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第二十三話 転生者
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僕はまじまじとユリコ・ガヴェインの端正な顔を見る。
やはり間違いない、あの動物病院の受け付けのお姉さんだ。
「受け付けの人……」
思わず呟いてしまう。
くいくいっとクロネが僕の袖を引っ張る。
「間違いないよ、あの人お兄ちゃんが思っている通りの人だよ」
うんうんとクロネも頷く。
「なんだ、私の顔をじろじろ見て。私の美貌に見とれているのかね」
ふふっとユリコは微笑する。
確かに彼女の言う通り、見とれるほどの美貌をしている。
しかし、僕が見とれる理由は別だ。
「あの、おかしなことを訊くかもしれませんが、ユリコさんは動物病院で働いていましたか?」
これはアヴァロン王国の住人にしたら、おかしな質問だ。
げんにリリィなんかはきょとんとしている。
まわりの皆も不思議そうに僕を見ている。
僕が質問を投げかけるとユリコだけは真剣な顔になった。
「確かに私は前世で若いときにとある動物病院で働いていた……」
言葉を選びながら、ユリコは言った。
ユリコの言葉にはとある情報が込められている。
彼女は前世といった。
すなわちユリコ・ガヴェインは前世の記憶をもったままこのアヴァロン王国に転生した者だということだ。
「あなたは転生者なのですか?」
僕は問う。
ユリコはその問いに頷いて肯定した。
「君も転生者なのか? 前世で私と会ったことがあるのか?」
ユリコは質問攻めをする。
「そういう意味では僕は転移者といったほうがいいでしょうね。あの動物病院で僕は助けた黒猫を連れていったのです。そのときの受け付けの人があなたそっくりだったのです」
僕は包み隠さず言った。
「懐かしいな。そうだよ、思いだした。確かに私は若いときにあの動物病院で働いていた。この異世界でまさか前世で私をしっているものにであえるとは……」
ユリコは言った。
少しだけユリコは思案し、口を開く。
「リリィ、君とは休戦しよう。男性を連れてここに少人数できたということは、聖杯教会と手を切ろうということだろう。それなら、私たちは争う理由はない」
ユリコは右手をリリィに差し出す。
その手を力強くリリィは握る。
「それではまた友になってくれるのか」
リリィがユリコに訊く。
「ああ、もちろんだリリィ」
ユリコは言った。
「ライ、リン、ルウ、ノア、ネオ。リリィたちを砦に案内しな。これから宴だよ」
ユリコがノアたち五人にそう命令する。
五人の少女たちは、はいっと気持ちのいい返事をし、僕たちを砦の中に案内してくれた。
「アーサー、あんたとはいろいろ話したいことがある。ちょうど夕飯どきだ、ご飯でも食べながら話し合おう」
そのユリコの意見には賛成だ。
夕刻になり、お腹が空いていたんだよね。
ノアは僕の手を引き、砦の中に引き入れた。
僕たちが通されたのは砦の二階にある大広間であった。
中央に大きなテーブルが置かれている。ノアたちが僕たちの分の椅子を用意してくれた。
さらにテーブルにノアたちが料理を次々と置いていく。
メニューは干し肉のシチューにふかし芋、チーズに黒パンであった。
さらにワインやエール酒も振る舞われた。
僕が酒が強くないというと炭酸水を用意してくれた。ノアが嬉々としてレモンの果汁を絞り入れる。それを見て、リリィとアルタイルが悔しそうな顔をしていた。
「ユリコさん、あなたは若いときにあの動物病院で働いていたと言いましたが、何歳まで生きてこのアヴァロンに転生したのですか?」
失礼なことだと思ったが、気になったので訊いてみた。
「わたしは八十六歳まで生きたんだ。寿命で死ぬかと思ったが戦争で死んでしまったんだ」
ユリコは言い、チーズをかじり、ワインで流し込む。
ユリコの言葉は衝撃的だった。
僕が前にいた世界の未来には戦争が待ち受けていたのだ。
