私立桜妃女学院ラビリンス【R18】

水無月礼人

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世良と水島(一)

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 三枝が自力で歩けるようになるのを待ってから、探索メンバーは寮へ帰還した。全員無事に戻ってきたことを留守番役の多岐川は喜んだが、メンバーの顔には一様に疲労の色が濃く浮かんでいた。

「隊長、何か問題でも有ったんですか?」
「大アリだ。地下三階はヤバいぞ。敵が強い上に暗くて視界が狭いんだ。おまけに壁が無くなって、目印が少ないから迷いやすいときている」
「あの大蛇がフロアボスだったらいいんですけどね。あんなのがザコ敵としてうじゃうじゃ居たら手の打ちようが無いッスよ。攻略するには装備強化しないとキツイと思うんですけど?」

 相棒としているハンドガンではそろそろ限界だ。水島は銃が収納されたホルダーを外しながら愚痴た。それについては藤宮も同意見だったが、

「マシンガンやバズーカ砲を、警備室が支給してくれると思うか?」

 望み薄だろう。現場に出ていない上司や理事達は報告を受けるだけで、実際に化け物を目にした訳ではない。今日の迷宮内での三枝の様子を見て、学院内と外との温度差がよく解った。

「あ、待ってセラ。この後も時間が有るなら一緒に居ようよ」

 二階へ引き上げようとする少女達の中から、水島は世良の腕を選んで掴んだ。名残惜しいのは世良も一緒だった。

「あの……、今はシャワーを浴びたいです。その後なら……」
「うん、待ってる!」

 素直に喜びを表現した水島へ、詩音が厳しい声で釘を刺した。

「水島さん、探索前にも言いましたよね? 大人のあなたが、女子高生と親しくなろうとするのは不適切だと私は思うのですが!?」
「桜木先輩、私がコハルさんと話したいんです」
「高月さん、あなたもだよ。ずっと浮ついてるよね。下の名前で呼び合うなんてどうかしてる」
「名前ぐらいで。生徒会長は潔癖なんだね~」
「茶化さないで下さい!」
「まぁまぁまぁ」

 今回の仲裁人は三枝だった。

「いいじゃないの少しくらいは。命懸けの戦いをした後なんだもの、好きな相手同士で、生きてることを喜び合うのは自然なことでしょ?」
「好きな相手って……。高月さんと水島さんとでは立場が違うでしょう? それが大人の言うことですか!」
「生徒会長、私も良いと思います」

 意外な人物の声がした。美里弥だ。詩音はもちろん、援護してもらった三枝も驚いていた。

「高月さんは今日、すんでの所を水島さんに助けてもらったんです。命の恩人にかれるのは当然のことですよ」
「でも……」
「通常時ならば生徒会長のおっしゃる通りです。でも今は非常時。いつ死ぬか知れない状況で、一時いっときの夢を見ることも許されないのですか?」
「………………」

 年下の美里弥にいさめられた詩音は押し黙り、一人で階段方面へ向かった。

「あーあシオン、怒っちゃったー」

 面白そうに笑って茜がその後に続いた。

「あの五月雨さん、どうもありがとう」
「いいえ」

 美里弥は善意から口添えした訳ではなかった。彼女なりに計算したのだ。

(シズク姫に選ばれるのは美しく聡明、そして健康で清らかな少女だとリンコ様から伺いました。清らかさの中には、処女であるという要素も含まれているのでは?)

 だったらさっさと水島と寝て、高月世良は処女性を失ってしまえばいい。詩音にとっての一番のライバルがここで脱落する。そう美里弥は考えた。

「セラ。僕はレクレーションルームに居るから、シャワー終わったら声かけてよ」
「……はい!」

 少し照れたような表情を見せてから、世良も美里弥と共に二階へ上がった。
 残った大人達はレクレーションルームへ入り、ソファーへ疲れた身体を預けた。

「明日からどうすっかねぇ。火力が足りねぇんだよなぁ……」
「ねぇ、警備隊員が全員出動すればいいんじゃない?」

 三枝の提案を藤宮が即座に却下した。

「駄目だ。三人とも出たら寮を警備する者が居なくなっちまう」
「でも昼間は化け物、来ないんでしょ? だったらアタシ達だけで大丈夫よ」
「寮長に化けていた魔物は昼間も活動していたぞ? 倒した後は日光で霧散していたがな」
「え、人間に化けると日光に強くなるの?」

 多岐川が訂正した。

「あれは化けていたと言うよりも、寄生していた状態だったのでしょうね。……最終的にはほとんどを食べてしまったようですが、人間の生きた細胞が残っている間は、日光バリアの役割を果たすのかもしれません」
「怖いね……。寮長の件は聞いてる。アタシが呼ばれたきっかけだったからね。だから生徒を診察した時に、老化以外で様子がおかしいコが居ないか観察と聞き込みをしたのよ。結果はゼロ。今は寄生されている生徒は居ないと思う」
「それならいいんだが……」
「探索には充分な戦力で行くべきだよ。今日一緒に行ってみてよく解った。半端な戦力で行ったら全滅するよ?」

 確かに警備隊員が三人揃えば戦いやすくなる。藤宮と水島が前衛に、ハンドガンとライフル銃の二丁を装備する多岐川が後衛に回れば、トライアングル型の強力なフォーメーションが完成する。

「それしかないか……」
「ですね」
「先生、これからも生徒達を観察して、少しでも怪しい行動を取る者が居たら教えてくれ」
「ええ」

 明日からの方針が決まったので、全員少し気が楽になった。

「あ、水島、コレ渡しておく」

 三枝が白衣のポケットから、個別包装された何かを取り出した。多岐川がギョッとした。

「コンドームじゃないですか! 何考えているんですか!」
「や、必要でしょ。あんな若いコを妊娠させたら可哀想だから、アナタがしっかり避妊すんのよ? 水島」
「まだ早いです! 二人はまだ付き合ってもいません!!」

 手を伸ばして三枝から避妊具を受け取った水島は、余裕の笑みを浮かべた。

「もうセラとキスしましたよ? 合意の上で。僕達付き合うことになったんです」
「な……。いつの間に!?」
「今日の探索に出る前です」
「!……。あの騒ぎはソレだったのか!」

 多岐川が前髪を後ろに固めた頭を振った。

「両想いになったのなら、付き合うこと自体は止めない。……だが、ゆっくりだ。性急に物事を進めるな」
「多岐川の言う通りだ。高月が高校生だということを忘れるなよ?」
「解ってます。無理矢理セラをどうにかしようとは思っていません。僕だって彼女を傷付けたくない」
「……信用するぞ?」

 水島は優美な笑みで返した。

(無理矢理にはしないさ。でもセラが僕を望むのなら、すぐにでも抱いてあげるけどね)

 過去の水島の女性遍歴を知っている藤宮と多岐川は、不安をぬぐい去ることができなかった。
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