記憶のない冒険者が最後の希望になるようです

パクリ田盗作

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第六章:扶桑騒乱

第27話 奇妙な護送依頼

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「チーム結成のお祝いに一つ依頼を紹介するワンニャン」

「依頼ですか?」


 手続きを終えると、ベスティアがチャンス達に依頼を紹介しようと一枚の羊皮紙に書かれた依頼書を見せる。


「武器の護送依頼? スオウの出島のフソウまで?」

「随分と遠くですねえ」


 依頼書を横から覗き見たマトイが依頼内容を口にする。


「スオウってどこ?」

「東の大陸にある国で、メイリュウと呼ばれるイーストドラゴンに守護された国。世界全土統一を目指したグラウス帝国を退けて、帝国の東大陸の制覇を諦めさせたって言われてる」

「ドラゴンに護られた国!?」


 チャンスがエリザベートとマトイにスオウの国のことを聞けば、マトイが答える。

 ドラゴンに護られていると聞いて驚愕するチャンス。


「あとは……ミカドって呼ばれる王様と、ショーグンって言われる役職の人が政治と軍事を担当してる」

「ところで……なぜこのような遠い場所への護送依頼を紹介していただけるのでしょうか?」


 マトイはスオウの国の説明を続け、エリザベートはベスティアに自分たちに依頼を紹介した意図を問う。


「一言でいうと、目立ちすぎワンニャン」

「目立ち……すぎですか……?」


 ベスティアからざっくりと返されてエリザベートは戸惑う。


「助けがあったとはいえ、カッパーランクのチャンスが短期間でデュラハン、バグベアード討伐に成功してるワンニャン。それにバグベアード討伐時に結構な額の財宝を手に入れてるワンニャン」


 ベスティアは目立っている理由を述べる。


「それにチャンスのチームは男一人に魅力的な女二人ワンニャン。モヒ達は良かれと思って吹聴して回ったけど、ちょーっと問題ある人たちにも目をつけられたワンニャン。モヒ達も一緒に加入していれば睨みが効いたんだけどねえワンニャン」


 モヒカン兄弟はオルグがいた遺跡で手に入れた財宝を元手に商売か何か始め、現在はセブンブリッジを離れている。

 彼らが近くにいれば抑止力となったのにとベスティアはため息をついた。


「つまり、ほとぼりが冷めるまでセブンブリッジを離れたほうがいいと?」

「そういうことワンニャン。そんな時にちょうどいい依頼があったワンニャン」


 ベスティアはチャンス達に護送依頼を勧めた意図を伝え、どうするといった顔でチャンス達を見つめる。


「………」

「チャンスさんに任せます」

「チャンスがチームリーダー」


 どうしようかとチャンスが二人に視線を向けるとエリザベートは笑みを浮かべてチャンスに任せ、マトイも同じように決定権をゆだねる。


「受けます」

「依頼人さんに連絡するワンニャン。酒場で待っててほしいワンニャン」


 チャンスが受けるといえばベスティアが依頼人に連絡する手続きをする。



「……ぬう、不躾な視線が多いな……何が珍しいというのか?」

「そりゃあ、異国の人間がいれば珍しいと思うぞ? 気にすんなって」

「………」


 冒険者ギルドに併発する酒場にの男一人、女二人の三人組がやってくる。

 男の方は上半身裸で右肩から腹部にかけて牡丹、両腕には巻き付くようなイーストドラゴンの入れ墨をした濡れたカラスのような艶やかな長髪だった。

 女の一人は12歳前後、男と同じ艶やかな長い髪に様々な髪飾りをつけている。袖と裾の長い一枚布のような服を纏い、長髪の男の左肩に乗り、周囲の奇異の視線に居心地悪そうにしている。

 もう一人の女性は年のころは15歳前後、炎のような真紅の髪と前髪で硬めを隠しているが見える方の瞳の色も髪と同じ真紅だった。使い込まれた革の鎧とマント、腰にエストックを帯刀している。


「おっ、あそこにいる3人組が護送依頼受けた人かな?」


 長髪の男がチャンス達がいるテーブルを指さし、確認する前にチャンス達のテーブルに座る。


「いよぉ、あんたたちが護送依頼受けてくれた冒険者かい?」

「はい、僕はチャンス、こちらがチームメンバーのマトイ、エリザベートです」


 チャンスは席を立って声をかけてきた3人組に挨拶してお辞儀する。


「うむ、吾は吉比姫、こやつは富貴。後ろにいるのがおぬしらと同じ依頼を受けるユイじゃ」


 吉比姫と名乗った男の肩に乗った少女が老齢な喋り方で男と女性を紹介する。


(どうみる? 富貴)

(――いい奴だと思うぜ?)


