私立桜妃女学院ラビリンス【R18】

水無月礼人

文字の大きさ
140 / 250

未来への約束

しおりを挟む
 ……………………。
 ……………………。
 ……………………。

 肌同士の接触は平気なのに、汗が染みついたシーツがじっとりベタベタして気持ち悪い。世良と水島はベッドの上で長いお喋りをしていた。

「コトリちゃんに仲直りができたって報告しなくちゃ。それと振り回してしまったことをもう一度謝らないと。彼女、凄く心配して私の為に怒ってくれたんです」
「……そうだな。ピヨピヨのことずいぶんと怖がらせちゃったから、謝る時は僕も一緒に行くよ」
「お願いします。明日は探索に出ますので、その前にでも」
「了解。……ふぁ、眠くなってきた」

 もうすぐ夜勤の終了時間だ。水島ら警備隊員達はこれから就寝となる。

「セラ、一緒にこのまま寝よーよ」
「駄目ですよ。寝る前に水島さんはシャワー浴びなきゃ。男性がシャワーを使える時間は早朝しか無いんですから」
「じゃあセラも一緒に浴びよ。僕がセラを洗ってあげる。あ、小さいけど浴室も使えるんだよね? そっちに入るか。もちろん一緒に」

 想像して世良はのぼせそうになった。

「あなたは……。藤宮さんや多岐川さんだって同じ時間帯にシャワー室を使うんですから、鉢合わせするかもしれません。またこってり絞られますよ?」
「あーもう、もっとイチャイチャしてぇ! セラ、異変が終わったら二人で旅行しよう!」
「旅行……ですか」
「嫌?」
「いえ、陸上の遠征以外で泊まりに行ったことが無かったなって。費用の積み立てができなくて、修学旅行を含めた学校の泊まり行事、小・中と全部不参加だったんですよ。高校では多額の奨学金を頂いたので、初めて修学旅行へ行けるってワクワクしていたんですが、異変が起きちゃいましたからきっと中止ですよね」
「セラ……」

 水島は世良を抱き寄せた。

「僕がセラの行きたい所、何処へだって連れていってやるよ」

 世良の目が輝いた。

「本当ですか?」
「ああ、約束する」
「それは……とても楽しみです。頑張って異変を終わらせてやるって気になりました。温泉に入ってみたいです。それと大型遊園地も!」

 嬉しそうにしている世良を見て水島は自然と笑みがこぼれた。一緒にグラウンドを走ったことも有ったが、あれは友人としてだ。恋人として初めて彼女が喜ぶことをしてやれるかもしれない。いや、絶対に実現してやる。

「約束だセラ。二人でいっぱい思い出をつくろう」
「……はい!」

 水島と世良はもう一度キスをして、幸せな時間の締めくくりとした。


☆☆☆


「二階三階の見回り終わりました。異常無しです」

 一階へ降りた水島は、レクレーションルームに待機していた先輩二人へ敬礼のポーズで報告した。

「ご苦労さん。遅かったな」
「廊下でセラに会いまして、少し話し込んでしまいました」
「あー……」

 話だけではなかったのだろうと藤宮と多岐川は推測した。
 世良に拒絶された昨日の昼間から巡回へ向かう一時間前まで、水島はとにかく機嫌が悪かったのだ。流石に先輩相手に八つ当たりすることはなかったが、口数が異様に少なくなり目つきも鋭かった。それが今や晴れ晴れとした表情となっている。

「高月さんの具合は良くなったんだな?」
「はい。明日の探索には出るそうです」
「そうか……。本音を言うと彼女には寮に残っていてもらいたいんだが」

 多岐川の顔が曇った。

「桜木陣営のなりふり構わないやり方を知って、つくづくシズク姫指名ゲームに嫌気がさしたよ」

 彼は五月雨姉妹が殺人事件の犯人だと伝え聞いていきどおっていた。藤宮も同意した。

「娘のライバルを減らす為とはいえ、桜木理事がまさか生徒を殺害する指示を出すとはな。理事に命じられたと、あの姉妹は決して言わんだろうが」
「はい。桐生理事の娘、アカネさんもゲームに積極的ですよね。私には理解できませんよ、人の命をないがしろにして生き神になろうとする彼女達を。桜木と桐生だけでやり合っていればいいのに。高月さんには合わない世界です」

