記憶のない冒険者が最後の希望になるようです

パクリ田盗作

文字の大きさ
17 / 35
第四章:消すな、命の灯をっ!

第17話 消すな、命の灯をっ!

しおりを挟む



「今日はこれぐらいにしといてやらぁ、ヒャッハー!」


 モヒカン頭の悪人顔の二人組が銀髪の少年とツインテールの黒髪の少女に向かってそんな言葉を話す。

 何も知らない第三者がその言葉を聞けばモヒカン頭の二人組がいたいけな少年少女を脅しているように見えただろう。


「またわからないことがあればいつでも声かけて来いよぉ。手が空いてたらぁいつでも教えてやるぜぇ、ヒャッハー!」


 だが、実際には冒険者ギルドで冒険者として登録し終えたチャンスにモヒとカンのモヒカン兄弟が先輩冒険者として、あれこれ冒険者としての心得や道具選びのコツを教えて世話を焼いていただけだった。


「色々教えてくださってありがとうございます」

「なぁ、にいいってことよぉ。こいつはシロウさんへの恩返しだからなぁ、ヒャッハー!」


 冒険者ギルドへと戻る途中チャンスが二人にお礼を言うとモヒカン兄弟は自分たちの行為をシロウという人物への恩返しだという。


「恩返しですか?」

「おうよ。俺たち兄弟はなぁ、昔は人様に散々迷惑かけてまくってたもんよぉ。それをシロウさんに目ぇ覚まされた時、恩返しがしてぇって言ったらよぉ、自分の代わりに困ってる人を助けて、また助けた人が恩返しを申し出たらまたほかの困ってる人を助けるように伝えてくださいっていわれてな」

「すごい立派な人ですね……」


 モヒカン兄弟は当時のことを思い出しながら恩師であるシロウの言葉を述べる。

 チャンスがシロウのこと褒めるとモヒカン兄弟は誇らしく胸を張っていた。


「お願いですっ! お母さんを助けてください!!」

「ん? なんかギルドが騒がしいなぁ?」


 チャンス達が冒険者ギルドに戻ると見ずぼらしい格好の10歳ぐらいの少年が半泣きになりながらギルドのロビーで叫んでいた。

 周囲にいた冒険者たちは少年を気にはするが、近寄る様子はない。受付の職員もお互いにお前が行けと視線で言い合い押し付けあっている。


「どうしたんだい、僕?」

「チャンス!? ああもう、まったく……」


 チャンスが少年に近寄り、膝を曲げて同じ視線で話しかける。マトイはチャンスの悪い癖が始まったことに頭を抱える。


「お兄ちゃんは冒険者ですか? お願いです! これで……これで、お母さんを助けてくださいっ! 足りない分は僕が働いて必ず払います!!」


 少年は懐から薄汚れた布の包みを取り出す。包みの紐をほどくと、数枚の手垢で汚れた銅貨とドングリや奇麗な石ころなど、この少年の宝物だと思われる物が露になる。

 遠くから覗き込んでいた冒険者達が報酬額を覗き見て鼻で笑うと興味を失ったように離れていく。


「うん分かった、僕が—――むがっ!?」

「はいストップ。内容も聞かずに安請け合いしない」


 チャンスが少年の助けを求める声に応えようとするとマトイがチャンスの口を塞いで妨害する。


「マトイの嬢ちゃんの言う通りだぜ。困ってる人を助ける……そいつはお前の美徳かもしれねえが……支える力もないのに人を背負ったりしたら、二人とも潰れて共倒れしちまうぜ、ヒャッハー」

「ちゃんと依頼内容を言いて、自分の実力に見合っているかしっかり吟味しないと冒険者失格だぜ、ヒャッハー!」


 話を聞いていたモヒカン兄弟も会話に加わり、チャンスを諭す。


「坊主、いったい母親に何があって、どう助けてほしいか言えるか?」


 一行は少年を連れて酒場へと移動し、モヒカン兄弟が少年から事情を聴く。


「僕の名前はショーン、ここから半日ほど行ったローラン村出身です。お母さんが……デュラハンの血を浴びたんです」

「デュラハンだって!?」


 ショーンという少年が事情を話すと近くで聞き耳を立てていた冒険者たちが一斉に立って少年から距離をとる。

 モヒカン兄弟もマトイも少年から距離をとり、デュラハンが何なのか知らないチャンスだけが席に取り残されていた。


「デュラハンって何ですか? そんなに強いのですか?」

「デュラハン……死の根源といわれる上級アンデッドだ……真夜中に戸口に立って戸を叩き、応対した者に血を浴びせて死の宣告をする。血を浴びたものは一週間以内にデュラハンによって必ず殺される」


 チャンスが周囲に問うと、魔法使いの格好をした老齢の男性が震えながらデュラハンについて語る。


「何とかする方法はないのですか?」

「……返り討ちするぐらいしかないが……デュラハンは強い……シルバー……いや、ゴールドクラスの冒険者でもない限り太刀打ちできない。坊やのお母さんは諦めろ……」


 そういって老齢の魔法使いは視線を逸らす。周囲の冒険者も関わりたくないのか、自らプレートを見せて離れていく。今この場にいる冒険者のほとんどがカッパーやブロンズで数えるほどしかアイアンがいない。デュラハンを倒せる可能性のあるゴールドは皆無だった。


