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存在する限り(2)
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「だけど私にはもう幸せな結末を用意できないんだ。ループが壊れた時に、新たな物語を書き起こす創造の力を失ってしまったから」
「いいよ。これからは創造主ではなく、友達として私達を応援して」
私の言葉に鈴音が目を見張った。
「友達……として?」
「うん。それにもう終わりを用意されたら困るよ。私とキース先輩は始まったばかりなんだもん。これからなの」
「これから……」
「そう。同僚ではなく恋人としてお喋りして、デートして、記念日にはプレゼント交換して、いつかは朝チュ……うごふっ、けほっ」
「ロックウィーナ、どうしたの!?」
「唾が気管に入ったの。大丈夫大丈夫」
朝チュンの話題は16歳の少女には早い。
「ロックウィーナはやりたいことがたくさん有るのね……?」
「そうなんだよ! 昨日の昼まではアンダー・ドラゴンのことで怖がっていたのに、今は気持ちが自分でもびっくりするくらい弾んでる。つくづく生きていて良かったと思う」
「いいな……。私もそんな風に思えたら……」
「思えばいいんだよ! スズネは今生きている。あなただってこれからだよ!」
鈴音が頭を左右に振った。
「私じゃ無理……。後ろ向きなことばっかり考えちゃうから」
「私だってそうだよ。いつも笑ってなんていられない。さっきも言ったけど、昨日の昼までは恐怖に震えていたんだよ? キース先輩はちゃんと目覚めるのか、首領を手にかけたユーリはどうしているのかって」
「ごめんね……。私がアンダー・ドラゴンなんて組織を物語に登場させたから」
「コラ」
私は鈴音の頭を軽く小突いた。
「それ言うの禁止。みんなもうね、あなたのせいだなんて思ってないよ。そもそもあなたが設定してくれなかったら、私もみんなも存在していなかったんだから」
「でも……キースに魅了の瞳が無かったら、あなた達は迷うことなく結ばれていたんだよ?」
「そうだね。でも私はキース先輩の瞳も過去もひっくるめて好きになったの。今の私にとってはね、魅了の瞳は決してマイナスポイントじゃないんだ。大好きな彼の一部なんだもん」
「ロックウィーナ……」
「ごめん、ちょっと惚気過ぎた」
16歳の少女へ恋愛論を熱弁する25歳の女。急に恥ずかしくなってきたぞ。鈴音は引いてないかな?
「あっ、ルパート先輩が食堂で待ってくれてるんだった! さっさと顔を洗って行かなきゃだ。鈴音も良かったら一緒に食べようよ」
「……うん」
「よし、じゃあ食堂に集合ね」
私は単純にガールズトークをしたつもりだった。しかし鈴音にとっては違ったようだ。
後で知ることになるのだが、この時の会話が鈴音の進路を決める、大きなターニングポイントとなっていたのだった。
☆☆☆
私と鈴音が食堂に降りた時には、いつもの面々が既に揃ってテーブルに着いていた。つまりキースも居るという訳だ。
モーニングプレートを手に取り席に着いた私。よりにもよって真正面の席がキースだった。嬉しさ半分、気まずさ半分だ。彼と目が合い、照れ臭くなった私達は不自然に顔を逸らした。それを目ざとい忍者に見咎められた。
「おい……、二人の間に何か有ったのか?」
尋ねたエンはフォークの先でベーコンエッグをグサグサ刺している。半熟の黄身が割れて血のようにトロリと垂れた。怖い。
「あー、あの後しっぽり行っちゃった感じ?」
無遠慮にユーリが要らんことを言った。
「しっぽりだと!?」
「ちょっとユーリさん、それどういうことだ!?」
エンとマキアが目を吊り上げてユーリに詰め寄った。
「ん? 夕べさ、相変わらずロックウィーナとキースさんがよそよそしいもんで、ちょっと発破をかけてやったんだよ」
「キースさんを挑発したのか? どうやって!?」
