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第四十六話 旅の錬金術師
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マリアガンヌの股間から這い出たものは、この世のおぞましさを集めて作られたもののように見えた。
クロネが思わず口をおさえる。
どんなに空腹であっても吐き気をもよおすような気味悪さであった。
その黒い芋虫のようなそれは体を左右に揺らしながら、マリアガンヌの体から出ていく。
メリメリと肉が裂ける音がした。
「ぐっ……うわぁっ……」
マリアガンヌは耳をおおいたくなるような悲鳴をあげて、気絶した。
「なんだこれは……」
アヤメが秀麗な顔にしわをよせて言った。
僕にもこれが何者かまったくわからない。
その黒い気味の悪い芋虫の全長は一メートルほどに思えた。ムカデのような足で床を歩く。
僕はエクスカリバーの柄に手をかける。
これは直感だけど、こいつは生かしておいてはいけない。
「産まれてきたものをすぐに殺すのか?」
それはそいつから発せられた声だった。
頭の中に響いているから念話のようだ。
クロネとギネビアが僕の腕に抱きつく。
二人の美女に抱きつかれて嬉しいはずだが、今はそんな心の余裕はない。
僕は思わず手をとめてしまった。
「やっと受肉できたと思えたら、このような姿とは……」
その不気味な芋虫はそう言った。
「我は消える。また会おう英雄王よ……」
その言葉の後、その黒い芋虫の体が霞のように半透明になる。
「まて、お前はなにものだ?」
せめてこいつの正体のヒントでもつかみたい。
「そうだな、ナイアラルホテップとでも名乗っておこうか」
その言葉のあと、そいつは完全に消えてしまった。
ナイアラルホテップ、たしかクトゥルフ神話にそんな怪物がいたような。そいつがそのナイアラルホテップそのものなのか、それともただそう名乗っているだけなのか。まったく見当がつかない。
「ご主人様、このままではこの方が危険です」
金髪美女のオリオンが僕を呼ぶ。
怪物を産み落としたマリアガンヌが体を大きくけいれんさせている。
「どうやら魔力を根こそぎ持っていかれたようです」
ロムがマリアガンヌの額に手をおき、そう言った。
アヤメがその手のひらをためらいもなくマリアガンヌの白濁液で汚れた胸にあてる。
その手が淡く輝く。
「光の精霊の加護を……」
アヤメの言葉のあと、わずかだがマリアガンヌのけいれんがおさまる。
僕も治癒魔法を使う。
ギネビアもその手をマリアガンヌにあてる。
ギネビアも治癒魔法を使えるようだ。
三人がかりで治癒魔法をつかったおかげで、マリアガンヌのけいれんがおさまる。
「これは応急処置に過ぎません。一刻もはやく霊的治療を行わなければ、廃人になりかねません」
アヤメが冷静に診断する。
この場でこんなに冷静でいられるアヤメ・ランスロットは頼りになるな。
僕は魔銀の糸を紡いだマントでマリアガンヌをくるみ、抱き上げる。
「転移ポイントまで急ぎましょう」
僕は皆にそう言った。
それから数度の戦闘を終え、僕たちはこの悪魔城の最上階にたどり着いた。
きしむ木の扉をオリオンとロムが二人であける。ギギギッと扉がゆっくりと開く。
そこは学校の教室よりも一回り小さいぐらいの広さの部屋であった。無機質な石造りの部屋であった。
その部屋のほぼ中央に誰かがいる。
その誰かが、ゆっくりとこちらに近づいてくる。
クロネよりも背の低い人物であった。
数歩の距離まできたとき、その人物の姿がアヤメの光の精霊の光に照らせれる。
深いしわが刻まれた顔の小柄な老人であった。ぼさぼさの白髪に口にはどじょうのような髭を生やしている。
「いやはや、やっとここに魔者以外がきたわ」
しわがれた声でその老人が言った。
「あなたは誰ですか?」
僕は老人に訊く。
どうやら敵意みたいなのは感じない。
どこか飄々とした雰囲気を漂わせていた。
「わしか、わしはニコラ・フラメルじゃ。旅の錬金術師じゃな」
