107 / 250
詩音の苛立ち
しおりを挟む
世良と水島は唇を離して、そのまま至近距離で数秒見つめ合った。そしてすぐに水島側のアクションにより、二人の唇は再度重なり合った。
「……………………」
グイと抱き寄せられて、水島の右手によって世良は臀部の肉を強く掴まれた。
「……っ!」
世良のヘソ辺りに硬く熱いモノが当たっている。
キスまでは杏奈から借りて読んだ少女漫画の世界だった。しかし今、密着しているのは細い線で描かれた漫画のヒーローじゃない。
荒い息づかいと世良の肉体を求める性衝動。
17歳の世良は現実の男に恐怖して、自分を拘束する水島の逞しい腕をペチペチと叩いた。
「…………セラ?」
「こ、これ以上は駄目です! 今日はここまで!」
小声で注意する世良へ、水島は恨めしい視線を向けた。
「ここでストップって拷問かよ。僕、完全に臨戦態勢に入っちゃったんだけど」
男って怖い。股間にテントを張る水島を目の当たりにして世良は改めて思った。キスでうっとりして、それで終わりだと思っていた自分とは違う生き物なんだと。
世良には次のステップに進むなど頭に無かった。
「ええと、真面目なこと考えれば元に戻るのでは……? 数学の公式とか英文法とか」
「馬鹿、そう簡単に戻るかよ」
そういうものなの? 男の生理現象を知らず考え込んだ世良へ、水島は囁き声でとんでもない提案をした。
「今日の探索をパスして、二人で空き部屋にしけこもう」
世良は血の気が引いた。勃起した男と密室で二人きり。それからどうなるかなんて、火を見るよりも明らかだろう。
「わ、私には無理です」
「セラ、お願い」
「無理ですってば!」
取り縋ろうとする水島を払い除けているところへ、詩音と花蓮が通りかかった。
「アンタら……何じゃれ合ってんの?」
食堂の壁際で抱きしめようとする水島、逃れようとする赤面の世良は恋人同士にしか見えなかった。
「水島さんが高月を狙っているのは勘づいてたけど、アンタら付き合うことになったワケ?」
花蓮の指摘に水島が強く頷いた。
「そ。今日から僕達は恋人同士。そういうことで宜しく」
「馬鹿言わないで!」
世良ではなく詩音が食ってかかった。
「あなたは生徒を護りにきた警備隊員でしょう? 護る対象である生徒に手を出すなんて、いったいどういうつもりですか!?」
「どういうつもりも何も、僕は世良が大好き。それ以外に無いよ」
「そんな理屈が通用すると思いますか? 高月さんはまだ高校二年生ですよ? 成人男性のすることではないでしょう?」
「まぁまぁシオン」
花蓮が仲裁に入った。
「人が大量に死ぬこんなヤバイ状況で共同生活してんだよ。誰かに寄りかかりたくなっても不思議じゃないさ」
「メッシュちゃん……、クラブのママみたいな風格が有るんだけど、キミ本当に高校生?」
「うるせー。高月、そんなチャラ男じゃなくて真面目な多岐川さんにしな」
「ああ? メッシュ、セラに余計なこと吹き込んでんじゃねーよ」
「味方してやったのに、アンタが人の親切を茶化したからだろーが!」
仲裁役だったはずの花蓮と水島が口喧嘩を始めたところへ、また別の人物の声がかかった。
「……何してんの?」
廊下で冷めた目を向けていたのは、しばらく姿を見ていなかった桐生茜だった。アーチェリーの装備を身に着けているということは、今日から探索に立候補できるまでに回復したのか。
「先輩! 動けるようになったんですね、良かったです!」
「まーね……」
世良は素直に茜の回復を喜んだが、茜が世良を殺そうとしたことを知っている水島は険しい目つきになった。
(お嬢様が復活ね……。あれだけの目に遭ったのに、また迷宮へ潜ろうっていう根性は褒めてやるよ。だけど僕が付いている限りセラに手出しはさせない。……逆に事故に見せかけて始末してやるか。セイゴさんの許可が下りたことだしな)
さっさとレクレーションルームへ消えた茜の背中に、水島は皮肉めいた笑みを向けた。
「シオン、あたし達も行こ。ジャンケンに間に合わなくなる」
「う、うん」
「セラも二人と一緒に行きな」
「コハルさんは?」
「トイレ行ってくる。コイツを何とか鎮めないと」
まだ膨らんだままの水島の股間に一度目をやって、世良と詩音は慌てて視線を逸らした。花蓮はあーあ、という表情だった。
「できるだけすぐ戻る。探索は絶対に行くって隊長に伝えておいてね」
まるで恥じらうことなく、水島は鼻唄を口ずさんでトイレの方へ歩いていった。