 自己紹介しながらも吉比姫と富貴はぼそぼそとスオウの言葉で話し合う。


(そういう意味ではないわっ! このたわけっ!!)


 吉比姫は小声で怒鳴りながらポカッと富貴の頭を叩く。富貴の頭は固かったのか、吉比姫は涙を浮かべて叩いた手をさすっていた。


(全員、このギルドにいる中じゃ上の上だ)

(ほほう、それは重畳)


 叩かれた方の富貴はチャンス達を一瞥して実力を読み取り、吉比姫に伝える。

 依頼を受けるチャンス達が実力あることが分かれば吉比姫は満足そうに云々と頷く。


(多分そいつ、俺より強いぞ?) 

「はぁっ!?」


 富貴はチャンスを指さし、自分より強いと吉比姫に伝える。吉比姫はその言葉が信じられないのか、すっとんきょんな声を上げる。


「はい!? 何か、お気に障りましたか!?」

「あ、いや、こっちの事だ、こっちの!」


 吉比姫の声にびくつくチャンス。吉比姫は笑ってごまかしながら、富貴に耳打ちうする。


 (おい、冗談はよせ、富貴! 吾からみても、こやつが一番弱いってわかるぞ!?)

 (いや、そりゃあ、そうなんだけどさ? 俺の勘がそう言ってんだから、間違いないって。まぁ、チャンスの実力は除外してもこの面子なら『あいつ』ともやれるぜ?)


 またスオウの言葉でぼそぼそと話し合う二人。チャンスはスオウ方面の言葉は分からないので、不安そうな顔で二人の様子を見ている。

 ユイと呼ばれた女性は一切口を挟む様子もなく成り行きを見守っている。


(にわかに信じ難いが……信じたからな?)

「実は、フソウまでの護送を頼みたいのだ。代金は、フソウでしっかりと払う事を約束する」

「ちょっといいかな? なんで追加で護衛いるの? 僕が見たところ、富貴とそっちの女性で十分じゃない?」


 吉比姫が依頼内容を話そうとすると、マトイが手を上げて中断し、富貴とユイの二人を指さして護衛は十分であることを指摘する。


「悪いけど、普通の護衛じゃないよね?」

「え………」


 マトイが依頼の裏を読もうとする。チャンスは急な展開に口をはさめずにおろおろしていた。


「ほう?」

(こちらのおなごは頭も切れる、か……思わぬ拾い物か?)


 吉比姫はマトイの裏読みを聞いてにやりと笑う。


「姫、俺としては正直に言っていいと思うよぉ?」

「だな、ただし、聞いたからには引かせんからな?」


 富貴は吉比姫に喋るように促し、吉比姫は袖で口元を隠しながら頷くと依頼の意図をチャンス達に語り始める。


「お見通しの通り、護衛を雇う理由はひとつだ。この二人では凌げぬ敵に狙われているのだ」

「俺たちは、遠い昔にスオウから盗まれたものを取り戻す旅しててさ、肝心の盗まれた物は手に入ったんだけどさ? 盗んだやつとはまた別のそれを狙う奴が、現われたんだ」


 

 富貴はスオウから過去に盗まれた盗品の所在が分かり、スオウを出て盗品を取り戻すために西大陸を旅していたという。

 肝心の盗品を取り戻したはいいが、また別勢力がそれを狙っており、富貴とユイだけでは心もとなく護衛を頼むことにしたという。


「なのでな、これも守って欲しい。この―――」

「「アメノハバキリ」」


 吉比姫が懐から絹のような奇麗な布に包まれた担当を取り出し、チャンス達に見せる。

 その短刀を見た瞬間、エリザベートは驚愕した顔で立ち上がり、吉比姫と異口同音で短刀の名前を言い当てる。


「な、なんで、それをあなたたちが!?」

「むしろ、何で知っておるんじゃ!? これは、スオウのその昔、当時の帝様がメイリュウ様から下知して戴いた宝剣ぞっ!?」


 エリザベートは短刀の正体を知っているのか、吉比姫に詰め寄る勢いでなぜ所有しているか問う。

 同じように吉比姫も東方の国スオウの宝剣を西大陸の一介の冒険者が知っているのだと詰問する。

 無言で控えていたユイがエストックに手をかけ、万が一の事態に備えて警戒する。


「~~~~~~」

「まさか……お主……マー―――」

「「まった!!」」


 吉比姫の質問に答えたくても答えられないのか、エリザベートは必死に言葉を探しながら、申し訳なさそうに吉比姫から顔を逸らして押し黙る。

 吉比姫はその様子から何か思い当たる節があったのか、誰かの名前を口にしようとすると、チャンスと富貴が同時タイミングで止めに入った。


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