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6月6日の迷宮(三)
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「そのシズク姫ってのを調べれば、迷宮の謎に迫るヒントを得られるということかい?」
藤宮も雫姫の話題に興味を示した。世良は声を弾ませた。
「かもしれないです。いや、迷宮がシズク姫に関連していると判っただけでも大きな一歩ですよ! 今まで何も判らない状態でしたから!」
「あ、いや、みんな、私のはただの推測だから……。違ってるかもしれないから……」
茜は誤魔化そうとしたが、一度上がった少女達のテンションは簡単に下がるものではなかった。茜と犬猿の仲である花蓮ですら彼女を褒めた。
「いやいやいや、たぶん大当たりだよ。おまえのこと気にくわねーけど、今回は認めてやるよ!」
「別にアンタに認められなくても……」
「だってさ、昔って飢饉が何度も有って、飢え死にした農民がたくさん居たんだろ? あの餓鬼は食べたいって欲求から生まれた化け物なんじゃねーの? シズク姫が自分の時代から呼び寄せたんだよ、きっとさ」
「あっ、そうかも……」
少女達は花蓮の説明に納得した。
「じゃあ、僕達が戦ったあの触手の化け物は何だろうね?」
水島が世良を見ながらニヤついた。
「粘液でネト付いてて、妙にやらしい触手だったよね? イケメンちゃんを空中に逆さ固定して、服を引き裂いて下着だけにしちゃったし」
「え……え? 昨日のアレは……」
小鳥がワナワナと身体を震わせた。
昨日迷宮探索から寮に帰還した世良が、水島のジャケットを着ていたことを小鳥は思い出した。背の高い男の上着だったので一応はワンピースのようであったが、世良も女性としては高身長な方なので、マイクロミニとなり際どい太腿を皆の前に披露していた。
「お姉様は服をちょっと破られただけだって……。だから水島さんの上着を借りたって……。下着だけだったんですか? あ、あなた見たんですか、お姉様の下着姿を!!」
「見たよ?」
水島はアッサリ答えた。
「つかイケメンちゃん超ヤバかったよね? あの触手、下着の中にも入ってきたでしょ? 僕とそこのお姫様が助けなかったら、あのまま触手に処女を奪われてたんじゃねーの? イケメンちゃんは未経験だよね?」
「な……な…………」
照れではなく怒りで小鳥は真っ赤になった。
「あなたってなんて無神経なの! 怖い思いをしたお姉様を言葉でも傷付ける気!? もっとデリカシーと言うものを持ちなさいよ!」
「コトリちゃん、私は大丈夫だよ」
「でも……!」
「はいはい、そこまで」
藤宮が仲裁に入った。
「水島、もう少し言葉に気をつけろ。ごめんなお嬢ちゃん達、コイツはこんなだが、戦闘では頼りになる奴だから」
小鳥は頬を膨らませたが黙った。
「よし、シズク姫への言及は寮に戻ってからにして、ひとまず探索を再開するぞ。右回りでぐるっと見てみよう」
藤宮が再び歩き出したので少女達は後を追った。右手側に別れ道が在ったので、藤宮はナイフで壁に印を彫り付けてから右折した。
今度は道(廊下?)の左右に扉が在った。片方は教室の扉そっくりで、もう一方は年代物に見える赤い格子戸だった。
藤宮は水島を手で招き隣に並べた。
「まずはこちらの部屋からだ。……開けるぞ?」
「いつでもどうぞ」
藤宮は教室の扉を脚で開けた。
『ギッ!?』
中には七体の餓鬼が居て、侵入者に気づいて襲いかかってきた。しかし二人の警備隊員が拳銃を連射し、あっけないほど簡単に餓鬼を一掃した。
「藤宮さんもお強いんですね」
一切動じず餓鬼へ的確に弾を打ち込んだ藤宮を見て、世良は素直に感心した。
「イケメンちゃんは僕のことは全然褒めてくれないのにな……。ま、隊長は一兵卒の僕と違って防衛大出のエリートだからね~」
「藤宮さんも自衛隊員だったんですか?」
「ああ、まぁな……。俺は海上自衛隊出身だ」
「でもって射撃が一番上手いのは元警官の多岐川さんだよ~。あの人、オリンピック選手候補だったくらいだから」
「凄いですね……」
警備隊員達は世良達が思っていた以上に精鋭揃いだったようだ。
「しかしここは何だ?」
首を傾げる藤宮。世良は彼の背中の横から室内を眺めた。八つの長方形の机が並んでいた。机には水道と洗い場が備え付いている。
「完全再現ではないですが、校舎の一階に在ったはずの調理実習室だと思います」
「一階に在った部屋が地下に……か。では元々の場所には今、何が在るんだろうな?」
「判らないです。昨日は音楽室の位置も変わっていました」
「ま、一部屋ずつ見ていけば判りますよ~。次はあっちの扉を開けましょう。何が出るかな~」
「おい水島、勝手に行くな。俺が開ける」
藤宮は部下の勇み足を咎めた。この人も水島の扱いには苦労しているんだろうなと、世良は密かに同情した。
銃声が響いたせいで他の魔物達が寄ってくることを藤宮は懸念したが、廊下は静かだった。近辺に魔物はもう居ないのだろうか? それならいいのだが。
藤宮は格子戸をそっと開けた。
暗い。室内を闇が支配していた。この部屋の壁や床は発光しないのだろうか?
