村長奇譚 ~夏祭りの惨劇と少女の亡霊~

水無月礼人

文字の大きさ
15 / 25

A型ストーカー(六)

しおりを挟む
「陽菜ちゃんは恋人と二人きりで花火を楽しみたくて、彼氏を誘ってあそこへ行ったんじゃないかな?」
「!」

 坂元に核心を突かれ、それまで淡々と話していた清美が大声を上げた。

「それじゃあ、犯人は陽菜の恋人なの!?」
「俺はその線が濃いと思ってる。素人推理だけどね」

 清美はワナワナと身体を震わせ、私は坂元に感心した。これで陽菜が屋台から離れた場所に居た説明が付いた。

「陽菜に……恋人……。誰がっ!?」
「付き合っている人が居るとか、陽菜ちゃんから聞いてなかった?」

 清美は考え込んだ。私と坂元は静かに待った。
 やがて、

「居た……のかもしれない。娘からは何も聞いていないけれど」

 清美はポツリポツリ、思い出したことを話し出した。

「あの子、中学くらいからお洒落しゃれに目覚めたのだけれど、フリフリした可愛い系が好きだったの。それが亡くなる数ヶ月くらい前から、急に大人びた服やアクセサリーを身に付けるようになったのよ。恋人の影響だったのかしら?」

 陽菜の恋人とされる助教の佐々木は当時、大学生か院生。年上の恋人に釣り合おうと、高校生だった陽菜は背伸びをしたのかもしれない。

「夏祭り用に選んだ浴衣ゆかたもそう。花模様だったけれど、紺の生地きじだったからずいぶん大人っぽく見えたわ」

 ゾワリ。背筋に悪寒が走った。

「紺地に花模様の浴衣ゆかた……?」
「ええ。当日は髪も結い上げてね。お化粧だけは薄目にするように注意したの。それでもシックな仕上がりになっていたわ」

 私は一瞬にして、冷凍庫に放り込まれた気分になった。
 私は知っている。紺地に花模様の浴衣ゆかた姿の若い女性を。
 そして彼女の首には、絞められたような赤黒い痕が残っていた。
 私がつい先程、公民館の窓の外に見たアレは。

 まさか、まさか、まさか…………。

「村長」
「わぁおwhoooフー!!」

 不意に坂元に肩を叩かれて、私は飛び上がらんばかりに驚いた。若干アメリカ人が混じっていた。坂元も私のオーバーリアクションに驚いていた。

「いや、あの、村長の携帯鳴ってませんか?」

 言われて私は、自分の横に置いていたセカンドバックの中を確かめた。携帯電話から着信メロディーが流れていたのですぐに出た。

「はい、立花です」

 私が通話している横で、坂元も自分の携帯電話を取り出した。タッチの差で、彼の方にも着信が有ったようだ。

「え、田上さんで火事!?」

 電話は地域の消防団員からだった。私と坂元も入団している。そして田上と言う姓を持つ家は、加賀見には現在一軒しかない。

「田上さんって、優一くんと英司くんの……?」

 電話を終えた私に、清美が不安そうに尋ねた。

「ああ。火はすぐに消し止められたそうだけど、我々も一応現場に向かうよ。事後処理を手伝ってくる」
「奥さん、お邪魔しました」

 何か言いたげな清美を残して、私と坂元は足早に赤路邸を後にした。

「ヤバイ展開になりましたね」
「……ああ」

 坂元が車を、今度は西方面に走らせた。
 消防団員の話によると、炎は外壁の一部を焦げ付かせた程度で、田上家近所の有志達が持ち寄った消火器で、協力して無事に鎮火させたとのことだ。
 大規模火災にならなかったのは不幸中の幸いだった。他者への攻撃に使われない限り、団結力は村社会の素晴らしい宝だ。
 だが今回のボヤ騒ぎには大きな問題点が有った。

「赤路の旦那さん、そこまでやるなんて……」

 やりきれないといった風に、坂元が歯軋はぎしりをした。
 出火の原因は放火だった。そして放火犯は清美の夫だったのだ。

「私は馬鹿だよ。清美さんにばかり意識を集中してしまった。子供を亡くして、つらい想いを抱えているのは母親だけじゃない。父親だって同じなのに」

 先にノイローゼとなった清美よりも、彼女を支えなければならなくなった夫の方が、むしろ心の負担は大きかったのかもしれないのだ。
 自分が倒れたら誰が妻を護るのか、誰が妻を解ってあげられるのか。夫は疲れることを許されなかった。

