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24話(3)【室町和風ファンタジー / あらすじ動画あり】
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■お忙しい方のためのあらすじ動画はこちら↓
https://youtu.be/JhmJvv-Z5jI
■他、作品のあらすじ動画
『【和風ファンタジー小説 あらすじ】帝都浅草探しモノ屋~浅草あきんど、妖怪でもなんでも探します~』
-ショート(1分)
https://youtu.be/AE5HQr2mx94
-完全版(3分)
https://youtu.be/dJ6__uR1REU
ーーーーーーーーーーー"
藤若は満月を見上げるように宙を仰ぎ、顔の前に手をかざした。
──今ここぞという舞い。
それは、これしかない。
六条御息所(ろくじょうのみやすどころ)の情念や怨念。哀しさや苦しみ。
その切なくも美しい姿を、自分が舞いで表現するのだ。一手一手、指の先まで彼女の魂を真似る。
〽 月をば眺め明かすとも
月には見えじかげろふの
──どれほど私が月を見て夜を明けしても、月にとって私は陽炎のようなものだから
静かに、高らかに謡い上げる。月を見上げるように顔を上げ、扇をかざす。
そうしていると、どこからか読経の声が混ざってきた。
東方に降三世明王
南方軍茶利明王
西方大威徳
北方金剛地夜叉明王
中央大聖地不動明王
どうやら、良基の派遣した僧が来たみたいだ。一糸乱れぬその読経の声を伴奏に、藤若はゆっくりと舞った。
なまくさまんだばさらだ
せんだまかろしやな
そはたやうんたらたかんまん
聴我説者得大智慧
知我身者即身成仏
読経の声に緊迫感が増していくのとは対照的に、藤若の舞いはどんどんとゆっくりになる。
最後に伏せた顔の前で、指をそろえた手をかざす。後にこれは能楽で、哀しみを表す動作——「しおり」となる。
「ぐああっ……!」
苦悶の悲鳴とともに、御息所の霊が、頭を抱えた。身体から瘴気がぷすぷすと燻り、徐々に姿が薄くなる。
「嫌だっ、嫌だっ……! 消えたくないっ! この恨みを晴らすまでは、絶対にっ……! 私の恨みを、みなに思い知らせてやるのだっ……!」
最後の力を振り絞るように、御息所は叫んだ。だがその身体を形作る瘴気は、もはや消えかけの蝋燭のようであった。
ずくりと胸が痛む。気がついたら、藤若の身体は勝手に動いていた。
セイが止める声を無視して、御息所の霊の前で膝をつく。そして、その面に手をかけた。般若の面は炎にさらされ、どろどろと溶けていた。
「六条御息所。もう、苦しまなくていいんです。あとは僕に任せて、ゆっくり眠って下さい。貴方の恨みや無念は、僕が代わりに晴らす。貴方という存在がいたことも、誰にも忘れさせたりはしない。これから何十年、何百年先まで伝えていく。ただし、美しい舞い──物語として」
途方もないこと言っていると、自分でもわかっていた。
花鬼の想いを舞いとして、後世まで伝えていく。
それはつまり明日をもしれぬ申楽を、今後何百年と続く芸能にしていかないといけないということだ。
そんなの、不可能に近い。
(……でも、やってみせる)
時間も命も、惜しくはない。
自分のすべてを賭けてもいい。
芸人の子として生まれ、乞食と蔑まれても、ずっと舞いが好きだった。
舞いがすべてだった。
そのことに意味があるのなら──。
きっとこのためだ。
「僕が約束します。貴方たち花鬼の物語を、美しい物語にしてずっと後生まで伝える。だから、貴方は安心して静かに眠って下さい」
「うっ……あぁっ……」
六条御息所の霊は、手で顔を覆った。燻っていた瘴気の炎が、火の粉となって散る。宙を舞うそれは、いつしか無数の薄桃色の花びらとなった。
「これは……」
次から次へと降ってくる花びらを、藤若は手にとった。
ふと顔をあげる。
先ほどまでいた屋敷の中とは思えない。辺りは何もない、だだっ広い空間だった。
足元には、水が浅くたゆたっていた。水平線の少し手前に、霞にけぶる一本の糸桜の樹があるのが見えた。
その樹の根元に、一人の女性が立っている。
豊かな髪に、十二単。
──六条御息所だ。
直感した。だがその姿は鬼のものではなく、絵巻物にでてくるような古の王朝を感じさせる優雅なものだった。
「……ありがとう」
御息所は寂しげに微笑むと、ゆっくりと扇を広げ、謡い始めた。
〽 悪鬼心を和らげ 忍辱慈悲の姿にて
菩薩もここに来迎す
成仏得脱の身となり行くぞ
有難き
むせかえるような花吹雪の中。静かに舞い謡う御息所の美しさに、藤若はただ呆然と立ち尽くしていた。
どれくらいそうしていただろう。御息所の姿は、吹きすさぶ花吹雪の中に、溶けるように消えていった。
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◆ここまでのバトル展開は、能「葵上」を参考にしております。
喜多流 大島能楽堂 現代語訳字幕付き 日本語版
https://youtu.be/zLPSdJHBKTk?si=XPYlFDRasynzU_4z&t=1114
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