「第三次世界大戦なんて言う人もいたよ。世界は北と南に別れて、終末戦争を起こしてしまったんだよ。それで爆風に巻き込まれて死んだと思ったら、このアヴァロンで赤ん坊に生まれかわっていたのさ」
ユリコはさらっと凄まじいことを言う。
「本当だとしたらユリコ、あなた凄まじい過去があったのね」
リリィは木のジョッキになみなみと注がれたエール酒を一気に飲み干す。
「あんたはどうやってこっちに来たんだい?」
ユリコは訊く。
僕はクロネを助けて魔女ジャックにこの世界におくってもらったと簡単に説明した。
「あんた、望んでこのアヴァロンの来たのか?」
明らかに驚いた顔をユリコはする。
「我が君は我らを救うためにこの世界にこられたのですね」
何故か感動してアルタイルは涙まで流している。
「アーサー様、なんとあなたは望んで私を花嫁にするために世界を越えてきたのですね」
リリィが目をキラキラさせていた。
「たしかにこのアヴァロンは女しかいない世界だ。百年前にこの世をさったウーサー以来この国には男はあらわれていない。君は百年ぶりにあらわれた男なのだよ」
ユリコは言った。
「前の世界で誰かが言ったが女だけになったらこの世は平和になると。だけど私はこのアヴァロンが決して平和だとは想えないけどね」
ユリコは干し肉をかじる。
「そんなのはまやかしだニャー」
酔っ払ったクロネがそう言った。
たしかにクロネの言う通り女だけのこのアヴァロンはけっして平和な理想郷とは言いがたい。
「それで朝倉君、いやアーサー。あんたはこの世界で何をのぞむんだ?」
酒で顔を赤くしたユリコが訊いた。
そんなのもちろん答えは決まっている。
そのために女の子だけのこのアヴァロン王国にやって来たんだから。
「決まっているじゃないか。僕はこの国の王になって、国民全員を彼女にするんだ」
僕は言った。
僕の言葉を聞いて、ユリコはゲラゲラと笑いだした。
「馬鹿だ。ここに大馬鹿野郎がいるよ。でも、気に入った。むちゃくちゃだけど、アーサー、あんを気に入ったよ」
笑いながらユリコは僕の唇に自分の唇を重ねた。
ユリコの唇はアルコールの味がした。
やはり間違いない、あの動物病院の受け付けのお姉さんだ。
「受け付けの人……」
思わず呟いてしまう。
くいくいっとクロネが僕の袖を引っ張る。
「間違いないよ、あの人お兄ちゃんが思っている通りの人だよ」
うんうんとクロネも頷く。
「なんだ、私の顔をじろじろ見て。私の美貌に見とれているのかね」
ふふっとユリコは微笑する。
確かに彼女の言う通り、見とれるほどの美貌をしている。
しかし、僕が見とれる理由は別だ。
「あの、おかしなことを訊くかもしれませんが、ユリコさんは動物病院で働いていましたか?」
これはアヴァロン王国の住人にしたら、おかしな質問だ。
げんにリリィなんかはきょとんとしている。
まわりの皆も不思議そうに僕を見ている。
僕が質問を投げかけるとユリコだけは真剣な顔になった。
「確かに私は前世で若いときにとある動物病院で働いていた……」
言葉を選びながら、ユリコは言った。
ユリコの言葉にはとある情報が込められている。
彼女は前世といった。
すなわちユリコ・ガヴェインは前世の記憶をもったままこのアヴァロン王国に転生した者だということだ。
「あなたは転生者なのですか?」
僕は問う。
ユリコはその問いに頷いて肯定した。
「君も転生者なのか? 前世で私と会ったことがあるのか?」
ユリコは質問攻めをする。
「そういう意味では僕は転移者といったほうがいいでしょうね。あの動物病院で僕は助けた黒猫を連れていったのです。そのときの受け付けの人があなたそっくりだったのです」
僕は包み隠さず言った。
「懐かしいな。そうだよ、思いだした。確かに私は若いときにあの動物病院で働いていた。この異世界でまさか前世で私をしっているものにであえるとは……」
ユリコは言った。
少しだけユリコは思案し、口を開く。