喰い付く隣の席の義弟を肘で押しながら、ユーリはベーコンエッグにソイソースを掛けた。目玉焼きには醬油派か。私は塩コショウだ。
「キースさんが見てる前でロックウィーナにキスしようとした。逃げられちゃったけどな」
説明しながらユーリは私へウィンクした。けっこう軽薄だぞこの男。
「は!? それはやり過ぎだろうユーリ!」
「もちろんフリだけッスよね!?」
「いや? 俺もロックウィーナをかなりイイなと思ってるから、拒まれなかったらそのまま行ってたな」
ルパートとエリアスがイスの音を響かせて立ち上がった。
「これまで関係無いって顔をしておいていきなりキスか、とんだ早業だなこの糞ガキが!」
「貴様、私が手袋をしていたら投げて決闘を申し込んでいたところだ!!」
息のピッタリ合った怒声には迫力が有り、鈴音が怯《おび》えて私にしがみ付いた。
しかし、いつもは混ざって人一倍うるさいアルクナイトが、今回はヤレヤレといった表情で怒る男達を眺めていた。
「みんな少し落ち着けよ……いてっ、いてぇなエン!!」
どうやらテーブルの下でエンがユーリの足を蹴っているらしい。
朝から騒々しい集団だ。今日も長い一日になりそうだな。
「ユーリの言う通り少し落ち着こう。まぁコイツが元凶なんだが」
エリアスの音頭でひとまずみんなの攻撃色が消えた。空気が和らいだので鈴音がホッとした表情で私から離れた。
漸く食事が再開した。かと思ったらパンをちぎる勇者が穏やかな声音で私へ尋ねた。
「それで押さえておきたい大切な部分なのだがロックウィーナ、キース殿と最後までは致してないよな?」
私はカップに入ったカボチャのポタージュスープを吐き出しそうになった。笑顔で何を聞いているのこの人は。よく見たら目が笑っていなかった。
「どうなんだ? ウィー」
ルパートもねっとり睨みつけてくる。恋を応援してくれる約束は何処へ飛んでいった? アンタは私の味方ちゃうんかい。
「いいよ。これからは創造主ではなく、友達として私達を応援して」
私の言葉に鈴音が目を見張った。
「友達……として?」
「うん。それにもう終わりを用意されたら困るよ。私とキース先輩は始まったばかりなんだもん。これからなの」
「これから……」
「そう。同僚ではなく恋人としてお喋りして、デートして、記念日にはプレゼント交換して、いつかは朝チュ……うごふっ、けほっ」
「ロックウィーナ、どうしたの!?」
「唾が気管に入ったの。大丈夫大丈夫」
朝チュンの話題は16歳の少女には早い。
「ロックウィーナはやりたいことがたくさん有るのね……?」
「そうなんだよ! 昨日の昼まではアンダー・ドラゴンのことで怖がっていたのに、今は気持ちが自分でもびっくりするくらい弾んでる。つくづく生きていて良かったと思う」
「いいな……。私もそんな風に思えたら……」
「思えばいいんだよ! スズネは今生きている。あなただってこれからだよ!」
鈴音が頭を左右に振った。
「私じゃ無理……。後ろ向きなことばっかり考えちゃうから」
「私だってそうだよ。いつも笑ってなんていられない。さっきも言ったけど、昨日の昼までは恐怖に震えていたんだよ? キース先輩はちゃんと目覚めるのか、首領を手にかけたユーリはどうしているのかって」
「ごめんね……。私がアンダー・ドラゴンなんて組織を物語に登場させたから」
「コラ」
私は鈴音の頭を軽く小突いた。
「それ言うの禁止。みんなもうね、あなたのせいだなんて思ってないよ。そもそもあなたが設定してくれなかったら、私もみんなも存在していなかったんだから」
「でも……キースに魅了の瞳が無かったら、あなた達は迷うことなく結ばれていたんだよ?」
「そうだね。でも私はキース先輩の瞳も過去もひっくるめて好きになったの。今の私にとってはね、魅了の瞳は決してマイナスポイントじゃないんだ。大好きな彼の一部なんだもん」
「ロックウィーナ……」
「ごめん、ちょっと惚気過ぎた」
16歳の少女へ恋愛論を熱弁する25歳の女。急に恥ずかしくなってきたぞ。鈴音は引いてないかな?