「……ふざけた人!」
詩音が吐き捨てた。
「高月さんも高月さんだよ、何であんな人と親しくしてるの!?」
出会った当初は世良だって、水島とキスまでする仲になるとは思っていなかった。
「あー……、確かに問題てんこ盛りな人ですが、良い所も有るんですよ。私は何度も助けてもらったし……」
「庇うってことは、高月も水島さんのこと好きなんだね?」
花蓮が被せ気味に質問してきた。これは完全に好奇心だな。世良は苦笑いした。
「たぶん……そうなんだと思います」
「おおっ! 真面目な高月があのタイプを選ぶとはね!」
「駄目だよ、高月さん!!」
詩音に大声を出され、世良と花蓮はビクッと身体を震わせた。
「どうせあの人がしつこくアプローチしてきたんでしょ? 高月さんは純情だから流されちゃったんだよ。少し距離を置いて冷静になりなさい!」
「ちょ、ちょっとシオン……」
「男の人に頼りたくなるかもだけど、警備隊員は全員大人だから! 私達女子高生に手を出す大人なんて碌なもんじゃないんだよ!?」
「先輩……?」
詩音の剣幕に世良はタジタジとなった。
「お~い、何騒いでんだ? どうしたよ生徒会長」
レクレーションルームの扉が開いて、藤宮が顔を覗かせた。廊下に居た詩音の声が室内まで届いていたらしい。
バツの悪い顔をした詩音に代わって花蓮が答えた。
「何でも無いよ! これからジャンケンだよね? さ、シオン行こ!」
「………………」
不満げな詩音の手を強引に引いて、花蓮は迷宮探索に立候補する為にレクレーションルームへ入った。
(さっきのアレ、心配というよりも嫉妬みたいだったよなぁ……)
友人の横顔をチラリと見やって、花蓮は少し不安になった。
「……………………」
グイと抱き寄せられて、水島の右手によって世良は臀部の肉を強く掴まれた。
「……っ!」
世良のヘソ辺りに硬く熱いモノが当たっている。
キスまでは杏奈から借りて読んだ少女漫画の世界だった。しかし今、密着しているのは細い線で描かれた漫画のヒーローじゃない。
荒い息づかいと世良の肉体を求める性衝動。
17歳の世良は現実の男に恐怖して、自分を拘束する水島の逞しい腕をペチペチと叩いた。
「…………セラ?」
「こ、これ以上は駄目です! 今日はここまで!」
小声で注意する世良へ、水島は恨めしい視線を向けた。
「ここでストップって拷問かよ。僕、完全に臨戦態勢に入っちゃったんだけど」
男って怖い。股間にテントを張る水島を目の当たりにして世良は改めて思った。キスでうっとりして、それで終わりだと思っていた自分とは違う生き物なんだと。
世良には次のステップに進むなど頭に無かった。
「ええと、真面目なこと考えれば元に戻るのでは……? 数学の公式とか英文法とか」
「馬鹿、そう簡単に戻るかよ」
そういうものなの? 男の生理現象を知らず考え込んだ世良へ、水島は囁き声でとんでもない提案をした。
「今日の探索をパスして、二人で空き部屋にしけこもう」
世良は血の気が引いた。勃起した男と密室で二人きり。それからどうなるかなんて、火を見るよりも明らかだろう。
「わ、私には無理です」
「セラ、お願い」
「無理ですってば!」
取り縋ろうとする水島を払い除けているところへ、詩音と花蓮が通りかかった。
「アンタら……何じゃれ合ってんの?」
食堂の壁際で抱きしめようとする水島、逃れようとする赤面の世良は恋人同士にしか見えなかった。
「水島さんが高月を狙っているのは勘づいてたけど、アンタら付き合うことになったワケ?」
花蓮の指摘に水島が強く頷いた。
「そ。今日から僕達は恋人同士。そういうことで宜しく」
「馬鹿言わないで!」
世良ではなく詩音が食ってかかった。
「あなたは生徒を護りにきた警備隊員でしょう? 護る対象である生徒に手を出すなんて、いったいどういうつもりですか!?」
「どういうつもりも何も、僕は世良が大好き。それ以外に無いよ」
「そんな理屈が通用すると思いますか? 高月さんはまだ高校二年生ですよ? 成人男性のすることではないでしょう?」
「まぁまぁシオン」
花蓮が仲裁に入った。
「人が大量に死ぬこんなヤバイ状況で共同生活してんだよ。誰かに寄りかかりたくなっても不思議じゃないさ」
「メッシュちゃん……、クラブのママみたいな風格が有るんだけど、キミ本当に高校生?」
「うるせー。高月、そんなチャラ男じゃなくて真面目な多岐川さんにしな」
「ああ? メッシュ、セラに余計なこと吹き込んでんじゃねーよ」