 水島は内心面白くなかった。

(多岐川さんは絶対にセラのことが好きだよな)

 花蓮に京香、小鳥だって雫姫には興味が無いのに異変を終わらせる為に頑張っている。しかし多岐川の口からよく出る生徒の名前は決まって高月世良だ。

(今のところは、早世そうせいしたらしい妹さんの代わりにセラを可愛がっているだけみたいだけど……。セラも何気に多岐川さんを気に入っているからな~。油断できねぇ。マジでキスした相手がこの人だったら僕はブチ切れてたね)

 それでも世良を気にかけて護ってくれる人間の存在はありがたかった。迷宮は危険度を増している。愛する世良に何か遭ったら一大事だ。

(セラへ性的な意味で手を出さない限りは……まぁ。あ、やっぱ眠い……)

 水島の欠伸あくびが復活した。今日はいろいろ有って疲れた。

「疲れてるみたいだな、ちと早いがもう上がっていいぞ。休める内に休んでおけ」
「ありがとうございます。シャワー浴びてきます」

 隊長の許可を得た水島は、タオルと着替えを持ってレクレーションルームを出た。
 そこで食堂へ入ろうとしていた杏奈に出会った。

「あっ……、水島さん」
「……………………」

 昨日水島に暴力を振るわれそうになった杏奈は完全に怯えていた。金縛りに遭ったかのように固まってしまった。

(面倒くせーけど、アンナちゃんに謝れってセラに言われてるからな)

「ごめん」
「…………えっ」

 思いがけず水島から謝罪の言葉を受けて杏奈は驚いた。

「昨日、乱暴にしてごめん。もう酷いことはしないから」
「………………」
「じゃ」
「あ、あのっ」

 去ろうとした水島の背中に杏奈も謝罪した。

「私も……すみませんでした。秘密にしておかなくちゃならなかったのに……」

 水島は振り返らず、左手を振って歩いていった。

「……………………」

 残された杏奈は唇を噛んだ。優しくされ、やはり彼を好きなんだという気持ちが溢れてきた。

(ここで私がセラを傷付けたら、今度こそ確実に水島さんに嫌われるだろうな。殺されるくらいに)

 杏奈はこれから世良に、ミネラルウォーターと共に毒薬を手渡そうとしているのだ。 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

まなの秘密日記

到冠
大衆娯楽
胸の大きな〇学生の一日を描いた物語です。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

本能寺からの決死の脱出 ~尾張の大うつけ 織田信長 天下を統一す~

bekichi
歴史・時代
戦国時代の日本を背景に、織田信長の若き日の物語を語る。荒れ狂う風が尾張の大地を駆け巡る中、夜空の星々はこれから繰り広げられる壮絶な戦いの予兆のように輝いている。この混沌とした時代において、信長はまだ無名であったが、彼の野望はやがて天下を揺るがすことになる。信長は、父・信秀の治世に疑問を持ちながらも、独自の力を蓄え、異なる理想を追求し、反逆者とみなされることもあれば期待の星と讃えられることもあった。彼の目標は、乱世を統一し平和な時代を創ることにあった。物語は信長の足跡を追い、若き日の友情、父との確執、大名との駆け引きを描く。信長の人生は、斎藤道三、明智光秀、羽柴秀吉、徳川家康、伊達政宗といった時代の英傑たちとの交流とともに、一つの大きな物語を形成する。この物語は、信長の未知なる野望の軌跡を描くものである。

彼の言いなりになってしまう私

守 秀斗
恋愛
マンションで同棲している山野井恭子(26才)と辻村弘(26才)。でも、最近、恭子は弘がやたら過激な行為をしてくると感じているのだが……。

処理中です...