「誰か……誰か……」


 ショーンはすがるような泣き声で助けを求めるが、ギルドにいる冒険者たちは皆視線を逸らす。


「……じゃあ、僕に戦い方を教えてください! 僕がデュラハンと戦う。僕……僕お兄ちゃんになるんだ……」

「……っ!?」


 冒険者を雇うことを諦めたショーンは自分が戦うから、戦い方を教えてと叫ぶ。

 ショーンの兄になるという言葉を聞いた時、チャンスは心に強い衝撃を受け、記憶がフラッシュバックする。


(———、貴方はね、もうすぐお兄ちゃんになるのよ。そんな泣き虫じゃ、生まれてくる子も外を怖がって生まれてこなくなるわ)


 思い出される記憶の中、逆光で顔の見えない大きな女性がチャンスの頬を撫でながら諭す姿が見える。


(僕がお兄ちゃんだよ、僕が君を守るから、早く生まれてきてね)


 大きく膨らんだ女性の腹部に顔を寄せて声をかけている自分の姿が見える。


(強くなりたい? 坊主、どうして強くなりたいんだ?)

(もうすぐ弟か妹が生まれるんだ。僕お兄ちゃんになるから、お兄ちゃんは弟や妹を守れるくらい強くないとダメなんだ。だから、守れる強さ教えてください)


 筋骨隆々のひげもじゃの中年親父に向かって強くなりたいと叫ぶチャンスの姿が見えた。

 もうすぐ生まれる家族のために強くなりたい、その想いをチャンスは叫び、筋骨隆々のひげもじゃ親父はその大きな手でチャンスの頭を撫でていた。


(残念ながら……母体も胎児も……申し訳ありません)


 真っ白い建物の中、赤いランプがついた扉の前で全身を包み込むような薄い緑色の服を着た男性が頭を下げる姿とその男性に縋りつくように泣き崩れる男性の姿が見えた。


(お母さん、起きて……赤ちゃんはどうなったの? 僕ちゃんとお兄ちゃんになるから……ねえ、起きてよ……)


 寒くて暗い部屋で顔に白い布をかけられた女性に泣き縋りつく自分の姿が見えた。

 

「チャンス? あ、ちょっとっ!?」


 急に動かなくなったチャンスを心配そうにのぞき込むマトイ。チャンスは無言で自分の口を塞ぐマトイの手をどかし、ショーンの元へ歩み寄る。


「少し記憶を思い出したんだ。僕にも、この子みたいに生まれてくるはずだった命がいた。理由はわからないけど……僕の場合は母親も生まれてくる命も……全て失った……」

「チャンス……」


 最初はチャンスの行動を止めようと思っていたマトイも、チャンスの独白を聞いて伸ばした手を引っ込める。


「ショーン、デュラハン退治は僕が受ける。僕の名前はラスト・チャンス。僕が君とお母さんと……そして生まれ来る命の最後の希望ラスト・チャンスになって見せる!!」


 今度こそ守る。チャンスはその想いを強く言葉に乗せて、ショーンからデュラハン退治の依頼を承諾した。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

冷遇王妃はときめかない

あんど もあ
ファンタジー
幼いころから婚約していた彼と結婚して王妃になった私。 だが、陛下は側妃だけを溺愛し、私は白い結婚のまま離宮へ追いやられる…って何てラッキー! 国の事は陛下と側妃様に任せて、私はこのまま離宮で何の責任も無い楽な生活を!…と思っていたのに…。

神は激怒した

まる
ファンタジー
おのれえええぇえぇぇぇ……人間どもめぇ。 めっちゃ面倒な事ばっかりして余計な仕事を増やしてくる人間に神様がキレました。 ふわっとした設定ですのでご了承下さいm(_ _)m 世界の設定やら背景はふわふわですので、ん?と思う部分が出てくるかもしれませんがいい感じに個人で補完していただけると幸いです。

ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。

☆ほしい
ファンタジー
アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。 前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。 ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。 「この家は、もうすぐ潰れます」 家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。 手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。

どうぞ、おかまいなく

こだま。
恋愛
婚約者が他の女性と付き合っていたのを目撃してしまった。 婚約者が好きだった主人公の話。

魅了の対価

しがついつか
ファンタジー
家庭事情により給金の高い職場を求めて転職したリンリーは、縁あってブラウンロード伯爵家の使用人になった。 彼女は伯爵家の第二子アッシュ・ブラウンロードの侍女を任された。 ブラウンロード伯爵家では、なぜか一家のみならず屋敷で働く使用人達のすべてがアッシュのことを嫌悪していた。 アッシュと顔を合わせてすぐにリンリーも「あ、私コイツ嫌いだわ」と感じたのだが、上級使用人を目指す彼女は私情を挟まずに職務に専念することにした。 淡々と世話をしてくれるリンリーに、アッシュは次第に心を開いていった。

さようなら、たったひとつの

あんど もあ
ファンタジー
メアリは、10年間婚約したディーゴから婚約解消される。 大人しく身を引いたメアリだが、ディーゴは翌日から寝込んでしまい…。

処理中です...