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第二章

041「提案」

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「もしかして、ソラ君⋯⋯⋯⋯君、『恩寵ギフト』って能力を持っているんじゃないかい?」
「⋯⋯え?」

 いきなり⋯⋯それはあまりにも突然に、炎呪の口から『恩寵ギフト』という言葉が飛び出した。

「ど、どうして、それを⋯⋯?」
「そうか! やっぱりそうだったんだね、ソラ君!」

 そう言って、炎呪のテンションが上がる。ていうか、な、なんで、炎呪の口からこの世界に無いはずの『恩寵ギフト』という言葉が出てきたんだ?

 すると、その疑問に炎呪がすぐに解答を出してくれた。

「実はね、僕の仲間に君と同じ『恩寵ギフトを持つ人物』がいるんだ」
「えっ?! 仲間⋯⋯?」
「うん。あとついでに言うと恩寵ギフトを持つ者がこの世界とは違う別の世界から来た『五人の転移者』だってことも知ってるよ」
「そ、そこまで⋯⋯」
「いや~⋯⋯でも、やっぱりソラ君は『転移者』だったんだね! まさか⋯⋯とは思っていたけど驚いたよ!」
「いや、こっちのセリフですよ! ま、まさか、この世界の人に『転移者』なんて指摘されると思ってもいませんでしたから!」
「あはは、そっか⋯⋯そうだよね! あ、一応確認のためにソラ君のステータス見せてもらっていいかな?」
「あ、はい」

——————————————————

名前:新屋敷ソラ

レベル:62

魔法:<初級>ファイヤバレット/ファイヤランス/ウィンドバレット/サンダーバレット/サンダーランス/ソードウィンド/コールドブレス/サンドアタック
スキル:<初級>身体強化/縮地/怪力/忍足
恩寵ギフト自動最適化オートコンプリート

——————————————————

「ええええええええっ!? 何、この『恩寵ギフト:『自動最適化オートコンプリート』って能力、凄すぎるんだけどっ?! 探索者シーカーデビューして2ヶ月程度でこれだけの成長⋯⋯そして魔法やスキルを獲得しているって⋯⋯やっぱ『恩寵ギフト』は凄いぶっ壊れ能力なんだと改めて実感したよ!」

 部屋にテンション増し増しの炎呪の声が響き渡る。

「で、でも、凄さでいったら、炎呪さんのほうがよっぽど凄いですよ。だって、その若さで『恩寵ギフト』とか無いのにS級ランカーでギルドマスターなんですから⋯⋯」

 そう、俺みたいに『恩寵ギフト』というチートが無いにも関わらず、その若さでS級ランカーでギルマスとかそっちのほうがよっぽどやばいでしょ?⋯⋯と素直に思ったことを口にしたら、

「え? 若い? 僕、若くないよ?」
「え? 20代前半とかじゃないんですか? 公式だと『年齢不詳』とありましたけど、見た目20代前半くらいに見えるんですが⋯⋯」
「え? 違うよ? 僕⋯⋯64だよ」
「64ですかぁ~⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯て、ええっ!? ろ、ろろろ、ろくじゅううううう、よんんんんんんんんんん~~~っ!!!!」
「うん、そうだよ」
「っ!!!!!!!!!!」


 今日イチ、驚いたよ。


「あ、でも精神的にはまだ10代だと思って頑張っているけどね! まだ若いもんには負けないぞぉー、ハッハッハ」
「⋯⋯⋯⋯」

 ハッハッハ⋯⋯じゃねーわっ!!

 そんな、俺よりも童顔で年が64歳っておかしいだろ! エルフかっ!!

 あんた、内面よりも外面がすでに10代だからっ!!

 老化仕事しなさ過ぎぃぃっ!!

 S級ランカーで、ギルマスで、心も体も10代って盛り過ぎだろ!!

 と、心の中でそんな誰ともしれない何かに魂の叫びをする。



「さて、そんな転移者のソラ君⋯⋯」
「! は、はいっ?!」

 突然、素に戻った炎呪が真面目な顔で話を始めた。

「実はね、もし君が転移者だったらしようと思っていた話があるんだ」
「? 何でしょう?」
「ちょっと提案なんだけど⋯⋯」
「提案?」
「うん。あ、あの⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯僕の仲間になってくれないかな?(上目遣いでチラ)」
「え?」

 仲間?

 いや、ていうか、なんで上目遣いなんだよ?!

 頬を染めるなー!!

 高校生の俺より少年っぽい童顔なあんたが頬染めて上目遣いそんなことしたらおかしな感じになるでしょうがっ!! いや、おかしな感じ・・・・・・ってなんだよっ!!

