私立桜妃女学院ラビリンス【R18】

水無月礼人

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詩音の苛立ち

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 世良と水島は唇を離して、そのまま至近距離で数秒見つめ合った。そしてすぐに水島側のアクションにより、二人の唇は再度重なり合った。

「……………………」

 グイと抱き寄せられて、水島の右手によって世良は臀部でんぶの肉を強く掴まれた。

「……っ!」

 世良のヘソ辺りに硬く熱いモノが当たっている。
 キスまでは杏奈から借りて読んだ少女漫画の世界だった。しかし今、密着しているのは細い線で描かれた漫画のヒーローじゃない。
 荒い息づかいと世良の肉体を求める性衝動。
 17歳の世良は現実の男に恐怖して、自分を拘束する水島のたくましい腕をペチペチと叩いた。

「…………セラ?」
「こ、これ以上は駄目です! 今日はここまで!」

 小声で注意する世良へ、水島は恨めしい視線を向けた。

「ここでストップって拷問かよ。僕、完全に臨戦態勢に入っちゃったんだけど」

 男って怖い。股間にテントを張る水島を目の当たりにして世良は改めて思った。キスでうっとりして、それで終わりだと思っていた自分とは違う生き物なんだと。
 世良には次のステップに進むなど頭に無かった。

「ええと、真面目なこと考えれば元に戻るのでは……? 数学の公式とか英文法とか」
「馬鹿、そう簡単に戻るかよ」

 そういうものなの? 男の生理現象を知らず考え込んだ世良へ、水島は囁き声でとんでもない提案をした。

「今日の探索をパスして、二人で空き部屋にしけこもう」

 世良は血の気が引いた。勃起した男と密室で二人きり。それからどうなるかなんて、火を見るよりも明らかだろう。

「わ、私には無理です」
「セラ、お願い」
「無理ですってば!」

 取りすがろうとする水島を払いけているところへ、詩音と花蓮が通りかかった。

「アンタら……何じゃれ合ってんの?」

 食堂の壁際で抱きしめようとする水島、逃れようとする赤面の世良は恋人同士にしか見えなかった。

「水島さんが高月を狙っているのは勘づいてたけど、アンタら付き合うことになったワケ?」

 花蓮の指摘に水島が強く頷いた。

「そ。今日から僕達は恋人同士。そういうことで宜しく」
「馬鹿言わないで!」

 世良ではなく詩音が食ってかかった。

「あなたは生徒を護りにきた警備隊員でしょう? 護る対象である生徒に手を出すなんて、いったいどういうつもりですか!?」
「どういうつもりも何も、僕は世良が大好き。それ以外に無いよ」
「そんな理屈が通用すると思いますか? 高月さんはまだ高校二年生ですよ? 成人男性のすることではないでしょう?」
「まぁまぁシオン」

 花蓮が仲裁に入った。

「人が大量に死ぬこんなヤバイ状況で共同生活してんだよ。誰かに寄りかかりたくなっても不思議じゃないさ」
「メッシュちゃん……、クラブのママみたいな風格が有るんだけど、キミ本当に高校生?」
「うるせー。高月、そんなチャラ男じゃなくて真面目な多岐川さんにしな」
「ああ? メッシュ、セラに余計なこと吹き込んでんじゃねーよ」
「味方してやったのに、アンタが人の親切を茶化したからだろーが!」

 仲裁役だったはずの花蓮と水島が口喧嘩を始めたところへ、また別の人物の声がかかった。

「……何してんの?」

 廊下で冷めた目を向けていたのは、しばらく姿を見ていなかった桐生茜だった。アーチェリーの装備を身に着けているということは、今日から探索に立候補できるまでに回復したのか。

「先輩! 動けるようになったんですね、良かったです!」
「まーね……」

 世良は素直に茜の回復を喜んだが、茜が世良を殺そうとしたことを知っている水島は険しい目つきになった。

(お嬢様が復活ね……。あれだけの目に遭ったのに、また迷宮へ潜ろうっていう根性は褒めてやるよ。だけど僕が付いている限りセラに手出しはさせない。……逆に事故に見せかけて始末してやるか。セイゴさんの許可が下りたことだしな)

 さっさとレクレーションルームへ消えた茜の背中に、水島は皮肉めいた笑みを向けた。

「シオン、あたし達も行こ。ジャンケンに間に合わなくなる」
「う、うん」
「セラも二人と一緒に行きな」
「コハルさんは?」
「トイレ行ってくる。コイツを何とか鎮めないと」

 まだ膨らんだままの水島の股間に一度目をやって、世良と詩音は慌てて視線をらした。花蓮はあーあ、という表情だった。

「できるだけすぐ戻る。探索は絶対に行くって隊長に伝えておいてね」

 まるで恥じらうことなく、水島は鼻唄を口ずさんでトイレの方へ歩いていった。

「……ふざけた人!」

 詩音が吐き捨てた。

「高月さんも高月さんだよ、何であんな人と親しくしてるの!?」

 出会った当初は世良だって、水島とキスまでする仲になるとは思っていなかった。

「あー……、確かに問題てんこ盛りな人ですが、良い所も有るんですよ。私は何度も助けてもらったし……」
「庇うってことは、高月も水島さんのこと好きなんだね?」

 花蓮が被せ気味に質問してきた。これは完全に好奇心だな。世良は苦笑いした。

「たぶん……そうなんだと思います」
「おおっ! 真面目な高月があのタイプを選ぶとはね!」
「駄目だよ、高月さん!!」

 詩音に大声を出され、世良と花蓮はビクッと身体を震わせた。

「どうせあの人がしつこくアプローチしてきたんでしょ? 高月さんは純情だから流されちゃったんだよ。少し距離を置いて冷静になりなさい!」
「ちょ、ちょっとシオン……」
「男の人に頼りたくなるかもだけど、警備隊員は全員大人だから! 私達女子高生に手を出す大人なんてろくなもんじゃないんだよ!?」
「先輩……?」

 詩音の剣幕に世良はタジタジとなった。

「お~い、何騒いでんだ? どうしたよ生徒会長」

 レクレーションルームの扉が開いて、藤宮が顔を覗かせた。廊下に居た詩音の声が室内まで届いていたらしい。
 バツの悪い顔をした詩音に代わって花蓮が答えた。

「何でも無いよ! これからジャンケンだよね? さ、シオン行こ!」
「………………」

 不満げな詩音の手を強引に引いて、花蓮は迷宮探索に立候補する為にレクレーションルームへ入った。

(さっきのアレ、心配というよりも嫉妬みたいだったよなぁ……)

 友人の横顔をチラリと見やって、花蓮は少し不安になった。 
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