君と僕のガラクタだった今日に虹をかけよう

神楽耶 夏輝

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未来を変えろ

見えていたはずの未来が見えなくて

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 注視するは、オッズ票。
 ここへ来るまで、競馬の知識は皆無だが、人気のある馬のオッズが低いという事ぐらいは知っている。
 オッズが低い=換金率も低い。

 競馬ファンは、馬の体格、ルーツ、騎手、その日のコンディション、戦歴等々から馬を選び投票する。
 その結果がオッズなのだ。
 つまり、馬を知り尽くし、データを重ね、熟知した多くの人が投票する馬は勝ちやすいし、勝つ傾向にあるのかもしれない。

 しかし!!
 オッズが低いからと言って、その馬が必ずしも勝つとは限らないのだ。

 僕は敢えて、人気の低い、つまりオッズの高い馬を探した。

 しかも3連単で、払戻金が一番高額になる組み合わせを。

 ――あった! これだ!

 ゼッケン④『ナツノマジック』18番人気。
 単勝オッズ276.6倍。
 単勝でも100円の舟券で2万7千660円に化けるというわけ。
 このナツノマジックを絡めた3連単だと払戻金は100万を超える。

 僕はこれで勝負する事にした。

 ④-①-⑧

 この順で馬が到着してくれれば――。

 券売機に会社から前借りしてきた1万円札を突っ込んだ。
 このレースに、手持ち、いや、残り2週間の生活費を全額賭ける!!

 手は震え、心臓はこれまでにないほど早鐘を打った。

「大牙。何番買った?」

 芙美が手元覗き込む。

「4.1.8」
 上ずる声で答えると

「④か……ナツノマジック。私もそれ買っちゃおう」

 芙美は単勝で、ナツノマジックに1000円賭けた。

「よし、行こうか」


 ◆◆◆


 馬がスムーズにゲートに入った。

『全馬収まって、係りが離れます』

 アナウンスがレースの始まりを予感させる。
 いよいよ始まる。

 本来の僕の人生を賭けた、一世一代の大勝負だ。

 って、ちょっと大げさか?


『スタートしました!』

 アナウンスの声に思わず力が入り腰を浮かせた。

「いっけーーーーーー!!!!」

 芙美が、他の観客に同化するように声を上げて拳を振り上げる。

「よし! 行けーーーーー!!!」
 僕も、彼女の真似をして大声を出した。

『各馬比較的いいスタートを切りました。先ずは先行争い。16番クロノスキップ が鼻差で先頭を切る。
 続いて11番タイムシフター 、1番エターナルランナー 、8番ミスティックフラッシュ が前を形成。
 外からは2番シャドウオブイエスタデイ 、7番フューチャーレジェンド が後位を形成。
 1番パストグローリー が外から追い上げる。すごい勢いだ。すごい勢いで追い上げる。
 続いて、15番インフィニットオッズ 、3番レアミラクルが追走。
 外からは2番スターレイスが。
 先頭16番クロノスキップが3馬身差でトップを独走……』

 4番ナツノマジックは一馬身ほどの差を付けられ、ドンケツにいる。

 やっぱりダメか……。
 こういう大穴は単勝で1000円ぐらいで様子見するのが成功法なんだろうな。

『コーナーを回って、さぁ、直線コースへ向かいます』

 既に、負けを確信し全身の力が抜けた。

 元々、この時代の僕は何をやってもダメだった。
 生活はだらしない。
 金遣いは荒い。
 約束は破る。
 仕事中に昼寝する。
 そんな奴に、幸運なんて訪れるわけなかったのだ。
 クズになりかけている馬券を握りつぶしながら、僕は既に、明日からの生活をどうしようかと、不安に押しつぶされそうになっていた。

 その時だ。

『外からは4番ナツノマジック、ナツノマジックがすごい勢いで追い上げる』

「大牙! 来た! 来た!!」
 椅子から立ち上がっている芙美が、ぴょんぴょん飛び跳ねている。

「え?」

『4番ナツノマジックが1番エターナルランナーを追従。続いて、8番ミスティックフラッシュ、ミスティックフラッシュ、騎手のムチがしなりました。
 追い上げる。ナツノマジックが追い上げ、8番ミスティックフラッシュを抜いた。続いて1番エターナルランナーを追従。4番ナツノマジック。ナツノマジックか1番エターナルランナーか』

「え? え? うそ……」

『ナツノマジックだーーー! ナツノマジックが一位でゴールしました』

「うおおおおおぉぉぉぉおおおおおお!!!!」

「きゃああーーーーーーーーー!!!」

 二人で抱き合って、電光掲示板を見守った。

 レース結果は――

 ④-①-⑧

「うおおおおおーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!」

 僕の3連単は見事的中。

「すごい!! すごい、大牙!!」

「よかった……、よがっだ……」
 芙美と抱き合いながら、僕は、泣いた。

 本当は怖かった。
 自分が持ってるやつなのか、持ってないやつなのか。この時代にいるとわからなくなって、見えていたはずの未来さえみえなくなりそうで――。

「大牙、どうして泣いてるの?」

「2億……3000万……」

「え?」

「払い戻し金。2億3000万だ」

 涙をすすりながらそう言った僕の前で、彼女は口を開けて固まっていた。


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