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未来への約束
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肌同士の接触は平気なのに、汗が染みついたシーツがじっとりベタベタして気持ち悪い。世良と水島はベッドの上で長いお喋りをしていた。
「コトリちゃんに仲直りができたって報告しなくちゃ。それと振り回してしまったことをもう一度謝らないと。彼女、凄く心配して私の為に怒ってくれたんです」
「……そうだな。ピヨピヨのことずいぶんと怖がらせちゃったから、謝る時は僕も一緒に行くよ」
「お願いします。明日は探索に出ますので、その前にでも」
「了解。……ふぁ、眠くなってきた」
もうすぐ夜勤の終了時間だ。水島ら警備隊員達はこれから就寝となる。
「セラ、一緒にこのまま寝よーよ」
「駄目ですよ。寝る前に水島さんはシャワー浴びなきゃ。男性がシャワーを使える時間は早朝しか無いんですから」
「じゃあセラも一緒に浴びよ。僕がセラを洗ってあげる。あ、小さいけど浴室も使えるんだよね? そっちに入るか。もちろん一緒に」
想像して世良はのぼせそうになった。
「あなたは……。藤宮さんや多岐川さんだって同じ時間帯にシャワー室を使うんですから、鉢合わせするかもしれません。またこってり絞られますよ?」
「あーもう、もっとイチャイチャしてぇ! セラ、異変が終わったら二人で旅行しよう!」
「旅行……ですか」
「嫌?」
「いえ、陸上の遠征以外で泊まりに行ったことが無かったなって。費用の積み立てができなくて、修学旅行を含めた学校の泊まり行事、小・中と全部不参加だったんですよ。高校では多額の奨学金を頂いたので、初めて修学旅行へ行けるってワクワクしていたんですが、異変が起きちゃいましたからきっと中止ですよね」
「セラ……」
水島は世良を抱き寄せた。
「僕がセラの行きたい所、何処へだって連れていってやるよ」
世良の目が輝いた。
「本当ですか?」
「ああ、約束する」
「それは……とても楽しみです。頑張って異変を終わらせてやるって気になりました。温泉に入ってみたいです。それと大型遊園地も!」
嬉しそうにしている世良を見て水島は自然と笑みがこぼれた。一緒にグラウンドを走ったことも有ったが、あれは友人としてだ。恋人として初めて彼女が喜ぶことをしてやれるかもしれない。いや、絶対に実現してやる。
「約束だセラ。二人でいっぱい思い出をつくろう」
「……はい!」
水島と世良はもう一度キスをして、幸せな時間の締め括りとした。
☆☆☆
「二階三階の見回り終わりました。異常無しです」
一階へ降りた水島は、レクレーションルームに待機していた先輩二人へ敬礼のポーズで報告した。
「ご苦労さん。遅かったな」
「廊下でセラに会いまして、少し話し込んでしまいました」
「あー……」
話だけではなかったのだろうと藤宮と多岐川は推測した。
世良に拒絶された昨日の昼間から巡回へ向かう一時間前まで、水島はとにかく機嫌が悪かったのだ。流石に先輩相手に八つ当たりすることはなかったが、口数が異様に少なくなり目つきも鋭かった。それが今や晴れ晴れとした表情となっている。
「高月さんの具合は良くなったんだな?」
「はい。明日の探索には出るそうです」
「そうか……。本音を言うと彼女には寮に残っていてもらいたいんだが」
多岐川の顔が曇った。
「桜木陣営のなりふり構わないやり方を知って、つくづくシズク姫指名ゲームに嫌気がさしたよ」
彼は五月雨姉妹が殺人事件の犯人だと伝え聞いて憤っていた。藤宮も同意した。
「娘のライバルを減らす為とはいえ、桜木理事がまさか生徒を殺害する指示を出すとはな。理事に命じられたと、あの姉妹は決して言わんだろうが」
「はい。桐生理事の娘、アカネさんもゲームに積極的ですよね。私には理解できませんよ、人の命をないがしろにして生き神になろうとする彼女達を。桜木と桐生だけでやり合っていればいいのに。高月さんには合わない世界です」
