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第二十一話 円卓会議

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円卓にサーシャとザンザが料理を並べていく。
窓から外を見ると日が暮れようとしていた。
コンウィ城は戦場に近いので、豪華とは言えないものの、けっこうな量の料理が並べられた。
厚切りのベーコン、芋のサラダ、野菜のキッシュに黒パンが円卓に並ぶ。
リリィが僕のために料理を取り分けてくれた。
僕はお酒はあまり強くないので、二杯目からは果汁を絞った水を飲むことにした。
オレンジのような果物をリリィが絞ってくれる。
金髪美少女にかいがいしく世話を焼かれるのは、気持ちいいものだ。
まあリリィは美少女のような見た目だけど、実際は年上なんだよね。
コンプライアンスは安心だ。

皆、お腹が空いていたのか、最初は無心に料理に夢中になっている。
ある程度食べて落ち着いたので、リリィが口を開いた。
「アーサー様、私どもは現在ガヴェイン子爵と交戦中なのです。何故、彼女らと戦わないといけないか、お話してもよろしいですか?」
リリィが言った。
ナプキンで汚れた僕の口をふいてくれる。
「あっずるい」
それを見て、アルタイルは羨ましそうに言った。
リリィは勝ち誇った顔で僕の口を拭いたナプキンをなめていた。
クロネはニヤニヤしていて、シーアは我関せずといった様子でベーコンを口に運んでいる。

「領土争いじゃないの?」
僕はそう言った。
僕たちが聞かされた情報ではガラハット辺境伯とガヴェイン子爵は領土の境界線で揉めているとのことだった。

リリィは小さい顔を左右にふる。
金髪ロールツインテールがふりふりと揺れるのがかわいい。

「それは表向きの理由です。本当の理由は聖杯教会からの密命を受けたからなのです」
リリィは言い、ワインをぐびりと飲む。
未成年が飲酒しているような背徳感があるが、リリィは二十四歳なので心配いらない。
ロリータファッションで良くわからなくなっているが胸もHカップはありそうなのだ。

「密命とは?」
僕はリリィにその内容を尋ねる。
また聖杯教会か。

「それはガヴェイン子爵が教会の教えに反したものをかくまっている故、討伐するようにというものです」
リリィが言った。
その顔はどこか悲しげだ。

「そんな理由が……」
料理を食べる手を止めて、シーアが言った。
シーアの友人も教会にひどい目にあったと言っていたから、きっと思うところがあるのだろう。

「私とガヴェイン子爵はもともと友人でした。しかし、教会の命令には逆らえませんでした……」
そこで言葉を区切り、リリィは握りしめた拳をみつめる。

「ならお兄ちゃんがいるなら、もう教会の言うことを聞く必要なんてないじゃん。もと友人っていうなら仲直りする良い機会じゃない」
ワインを飲んで顔を赤くしてクロネが言った。
また飲み過ぎないように注意しないとね。

「そうです。アーサー様がこられたおかげて私は教会と袂をわかつ決心が出来ました。なのでガヴェイン子爵と戦う理由はなくなったのです」
リリィは微笑む。
そうだよ、女の子は笑顔に限るね。
こんなにかわいいリリィに暗い顔をさせる聖杯教会は許せないな。

「しかし、すでにお互い多くの兵を死なせてしまっている」
そう言うのはアルタイルであった。
アルタイルの言う通り、もと親友同士なのに戦争のため、関係がこじれにこじれているのだろう。

「わかった。僕がそのガヴェイン子爵と直接交渉するよ」
僕はリリィにそう約束した。

リリィ・ガラハットからの依頼クエストを許諾しました。
依頼クエストはガヴェイン子爵との休戦です。
視界に文字が並ぶ。新しいクエストだな。これは頑張ってクリアしないとね。
できればそのガヴェイン子爵も味方にしたい。
僕の無敵の計画では敵を作るよりも味方を作ることに重点を置いている。

「ありがとうございます、アーサー様……」
リリィの瞳にキラキラと涙が浮かぶ。
それは嬉しさのためだと思いたい。

翌日、僕たちはそのガヴェイン子爵と対話するために彼女の領内に向かうことになった。
ゲリラ戦を得意とするガヴェイン子爵はその領土内に潜み、どこにいるかわからないという。
まずはガヴェイン子爵の居どころをつかまないといけない。その領土は辺境伯領よりは狭いとはいえ、人間一人をさがしだすのは至難の技だ。
それにガヴェイン子爵側は僕たちがもう敵対心がないことを知らない。
いわばまだ敵地ということなのだ。
これはかなり危険なクエストになりそうだ。


英気を養うために夕食のあと、僕たちはそれぞれ与えられた部屋で休むことにした。
旅の疲れと昼間にリリィとたっぷりと愛しあった疲労が重なって、僕はすぐに眠りについた。
「お兄ちゃん、今日は一緒に寝よう」
僕が寝ているとクロネがベッドに潜り混んできた。
「今日はエッチなことできないけどいいかい?」
明日は厳しい戦いが待っているかも知れない。ここは疲労を回復することを優先させなくてはいけない。
「いいよいいよ、猫は一緒に眠るのも好きなんだよ」
ニャーと言い、クロネは僕に抱きつき、スースーと寝息をたてだした。
僕はエッチなことは大好きだけど、こういうのもたまにはいいかも知れないと思うようになった。
それにしても仲間がけっこう増えたな。
でも円卓にはまだまだ空席がある。
まだ見ぬ美女たちはどんなのだろうかと想像する楽しみがあるな。
そんな妄想に耽っていると僕は睡魔に負け、クロネを抱きしめて眠ってしまった。

「アーサー様……」
ドアの向こうから僕の名前を呼ぶ声がしたような気がした。その声はシーアだったような気がする。


翌朝、僕たちはガヴェイン領に向けて出発することになった。
メンバーは僕にクロネ、アルタイル、リリィ、シーアの五名であった。あまり大人数でいくと相手に戦いにきたと思われかねない。
少数精鋭でいこうと思う。
今回の目的はあくまでも話し合いだからね。
僕はオリオンにまたがる。その背中にクロネが乗る。
アルタイル、リリィ、シーアもそれぞれの馬にまたがる。
四匹の馬はコンウィ城を出て、ガヴェイン領に向けて駆け出した。
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