「あっ、ルパート先輩が食堂で待ってくれてるんだった! さっさと顔を洗って行かなきゃだ。鈴音も良かったら一緒に食べようよ」
「……うん」
「よし、じゃあ食堂に集合ね」
私は単純にガールズトークをしたつもりだった。しかし鈴音にとっては違ったようだ。
後で知ることになるのだが、この時の会話が鈴音の進路を決める、大きなターニングポイントとなっていたのだった。
☆☆☆
私と鈴音が食堂に降りた時には、いつもの面々が既に揃ってテーブルに着いていた。つまりキースも居るという訳だ。
モーニングプレートを手に取り席に着いた私。よりにもよって真正面の席がキースだった。嬉しさ半分、気まずさ半分だ。彼と目が合い、照れ臭くなった私達は不自然に顔を逸らした。それを目ざとい忍者に見咎められた。
「おい……、二人の間に何か有ったのか?」
尋ねたエンはフォークの先でベーコンエッグをグサグサ刺している。半熟の黄身が割れて血のようにトロリと垂れた。怖い。
「あー、あの後しっぽり行っちゃった感じ?」
無遠慮にユーリが要らんことを言った。
「しっぽりだと!?」
「ちょっとユーリさん、それどういうことだ!?」
エンとマキアが目を吊り上げてユーリに詰め寄った。
「ん? 夕べさ、相変わらずロックウィーナとキースさんがよそよそしいもんで、ちょっと発破をかけてやったんだよ」
「キースさんを挑発したのか? どうやって!?」
喰い付く隣の席の義弟を肘で押しながら、ユーリはベーコンエッグにソイソースを掛けた。目玉焼きには醬油派か。私は塩コショウだ。
「キースさんが見てる前でロックウィーナにキスしようとした。逃げられちゃったけどな」
説明しながらユーリは私へウィンクした。けっこう軽薄だぞこの男。
「は!? それはやり過ぎだろうユーリ!」
「もちろんフリだけッスよね!?」
「いや? 俺もロックウィーナをかなりイイなと思ってるから、拒まれなかったらそのまま行ってたな」
ルパートとエリアスがイスの音を響かせて立ち上がった。
「これまで関係無いって顔をしておいていきなりキスか、とんだ早業だなこの糞ガキが!」
「貴様、私が手袋をしていたら投げて決闘を申し込んでいたところだ!!」
息のピッタリ合った怒声には迫力が有り、鈴音が怯《おび》えて私にしがみ付いた。
しかし、いつもは混ざって人一倍うるさいアルクナイトが、今回はヤレヤレといった表情で怒る男達を眺めていた。
「みんな少し落ち着けよ……いてっ、いてぇなエン!!」
どうやらテーブルの下でエンがユーリの足を蹴っているらしい。
朝から騒々しい集団だ。今日も長い一日になりそうだな。
「ユーリの言う通り少し落ち着こう。まぁコイツが元凶なんだが」
エリアスの音頭でひとまずみんなの攻撃色が消えた。空気が和らいだので鈴音がホッとした表情で私から離れた。
漸く食事が再開した。かと思ったらパンをちぎる勇者が穏やかな声音で私へ尋ねた。
「それで押さえておきたい大切な部分なのだがロックウィーナ、キース殿と最後までは致してないよな?」
私はカップに入ったカボチャのポタージュスープを吐き出しそうになった。笑顔で何を聞いているのこの人は。よく見たら目が笑っていなかった。
「どうなんだ? ウィー」
ルパートもねっとり睨みつけてくる。恋を応援してくれる約束は何処へ飛んでいった? アンタは私の味方ちゃうんかい。
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