止まった秒針は壊すに限る

メイベ・モカベルン

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止まった秒針は壊すに限る

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一兵卒でも他国の部隊と渡り合える武力、正確には魔力を豊富に持つ国、エルガシリアの衰退を決定づけた事件が起きた。
とある一人の賊により、エルガシリアの辺境が潰れた。
あろうことか、その賊は、今までエルガシリアが他国で成したことを遂げた。
たった一人の賊は、エルガシリアの1部隊を壊滅させたのだ。
さらなる被害を食い止めるために、抜擢されたのはエルガシリアが誇る近衛部隊の二人、ラーガディアとヒルケシュ。
栄華を誇る国の象徴たる騎士に降りかかる事件に、衰退の歯車が加速したのだ。

賊によって見る影もなくなった村で、二人の女が賊と対峙していた。
正確には違う。賊に対する一手を見出そうとしていた。
二人のうち年上の女性が、今にも賊と交戦しようとするもう片方の女の肩を掴むことで制止する。
両者ともに、村の警護が職務の軍人だった。
年下の女は、首都出身で辺境の地に飛ばされたこともあり。状況に焦りが見える。
それは武勲を立てて返り咲きたいという浅慮に見えて、年上の女が、こちらに意識を向けろとばかりに、名を呼んだ。
「ケレ」
ケレと呼ばれた年下の女は、年上の女の名を口にする。
「ソリアミさん。でも奴の動きを遅らせないと」
「わかっているわよ。現にきちんと援軍を要請した」
よくわからないが、生き残ったのは彼女たち二人。加えて、その村にいた戦闘可能人員もすべて命を落とした。
「ねぇ、ケレ。なんで私たち、今も生きているか理由わかる?」
「賊の攻撃範囲から外れていた」
その答えを聞いてソリアミが口をへの字に曲げる。ケレは、事態を把握していない。
実際に、二人は賊に攻撃を何度か当てているし、賊からの攻撃でも致命傷も避けている。
主に、ソリアミの援護のおかげだ。
相手に魔力攻撃が無効化されるのであれば、その場にあるもので障壁を作り、また、魔力以外の手段、主に落下物で相手を攻撃した。
「じゃあ、ケレ。彼の快進撃が可能になっている理由は?」
「我々の主力である魔力を用いた攻撃が無効になっている」
ソリアミがその答えに頷く。
「そして、彼の体は鋼鉄のように固く、人とも獣とも思えないくらいの速度。加えて、攻撃の手数が多い、かつ範囲も広い」
「まるで、おとぎ話のような奴ですよね」
「だから、こちらもおとぎ話のような手段で対抗しなきゃいけないのよ」
年齢の割に夢見がちでロマンチストであるケレの口から出そうな言葉を、ソリアミが口にした。
現段階で決定打を打っているソリアミが、夢見がちな少女が口にする言葉で、現状打破を試みると言ったのだ。
「ご都合主義で?」
ケレが、賊の進行経路を阻むように土を盛り上げる。飛び越そうとする賊に土の丈を伸ばして抵抗する。
ケレのわずかな抵抗を足掛かりに、ソリアミが植物のつるで賊を拘束する。
「夢見がちなあなたの目には、あいつはどう映る?」
ソリアミが、ケレに問う。
ケレは、ソリアミの賭けに気づかなかった。夢見がちな少女の分析を頼りに現状打破をしようとすることに。
「生身の人間と機械が融合した感じですかね?」
「じゃあ、魔力が効かないのは?」
「吸収してる?無効化するパーツがある」
「じゃあ、貴女の知識であの化け物を止めるには?」
「燃料切れを狙う。何か肝心な部位を壊す。エネルギーを大きく与えて壊す」
まだあるかもしれない。と考え込むケレに、ソリアミが分かり次第教えて頂戴と答えて、次の策を練る。
しかし、それは実行されることはなく、賊が大きく跳躍した。
援軍が来た。かなりの魔力をもつ部隊が到着したのだ。ケレもソリアミも肌で魔力を感じていた。
決着がつくと、二人は思った。しかし、次の瞬間、悲鳴、喚き声にとれる意味を介さない大声が聞こえた。
呆然としているケレの肩を引き寄せ、ソリアミが賊と援軍が交戦している場に、魔力で転移する。
そこには、片腕が黒色に変色し煙が出ているラーガディアと、庇われたであろうヒルケシュがいた。
ケレは、即座に国が誇る近衛兵の前に、土を盛り上げ賊の追撃を防ぐ。
「賊に魔力を使うな!何らかの力で魔力を無効化するし、魔力を利用しこちらを攻撃する!」
ソリアミが声を張り上げる。援軍から動揺が伝わる。
「ケレ!時間を稼げ!」
「了解!」
ケレは、片手剣で賊に対峙する。
その間、ソリアミが援軍に、これまでの交戦で分かった情報を提供する。
だが、名の知れた両名が瞬時に戦意を折られたこと、加えて片腕が完全に機能しなくなった様を見せられたのだ。精神的なダメージが、計り知れない。
とりわけ、ヒルケシュは年が10代前半と言うこともある。目の前の現実、主にラーガディアが自分を庇った結果を目の当たりにしている。素直に、ソリアミの提案を聞くとは思えない。
八方塞がりかと、ソリアミもまた心が折れかけた。おとぎ話のような、空想上の化け物。しかし、この国に対抗する者たちからすれば、夢のような、悲願のような代物だ。
現実を見ていては対抗できない。夢見がちな者が描くお話を想像し、対抗しなければならない状況だ。
ソリアミの提案は、現実逃避で物事を考え、現実に対処する。実に馬鹿げた提案だ。
納得など誰もできない。切り捨てることはたやすい。
けれど、現実で考えた手段は、敵に力を与え。多くの犠牲者を増やす。
手段が分かる者は説明を窮し、主力部隊は、賊を止める手段を取ることができない。

