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第二章
061「倶利伽羅炎呪の演説」
しおりを挟む「現在、関東B6の38階層で魔物暴走が起きた。そして、そこには今、新屋敷ソラ君という最近D級ランカーに昇格した高校生探索者が一人そこに残り、魔物暴走の侵攻を遅らせようと奮闘している」
「っ!!!!!!!!!」
皆、声に出さないが状況のやばさを一瞬で把握する。
「これからちょうど一時間後——ソラ君の救出、及び魔物暴走の鎮圧に向けて出発する。それまでに一人でも多くの探索者を集めて欲しい。条件は『単独探索者、探索者集団ともにD級ランカー以上』だ! 家族、友達、親戚、知り合い、仕事仲間、喧嘩相手⋯⋯誰でもいい! 今の条件を満たした探索者、及び探索者集団を急ぎ集結させてくれっ!!」
「「「「「っ!!!!!!!!!」」」」」
そう言うと、炎呪さんが皆に向けて土下座をした。その行為にこの場にいた全員が仰天する。
「すまん! 少し私も冷静でいられていないから、つい、抑圧的な言い方をしてしまった! しかし、お願いだっ!! 彼⋯⋯⋯⋯新屋敷ソラはこんなことで死なせるような人間ではない! こんなことで死なせてはいけない人間なんだっ!! だから、皆の協力を⋯⋯全力の協力を⋯⋯心からお願いしたいっ!! 頼む、皆の者っ!! 私のお願いを⋯⋯どうか⋯⋯どうか、聞いてくれぇぇ~~~っ!!!!」
シーン。
ギルド本部が一瞬、静寂に包まれる。⋯⋯⋯⋯が、
「「「「「うおおおおおおお! 炎呪さーーーーーんっ!!!!」」」」」
オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ⋯⋯。
静寂から一転。場が炎呪さんの名前を叫ぶ声で一気に染まる。
普段の炎呪さんは、見た目や言葉遣いも子供っぽく、しかも、のらりくらりとしゃべるので不真面目な⋯⋯⋯⋯正直いいかげんな印象しかなかった。
でも、そこにいる炎呪さんは違っていた。普段の姿とは違い⋯⋯⋯⋯ていうか、全くの別人だった。
言葉一つ一つに高い熱量を込め、しかも、自ら土下座までして、一職員や、一探索者に対して、気持ちを全力で乗せて言葉を発していく。
そんな、職員も探索者も初めて見るであろう炎呪さんの姿に皆のボルテージがビリビリビリと加速度的に増大していくのがわかった。
——そして、
「オラぁぁぁっ!! みんな動けぇぇぇ~~~~っ!!!! 死ぬ気で動けやぁぁぁぁぁ~~~~っ!!!!」
顔も図体もゴツいベテランっぽい探索者がそんな大きな声を上げると、その声を皮切りに皆が一斉に動き出した!
「かたっぱしから電話しろ、オラァァァ~~~~っ!!!!! 時間ねぇぞ、この野郎ぉぉぉ!!!!」
「うるせぇぇぇ! やってるよ、バカ野郎ぉぉぉ~~~っ!!!! おい、お前! 長期戦になるだろうから、急いで食糧調達してこい! 何? 費用はどうするだとぉ?! 俺が払うわ! 俺はC級ランカーだ! それくらいいくらでも払ったるわいっ!!!!」
「いや、それギルド本部で負担しますからっ!? 落ち着いてください、雷蔵さんっ!?」
「しゃらくせぇぇぇぇ!!!!!!!」
「みんなっ!! 関東近辺の各ギルド支部に電話するわよっ!! いい? D級ランカー以上よ! 間違えないでっ!!」
「「「「「はいっ!!!!!」」」」」
「おおおおおおおお⋯⋯っ!! 俺はF級だが参加するぞぉぉぉ~~~~っ!!!! 戦闘要員じゃなく雑用で構わねぇぇ~~! だから、俺を参加させろやぁぁぁぁ~~~っ!!!!」
「俺もE級だがキビキビ動くぜぇぇぇ? まぜろやぁぁぁ~~~~っ!!!!」
「ああああああ~うるせぇ、うるせぇ、うるせぇぇぇぇ~~~~っ!!!! わかったから、とりあえずそこのF級、E級のバカ野郎どもっ!! 急いでポーションと魔力回復薬、ありったけ集めてこいっ!!!!」
「「「「「イエス、ボスっ!!!!」」」」」
「バフ、デバフ効果の魔道具はこっちでかき集めるぞぉぉぉ~~~~っ!!!!」
「「「「「おっしゃぁぁぁあぁあぁあぁあぁぁぁぁ~~~~っ!!!!!!!」」」」」
この場にいるすべての者が、時に荒々しかったり、冷静だったり、そしてまた、すぐに荒々しくなったりと⋯⋯⋯⋯そんな、異様な空気と熱量のうねりがあちこちで巻き起こっていた。
そして、その『うねり』が向かう先は一つ——、
「新屋敷ソラを絶対に助ける」
気づくと、俺と胡桃沢は、涙や鼻水、あとよだれも含めた体から出る体液という体液を、人目憚ることなく垂れ流し、もはや、グチャグチャもグチャグチャな顔になっていた。
「お、前ぇぇ⋯⋯⋯⋯顔、やばいって⋯⋯⋯⋯ヒック!」
「な⋯⋯何よぉぉ~⋯⋯! あんた⋯⋯だって⋯⋯あんただって⋯⋯⋯⋯グスっ!」
もはや、俺たちの会話は言葉になっていなかった。
「ありがとう⋯⋯ありがとう⋯⋯皆の⋯⋯者⋯⋯」
そして、この『うねりを引き起こした張本人』は勢いよく登った机の上で⋯⋯肩を震わせていた。
それは、これから始まる戦いへの高揚か。
はたまた、目の前の光景への感動か。
もしくは、両方か。
——そして、一時間後
「これより! 新屋敷ソラの救出、及び、魔物暴走鎮圧に向けて出発するっ!!!!」
「「「「「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!!!!!!!」」」」」
異様な、とても異様な、でも、全体を包み込む大きな高揚感が場を支配していた。
それは、これから戦いの場へと赴く彼ら全てに力と勇気と団結力を与えた。
もちろん、俺も胡桃沢も討伐隊に参加している。むしろ、道案内も兼ねて先頭の炎呪さんの横にいる。
「今、いくぞ、ソラっ!!」
「ソラ君、今行くからねっ!!」
そうして、俺たちは勢いそのままダンジョンの中へと入っていった。
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