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A型ストーカー(三)
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「さて、あと少しだからさっさと終わらせてしまおうか」
私達自治会メンバーは作業に戻った。手を動かしつつ坂元が軽口を叩いた。
「あの調子じゃあ英ちゃんは将来、翠ちゃんの尻に敷かれるな」
確かに、あのカップルは翠が主導権を握っているように見えた。
「あらあら違うわよ。翠ちゃんが好きなのは優一くんよ」
横からさらりと桃川が暴露してきた。
「えっ、そうなの!?」
「そうよー。だから翠ちゃんも地元に残ったのよ。優一くんの傍に居たいから」
「でもさ、英ちゃんが帰ってこないことに、さっき翠ちゃん苛ついてたじゃん。会いたかったからじゃねーの?」
「あれはね、優一くんがいつも英司くんのことを心配しているから。たまには顔見せて安心させてやれって、そういう気持ちだったんでしょうね」
「はえ~」
閉じているのか開いているのか判らない細い目で、桃川はニコニコと笑い、またもや爆弾発言をかましてきた。
「それにね、英司くんが好きだったのは陽菜ちゃんよ」
「!?」
私と坂元は目を剥いた。
「陽菜ちゃんとは……、赤路さんの娘さんのことですか?」
「そうよ。陽菜ちゃん、英司くん、翠ちゃんはみんな同級生よ」
坂元がうーむと唸った。
「同級生だけどさ……。俺には、英ちゃんが陽菜ちゃんと一緒に居たところを見た記憶が無いよ」
「英司くんは奥手だったからね。遠くから見ていることしかできなかったみたい」
「何で桃川さんはそんなこと知ってんの?」
桃川は無邪気に答えた。
「英司くんのお母さんから聞いたのよ~。英司くんが学校へ行っている間に部屋を掃除したらね、机の中から、陽菜ちゃんを隠し撮った写真が何枚も出てきたんですって」
「げっ……」
井戸端会議で息子の恥部を広めてしまったのか。その調子だと、息子や夫が隠し持つアダルト本の趣向をも話していそうだな。恐るべき主婦軍団。
「俺のお袋は会話に参加してないよね!?」
自分のことも暴露されていたらどうしようと坂元は縋る瞳で尋ねたが、桃川はその質問を華麗にスルーした。
「でも英司くんは東京の大学へ行くことになったでしょう。陽菜ちゃんは地場産センターでの就職を希望していたし、二人は離れ離れになる運命だったの」
「ほぉ、陽菜さんは地元に残るつもりだったのか」
「だから巫女さんのアルバイトをしていたんだと思うわ。宮司さんは顔が広いから、就職の口利きをお願いしたかったんじゃないかしら」
「ああ……」
地方での就職は、個人の能力よりも縁故が重要視される傾向に有る。だからコネクションを持たない者は別の土地へ移り、外から新しい住民が入居することもなく、どんどん過疎化が進むのだ。
「可哀想に。陽菜さんがあんなことになって、英司くんは想いを伝えることすらできなくなったんだね」
「そうね。英司くん、東京へ行く前に陽菜ちゃんに告白するつもりだったらしいけれど」
桃川が遠い目をした。
「お母さん、聞いちゃったんですって。英司くんが優一くんに相談するところ。二人は仲の良い兄弟だから、英司くんは自分の心の中、お兄さんにだけは打ち明けていたのね」
盗み聞きしていた母親にだだ漏れだったが。
「英司くんは高校最後の夏祭りに、陽菜ちゃんに告白するはずだったのよ」
「夏祭り!?」
私と坂元の声が見事に揃った。高校最後の夏祭り。それは陽菜が殺害された、十年前のあの夜のことだ。
「うわ、キツイ。それはキツイよ……」
坂元が指をグーパーさせた。これは気まずくなった時の彼の癖らしい。
私も坂元と同じ気持ちだった。英司は想い焦がれていた相手に告白しようと、一大決心をして祭り会場に乗り込んだのだろう。しかしその晩、陽菜は変わり果てた姿で発見された。
「お祭りが始まってからね、英司くんは陽菜ちゃんをずっと捜していたそうよ。でも会えないまま熱射病……、今は熱中症と言うのかしら? とにかくダウンしてしまったんですって。英司くんと一緒に居た優一くんから電話が有って、お父さんが神社まで車で迎えに行ったそうよ。英司くんは高熱で一晩苦しんだって」
英司にとっては踏んだり蹴ったりだ。告白できず病に罹り、熱が下がって漸く目覚めた後には、好いていた女の訃報が待っていたのだ。
「英司くんがなかなか地元に戻ってこなかったのは、陽菜さんのことを思い出したくなかったからかな?」
私の呟きに、坂元と桃川がハッとした顔を返した。
「そうかもしれないですね。同じ立場だったら俺も地元を離れたいって思っていたかも。あれ、でも英ちゃん、今年の祭りに来るって言ってたよな。ついに吹っ切れたのか?」
「……吹っ切る為の参加かもしれないわ。今年は事件からちょうど十年だし、気持ちに区切りを付けたいのよ、きっと」
ここでどれだけ議論したところで、英司の心の内は英司にしか判らない。我々はお喋りをやめて、袋詰め作業に専念した。
「よし、これでラスト」