「俺も馬鹿ですよ。村長は覚えてますか? 赤路さんが奉納してた絵馬の話」
「あ……」

 失念していた。そうだった、夫婦は犯人の火あぶりを望んでいたのだった。

「それで放火を?」
「きっとそうです。絵馬のこと、俺は何度も修兄ちゃんから聞いてたのに。現物だって見てたのに。なのに赤路さんが放火するなんて考えもしなかった。英ちゃんと翠ちゃんから相談された時点で、すぐに赤路さん家に行けば良かった。そうしたら間に合ってたかもしれないのに」
「もしかしたら窓ガラスを割ったのも、旦那さんの方なんじゃないかな?」

 清美は絵馬にこそ過激な文を書いていたようだが、実際には怪しいと思う優一に自首を勧めていた。

「旦那さん言ったそうですね。妻は割ってないって。でも、そうか、自分もやってないとは言ってないんだ。ああもう、自分の鈍さに腹が立つ!」

 私達は自責の念に囚われながら現場へ向かった。空に広がりつつあった赤い夕焼けが、火は消されたというのに私の心をざわめかした。

 田上家の前には人だかりができていた。坂元は少し離れた所に車を停めて、私と共に人の群れに近付いた。

「村長だ」

 群衆の誰かが私を見つけた。
 それからは村長だ、村長が来たぞと皆が口々に言い、私と坂元を通す為に左右に別れて道が作られた。まるで海を割った十戒のモーゼだ。

「赤路さん!?」

 まず目に入ったのは清美の夫、赤路。彼は男四人がかりで地面に押さえ付けられていた。
 赤路は鼻血を垂れ流し、近くには片側のレンズが割れた眼鏡が転がっていた。大乱闘が有った模様だ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

熟女愛好家ユウスケの青春(熟女漁り)

MisakiNonagase
現代文学
高校まで勉強一筋で大学デビューをしたユウスケは家庭教師の教え子の母親と不倫交際するが、彼にとって彼女とが初の男女交際。そこでユウスケは自分が熟女好きだと自覚する。それからユウスケは戦略と実戦を重ねて、清潔感と聞き上手を武器にたくさんの熟女と付き合うことになるストーリーです。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。

true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。 それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。 これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。 日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。 彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。 ※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。 ※内部進行完結済みです。毎日連載です。

小さい頃「お嫁さんになる!」と妹系の幼馴染みに言われて、彼女は今もその気でいる!

竜ヶ崎彰
恋愛
「いい加減大人の階段上ってくれ!!」 俺、天道涼太には1つ年下の可愛い幼馴染みがいる。 彼女の名前は下野ルカ。 幼少の頃から俺にベッタリでかつては将来"俺のお嫁さんになる!"なんて事も言っていた。 俺ももう高校生になったと同時にルカは中学3年生。 だけど、ルカはまだ俺のお嫁さんになる!と言っている! 堅物真面目少年と妹系ゆるふわ天然少女による拗らせ系ラブコメ開幕!!

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

貞操逆転世界に転生したのに…男女比一対一って…

美鈴
ファンタジー
俺は隼 豊和(はやぶさ とよかず)。年齢は15歳。今年から高校生になるんだけど、何を隠そう俺には前世の記憶があるんだ。前世の記憶があるということは亡くなって生まれ変わったという事なんだろうけど、生まれ変わった世界はなんと貞操逆転世界だった。これはモテると喜んだのも束の間…その世界の男女比の差は全く無く、男性が優遇される世界ではなかった…寧ろ…。とにかく他にも色々とおかしい、そんな世界で俺にどうしろと!?また誰とも付き合えないのかっ!?そんなお話です…。 ※カクヨム様にも投稿しております。内容は異なります。 ※イラストはAI生成です

服を脱いで妹に食べられにいく兄

スローン
恋愛
貞操観念ってのが逆転してる世界らしいです。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

処理中です...