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新七幕 魔王の瞳に映る世界(7)
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「ふぅ…………」
退却する魔物軍団を見送りながら、エリアスは肩や首の関節をコキコキ鳴らした。コイツでもあの兵数の前では緊張したようだ。他の者もホッとした表情を浮かべた。
……どうやら俺は命を拾ったようだ。駆け付けてくれたコイツらのおかげでな。
ガラではないが、迷惑をかけた詫びはしておこうか。
「皆の者、今日は……」
挨拶の途中で小娘の右ストレートが飛んできた。よけきれず、拳が俺の左頬にめり込んだ。
「ぼめはぁっ」
しまった。身体を護るバリアが切れていたんだった。俺は至高の存在らしからぬ間抜けな声を漏らして横へ吹っ飛んだ。
「わあぁっ、魔王様!?」
「…………死んだ?」
生きてるわ。マキアとエンが俺の側へ寄り怪我の具合を確認してくれたが、年長グループは冷たい視線をこちらへ向けていた。え、何? 加勢に来てくれたんじゃないのか?
「……アンタ、ふざけんじゃないわよ」
ドスの効いた声とは裏腹に、小娘は泣いていた。
「何で、独りで出ていったりしたのよ……!」
……ああそうか。俺が思っていた以上に心配させてしまったんだな。さめざめと泣く小娘を見て胸が苦しくなった。
「アル、私達はそんなに頼りにならないのか?」
剣を鞘に戻したエリアスも悲しい目をしていた。
「ホントだよ。何の為に上位のミッション選んで鍛えてきたと思ってんですか」
「水臭いです」
ルパートとキースも俺を責めた。でもそれは心配の裏返しだった。
みんな素の感情を出してくれている。……俺も素直にならなくてはな。
「すまなかった……。正直に言う、戦いに巻き込めばおまえ達の内の誰かが死ぬと思ったんだ」
そしてきっと、犠牲になるのはロックウィーナかマキアだと思った。彼らはまだ魔物の軍団と戦えるレベルの戦闘能力ではない。
「ループを壊せば先へ進めるが、その代わりに過去へ戻ってやり直すことができなくなる。死んだ者は生き返らないんだ」
だから俺独りで終わらせようとした。
「アンタだって死んだらそれまでじゃない」
「俺はもう充分に生きた。……そう思っていた」
「……過去形なの?」
「ああ。もう死ぬ気は無い」
「本当に?」
「二言は無い。おまえと結婚する」
「………………」
「………………」
「………………」
「………………」
「………………」
「………………」
これが小説なら、全員分の三点リーダーが羅列されているところだな。
「……………アル、今何と言った?」
いち早く自分を取り戻したのはエリアスだった。他の者はまだポカンと馬鹿面を晒している。
「俺はロックウィーナと結婚する」
「どうしてそうなる。唐突だろう」
「小娘から聞いてないのか? 俺とあやつは二周前に夫婦になった仲だ」
「なっ……。そ、そうなのか? しかしそれはループを壊す為にいろいろ試した結果だろう!?」
エリアスは察しがいいな。長い説明をしなくていいのは助かる。
「そうだ。しかし過程はどうでもいい。俺はロックウィーナに本気で恋をした」
「!!!」
「わっ、私は、人前でおっぱい出してる人なんて御免よ!」
参戦してきた小娘に俺は身体を見せつけた。
「ちゃんと見ろ、ギリ出ていない。そういう風に布の長さを調節している。そもそも少年の姿だった時もこの格好だったろうが」
「いやー! こっち来ないで!!」