藤宮は小型だが強力な懐中電灯を上着から取り出して、室内を照らしてみた。灯りが当たった部分の影がおかしな動きをした。
「気をつけて、コウモリよ!!」
背後で京香が叫んだ。
藤宮も雫姫の話題に興味を示した。世良は声を弾ませた。
「かもしれないです。いや、迷宮がシズク姫に関連していると判っただけでも大きな一歩ですよ! 今まで何も判らない状態でしたから!」
「あ、いや、みんな、私のはただの推測だから……。違ってるかもしれないから……」
茜は誤魔化そうとしたが、一度上がった少女達のテンションは簡単に下がるものではなかった。茜と犬猿の仲である花蓮ですら彼女を褒めた。
「いやいやいや、たぶん大当たりだよ。おまえのこと気にくわねーけど、今回は認めてやるよ!」
「別にアンタに認められなくても……」
「だってさ、昔って飢饉が何度も有って、飢え死にした農民がたくさん居たんだろ? あの餓鬼は食べたいって欲求から生まれた化け物なんじゃねーの? シズク姫が自分の時代から呼び寄せたんだよ、きっとさ」
「あっ、そうかも……」
少女達は花蓮の説明に納得した。
「じゃあ、僕達が戦ったあの触手の化け物は何だろうね?」
水島が世良を見ながらニヤついた。
「粘液でネト付いてて、妙にやらしい触手だったよね? イケメンちゃんを空中に逆さ固定して、服を引き裂いて下着だけにしちゃったし」
「え……え? 昨日のアレは……」
小鳥がワナワナと身体を震わせた。
昨日迷宮探索から寮に帰還した世良が、水島のジャケットを着ていたことを小鳥は思い出した。背の高い男の上着だったので一応はワンピースのようであったが、世良も女性としては高身長な方なので、マイクロミニとなり際どい太腿を皆の前に披露していた。
「お姉様は服をちょっと破られただけだって……。だから水島さんの上着を借りたって……。下着だけだったんですか? あ、あなた見たんですか、お姉様の下着姿を!!」
「見たよ?」
水島はアッサリ答えた。
「つかイケメンちゃん超ヤバかったよね? あの触手、下着の中にも入ってきたでしょ? 僕とそこのお姫様が助けなかったら、あのまま触手に処女を奪われてたんじゃねーの? イケメンちゃんは未経験だよね?」
「な……な…………」
照れではなく怒りで小鳥は真っ赤になった。
「あなたってなんて無神経なの! 怖い思いをしたお姉様を言葉でも傷付ける気!? もっとデリカシーと言うものを持ちなさいよ!」
「コトリちゃん、私は大丈夫だよ」
「でも……!」
「はいはい、そこまで」
藤宮が仲裁に入った。
「水島、もう少し言葉に気をつけろ。ごめんなお嬢ちゃん達、コイツはこんなだが、戦闘では頼りになる奴だから」
小鳥は頬を膨らませたが黙った。
「よし、シズク姫への言及は寮に戻ってからにして、ひとまず探索を再開するぞ。右回りでぐるっと見てみよう」
藤宮が再び歩き出したので少女達は後を追った。右手側に別れ道が在ったので、藤宮はナイフで壁に印を彫り付けてから右折した。
今度は道(廊下?)の左右に扉が在った。片方は教室の扉そっくりで、もう一方は年代物に見える赤い格子戸だった。
藤宮は水島を手で招き隣に並べた。
「まずはこちらの部屋からだ。……開けるぞ?」
「いつでもどうぞ」
藤宮は教室の扉を脚で開けた。
『ギッ!?』
中には七体の餓鬼が居て、侵入者に気づいて襲いかかってきた。しかし二人の警備隊員が拳銃を連射し、あっけないほど簡単に餓鬼を一掃した。
「藤宮さんもお強いんですね」
一切動じず餓鬼へ的確に弾を打ち込んだ藤宮を見て、世良は素直に感心した。
「イケメンちゃんは僕のことは全然褒めてくれないのにな……。ま、隊長は一兵卒の僕と違って防衛大出のエリートだからね~」
「藤宮さんも自衛隊員だったんですか?」
「ああ、まぁな……。俺は海上自衛隊出身だ」
「でもって射撃が一番上手いのは元警官の多岐川さんだよ~。あの人、オリンピック選手候補だったくらいだから」
「凄いですね……」
警備隊員達は世良達が思っていた以上に精鋭揃いだったようだ。
「しかしここは何だ?」
首を傾げる藤宮。世良は彼の背中の横から室内を眺めた。八つの長方形の机が並んでいた。机には水道と洗い場が備え付いている。
「完全再現ではないですが、校舎の一階に在ったはずの調理実習室だと思います」
「一階に在った部屋が地下に……か。では元々の場所には今、何が在るんだろうな?」
「判らないです。昨日は音楽室の位置も変わっていました」
「ま、一部屋ずつ見ていけば判りますよ~。次はあっちの扉を開けましょう。何が出るかな~」
「おい水島、勝手に行くな。俺が開ける」
藤宮は部下の勇み足を咎めた。この人も水島の扱いには苦労しているんだろうなと、世良は密かに同情した。
銃声が響いたせいで他の魔物達が寄ってくることを藤宮は懸念したが、廊下は静かだった。近辺に魔物はもう居ないのだろうか? それならいいのだが。
藤宮は格子戸をそっと開けた。
暗い。室内を闇が支配していた。この部屋の壁や床は発光しないのだろうか?
藤宮は小型だが強力な懐中電灯を上着から取り出して、室内を照らしてみた。灯りが当たった部分の影がおかしな動きをした。
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