にひひっと老人は笑う。
たしか僕を異世界に旅だたせてくれた魔女が持っていた酒にその名前がつけられていたはずだ。
「もしかしてニコラ先生ですか?」
クロネが老人に尋ねる。
「くんくん……」
突然、ニコラはクロネの首筋の匂いをかぎだした。
「ひゃあ、くすぐったい」
クロネがぶるぶると震える。
「ほうほう、あのかぼちゃの魔女の香りがするのう」
ニコラはしわだらけの頬をなでる。
「そうじゃよ、あの魔女はまあ兄妹弟子みたいなものかのう」
ほほほっと笑ったあと、突如姿が消えた。
「これはこれはよう実っとるわ。よい子を産むじゃろうて……」
ニコラの声がアヤメの背後から聞こえた。
「ひゃあっ!!」
珍しくアヤメが体をびくつかせながら、驚いた声をあげる。
ニコラがアヤメの背後に座り、彼女の形のいいお尻をなでていたのだ。
「何をするのですか!!」
振り返り、平手打ちをするアヤメであったが、空振りにおわる。
ニコラ・フラメルは僕の前にあらわれた。
僕が抱いているマリアガンヌの顔をみる。
その顔を見て、ニコラは笑いをやめた。
「のお、少年よ。わしはこういうのはすかん。第一楽しくわないわな」
ニコラは手のひらをマリアガンヌの頬にあてる。その手はぼんやりと輝く。
「つらいものは忘れた方がよい」
ニコラはそう言った。
「さて、おまえさんに頼みがある。わしは旅の途中でこの幽界に迷いこんでしまった。わしもおまえさんたちに同行してもよいかのう。ここから出るには接続権が必要なのじゃ」
そう言うとニコラは指をパチンと鳴らす。
そうすると石の床に青色の光輝く魔法陣が刻まれる。
接続権は魔術師マーリンから模倣したスキルにあったはずだ。
僕はその接続権のスキルを発動させる。
青色の光の魔法陣はさらに光が増す。
聖剣エクスカリバーの転移能力が使用可能になりました。
視界に文字が流れる。
「元の世界に戻るよ」
アヤメが頷き、ギネビアの手を握る。
クロネが老人の手を握り、空いた手で僕の手を握る。ロムとオリオンは僕の背中に抱きついた。
僕は聖剣エクスカリバーの転移能力を発動させた。
次に目蓋を開いたとき、僕は戦艦ウロボロスの艦橋に立っていた。
クロネが思わず口をおさえる。
どんなに空腹であっても吐き気をもよおすような気味悪さであった。
その黒い芋虫のようなそれは体を左右に揺らしながら、マリアガンヌの体から出ていく。
メリメリと肉が裂ける音がした。
「ぐっ……うわぁっ……」
マリアガンヌは耳をおおいたくなるような悲鳴をあげて、気絶した。
「なんだこれは……」
アヤメが秀麗な顔にしわをよせて言った。
僕にもこれが何者かまったくわからない。
その黒い気味の悪い芋虫の全長は一メートルほどに思えた。ムカデのような足で床を歩く。
僕はエクスカリバーの柄に手をかける。
これは直感だけど、こいつは生かしておいてはいけない。
「産まれてきたものをすぐに殺すのか?」
それはそいつから発せられた声だった。
頭の中に響いているから念話のようだ。
クロネとギネビアが僕の腕に抱きつく。
二人の美女に抱きつかれて嬉しいはずだが、今はそんな心の余裕はない。
僕は思わず手をとめてしまった。
「やっと受肉できたと思えたら、このような姿とは……」
その不気味な芋虫はそう言った。
「我は消える。また会おう英雄王よ……」
その言葉の後、その黒い芋虫の体が霞のように半透明になる。
「まて、お前はなにものだ?」
せめてこいつの正体のヒントでもつかみたい。
「そうだな、ナイアラルホテップとでも名乗っておこうか」
その言葉のあと、そいつは完全に消えてしまった。
ナイアラルホテップ、たしかクトゥルフ神話にそんな怪物がいたような。そいつがそのナイアラルホテップそのものなのか、それともただそう名乗っているだけなのか。まったく見当がつかない。
「ご主人様、このままではこの方が危険です」
金髪美女のオリオンが僕を呼ぶ。
怪物を産み落としたマリアガンヌが体を大きくけいれんさせている。
「どうやら魔力を根こそぎ持っていかれたようです」