水島は内心面白くなかった。
(多岐川さんは絶対にセラのことが好きだよな)
花蓮に京香、小鳥だって雫姫には興味が無いのに異変を終わらせる為に頑張っている。しかし多岐川の口からよく出る生徒の名前は決まって高月世良だ。
(今のところは、早世したらしい妹さんの代わりにセラを可愛がっているだけみたいだけど……。セラも何気に多岐川さんを気に入っているからな~。油断できねぇ。マジでキスした相手がこの人だったら僕はブチ切れてたね)
それでも世良を気にかけて護ってくれる人間の存在はありがたかった。迷宮は危険度を増している。愛する世良に何か遭ったら一大事だ。
(セラへ性的な意味で手を出さない限りは……まぁ。あ、やっぱ眠い……)
水島の欠伸が復活した。今日はいろいろ有って疲れた。
「疲れてるみたいだな、ちと早いがもう上がっていいぞ。休める内に休んでおけ」
「ありがとうございます。シャワー浴びてきます」
隊長の許可を得た水島は、タオルと着替えを持ってレクレーションルームを出た。
そこで食堂へ入ろうとしていた杏奈に出会った。
「あっ……、水島さん」
「……………………」
昨日水島に暴力を振るわれそうになった杏奈は完全に怯えていた。金縛りに遭ったかのように固まってしまった。
(面倒くせーけど、アンナちゃんに謝れってセラに言われてるからな)
「ごめん」
「…………えっ」
思いがけず水島から謝罪の言葉を受けて杏奈は驚いた。
「昨日、乱暴にしてごめん。もう酷いことはしないから」
「………………」
「じゃ」
「あ、あのっ」
去ろうとした水島の背中に杏奈も謝罪した。
「私も……すみませんでした。秘密にしておかなくちゃならなかったのに……」
水島は振り返らず、左手を振って歩いていった。
「……………………」
残された杏奈は唇を噛んだ。優しくされ、やはり彼を好きなんだという気持ちが溢れてきた。
(ここで私がセラを傷付けたら、今度こそ確実に水島さんに嫌われるだろうな。殺されるくらいに)
杏奈はこれから世良に、ミネラルウォーターと共に毒薬を手渡そうとしているのだ。
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肌同士の接触は平気なのに、汗が染みついたシーツがじっとりベタベタして気持ち悪い。世良と水島はベッドの上で長いお喋りをしていた。
「コトリちゃんに仲直りができたって報告しなくちゃ。それと振り回してしまったことをもう一度謝らないと。彼女、凄く心配して私の為に怒ってくれたんです」
「……そうだな。ピヨピヨのことずいぶんと怖がらせちゃったから、謝る時は僕も一緒に行くよ」
「お願いします。明日は探索に出ますので、その前にでも」
「了解。……ふぁ、眠くなってきた」
もうすぐ夜勤の終了時間だ。水島ら警備隊員達はこれから就寝となる。
「セラ、一緒にこのまま寝よーよ」
「駄目ですよ。寝る前に水島さんはシャワー浴びなきゃ。男性がシャワーを使える時間は早朝しか無いんですから」
「じゃあセラも一緒に浴びよ。僕がセラを洗ってあげる。あ、小さいけど浴室も使えるんだよね? そっちに入るか。もちろん一緒に」
想像して世良はのぼせそうになった。
「あなたは……。藤宮さんや多岐川さんだって同じ時間帯にシャワー室を使うんですから、鉢合わせするかもしれません。またこってり絞られますよ?」
「あーもう、もっとイチャイチャしてぇ! セラ、異変が終わったら二人で旅行しよう!」
「旅行……ですか」
「嫌?」
「いえ、陸上の遠征以外で泊まりに行ったことが無かったなって。費用の積み立てができなくて、修学旅行を含めた学校の泊まり行事、小・中と全部不参加だったんですよ。高校では多額の奨学金を頂いたので、初めて修学旅行へ行けるってワクワクしていたんですが、異変が起きちゃいましたからきっと中止ですよね」
「セラ……」
水島は世良を抱き寄せた。
「僕がセラの行きたい所、何処へだって連れていってやるよ」
世良の目が輝いた。
