村長奇譚 ~夏祭りの惨劇と少女の亡霊~

水無月礼人

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土地に縛られるモノ(二)

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「陽菜さんの幽霊は綺麗な浴衣ゆかたを着ていました。紺の生地きじに色とりどりの花模様が描かれていて、夜空に打ち上げられた花火のようだと思い、ずっと記憶に残っていたんです。そしてその後に清美さんから、陽菜さんは殺された夏祭りの夜に、私が見た浴衣ゆかたを身に着けていたと聞きました。私が幽霊を見たに、清美さんから聞いたのです」
『!』

 後、という部分を私は強調した。宮司は私の意を汲み取ってくれた。

『まだ知らないはずの情報を、会長は幽霊を通して知ったということですか?』
「はい」
『ううん……』

 再び宮司はうなった。

『まいったな、本物か』

 これは独り言だったようだが、受話器の側で呟いたのでバッチリ聞こえた。

『ではここから幽霊が居るという前提で話を進めます。陽菜さんの幽霊は、会長に何か害を与えてきますか?』
「何かをする訳ではないんですが、非常に怖いです。目が合うとニタリと笑われるんです」
『それは怖いですね』
「怖いです」

 あの笑顔を思い出して身震いしてしまった。

『ですが会長、霊に反応せずに無視を決め込んで下さい』
「無視ですか?」
『そうです。見えていても、見えない振りをして下さい。死んだ後もこの世を彷徨さまよう彼らは、自分の欲望を叶えてくれる相手を捜しているのです。自分の存在に気づいてくれる誰かを。ほとんどの人間は霊が傍に居ても気づきません』
「……私は陽菜さんに気づいてしまった」
『ええ。ですがまだ間に合います。これからまた陽菜さんが会長の前に現れても、素知らぬ振りをし続けて下さい。いつもの生活を送って下さい。そうすれば陽菜さんは諦めて、会長にまとわり付くのをやめるでしょう』

 なるほど。私に頼れないと陽菜に思わせれば良いのか。

「宮司さんは幽霊に遭遇した時、いつもそう対処されているんですね?」
『いいえ。私には霊がえませんので』
「えっ、そうなんですか?」
『そうなのです。神主や僧侶は心霊の世界に詳しいと皆さん先入観をお持ちですが、そんなことは有りません。えない者が大半です。前出した禰宜ねぎ、私の友人は少数のえる者の一人です』
「意外です。神職の方は全員、悪魔祓いができると思っていました」
『悪魔祓いはエクソシストですね。いろいろとお間違えです、会長』
「あ、でも、地鎮祭とかやられていますよね。あれと同じ要領で、霊も退散させることはできませんか?」
『できません。そもそも地鎮祭とは、土地神様へのご挨拶なのです。騒がしくしてしまうことを神様におびし、工事の無事を祈願する儀式です。人間同士でも引っ越しの際は隣近所に挨拶するでしょう?』
「なるほど……」
『私も祝詞のりとを使って退魔の真似事は一応できますが……』

 真似事って言った。

『いかんせん何もえないので、成功したか失敗したか判別が付かないのですよ』

 私は家庭用固定電話機の前で頭を抱えた。

『そう悲観しないで下さい会長』

 こういうところはえなくても察するのか。

『友人は言っておりました。気づいていることをあちらに悟られなければ、取り憑かれても大丈夫だと。いずれ離れていくそうです』
「思い切り目が合ってしまっているので、私が気づいていることは陽菜さんにバレていると思いますよ」

 悩める私に、宮司は素晴らしいアドバイスをくれた。

『全力でしらばっくれるのです。大丈夫、多少わざとらしくても堂々とした者勝ちです』

 思えばテレビに出てくる心霊現象否定派は皆、妙に自信に満ち溢れている。

「そうですね。強気でいることが肝心なのかも」
『その意気です。要は相手に、コイツに取り憑いていても時間の無駄だと思わせれば良いのです』
「なるほど。やれる気がしてきました」

 私は希望の光を見た気がした。しかし陽菜の霊と遭遇した時のことを思い出して、また頭を抱えた。

「駄目です、宮司さん」
『会長?』
「私、公民館で陽菜さんの幽霊に声をかけてしまいました」
『えええ?』
「あの時はまだ顔と首の痕を見ていなかったから、生きている普通のお嬢さんだと思ったんです。それでつい、公民館に何かご用ですか、と」
『陽菜さんの反応はどうでしたか?』
「私が声をかけた後に、すぐに顔を上げて笑いました」

 言って、私は恐ろしい事実に思い当たった。

「きっと陽菜さんは、私が彼女に気づいたと判ったから笑ったんです。あの笑みはそういう意味だったんです」

 その後に田上家の前で、群衆に紛れて再び陽菜は姿を現した。あれは確認の為だったんだ。私と目が合った陽菜は喜んだ。やっぱりえているんだね、と。

『困りましたね』
「困っております」
『ううん……。私のえる友人に相談してみましょう。忙しい男なのでこちらへ来ることは無理でも、助言くらいは貰えるでしょうから』
「お願いできますか?」
『もちろんです。友人と連絡を取りますので、この電話は一旦切りますね。後程またお電話差し上げます』
「ありがとうございます。宜しくお願い致します!」

 私は電話機の前で何度も頭を下げた。清美の件といい、宮司には頼りっ放しだ。いつか埋め合わせをすると心の中で誓い、宮司との電話を切った。

 ピリッ。

 首筋に電流が流れたような痛みが走った。この痛みは昨日も何度か起きていた。静電気が走る季節ではないのだが。
 幸い痛みはすぐに消えたので気にしないことにした。宮司から電話が来るまでの時間潰しをしようと、居間のテレビをリモコンでけた。
 三十二インチの画面には女性リポーターが映し出されて、大袈裟な身振り手振りで流行りのスイーツを紹介していた。普段はこういった特集を好まない私だが、不安な気持ちを抱く今は、リポーターの演技がかった明るさにも救われる思いだった。
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