私立桜妃女学院ラビリンス【R18】

水無月礼人

文字の大きさ
117 / 250

求める心、離れる心(一)

しおりを挟む
 寄り添ったまま、世良と水島はいつしか眠りに落ちてしまっていたようだ。二人が目覚めたのは18時を少し過ぎた後だった。
 日照時間が長い時期なので窓の向こうはまだ明るいが、もうすぐ西側の空に夕焼けが広がるだろう。

「やっべ! セラ、風邪ひいてないか!?」

 弱めだが冷房が入っている部屋で、タオルケットも何も掛けず裸のまま寝ていた。

「大丈夫だと思います。コハルさんとくっ付いていたので……その」

 今更だが裸でいることが恥ずかしくなって世良は目を伏せた。そんな彼女の頬に水島は優しくキスをした。

「残念。もうちょっと一緒に居たいけど、そろそろ下に降りないとな」

 水島は夜間、寮の警備に就かなければならない。世良もそろそろ夕食を摂っておくべき時刻だ。小鳥は今どうしているだろうか。
 二人は脱ぎ捨てていた衣服を身に着けた。

「これ、洗わないとね」
「わあぁっ、私がやります!」

 汚れたタオルとシーツを手にしようとした水島を、世良は慌てて止めた。

「? どうせ一階へ降りるんだから僕が持っていくよ」
「いやっ、たぶんこれ、洗濯機に入れる前に手洗いしなくちゃ汚れが落ちないヤツです! 私がやります!!」

 シーツは汗程度だが、腰の下に敷いていたタオルには血液を含む様々な汚れが付着していた。真っ赤な顔でタオルを死守する世良を見て水島は噴き出した。

「解った、世良に任せるよ」

 安堵の表情を浮かべた彼女に、水島は心配する振りをしてからかった。

「セラの身体、相当疲れてるからな? 後で熱が出ちゃうかもだから、今夜は筋トレやめておけな」
「は、はい……そうします……」

 照れで語尾が消え入りそうなセラへ、水島はもう一度キスをした。

「またね、セラ」
「………………」

 ポ~っとした顔で自分を見送る恋人に手を振って、水島は先に部屋を出た。廊下を歩きながら自然と顔がニヤけてしまう。

(この僕がヤッた後に、まさか寝落ちするとはね~)

 今まで彼にとって女は性欲の解消相手に過ぎなかった。馴れ合いたくなかったので、事の後はさっさと退散していた。相手に長居されないように自分の家には絶対に呼ばない。
 そんな彼に当然だが女達は不満をぶつけた。「付き合っているのだからもっと大切にして」と。それが面倒臭くて、一時期はプロの女だけを相手にしていたのに、彼女達にも本気になられて付きまとわれた。
 恵まれた体躯、優れた戦闘能力、回転の速い頭、明るい言動の中に時折見せる影。雄として優秀な彼を、強い種を欲する雌は本能で求めるのだ。

(セラとはずっと一緒に居たいって思った。本当に家族になれたらいいのに)

「お、水島じゃん」

 近くの部屋の扉が開いて、トイレに行こうとした三枝が顔を覗かせた。以前は一年生の生徒が使っていた部屋。彼女はここを自室にしているようだ。

「どう? セラちゃんと上手くいった?」
「おかげさまで。今まで彼女と一緒に居ました。二人きりで」
「そりゃ良かった。ちゃんと避妊したでしょうね?」
「いや?」
「……ちょっとコラ、アナタ自分の快感を優先したの!? 大変だ、セラちゃんにアフターピルあげなくちゃ!」

 部屋へ戻ろうとした女医の腕を水島が掴んだ。

「大丈夫ですよ、センセ」
「え? セラちゃんと……しなかったの?」
「しましたけど、大丈夫です」
「大丈夫じゃないでしょうが。女子高生が妊娠しちゃったら大変だよ!? 進学にも就職にも影響が出るんだからね?」

 軽い口振りの水島に三枝は苛ついた。出産するにしても堕胎するにしても、傷付くのは女の身体なのだ。

「僕が責任取りますから」
「責任……って、え、結婚するってこと?」
「はい」
「ちょっとおい、結婚てね、そんな簡単なものじゃないんだよ? 若い人は結婚に夢を見がちだけど、この上無いってくらいに現実的な制度だからね?」

 三枝は恋人同士を応援したいと思っている。しかし水島と世良はまだ若いカップルだ。望まぬ妊娠をして学生結婚、そして結局離婚した三枝の母親。世良もそうなるのではと危惧してしまった。

「セラも家族を欲しがっていました。問題無いです」
「それはいつか、の話でしょ? 今すぐ結婚は性急だよ。アナタの方が年上なんだから、そこら辺はしっかりしてあげて。ゆっくり時間をかけて付き合いなよ」
「センセ」

 水島は三枝の腕を掴む手に力を込めた。

「これは僕とセラの問題ですから」

 ……痛い。掴む力が強過ぎる。水島へ抗議しようとした三枝は彼の目を見てゾッとした。

「余計な邪魔、しないで下さいね?」

 氷のように冷たい眼差し。それに見据えられた三枝は身体を硬直させた。
 いけない、彼に口答えしてはいけない。
 携帯しているあのサバイバルナイフで刺される。大げさではなく、三枝は本気でそう思った。

「んじゃ、失礼しま~す」

 一瞬にして水島は、愛嬌たっぷりないつもの彼に戻った。三枝の腕を離し、笑顔で一礼してから去っていった。

「……………………」

 残された三枝は茫然と佇んだ。今のは何だったのか、アレが水島の本性だったのか?
 お調子者だが仕事はキッチリやる警備隊員。それが水島という青年への印象だった。だが覗かせた彼の一面は、とてもとても恐ろしいものだった。

(アタシ、早まっちゃったかも……)

 良かれと思って水島の恋を後押しした。その結果、世良へとんでもない化け物をあてがってしまったのだとしたら。
 悪い憶測が脳内を駆け巡り、彼女はしばらくその場から動けなかった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

まなの秘密日記

到冠
大衆娯楽
胸の大きな〇学生の一日を描いた物語です。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...