「本当ですか?」
「ああ、約束する」
「それは……とても楽しみです。頑張って異変を終わらせてやるって気になりました。温泉に入ってみたいです。それと大型遊園地も!」
嬉しそうにしている世良を見て水島は自然と笑みがこぼれた。一緒にグラウンドを走ったことも有ったが、あれは友人としてだ。恋人として初めて彼女が喜ぶことをしてやれるかもしれない。いや、絶対に実現してやる。
「約束だセラ。二人でいっぱい思い出をつくろう」
「……はい!」
水島と世良はもう一度キスをして、幸せな時間の締め括りとした。
☆☆☆
「二階三階の見回り終わりました。異常無しです」
一階へ降りた水島は、レクレーションルームに待機していた先輩二人へ敬礼のポーズで報告した。
「ご苦労さん。遅かったな」
「廊下でセラに会いまして、少し話し込んでしまいました」
「あー……」
話だけではなかったのだろうと藤宮と多岐川は推測した。
世良に拒絶された昨日の昼間から巡回へ向かう一時間前まで、水島はとにかく機嫌が悪かったのだ。流石に先輩相手に八つ当たりすることはなかったが、口数が異様に少なくなり目つきも鋭かった。それが今や晴れ晴れとした表情となっている。
「高月さんの具合は良くなったんだな?」
「はい。明日の探索には出るそうです」
「そうか……。本音を言うと彼女には寮に残っていてもらいたいんだが」
多岐川の顔が曇った。
「桜木陣営のなりふり構わないやり方を知って、つくづくシズク姫指名ゲームに嫌気がさしたよ」
彼は五月雨姉妹が殺人事件の犯人だと伝え聞いて憤っていた。藤宮も同意した。
「娘のライバルを減らす為とはいえ、桜木理事がまさか生徒を殺害する指示を出すとはな。理事に命じられたと、あの姉妹は決して言わんだろうが」
「はい。桐生理事の娘、アカネさんもゲームに積極的ですよね。私には理解できませんよ、人の命をないがしろにして生き神になろうとする彼女達を。桜木と桐生だけでやり合っていればいいのに。高月さんには合わない世界です」
水島は内心面白くなかった。
(多岐川さんは絶対にセラのことが好きだよな)
花蓮に京香、小鳥だって雫姫には興味が無いのに異変を終わらせる為に頑張っている。しかし多岐川の口からよく出る生徒の名前は決まって高月世良だ。
(今のところは、早世したらしい妹さんの代わりにセラを可愛がっているだけみたいだけど……。セラも何気に多岐川さんを気に入っているからな~。油断できねぇ。マジでキスした相手がこの人だったら僕はブチ切れてたね)
それでも世良を気にかけて護ってくれる人間の存在はありがたかった。迷宮は危険度を増している。愛する世良に何か遭ったら一大事だ。
(セラへ性的な意味で手を出さない限りは……まぁ。あ、やっぱ眠い……)
水島の欠伸が復活した。今日はいろいろ有って疲れた。
「疲れてるみたいだな、ちと早いがもう上がっていいぞ。休める内に休んでおけ」
「ありがとうございます。シャワー浴びてきます」
隊長の許可を得た水島は、タオルと着替えを持ってレクレーションルームを出た。
そこで食堂へ入ろうとしていた杏奈に出会った。
「あっ……、水島さん」
「……………………」
昨日水島に暴力を振るわれそうになった杏奈は完全に怯えていた。金縛りに遭ったかのように固まってしまった。
(面倒くせーけど、アンナちゃんに謝れってセラに言われてるからな)
「ごめん」
「…………えっ」
思いがけず水島から謝罪の言葉を受けて杏奈は驚いた。
「昨日、乱暴にしてごめん。もう酷いことはしないから」
「………………」
「じゃ」
「あ、あのっ」
去ろうとした水島の背中に杏奈も謝罪した。
「私も……すみませんでした。秘密にしておかなくちゃならなかったのに……」
水島は振り返らず、左手を振って歩いていった。
「……………………」
残された杏奈は唇を噛んだ。優しくされ、やはり彼を好きなんだという気持ちが溢れてきた。
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