坂元が最後の菓子詰め合わせ袋を完成させた。祭り当日までこれらは公民館に保管しておく為、菓子袋は熱で溶けにくいラムネやクッキー、ポテトチップス系で構成されている。
私達自治会メンバーは作業に戻った。手を動かしつつ坂元が軽口を叩いた。
「あの調子じゃあ英ちゃんは将来、翠ちゃんの尻に敷かれるな」
確かに、あのカップルは翠が主導権を握っているように見えた。
「あらあら違うわよ。翠ちゃんが好きなのは優一くんよ」
横からさらりと桃川が暴露してきた。
「えっ、そうなの!?」
「そうよー。だから翠ちゃんも地元に残ったのよ。優一くんの傍に居たいから」
「でもさ、英ちゃんが帰ってこないことに、さっき翠ちゃん苛ついてたじゃん。会いたかったからじゃねーの?」
「あれはね、優一くんがいつも英司くんのことを心配しているから。たまには顔見せて安心させてやれって、そういう気持ちだったんでしょうね」
「はえ~」
閉じているのか開いているのか判らない細い目で、桃川はニコニコと笑い、またもや爆弾発言をかましてきた。
「それにね、英司くんが好きだったのは陽菜ちゃんよ」
「!?」
私と坂元は目を剥いた。
「陽菜ちゃんとは……、赤路さんの娘さんのことですか?」
「そうよ。陽菜ちゃん、英司くん、翠ちゃんはみんな同級生よ」
坂元がうーむと唸った。
「同級生だけどさ……。俺には、英ちゃんが陽菜ちゃんと一緒に居たところを見た記憶が無いよ」
「英司くんは奥手だったからね。遠くから見ていることしかできなかったみたい」
「何で桃川さんはそんなこと知ってんの?」
桃川は無邪気に答えた。
「英司くんのお母さんから聞いたのよ~。英司くんが学校へ行っている間に部屋を掃除したらね、机の中から、陽菜ちゃんを隠し撮った写真が何枚も出てきたんですって」
「げっ……」
井戸端会議で息子の恥部を広めてしまったのか。その調子だと、息子や夫が隠し持つアダルト本の趣向をも話していそうだな。恐るべき主婦軍団。
「俺のお袋は会話に参加してないよね!?」
自分のことも暴露されていたらどうしようと坂元は縋る瞳で尋ねたが、桃川はその質問を華麗にスルーした。
「でも英司くんは東京の大学へ行くことになったでしょう。陽菜ちゃんは地場産センターでの就職を希望していたし、二人は離れ離れになる運命だったの」
「ほぉ、陽菜さんは地元に残るつもりだったのか」
「だから巫女さんのアルバイトをしていたんだと思うわ。宮司さんは顔が広いから、就職の口利きをお願いしたかったんじゃないかしら」
「ああ……」
地方での就職は、個人の能力よりも縁故が重要視される傾向に有る。だからコネクションを持たない者は別の土地へ移り、外から新しい住民が入居することもなく、どんどん過疎化が進むのだ。
「可哀想に。陽菜さんがあんなことになって、英司くんは想いを伝えることすらできなくなったんだね」
「そうね。英司くん、東京へ行く前に陽菜ちゃんに告白するつもりだったらしいけれど」
桃川が遠い目をした。
「お母さん、聞いちゃったんですって。英司くんが優一くんに相談するところ。二人は仲の良い兄弟だから、英司くんは自分の心の中、お兄さんにだけは打ち明けていたのね」
盗み聞きしていた母親にだだ漏れだったが。
「英司くんは高校最後の夏祭りに、陽菜ちゃんに告白するはずだったのよ」
「夏祭り!?」
私と坂元の声が見事に揃った。高校最後の夏祭り。それは陽菜が殺害された、十年前のあの夜のことだ。
「うわ、キツイ。それはキツイよ……」
坂元が指をグーパーさせた。これは気まずくなった時の彼の癖らしい。
私も坂元と同じ気持ちだった。英司は想い焦がれていた相手に告白しようと、一大決心をして祭り会場に乗り込んだのだろう。しかしその晩、陽菜は変わり果てた姿で発見された。
「お祭りが始まってからね、英司くんは陽菜ちゃんをずっと捜していたそうよ。でも会えないまま熱射病……、今は熱中症と言うのかしら? とにかくダウンしてしまったんですって。英司くんと一緒に居た優一くんから電話が有って、お父さんが神社まで車で迎えに行ったそうよ。英司くんは高熱で一晩苦しんだって」
英司にとっては踏んだり蹴ったりだ。告白できず病に罹り、熱が下がって漸く目覚めた後には、好いていた女の訃報が待っていたのだ。
「英司くんがなかなか地元に戻ってこなかったのは、陽菜さんのことを思い出したくなかったからかな?」
私の呟きに、坂元と桃川がハッとした顔を返した。
「そうかもしれないですね。同じ立場だったら俺も地元を離れたいって思っていたかも。あれ、でも英ちゃん、今年の祭りに来るって言ってたよな。ついに吹っ切れたのか?」
「……吹っ切る為の参加かもしれないわ。今年は事件からちょうど十年だし、気持ちに区切りを付けたいのよ、きっと」
ここでどれだけ議論したところで、英司の心の内は英司にしか判らない。我々はお喋りをやめて、袋詰め作業に専念した。
「よし、これでラスト」
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