小娘はまたキースの背中に隠れた。さっきから白に頼り過ぎだろ。ムカつく。
「子供と大人とじゃ違うのよ! 子供はおへそ出してても可愛いけど、大人になると一気にえっちになるの! だいたい何でアンタ大人になってるのよ!?」
「これが俺の本来の姿だ」
「えっ、そうだったのか? アル」
「魔王様……何気にイイ身体してる……」
マキアが自分の貧相な身体と俺を比べて落ち込んでいた。当然だ。「魔術師系は頭でっかちなモヤシっ子」と言われるのが嫌で、俺は隠れて毎日筋肉トレーニングをしている。少年の身体には筋肉が付きにくいが、成長させてみたらあら素敵。
俺は素晴らしい肉体を見せる為に小娘の周りをうろついた。
「いや────ッ、あっち行って!」
俺は天然ではない。これがセクシャルハラスメントに該当すると解ってやっている。訴えられたら裁判で確実に負けるだろう。
しかし照れる小娘は非常に可愛いのだ。夫婦になった十五周目でも散々からかったもんだ。
「いいかげんにして下さい!」
バチッ。
痛っ。キースの防御障壁に弾かれた。野郎。
俺は弾かれた尻を擦りながら疑問を呈した。
「……聞きたいのだが、おまえ達はどうしてここが判ったんだ? 俺は戦う場所を誰にも告げていないぞ」
答えたのは普段無口なエンだった。
「早朝稽古でギルドの中庭を走っている時に、窓から出て空を飛んでいく魔王様を見つけたんです」
見られていたのか。あの時は朝5時ちょい過ぎだったので油断していた。おまえもたいがい早起きだな。おじいちゃんか。
「取り敢えずみんなを起こしてそれを伝えました。ロックウィーナは何故か魔王様の部屋で寝ていたけど……」
「そう、ソレ! アンタのせいであらぬ誤解をされたんだからね!!」
「それからが大変でした。あなたを追って馬車を二台走らせて追いかけたんですが、飛んでいった方角しかヒントが無かったので、地図を見て戦いに適した開けた場所を片っ端から当たったんです。こっちだって言ってるのに何度もエリアスさんが操縦する馬車が違う方角へ行こうとするし、マキアは酷い乗り物酔いでダウンするし」
「だって五時間くらい乗りっ放しだったんだもん……」
ここまで到達するのに苦労させたようだな。ただ二度と方向音痴に御者はさせるな。
俺は改めて、慣れない謝罪の言葉を口にした。
「皆、悪かった。今回世話になった分はいつか返そう」
「謝罪は聞かない」
ちゃんと謝ったのに小娘が口を尖らせた。ブス顔になっているぞ。
「どう詫びたらいい?」
「だから謝罪は要らないって。他に言うこと有るでしょ?」
「他に……」
考えて、思いついた。そうだな、言わなきゃならない大切なことが有ったな。
「来てくれて……ありがとう」
ロックウィーナは漸く笑った。他の者達も。
退却する魔物軍団を見送りながら、エリアスは肩や首の関節をコキコキ鳴らした。コイツでもあの兵数の前では緊張したようだ。他の者もホッとした表情を浮かべた。
……どうやら俺は命を拾ったようだ。駆け付けてくれたコイツらのおかげでな。
ガラではないが、迷惑をかけた詫びはしておこうか。
「皆の者、今日は……」
挨拶の途中で小娘の右ストレートが飛んできた。よけきれず、拳が俺の左頬にめり込んだ。
「ぼめはぁっ」
しまった。身体を護るバリアが切れていたんだった。俺は至高の存在らしからぬ間抜けな声を漏らして横へ吹っ飛んだ。
「わあぁっ、魔王様!?」
「…………死んだ?」
生きてるわ。マキアとエンが俺の側へ寄り怪我の具合を確認してくれたが、年長グループは冷たい視線をこちらへ向けていた。え、何? 加勢に来てくれたんじゃないのか?