「味方してやったのに、アンタが人の親切を茶化したからだろーが!」
仲裁役だったはずの花蓮と水島が口喧嘩を始めたところへ、また別の人物の声がかかった。
「……何してんの?」
廊下で冷めた目を向けていたのは、しばらく姿を見ていなかった桐生茜だった。アーチェリーの装備を身に着けているということは、今日から探索に立候補できるまでに回復したのか。
「先輩! 動けるようになったんですね、良かったです!」
「まーね……」
世良は素直に茜の回復を喜んだが、茜が世良を殺そうとしたことを知っている水島は険しい目つきになった。
(お嬢様が復活ね……。あれだけの目に遭ったのに、また迷宮へ潜ろうっていう根性は褒めてやるよ。だけど僕が付いている限りセラに手出しはさせない。……逆に事故に見せかけて始末してやるか。セイゴさんの許可が下りたことだしな)
さっさとレクレーションルームへ消えた茜の背中に、水島は皮肉めいた笑みを向けた。
「シオン、あたし達も行こ。ジャンケンに間に合わなくなる」
「う、うん」
「セラも二人と一緒に行きな」
「コハルさんは?」
「トイレ行ってくる。コイツを何とか鎮めないと」
まだ膨らんだままの水島の股間に一度目をやって、世良と詩音は慌てて視線を逸らした。花蓮はあーあ、という表情だった。
「できるだけすぐ戻る。探索は絶対に行くって隊長に伝えておいてね」
まるで恥じらうことなく、水島は鼻唄を口ずさんでトイレの方へ歩いていった。
「……ふざけた人!」
詩音が吐き捨てた。
「高月さんも高月さんだよ、何であんな人と親しくしてるの!?」
出会った当初は世良だって、水島とキスまでする仲になるとは思っていなかった。
「あー……、確かに問題てんこ盛りな人ですが、良い所も有るんですよ。私は何度も助けてもらったし……」
「庇うってことは、高月も水島さんのこと好きなんだね?」
花蓮が被せ気味に質問してきた。これは完全に好奇心だな。世良は苦笑いした。
「たぶん……そうなんだと思います」
「おおっ! 真面目な高月があのタイプを選ぶとはね!」
「駄目だよ、高月さん!!」
詩音に大声を出され、世良と花蓮はビクッと身体を震わせた。
「どうせあの人がしつこくアプローチしてきたんでしょ? 高月さんは純情だから流されちゃったんだよ。少し距離を置いて冷静になりなさい!」
「ちょ、ちょっとシオン……」
「男の人に頼りたくなるかもだけど、警備隊員は全員大人だから! 私達女子高生に手を出す大人なんて碌なもんじゃないんだよ!?」
「先輩……?」
詩音の剣幕に世良はタジタジとなった。
「お~い、何騒いでんだ? どうしたよ生徒会長」
レクレーションルームの扉が開いて、藤宮が顔を覗かせた。廊下に居た詩音の声が室内まで届いていたらしい。
バツの悪い顔をした詩音に代わって花蓮が答えた。
「何でも無いよ! これからジャンケンだよね? さ、シオン行こ!」
「………………」
不満げな詩音の手を強引に引いて、花蓮は迷宮探索に立候補する為にレクレーションルームへ入った。
(さっきのアレ、心配というよりも嫉妬みたいだったよなぁ……)
友人の横顔をチラリと見やって、花蓮は少し不安になった。
1
あなたにおすすめの小説
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
本能寺からの決死の脱出 ~尾張の大うつけ 織田信長 天下を統一す~
bekichi
歴史・時代
戦国時代の日本を背景に、織田信長の若き日の物語を語る。荒れ狂う風が尾張の大地を駆け巡る中、夜空の星々はこれから繰り広げられる壮絶な戦いの予兆のように輝いている。この混沌とした時代において、信長はまだ無名であったが、彼の野望はやがて天下を揺るがすことになる。信長は、父・信秀の治世に疑問を持ちながらも、独自の力を蓄え、異なる理想を追求し、反逆者とみなされることもあれば期待の星と讃えられることもあった。彼の目標は、乱世を統一し平和な時代を創ることにあった。物語は信長の足跡を追い、若き日の友情、父との確執、大名との駆け引きを描く。信長の人生は、斎藤道三、明智光秀、羽柴秀吉、徳川家康、伊達政宗といった時代の英傑たちとの交流とともに、一つの大きな物語を形成する。この物語は、信長の未知なる野望の軌跡を描くものである。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる