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A型ストーカー(六)
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「陽菜ちゃんは恋人と二人きりで花火を楽しみたくて、彼氏を誘ってあそこへ行ったんじゃないかな?」
「!」
坂元に核心を突かれ、それまで淡々と話していた清美が大声を上げた。
「それじゃあ、犯人は陽菜の恋人なの!?」
「俺はその線が濃いと思ってる。素人推理だけどね」
清美はワナワナと身体を震わせ、私は坂元に感心した。これで陽菜が屋台から離れた場所に居た説明が付いた。
「陽菜に……恋人……。誰がっ!?」
「付き合っている人が居るとか、陽菜ちゃんから聞いてなかった?」
清美は考え込んだ。私と坂元は静かに待った。
やがて、
「居た……のかもしれない。娘からは何も聞いていないけれど」
清美はポツリポツリ、思い出したことを話し出した。
「あの子、中学くらいからお洒落に目覚めたのだけれど、フリフリした可愛い系が好きだったの。それが亡くなる数ヶ月くらい前から、急に大人びた服やアクセサリーを身に付けるようになったのよ。恋人の影響だったのかしら?」
陽菜の恋人とされる助教の佐々木は当時、大学生か院生。年上の恋人に釣り合おうと、高校生だった陽菜は背伸びをしたのかもしれない。
「夏祭り用に選んだ浴衣もそう。花模様だったけれど、紺の生地だったからずいぶん大人っぽく見えたわ」
ゾワリ。背筋に悪寒が走った。
「紺地に花模様の浴衣……?」
「ええ。当日は髪も結い上げてね。お化粧だけは薄目にするように注意したの。それでもシックな仕上がりになっていたわ」
私は一瞬にして、冷凍庫に放り込まれた気分になった。
私は知っている。紺地に花模様の浴衣姿の若い女性を。
そして彼女の首には、絞められたような赤黒い痕が残っていた。
私がつい先程、公民館の窓の外に見たアレは。
まさか、まさか、まさか…………。
「村長」
「わぁおwhooo!!」
不意に坂元に肩を叩かれて、私は飛び上がらんばかりに驚いた。若干アメリカ人が混じっていた。坂元も私のオーバーリアクションに驚いていた。
「いや、あの、村長の携帯鳴ってませんか?」
言われて私は、自分の横に置いていたセカンドバックの中を確かめた。携帯電話から着信メロディーが流れていたのですぐに出た。
「はい、立花です」
私が通話している横で、坂元も自分の携帯電話を取り出した。タッチの差で、彼の方にも着信が有ったようだ。
「え、田上さん家で火事!?」
電話は地域の消防団員からだった。私と坂元も入団している。そして田上と言う姓を持つ家は、加賀見には現在一軒しかない。
「田上さんって、優一くんと英司くんの……?」
電話を終えた私に、清美が不安そうに尋ねた。
「ああ。火はすぐに消し止められたそうだけど、我々も一応現場に向かうよ。事後処理を手伝ってくる」
「奥さん、お邪魔しました」
何か言いたげな清美を残して、私と坂元は足早に赤路邸を後にした。
「ヤバイ展開になりましたね」
「……ああ」
坂元が車を、今度は西方面に走らせた。
消防団員の話によると、炎は外壁の一部を焦げ付かせた程度で、田上家近所の有志達が持ち寄った消火器で、協力して無事に鎮火させたとのことだ。
大規模火災にならなかったのは不幸中の幸いだった。他者への攻撃に使われない限り、団結力は村社会の素晴らしい宝だ。
だが今回のボヤ騒ぎには大きな問題点が有った。
「赤路の旦那さん、そこまでやるなんて……」
やりきれないといった風に、坂元が歯軋りをした。
出火の原因は放火だった。そして放火犯は清美の夫だったのだ。
「私は馬鹿だよ。清美さんにばかり意識を集中してしまった。子供を亡くして、つらい想いを抱えているのは母親だけじゃない。父親だって同じなのに」
先にノイローゼとなった清美よりも、彼女を支えなければならなくなった夫の方が、むしろ心の負担は大きかったのかもしれないのだ。
自分が倒れたら誰が妻を護るのか、誰が妻を解ってあげられるのか。夫は疲れることを許されなかった。
「俺も馬鹿ですよ。村長は覚えてますか? 赤路さんが奉納してた絵馬の話」
「あ……」
失念していた。そうだった、夫婦は犯人の火あぶりを望んでいたのだった。
「それで放火を?」
「きっとそうです。絵馬のこと、俺は何度も修兄ちゃんから聞いてたのに。現物だって見てたのに。なのに赤路さんが放火するなんて考えもしなかった。英ちゃんと翠ちゃんから相談された時点で、すぐに赤路さん家に行けば良かった。そうしたら間に合ってたかもしれないのに」
「もしかしたら窓ガラスを割ったのも、旦那さんの方なんじゃないかな?」
清美は絵馬にこそ過激な文を書いていたようだが、実際には怪しいと思う優一に自首を勧めていた。
「旦那さん言ったそうですね。妻は割ってないって。でも、そうか、自分もやってないとは言ってないんだ。ああもう、自分の鈍さに腹が立つ!」
私達は自責の念に囚われながら現場へ向かった。空に広がりつつあった赤い夕焼けが、火は消されたというのに私の心をざわめかした。
田上家の前には人だかりができていた。坂元は少し離れた所に車を停めて、私と共に人の群れに近付いた。
「村長だ」
群衆の誰かが私を見つけた。
それからは村長だ、村長が来たぞと皆が口々に言い、私と坂元を通す為に左右に別れて道が作られた。まるで海を割った十戒のモーゼだ。
「赤路さん!?」
