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第四章:消すな、命の灯をっ!

第17話 消すな、命の灯をっ!

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「今日はこれぐらいにしといてやらぁ、ヒャッハー!」


 モヒカン頭の悪人顔の二人組が銀髪の少年とツインテールの黒髪の少女に向かってそんな言葉を話す。

 何も知らない第三者がその言葉を聞けばモヒカン頭の二人組がいたいけな少年少女を脅しているように見えただろう。


「またわからないことがあればいつでも声かけて来いよぉ。手が空いてたらぁいつでも教えてやるぜぇ、ヒャッハー!」


 だが、実際には冒険者ギルドで冒険者として登録し終えたチャンスにモヒとカンのモヒカン兄弟が先輩冒険者として、あれこれ冒険者としての心得や道具選びのコツを教えて世話を焼いていただけだった。


「色々教えてくださってありがとうございます」

「なぁ、にいいってことよぉ。こいつはシロウさんへの恩返しだからなぁ、ヒャッハー!」


 冒険者ギルドへと戻る途中チャンスが二人にお礼を言うとモヒカン兄弟は自分たちの行為をシロウという人物への恩返しだという。


「恩返しですか?」

「おうよ。俺たち兄弟はなぁ、昔は人様に散々迷惑かけてまくってたもんよぉ。それをシロウさんに目ぇ覚まされた時、恩返しがしてぇって言ったらよぉ、自分の代わりに困ってる人を助けて、また助けた人が恩返しを申し出たらまたほかの困ってる人を助けるように伝えてくださいっていわれてな」

「すごい立派な人ですね……」


 モヒカン兄弟は当時のことを思い出しながら恩師であるシロウの言葉を述べる。

 チャンスがシロウのこと褒めるとモヒカン兄弟は誇らしく胸を張っていた。


「お願いですっ! お母さんを助けてください!!」

「ん? なんかギルドが騒がしいなぁ?」


 チャンス達が冒険者ギルドに戻ると見ずぼらしい格好の10歳ぐらいの少年が半泣きになりながらギルドのロビーで叫んでいた。

 周囲にいた冒険者たちは少年を気にはするが、近寄る様子はない。受付の職員もお互いにお前が行けと視線で言い合い押し付けあっている。


「どうしたんだい、僕?」

「チャンス!? ああもう、まったく……」


 チャンスが少年に近寄り、膝を曲げて同じ視線で話しかける。マトイはチャンスの悪い癖が始まったことに頭を抱える。


「お兄ちゃんは冒険者ですか? お願いです! これで……これで、お母さんを助けてくださいっ! 足りない分は僕が働いて必ず払います!!」


 少年は懐から薄汚れた布の包みを取り出す。包みの紐をほどくと、数枚の手垢で汚れた銅貨とドングリや奇麗な石ころなど、この少年の宝物だと思われる物が露になる。

 遠くから覗き込んでいた冒険者達が報酬額を覗き見て鼻で笑うと興味を失ったように離れていく。


「うん分かった、僕が—――むがっ!?」

「はいストップ。内容も聞かずに安請け合いしない」


 チャンスが少年の助けを求める声に応えようとするとマトイがチャンスの口を塞いで妨害する。


「マトイの嬢ちゃんの言う通りだぜ。困ってる人を助ける……そいつはお前の美徳かもしれねえが……支える力もないのに人を背負ったりしたら、二人とも潰れて共倒れしちまうぜ、ヒャッハー」

「ちゃんと依頼内容を言いて、自分の実力に見合っているかしっかり吟味しないと冒険者失格だぜ、ヒャッハー!」


 話を聞いていたモヒカン兄弟も会話に加わり、チャンスを諭す。


「坊主、いったい母親に何があって、どう助けてほしいか言えるか?」


 一行は少年を連れて酒場へと移動し、モヒカン兄弟が少年から事情を聴く。


「僕の名前はショーン、ここから半日ほど行ったローラン村出身です。お母さんが……デュラハンの血を浴びたんです」

「デュラハンだって!?」


 ショーンという少年が事情を話すと近くで聞き耳を立てていた冒険者たちが一斉に立って少年から距離をとる。

 モヒカン兄弟もマトイも少年から距離をとり、デュラハンが何なのか知らないチャンスだけが席に取り残されていた。


「デュラハンって何ですか? そんなに強いのですか?」

「デュラハン……死の根源といわれる上級アンデッドだ……真夜中に戸口に立って戸を叩き、応対した者に血を浴びせて死の宣告をする。血を浴びたものは一週間以内にデュラハンによって必ず殺される」