 と、心の中で混乱している俺をよそに炎呪は今回の『本題』となる話を始めた。


********************


「ま、具体的には、僕の『共闘関係』にならないかって話なんだけどね」
「共闘⋯⋯関係?」
「うん。実は、君と同じようにこの世界にやってきた五人の転移者のうちの一人が、この世界を支配しようと動いていてね⋯⋯」
「え? 支配?」
「うん。理由はわからないけど、その目的で動いているんだ」
「どうして、そんなこと知っているんですか?」
「その本人から聞いたんだよ」
「は?」
「詳しくはまた今度話すけど、とにかく彼がそう宣言して僕たちの前から姿を消したあと、彼はその宣言どおり、裏で勢力を拡大し始めたんだ。だから、僕らはその組織の壊滅に向けて動いている」
「そ、そんなことが⋯⋯」
「で、現在、ソラ君たち五人の転移者のうち、この世界を支配しようと動いている転移者の計画を阻止しようと一人、僕たちの仲間になったってわけ。ただ、残りの2人は捜索中って感じかな」
「で、でも、なんで、そいつはこの世界を支配しようだなんて⋯⋯」
「⋯⋯その辺の事情はまだわかっていない。でも、少なくともそういう状況が起きているのは事実だ。もちろんこの話はテレビはおろか、ネットにも当然出てこないからね」
「そ、そんな⋯⋯」
「『恩寵ギフト』を持つ転移者はこの世界の魔法やスキルとは違う能力でしかも大きなアドバンテージを持つ。それはソラ君も気づいているよね?」
「は、はい」
「そんな転移者が敵対する理由はわからないが、もしかしたら、何か運命的な⋯⋯宿命的なものなんじゃないかって僕は思っている」
「え? 宿命⋯⋯?」
「ま、あくまで僕の『勘』だけどね。ただ、実際に敵対している勢力があることは事実で、現在、そいつらは『一大勢力』としてどんどん拡大していっている」
「⋯⋯一大勢力」
「そうだ。そいつらを野放しにすることはこの世界の秩序を乱すことにつながる。そして、それを阻止するために動いているのが僕らってわけ。そして、彼らの陰謀を止めるにはソラ君のような『恩寵ギフトを持つ転移者』を一人でも多く味方につけることがとても重要なんだ!」
「!」

 炎呪がカッと目を大きく見開いて力強く説明する。

「こんな話⋯⋯にわかには信じられないだろうし、僕やその仲間のことを何も知らないソラ君が僕らの仲間になるのも不安だろう。だから、返事は今すぐじゃなくて構わない」
「⋯⋯炎呪さん」
「ただ、僕らの仲間になれば、その対価としてこの『並行世界線イフラインの世界』の構造とか仕組みといった情報を享受することができる。それはソラ君にとっても悪い話じゃないと思うんだがどうだい?」
「そ、それは⋯⋯」

 確かに、この『並行世界線イフラインの世界』はわからないことだらけだ。そう考えたら、確かに共闘⋯⋯仲間になるメリットは大きいだろう。だが、どんな組織かわからない不安のほうが、現時点では得られるメリットより大きいのも事実だ。

「ま、そういうことだからゆっくり考えてみてよ。⋯⋯てわけで、今日はここまでかな」

 そう言うと、炎呪が退出を促した。

「時間が合えばまたこちらから連絡する。良い返事、期待してるよ?⋯⋯⋯⋯新屋敷ソラくん」
「は、はい」

 こうして、ギルドマスター倶利伽羅炎呪との初対面は衝撃的な事実を知ることで幕を閉じた。


********************


「転移者が敵⋯⋯か」

 炎呪との話し合いの後、家路につくかたわら俺はいろいろと考えていた。

「どうして転移者が敵対なんてするんだろう? むしろ、個人的には転移者の五人は仲間みたいなものだと思っていたのに⋯⋯」

 それにしても、炎呪が言っていたことは本当なのだろうか? いまだに信じられない話だが、でも言っていることの信憑性はかなり高いように感じられる。

「少なくとも、炎呪とその仲間が持つ情報は俺にとって有益なのは間違いないだろう。そう考えれば、仲間になることはかなり大きなメリットとなるのは間違いない。でも⋯⋯」

 そう、炎呪たち組織がどういう組織なのかまだわからない以上、メリットよりも不安のほうが大きいのも事実。

「考える時間はもらっているんだ。とりあえず、今は様子見かな⋯⋯」

 とりあえず俺は『炎呪の提案』を自分の中で一旦保留とした。
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