まず目に入ったのは清美の夫、赤路。彼は男四人がかりで地面に押さえ付けられていた。
赤路は鼻血を垂れ流し、近くには片側のレンズが割れた眼鏡が転がっていた。大乱闘が有った模様だ。
「!」
坂元に核心を突かれ、それまで淡々と話していた清美が大声を上げた。
「それじゃあ、犯人は陽菜の恋人なの!?」
「俺はその線が濃いと思ってる。素人推理だけどね」
清美はワナワナと身体を震わせ、私は坂元に感心した。これで陽菜が屋台から離れた場所に居た説明が付いた。
「陽菜に……恋人……。誰がっ!?」
「付き合っている人が居るとか、陽菜ちゃんから聞いてなかった?」
清美は考え込んだ。私と坂元は静かに待った。
やがて、
「居た……のかもしれない。娘からは何も聞いていないけれど」
清美はポツリポツリ、思い出したことを話し出した。
「あの子、中学くらいからお洒落に目覚めたのだけれど、フリフリした可愛い系が好きだったの。それが亡くなる数ヶ月くらい前から、急に大人びた服やアクセサリーを身に付けるようになったのよ。恋人の影響だったのかしら?」
陽菜の恋人とされる助教の佐々木は当時、大学生か院生。年上の恋人に釣り合おうと、高校生だった陽菜は背伸びをしたのかもしれない。
「夏祭り用に選んだ浴衣もそう。花模様だったけれど、紺の生地だったからずいぶん大人っぽく見えたわ」
ゾワリ。背筋に悪寒が走った。
「紺地に花模様の浴衣……?」
「ええ。当日は髪も結い上げてね。お化粧だけは薄目にするように注意したの。それでもシックな仕上がりになっていたわ」
私は一瞬にして、冷凍庫に放り込まれた気分になった。
私は知っている。紺地に花模様の浴衣姿の若い女性を。
そして彼女の首には、絞められたような赤黒い痕が残っていた。
私がつい先程、公民館の窓の外に見たアレは。
まさか、まさか、まさか…………。
「村長」
「わぁおwhooo!!」
不意に坂元に肩を叩かれて、私は飛び上がらんばかりに驚いた。若干アメリカ人が混じっていた。坂元も私のオーバーリアクションに驚いていた。
「いや、あの、村長の携帯鳴ってませんか?」
言われて私は、自分の横に置いていたセカンドバックの中を確かめた。携帯電話から着信メロディーが流れていたのですぐに出た。
「はい、立花です」
私が通話している横で、坂元も自分の携帯電話を取り出した。タッチの差で、彼の方にも着信が有ったようだ。
「え、田上さん家で火事!?」
電話は地域の消防団員からだった。私と坂元も入団している。そして田上と言う姓を持つ家は、加賀見には現在一軒しかない。
「田上さんって、優一くんと英司くんの……?」
電話を終えた私に、清美が不安そうに尋ねた。
「ああ。火はすぐに消し止められたそうだけど、我々も一応現場に向かうよ。事後処理を手伝ってくる」
「奥さん、お邪魔しました」
何か言いたげな清美を残して、私と坂元は足早に赤路邸を後にした。
「ヤバイ展開になりましたね」
「……ああ」
坂元が車を、今度は西方面に走らせた。
消防団員の話によると、炎は外壁の一部を焦げ付かせた程度で、田上家近所の有志達が持ち寄った消火器で、協力して無事に鎮火させたとのことだ。
大規模火災にならなかったのは不幸中の幸いだった。他者への攻撃に使われない限り、団結力は村社会の素晴らしい宝だ。
だが今回のボヤ騒ぎには大きな問題点が有った。
「赤路の旦那さん、そこまでやるなんて……」
やりきれないといった風に、坂元が歯軋りをした。
出火の原因は放火だった。そして放火犯は清美の夫だったのだ。
「私は馬鹿だよ。清美さんにばかり意識を集中してしまった。子供を亡くして、つらい想いを抱えているのは母親だけじゃない。父親だって同じなのに」
先にノイローゼとなった清美よりも、彼女を支えなければならなくなった夫の方が、むしろ心の負担は大きかったのかもしれないのだ。
自分が倒れたら誰が妻を護るのか、誰が妻を解ってあげられるのか。夫は疲れることを許されなかった。
「俺も馬鹿ですよ。村長は覚えてますか? 赤路さんが奉納してた絵馬の話」
「あ……」
失念していた。そうだった、夫婦は犯人の火あぶりを望んでいたのだった。
「それで放火を?」
「きっとそうです。絵馬のこと、俺は何度も修兄ちゃんから聞いてたのに。現物だって見てたのに。なのに赤路さんが放火するなんて考えもしなかった。英ちゃんと翠ちゃんから相談された時点で、すぐに赤路さん家に行けば良かった。そうしたら間に合ってたかもしれないのに」
「もしかしたら窓ガラスを割ったのも、旦那さんの方なんじゃないかな?」
清美は絵馬にこそ過激な文を書いていたようだが、実際には怪しいと思う優一に自首を勧めていた。
「旦那さん言ったそうですね。妻は割ってないって。でも、そうか、自分もやってないとは言ってないんだ。ああもう、自分の鈍さに腹が立つ!」
私達は自責の念に囚われながら現場へ向かった。空に広がりつつあった赤い夕焼けが、火は消されたというのに私の心をざわめかした。
田上家の前には人だかりができていた。坂元は少し離れた所に車を停めて、私と共に人の群れに近付いた。
「村長だ」
群衆の誰かが私を見つけた。
それからは村長だ、村長が来たぞと皆が口々に言い、私と坂元を通す為に左右に別れて道が作られた。まるで海を割った十戒のモーゼだ。
「赤路さん!?」
まず目に入ったのは清美の夫、赤路。彼は男四人がかりで地面に押さえ付けられていた。
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