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泣かない国王の護り方
しおりを挟むーー国王の話しをしようと思う。
最強国家にして無敵。民を護る為に全てを捧げる国王は、民衆から多大なる支持を受けていたんです。
そんな国王は昔、スラム街の孤児だった。
食べるものもなく、雨風を凌ぐ家すらも無い。そんな過酷な状況で毎日を必死に生きていたらしい。
孤児、ゲイル・ファーガスが後にこの元スラム街の国王になり、戦争で無敗の男と語り継がれるのだけどね。
孤児達を集結させて集団を結成させた。この集団の中に年長として、我が執事グレイ・マッケンリーも初期メンバーとして加わっており、小さな隣国を十名程で制圧しゲイル達の領土とした。
数々の戦争を繰り返し領土を拡大した『イージス連邦』は、一切の死人を出さず完封して国を護ったことで、無敗の帝王と恐れられ、今では戦争を仕掛ける国がいなくなってしまった。
ーーただ一度だけ、死人を一人出してしまった戦争がある。
国王の慢心が招いた惨劇だったと、自分でも言っているみたいなので遠慮なく言わせて貰うと、戦争にいつも通り勝利した後の事で、軍を自国へ帰らせている時のことだった。
残党の一派が撃ち放った矢が、国王の創立メンバー『デラ・ヘリオス』の頭部を貫いたのだ。
即死だったらしい。
こんな下らないことで、部下を失った国王は意義消沈する。死なせてしまった後悔や、自分の無力さを呪ったであろう。自分の民を護る為に戦い続けた国王は、スラム街での過酷さを知っている。
飢えて死ぬ者、盗みを働きながら生活するしか無い子供、薬物に手を出して壊れてしまった者。その全てを見てきたからこそ、人々を護ると誓った国家を立ち上げたんです。わざわざ別都市のスラム街に出向き、貧民を我が国に招き入れ孤児を助ける様なそんなお人好し。
それが現国王『ゲイル・ファーガス』である。
そんな彼が初めて仲間を失ったのだ。そんな彼は一切の涙を流さずにこの辛さに耐えていた。
涙を流さない訳があるらしい。
『王は泣いてはならんのだ。 王は泣かぬ。 王は護る。 王は敗けてはならぬ。 敗ければ国民が死ぬ。 私はスラムで団を結成した時からそう誓ったんだ。 だから私が泣いてはいかぬのだ』
誇り高き国王は、民衆を愛し民衆に愛されている。
だけどその悲しみを分かってあげられるのは、きっと私だけだと思うのです。
♦︎
国王との出会いは、私の祖母のお墓参りに来ている時だった。祖母のお墓の隣の墓で、黙って手を合わせ黙とうしているおじ様が一人。今にも泣き出しそうな、そんな空気感に包まれていた。
見つめているとそのおじ様と視線があってしまい、私は咄嗟に話しかけてしまった。
「大切な人を亡くしてしまわれたのですか?」
「えぇ。 とっても大切な私の友達ですよ」
哀愁を感じる。
泣きたそうだが決して泣かない。お墓の前とはいえ、言葉一つぐらいかけて上げても良さそうだが、そんなことは一切しない。
「泣きたいぐらい辛かったのですね」
「ーー!? 何故分かるのですか?」
「分かりますよそれぐらい。 人の洞察をするのが得意なので。 貴方は心の中で泣いています。 きっと亡くなった友人も悲しんで欲しくないはずですよ」
「そうかもしれませんね。 こやつもそんなことは望んでないかもしれない。 少しは気持ちが楽になりました。 名を聞いてもよろしいかな?」
「私ですか? 私はエミア・ローラン そこの屋敷の令嬢です。」
「エミア…… ですか。 美しい名に相まって美麗で美しい容姿をしている。 そなたのことも絶対に護ると約束致しましょう。 では、また何処かで」
後に私は、あのおじ様がこの国の国王であると知った時は絶句しました。なんて失礼なことを口走ったのだろうと、反省したのです。
♦︎
ある日、一通のお手紙が届いておりました。
その内容は余りにもショッキングで手に持った手紙を力無く落としてしまうほどだったのです。それは縁談の申し込みで、内容が内容だっただけに度肝を抜いてしまいました。
「ーーえ!? 何で国王から縁談が来るの?」
突然のことで意味も理解出来ないまま、私は国王の待つ宮殿へと足を運ばせた。余り他所にお呼ばれされない私は、豪華な城でただ一人気迫負けをして佇んでいたのです。