それでも、ただ一人。賊と切り結ぶ女がいた。
ケレの斬撃は、何回に1回かは相手にあたる。硬くて刃がはじく部分。相手の血液が出る部分。
先のソリアミとの連携で、範囲の広い攻撃は、地面の土などで防ぐ。
ケレは、賊の目を見る。目を合わせる。
相手の相貌に、感情があるのか探る。
人間と機械が融合した生命。心はあるのか、それともないのか。
賊の体は傷ついていた。血液と判断したのは、匂いからだ。
ケレは、顔をめがけて賊に突っ込む。微かだが、賊の顔に血が飛ぶ。
匂いからして、自身の体に流れるものと同じものだ。
「同じ血が流れている」
ふいに、ケレはポエミーで馬鹿げたことを口にした。
賊の表情が一瞬だけ、変わる。
驚き、哀しみ、悔しさ、それ以外の何かがあった。
その一瞬の隙をついてか、賊がケレをすり抜け、ソリアミに向かう。
賊が、鋼鉄の腕で、ソリアミを串刺しにしようとした。
賊とソリアミの目が合う刹那、賊の速度が減速する。
一方ソリアミの方も、怯んだのか別の何かを感じたのか、息を呑んでただ静止していた。
しかし、ソリアミに賊の攻撃は届かなかった。
大きく跳躍したケレが、賊の体に斬撃ではなく打撃を主とした攻撃を加える。
その衝撃か、賊の動きが止まった。
続けざまに、ケレは賊の血が流れている部分に、毒を塗ったナイフを突き刺す。
「装甲の部分には、打撃が効きます!おそらく剥がせば。討ち取れます!」
ケレの声で、ヒルケシュが大剣を構え賊に振りかざす。
しかし、賊の顔はソリアミを見ていた。
ヒルケシュの大剣を、ソリアミを貫こうとした腕で跳ねのけても。
なお、賊はソリアミを見てみた。
賊の口が動く。微かな声が聞こえた気がしたが、金属がぶつかる音で判別はつかない。
しかし、ソリアミには声の内容が把握できたのか。ケレとともに行動していた時の活力はない。彼女の眼には力がなくなり、現実を認識できなくなっていた。
ケレは、ソリアミの腕を掴み、後方へ乱雑に放り投げる。
「ソリアミさん!」
続く言葉は、危ないからなどというソリアミを心配しての言葉だろう。ソリアミは、ケレと呼ぶことはなく、ただケレを見つめる。
おそらく、ケレの目から見たソリアミは、これまでの交戦での心労によるものに映ったのだろう。
(違う。私は、間接的にだが裏切った)
ケレの後姿を見て、ソリアミは、言葉で伝えることはできない。
「決定打は、あるのかい?」
ふと、ラーガディアの声が聞こえた。
ソリアミは、ラーガディアを見上げる。
しばしの沈黙から、ケレの出した推測を口にする。
「燃料切れを狙う。何か肝心な部位を壊す。エネルギーを大きく与えて壊す。全部、推測よ。確証なんてない」
おとぎ話のような非現実的なやり方。それを、この男は実行しようというのか。ソリアミがラーガディアを制止する。
「どれを実行するんだ!?」
「最後のものを」
「止めろ!」
たかが一兵卒の身分であるソリアミが、精鋭部隊を担う雲の上ともいえる人物に、不敬にあたる口調で制止する。
「君の部下が、毒を使って。動きを鈍らせている」
それでも、仕留めることはできない。と言って、彼は黒くなった腕を何とか魔力で動かせるようにする。それは、操り人形を動かす動作に似ていた。
「腕の装甲が剝がれたぞ!」
誰の声かはわからないが、その声を合図にラーガディアが走る。
黒くなった腕を、魔力で操り。賊の腕を握る。
そして、ありったけの魔力を込める。
次の瞬間、轟音が響いたが、賊は立っていた。
そして、エルガリシアの軍に背を向け逃走した。
そして、ソリアミは気づいたのだ。
後を追おうとする者が、いないことに。
賊に対峙していた者たちが、皆地面に伏していた。
ヒルケシュが何とか立ち上がり、賊を追おうとするが、膝から崩れ落ちる。
ラーガディアの姿を見たのだ。
腕一本は消失している。
この国の破滅と、ケレとヒルケシュの復讐劇の幕開けだった。


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