ。この学園の創立目的は人間を進化させ、神に一歩でも近づくことである。農作物が多少ふえたからといって、それが人の進歩にいったいどれほど貢献できるというのだ。
人を見下したルキフグス教授の顔がエリナの頭から離れない。
「なら、俺の領地で実践してくれ。あんたの魔術に必要なものは俺が用意する。あんたの実力を俺の村で発揮してくれ」
黒い髪の頭を下げ、グレイは頼み込む。
男の人が頭を下げて、頼むなんてエリナには信じられなかった。辺境に住んでいるとはいえ、貴族であろう眼の前の男が頭を下げてたのんでいる。一介のしかも落第追放された魔術師の女にである。
頬に手をあて、エリナは考える。
どのみち行くところもないのだし、この男のいうことをきいてもいいのではないか。
会ってそんなに時間はたっていないが、このグレイという男は裏表のない性格をしている気がする。
もし、見誤ったらそれは自分の見る目がなかっただけだ。
「わかったわ。あなたの領地にいくわ」
エリナのその言葉を聞き、グレイは満面の笑みで彼女に抱きつき、両脇をかかえてだきあげた。
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