ロムがマリアガンヌの額に手をおき、そう言った。
アヤメがその手のひらをためらいもなくマリアガンヌの白濁液で汚れた胸にあてる。
その手が淡く輝く。
「光の精霊の加護を……」
アヤメの言葉のあと、わずかだがマリアガンヌのけいれんがおさまる。
僕も治癒魔法を使う。
ギネビアもその手をマリアガンヌにあてる。
ギネビアも治癒魔法を使えるようだ。
三人がかりで治癒魔法をつかったおかげで、マリアガンヌのけいれんがおさまる。
「これは応急処置に過ぎません。一刻もはやく霊的治療を行わなければ、廃人になりかねません」
アヤメが冷静に診断する。
この場でこんなに冷静でいられるアヤメ・ランスロットは頼りになるな。
僕は魔銀の糸を紡いだマントでマリアガンヌをくるみ、抱き上げる。
「転移ポイントまで急ぎましょう」
僕は皆にそう言った。
それから数度の戦闘を終え、僕たちはこの悪魔城の最上階にたどり着いた。
きしむ木の扉をオリオンとロムが二人であける。ギギギッと扉がゆっくりと開く。
そこは学校の教室よりも一回り小さいぐらいの広さの部屋であった。無機質な石造りの部屋であった。
その部屋のほぼ中央に誰かがいる。
その誰かが、ゆっくりとこちらに近づいてくる。
クロネよりも背の低い人物であった。
数歩の距離まできたとき、その人物の姿がアヤメの光の精霊の光に照らせれる。
深いしわが刻まれた顔の小柄な老人であった。ぼさぼさの白髪に口にはどじょうのような髭を生やしている。
「いやはや、やっとここに魔者以外がきたわ」
しわがれた声でその老人が言った。
「あなたは誰ですか?」
僕は老人に訊く。
どうやら敵意みたいなのは感じない。
どこか飄々とした雰囲気を漂わせていた。
「わしか、わしはニコラ・フラメルじゃ。旅の錬金術師じゃな」
にひひっと老人は笑う。
たしか僕を異世界に旅だたせてくれた魔女が持っていた酒にその名前がつけられていたはずだ。
「もしかしてニコラ先生ですか?」
クロネが老人に尋ねる。
「くんくん……」
突然、ニコラはクロネの首筋の匂いをかぎだした。
「ひゃあ、くすぐったい」
クロネがぶるぶると震える。
「ほうほう、あのかぼちゃの魔女の香りがするのう」
ニコラはしわだらけの頬をなでる。
「そうじゃよ、あの魔女はまあ兄妹弟子みたいなものかのう」
ほほほっと笑ったあと、突如姿が消えた。
「これはこれはよう実っとるわ。よい子を産むじゃろうて……」
ニコラの声がアヤメの背後から聞こえた。
「ひゃあっ!!」
珍しくアヤメが体をびくつかせながら、驚いた声をあげる。
ニコラがアヤメの背後に座り、彼女の形のいいお尻をなでていたのだ。
「何をするのですか!!」
振り返り、平手打ちをするアヤメであったが、空振りにおわる。
ニコラ・フラメルは僕の前にあらわれた。
僕が抱いているマリアガンヌの顔をみる。
その顔を見て、ニコラは笑いをやめた。
「のお、少年よ。わしはこういうのはすかん。第一楽しくわないわな」
ニコラは手のひらをマリアガンヌの頬にあてる。その手はぼんやりと輝く。
「つらいものは忘れた方がよい」
ニコラはそう言った。
「さて、おまえさんに頼みがある。わしは旅の途中でこの幽界に迷いこんでしまった。わしもおまえさんたちに同行してもよいかのう。ここから出るには接続権が必要なのじゃ」
そう言うとニコラは指をパチンと鳴らす。
そうすると石の床に青色の光輝く魔法陣が刻まれる。
接続権は魔術師マーリンから模倣したスキルにあったはずだ。
僕はその接続権のスキルを発動させる。
青色の光の魔法陣はさらに光が増す。
聖剣エクスカリバーの転移能力が使用可能になりました。
視界に文字が流れる。
「元の世界に戻るよ」
アヤメが頷き、ギネビアの手を握る。
クロネが老人の手を握り、空いた手で僕の手を握る。ロムとオリオンは僕の背中に抱きついた。
僕は聖剣エクスカリバーの転移能力を発動させた。
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