 チャンスが周囲に問うと、魔法使いの格好をした老齢の男性が震えながらデュラハンについて語る。


「何とかする方法はないのですか?」

「……返り討ちするぐらいしかないが……デュラハンは強い……シルバー……いや、ゴールドクラスの冒険者でもない限り太刀打ちできない。坊やのお母さんは諦めろ……」


 そういって老齢の魔法使いは視線を逸らす。周囲の冒険者も関わりたくないのか、自らプレートを見せて離れていく。今この場にいる冒険者のほとんどがカッパーやブロンズで数えるほどしかアイアンがいない。デュラハンを倒せる可能性のあるゴールドは皆無だった。


「誰か……誰か……」


 ショーンはすがるような泣き声で助けを求めるが、ギルドにいる冒険者たちは皆視線を逸らす。


「……じゃあ、僕に戦い方を教えてください! 僕がデュラハンと戦う。僕……僕お兄ちゃんになるんだ……」

「……っ!?」


 冒険者を雇うことを諦めたショーンは自分が戦うから、戦い方を教えてと叫ぶ。

 ショーンの兄になるという言葉を聞いた時、チャンスは心に強い衝撃を受け、記憶がフラッシュバックする。


(———、貴方はね、もうすぐお兄ちゃんになるのよ。そんな泣き虫じゃ、生まれてくる子も外を怖がって生まれてこなくなるわ)


 思い出される記憶の中、逆光で顔の見えない大きな女性がチャンスの頬を撫でながら諭す姿が見える。


(僕がお兄ちゃんだよ、僕が君を守るから、早く生まれてきてね)


 大きく膨らんだ女性の腹部に顔を寄せて声をかけている自分の姿が見える。


(強くなりたい? 坊主、どうして強くなりたいんだ?)

(もうすぐ弟か妹が生まれるんだ。僕お兄ちゃんになるから、お兄ちゃんは弟や妹を守れるくらい強くないとダメなんだ。だから、守れる強さ教えてください)


 筋骨隆々のひげもじゃの中年親父に向かって強くなりたいと叫ぶチャンスの姿が見えた。

 もうすぐ生まれる家族のために強くなりたい、その想いをチャンスは叫び、筋骨隆々のひげもじゃ親父はその大きな手でチャンスの頭を撫でていた。


(残念ながら……母体も胎児も……申し訳ありません)


 真っ白い建物の中、赤いランプがついた扉の前で全身を包み込むような薄い緑色の服を着た男性が頭を下げる姿とその男性に縋りつくように泣き崩れる男性の姿が見えた。


(お母さん、起きて……赤ちゃんはどうなったの? 僕ちゃんとお兄ちゃんになるから……ねえ、起きてよ……)


 寒くて暗い部屋で顔に白い布をかけられた女性に泣き縋りつく自分の姿が見えた。

 

「チャンス? あ、ちょっとっ!?」


 急に動かなくなったチャンスを心配そうにのぞき込むマトイ。チャンスは無言で自分の口を塞ぐマトイの手をどかし、ショーンの元へ歩み寄る。


「少し記憶を思い出したんだ。僕にも、この子みたいに生まれてくるはずだった命がいた。理由はわからないけど……僕の場合は母親も生まれてくる命も……全て失った……」

「チャンス……」


 最初はチャンスの行動を止めようと思っていたマトイも、チャンスの独白を聞いて伸ばした手を引っ込める。


「ショーン、デュラハン退治は僕が受ける。僕の名前はラスト・チャンス。僕が君とお母さんと……そして生まれ来る命の最後の希望ラスト・チャンスになって見せる!!」


 今度こそ守る。チャンスはその想いを強く言葉に乗せて、ショーンからデュラハン退治の依頼を承諾した。
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