私立桜妃女学院ラビリンス【R18】

水無月礼人

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水島小春と言う男(一)

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 出発から一時間半後、地下一階部分を完全踏破した探索チームは、大きな怪我人を出すことなく無事に寮へ帰還し多岐川に出迎えられた。

「隊長に皆さん、お帰りなさい。あ、そこ高月さんと椎名さんが綺麗にしてくれたので、ブーツのまま上がらないで下さいね?」

 生徒達はすぐに自室へ引き上げていき、藤宮と水島は玄関で脚がみっちり詰まったブーツと格闘した。

「くそっ、やっと脱げた! 下までファスナーの脱ぎやすいタイプにして欲しいッスね」
「まったくだ。多岐川、留守中何か変わったことは有ったか?」
「学院警備室が物資を届けに来ました。それとゴミの回収も」

 多岐川が目線で示した先には、二つの段ボールが置かれていた。

「二つもか? 今回は多いな」
「一つは桐生茜さん宛てらしいです」
「へぇ……」

 水島が興味を示した。

「何が入ってんでしょうかね~?」

 桐生の名前が大きく書かれた段ボールは、しっかりとガムテープで口が閉じられていた。

「アーチェリーの矢と装備品じゃないか? 昨日の探索で魔物に破壊されてしまったからな。夕べか今朝、実家に連絡して送ってもらったんだろう」
「なるほど。てことは桐生のお嬢さん、外部との連絡手段を持っているってことですよね~」

 意地悪く微笑む水島とは対照的に、藤宮と多岐川は眉をひそめた。

「……そういうことだな」
「やはり桐生家は、シズク姫対策を以前から取っていたんですね」
「あざといな~お嬢さんは。あ、この荷物は僕が届けます」

 水島はヒョイと茜宛ての段ボールを持ち上げた。そしてドスドスと階段を昇り三階まで行った。

「あれ、アンタは……」

 三階通路には世良に付きまとっていた少女、北島鈴が居た。鈴は水島を見てパアッと顔を輝かせた。

「アンタ、セラのファンだっていうコだよな? 名前はええと……」
「北島スズです! お帰りなさい水島さん、無事をお祈りしてました!」
「……どうも。アンタはなんでこのフロアに居るの? 一年生だから部屋は二階のはずだよね?」
「あっ……、私に何かお役に立てることがないか探してるんです。セラ様みたいに!」
「そりゃ立派な心がけだね」
「ありがとうございます! 私頑張ります!!」

 水島に褒められた鈴は上機嫌で階段を降りていった。その後ろ姿を水島は白けた面持ちで見送った。

(ありゃあ絶対に僕に気が有るよね。じゃあ何の目的が有ってセラに近付こうとしてんのか)

 取り敢えず水島は使いを済ませようと動いた。通路の一番奥に在る茜の部屋の前まで行き、扉をノックした。

「北島さん? 忘れ物?」

 開けたのは杏奈だった。水島が立っているのを見た杏奈は目を丸くした。

「やぁアンナちゃん。北島って一年の北島スズのこと?」
「え、あの……」

 杏奈はベッドに寝転がっている茜を気にした。今日は余裕が無くて髪を結わえていない茜は、不機嫌な声と表情で水島を迎えた。

「水島さん、何の用かしら!?」
「お届け物だよ~」

 水島は段ボール箱を茜の側の床へ置いた。

「これ何が入ってんの? 開けていい?」
「駄目!! アーチェリー関連の物と下着や生理用品が入ってんの。男の人は遠慮して!」
「はいは~い。ねぇここに、一年生の北島スズが来てなかった?」
「はぁ? 知らないよ一年生なんて」

 茜はプイと横を向いた。

「私は身体がつらくて休みたいの。用が済んだら出ていってもらえないかしら!?」
「はいは~い」

(糞女が……。身体がつらいってのは本当らしいけどな。戦線復帰は当分先だろう。ならそんなに早く装備品の補充はらないはずだ。何を急いで送ってもらったのやら)

「アンナちゃんはずっとお嬢さんの世話をしてるの?」
「あ、はい……。お身体をあまり動かせないようなので」
「そっか。じゃあね」

 水島は茜の部屋を後にした。何故かその口元は笑みを形成していた。
 次に彼が向かったのは、二階の世良の部屋だった。

「セラ、僕だよ。顔を見せてくれる?」

 扉が開かれて水島はまた微笑んだ。初めて来た時は天の岩戸状態だったというのに、ずいぶんと進歩したものだ。

「お疲れ様です。コハルさんも他の皆さんも怪我は無いですか?」

 世良の言動も柔らかいものになっていた。以前は顔を合わせる度に顔をしかめられたのに。

「うん大丈夫。今日で地下一階部分は全部チェックできたよ」
「そうなんですか? シズク姫は居ましたか!?」
「部屋入っていい? 落ち着いて話したい」
「はい。えっちなことしないなら歓迎します」

 牽制はされたがすんなり部屋に通された。

(セラは僕に心を開きかけているよね?)

 世良がベッドに腰かけ、その隣には小鳥が陣取っていたが、水島は力づくで小鳥を横へどかせた。

「ちょっとー!!」

 抗議する小鳥を無視して水島は世良の隣へ悠々腰かけた。

「地下一階でシズク姫は見つからなかった。放置していたコウモリの部屋も見たんだけどね」

 話題は探索について。色気は無かったが世良が真剣に話を聞いてくれることが水島は嬉しかった。

「でもコウモリが居た部屋にはね、下へ続く階段が在ったんだよ」
「地下二階以降も在るんですか……!」
「うん。きっと更に探索は厳しいものになると思う。怖い?」
「怖いですけど……でも行きます。早く異変を終わらせたいから。誰かがシズク姫に選ばれてしまえば、もう寮内で殺人が起こることもなくなりますよね?」
「そうだね……」

(大丈夫だよセラ。目障りなハエは全部僕が叩き潰してあげるから)

 水島の血がたぎった。それはセラを護るという目的の為であったが、彼は同時に敵を叩き潰せることに興奮していた。
 叔父を、そして自衛隊の上官を半殺しにした時のあの高揚感。絶対的権力者であったはずの相手。立場が逆転して水島の暴力が優位に立った途端、彼らは泣いて許しを請うてきた。もちろん許さなかった。徹底的にやってやった。唯一の心残りは殺せなかったことだ。

(ああ楽しみだ。セラ、キミにクズ共の血を捧げるよ)

 抑えていた内の狂気を、水島は解放したのだった。
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