「……アンタ、ふざけんじゃないわよ」
ドスの効いた声とは裏腹に、小娘は泣いていた。
「何で、独りで出ていったりしたのよ……!」
……ああそうか。俺が思っていた以上に心配させてしまったんだな。さめざめと泣く小娘を見て胸が苦しくなった。
「アル、私達はそんなに頼りにならないのか?」
剣を鞘に戻したエリアスも悲しい目をしていた。
「ホントだよ。何の為に上位のミッション選んで鍛えてきたと思ってんですか」
「水臭いです」
ルパートとキースも俺を責めた。でもそれは心配の裏返しだった。
みんな素の感情を出してくれている。……俺も素直にならなくてはな。
「すまなかった……。正直に言う、戦いに巻き込めばおまえ達の内の誰かが死ぬと思ったんだ」
そしてきっと、犠牲になるのはロックウィーナかマキアだと思った。彼らはまだ魔物の軍団と戦えるレベルの戦闘能力ではない。
「ループを壊せば先へ進めるが、その代わりに過去へ戻ってやり直すことができなくなる。死んだ者は生き返らないんだ」
だから俺独りで終わらせようとした。
「アンタだって死んだらそれまでじゃない」
「俺はもう充分に生きた。……そう思っていた」
「……過去形なの?」
「ああ。もう死ぬ気は無い」
「本当に?」
「二言は無い。おまえと結婚する」
「………………」
「………………」
「………………」
「………………」
「………………」
「………………」
これが小説なら、全員分の三点リーダーが羅列されているところだな。
「……………アル、今何と言った?」
いち早く自分を取り戻したのはエリアスだった。他の者はまだポカンと馬鹿面を晒している。
「俺はロックウィーナと結婚する」
「どうしてそうなる。唐突だろう」
「小娘から聞いてないのか? 俺とあやつは二周前に夫婦になった仲だ」
「なっ……。そ、そうなのか? しかしそれはループを壊す為にいろいろ試した結果だろう!?」
エリアスは察しがいいな。長い説明をしなくていいのは助かる。
「そうだ。しかし過程はどうでもいい。俺はロックウィーナに本気で恋をした」
「!!!」
「わっ、私は、人前でおっぱい出してる人なんて御免よ!」
参戦してきた小娘に俺は身体を見せつけた。
「ちゃんと見ろ、ギリ出ていない。そういう風に布の長さを調節している。そもそも少年の姿だった時もこの格好だったろうが」
「いやー! こっち来ないで!!」
小娘はまたキースの背中に隠れた。さっきから白に頼り過ぎだろ。ムカつく。
「子供と大人とじゃ違うのよ! 子供はおへそ出してても可愛いけど、大人になると一気にえっちになるの! だいたい何でアンタ大人になってるのよ!?」
「これが俺の本来の姿だ」
「えっ、そうだったのか? アル」
「魔王様……何気にイイ身体してる……」
マキアが自分の貧相な身体と俺を比べて落ち込んでいた。当然だ。「魔術師系は頭でっかちなモヤシっ子」と言われるのが嫌で、俺は隠れて毎日筋肉トレーニングをしている。少年の身体には筋肉が付きにくいが、成長させてみたらあら素敵。
俺は素晴らしい肉体を見せる為に小娘の周りをうろついた。
「いや────ッ、あっち行って!」
俺は天然ではない。これがセクシャルハラスメントに該当すると解ってやっている。訴えられたら裁判で確実に負けるだろう。
しかし照れる小娘は非常に可愛いのだ。夫婦になった十五周目でも散々からかったもんだ。
「いいかげんにして下さい!」
バチッ。
痛っ。キースの防御障壁に弾かれた。野郎。
俺は弾かれた尻を擦りながら疑問を呈した。
「……聞きたいのだが、おまえ達はどうしてここが判ったんだ? 俺は戦う場所を誰にも告げていないぞ」
答えたのは普段無口なエンだった。
「早朝稽古でギルドの中庭を走っている時に、窓から出て空を飛んでいく魔王様を見つけたんです」
見られていたのか。あの時は朝5時ちょい過ぎだったので油断していた。おまえもたいがい早起きだな。おじいちゃんか。
「取り敢えずみんなを起こしてそれを伝えました。ロックウィーナは何故か魔王様の部屋で寝ていたけど……」
「そう、ソレ! アンタのせいであらぬ誤解をされたんだからね!!」
「それからが大変でした。あなたを追って馬車を二台走らせて追いかけたんですが、飛んでいった方角しかヒントが無かったので、地図を見て戦いに適した開けた場所を片っ端から当たったんです。こっちだって言ってるのに何度もエリアスさんが操縦する馬車が違う方角へ行こうとするし、マキアは酷い乗り物酔いでダウンするし」
「だって五時間くらい乗りっ放しだったんだもん……」
ここまで到達するのに苦労させたようだな。ただ二度と方向音痴に御者はさせるな。
俺は改めて、慣れない謝罪の言葉を口にした。
「皆、悪かった。今回世話になった分はいつか返そう」
「謝罪は聞かない」
ちゃんと謝ったのに小娘が口を尖らせた。ブス顔になっているぞ。
「どう詫びたらいい?」
「だから謝罪は要らないって。他に言うこと有るでしょ?」
「他に……」
考えて、思いついた。そうだな、言わなきゃならない大切なことが有ったな。
「来てくれて……ありがとう」
ロックウィーナは漸く笑った。他の者達も。
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