「リリィ、君とは休戦しよう。男性を連れてここに少人数できたということは、聖杯教会と手を切ろうということだろう。それなら、私たちは争う理由はない」
ユリコは右手をリリィに差し出す。
その手を力強くリリィは握る。
「それではまた友になってくれるのか」
リリィがユリコに訊く。
「ああ、もちろんだリリィ」
ユリコは言った。
「ライ、リン、ルウ、ノア、ネオ。リリィたちを砦に案内しな。これから宴だよ」
ユリコがノアたち五人にそう命令する。
五人の少女たちは、はいっと気持ちのいい返事をし、僕たちを砦の中に案内してくれた。
「アーサー、あんたとはいろいろ話したいことがある。ちょうど夕飯どきだ、ご飯でも食べながら話し合おう」
そのユリコの意見には賛成だ。
夕刻になり、お腹が空いていたんだよね。
ノアは僕の手を引き、砦の中に引き入れた。
僕たちが通されたのは砦の二階にある大広間であった。
中央に大きなテーブルが置かれている。ノアたちが僕たちの分の椅子を用意してくれた。
さらにテーブルにノアたちが料理を次々と置いていく。
メニューは干し肉のシチューにふかし芋、チーズに黒パンであった。
さらにワインやエール酒も振る舞われた。
僕が酒が強くないというと炭酸水を用意してくれた。ノアが嬉々としてレモンの果汁を絞り入れる。それを見て、リリィとアルタイルが悔しそうな顔をしていた。
「ユリコさん、あなたは若いときにあの動物病院で働いていたと言いましたが、何歳まで生きてこのアヴァロンに転生したのですか?」
失礼なことだと思ったが、気になったので訊いてみた。
「わたしは八十六歳まで生きたんだ。寿命で死ぬかと思ったが戦争で死んでしまったんだ」
ユリコは言い、チーズをかじり、ワインで流し込む。
ユリコの言葉は衝撃的だった。
僕が前にいた世界の未来には戦争が待ち受けていたのだ。
「第三次世界大戦なんて言う人もいたよ。世界は北と南に別れて、終末戦争を起こしてしまったんだよ。それで爆風に巻き込まれて死んだと思ったら、このアヴァロンで赤ん坊に生まれかわっていたのさ」
ユリコはさらっと凄まじいことを言う。
「本当だとしたらユリコ、あなた凄まじい過去があったのね」
リリィは木のジョッキになみなみと注がれたエール酒を一気に飲み干す。
「あんたはどうやってこっちに来たんだい?」
ユリコは訊く。
僕はクロネを助けて魔女ジャックにこの世界におくってもらったと簡単に説明した。
「あんた、望んでこのアヴァロンの来たのか?」
明らかに驚いた顔をユリコはする。
「我が君は我らを救うためにこの世界にこられたのですね」
何故か感動してアルタイルは涙まで流している。
「アーサー様、なんとあなたは望んで私を花嫁にするために世界を越えてきたのですね」
リリィが目をキラキラさせていた。
「たしかにこのアヴァロンは女しかいない世界だ。百年前にこの世をさったウーサー以来この国には男はあらわれていない。君は百年ぶりにあらわれた男なのだよ」
ユリコは言った。
「前の世界で誰かが言ったが女だけになったらこの世は平和になると。だけど私はこのアヴァロンが決して平和だとは想えないけどね」
ユリコは干し肉をかじる。
「そんなのはまやかしだニャー」
酔っ払ったクロネがそう言った。
たしかにクロネの言う通り女だけのこのアヴァロンはけっして平和な理想郷とは言いがたい。
「それで朝倉君、いやアーサー。あんたはこの世界で何をのぞむんだ?」
酒で顔を赤くしたユリコが訊いた。
そんなのもちろん答えは決まっている。
そのために女の子だけのこのアヴァロン王国にやって来たんだから。
「決まっているじゃないか。僕はこの国の王になって、国民全員を彼女にするんだ」
僕は言った。
僕の言葉を聞いて、ユリコはゲラゲラと笑いだした。
「馬鹿だ。ここに大馬鹿野郎がいるよ。でも、気に入った。むちゃくちゃだけど、アーサー、あんを気に入ったよ」
笑いながらユリコは僕の唇に自分の唇を重ねた。
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