暫くすると、国王の側近に呼び出され私は食事が並べられた、長いテーブルの端に座らされました。そこで今回私をお呼びになった張本人、国王が姿を現れたのです。
その品の高いオーラに、私は怖気づいてしまいました。
「久しぶりだねエミア・ローラン 急に呼び出してすまなかった。 さぞ疲れただろう。 ゆっくりするといい」
「では、お言葉に甘えまして」
無理に堅苦しくせずに、リラックスしながら私は食事を進めて、国王から今回のお呼ばれの件について尋ねることにした。
「国王陛下はどうして私なんかに婚約を申し出たのですか? 私なんかではとても……」
「私のことを瞬時に理解したのは君が初めてだ。 決して自分を否定してはいけないよ。 でだ、私はそなたに惚れている」
「ーーはぁ!!」
冗談ではない様子でどうやら国王は私の事を好いているらしい。何で惚れているのかは置いといて、ひとまずは本当に好きなのか分からないし詮索してみるが、どうやら真面目に本気らしい。
「嫌であったか?」
「いえ。 嫌という訳では……」
「では、婚約をしても良いのだな?」
「待って下さい! 私はまだ国王のことが好きなのかどうなのかが分からないのです。 考えさせてはいただけませんか?」
「分かった。 ならばこうしよう。 エミアに縁談を差し出す。 その相手は皆悪党の可能性があるがそれらを断罪して欲しい。 この国の内情を見届けてから私について来てくれるかを考えて欲しいがどうだろう?」
「分かりました。 それならばその話しお受け致しましょう」
これから断罪令嬢として、この国の世直しをしていく羽目になるなんて、意外と国王は私を働かせるので苦労しました。
そして現在はというと同じ場所、同じシチュエーションで国王に呼び出されていたのでした。
♦︎
「エミアよ 婚約を申し出る」
何度もこの国の内情を観察し、悪行を重ねる罪人を断罪した私には、既に答えなど決まっていた。確かに私に相応しい殿方もいないし、国王にも好感が持てる。今の心境としては、国王との婚約を受けてもいいと考えてしまう。
グレイも呼んでいた私は、席を外すよう指示を出して国王と二人だけの時間を作りだした。
「そうですね。 グレイの件もあります。 とても力になりました。 ありがとうございます。 ですが私から婚約するにあたってある条件を出しても宜しいでしょうか?」
「条件とはなんだ? 是非聞きたい」
ーー私が国王に出す条件。
国民を愛しているからこそ、自分を押し殺し我慢してきたことが沢山あるだろう。私の前では、それら全部を吐き出して欲しいのだ。こんなわがままを聞いてくれるでしょうか。意を決して私は国王に発言した。
「私の前では泣いて下さい。 辛くても苦しくても泣かずに耐えてきたのです。 せめて私の前では泣いて下さいますか?」
国王は顔を上に向けて、溢れそうな涙を必死になって我慢していた。本当は泣き虫な癖によく我慢出来ていたと思うと、やっぱり国王は王の器があったのでしょうね。
「ーー私は泣いてもいいのだろうか。 グレイの惚れた女も護れずに大事な友人も護れなかった。この私が泣いてもいいんだろうか」
「貴方は国民を護り抜いてきたのです! そんな生半可なものではありません! 死んでしまったとしても彼らの尊厳はしっかり護っているですよ! だから貴方は! 絶対に泣かないと! 決めたのではないんですか!!」
取り乱してしまったけど、国王に響いてくれたなら私は本望です。それぐらいのお節介をするぐらい、私は国王が『好き』になっていたのだから。
「そう言われては仕方ないな。 エミアの前だけでは涙を流すとしよう。 しっかり付き合えよ?」
「勿論ですよ国王。 私は国王のことが好きですから。婚約致しましょう国王陛下」
♦︎
ーー国王に溺愛されている。
スラム街で生まれた優しい王様は、人を国民を護る為に自分の感情を押し殺し、悲しくても泣けずに苦しんでいた。そんな国王を護れるのはきっと私だけだから、私の前では涙を流して欲しいと思うのです。
『悪事を働く貴族に鉄槌を』
私の国王は、口癖の様に呟きながら日々を平和にする為に毎日奮闘しているのです。
そんな国王と私は婚約致しました。
おわり。
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