ギルド回収人は勇者をも背負う ~ボロ雑巾のようになった冒険者をおんぶしたら惚れられた~

水無月礼人

文字の大きさ
86 / 291

新七幕 魔王の瞳に映る世界(7)

しおりを挟む
「ふぅ…………」

 退却する魔物軍団を見送りながら、エリアスは肩や首の関節をコキコキ鳴らした。コイツでもあの兵数の前では緊張したようだ。他の者もホッとした表情を浮かべた。

 ……どうやら俺は命を拾ったようだ。駆け付けてくれたコイツらのおかげでな。
 ガラではないが、迷惑をかけた詫びはしておこうか。

「皆の者、今日は……」

 挨拶の途中で小娘の右ストレートが飛んできた。よけきれず、こぶしが俺の左頬にめり込んだ。

「ぼめはぁっ」

 しまった。身体を護るバリアが切れていたんだった。俺は至高の存在らしからぬ間抜けな声を漏らして横へ吹っ飛んだ。

「わあぁっ、魔王様!?」
「…………死んだ?」

 生きてるわ。マキアとエンが俺の側へ寄り怪我の具合を確認してくれたが、年長グループは冷たい視線をこちらへ向けていた。え、何? 加勢に来てくれたんじゃないのか?

「……アンタ、ふざけんじゃないわよ」

 ドスの効いた声とは裏腹に、小娘は泣いていた。

「何で、独りで出ていったりしたのよ……!」

 ……ああそうか。俺が思っていた以上に心配させてしまったんだな。さめざめと泣く小娘を見て胸が苦しくなった。

「アル、私達はそんなに頼りにならないのか?」

 剣をさやに戻したエリアスも悲しい目をしていた。

「ホントだよ。何の為に上位のミッション選んで鍛えてきたと思ってんですか」
「水臭いです」

 ルパートとキースも俺を責めた。でもそれは心配の裏返しだった。
 みんな素の感情を出してくれている。……俺も素直にならなくてはな。

「すまなかった……。正直に言う、戦いに巻き込めばおまえ達の内の誰かが死ぬと思ったんだ」

 そしてきっと、犠牲になるのはロックウィーナかマキアだと思った。彼らはまだ魔物の軍団と戦えるレベルの戦闘能力ではない。

「ループを壊せば先へ進めるが、その代わりに過去へ戻ってやり直すことができなくなる。死んだ者は生き返らないんだ」

 だから俺独りで終わらせようとした。

「アンタだって死んだらそれまでじゃない」
「俺はもう充分に生きた。……そう思っていた」
「……過去形なの?」
「ああ。もう死ぬ気は無い」
「本当に?」
「二言は無い。おまえと結婚する」
「………………」
「………………」
「………………」
「………………」
「………………」
「………………」

 これが小説なら、全員分の三点リーダーが羅列されているところだな。

「……………アル、今何と言った?」

 いち早く自分を取り戻したのはエリアスだった。他の者はまだポカンと馬鹿面を晒している。

「俺はロックウィーナと結婚する」
「どうしてそうなる。唐突だろう」
「小娘から聞いてないのか? 俺とあやつは二周前に夫婦になった仲だ」
「なっ……。そ、そうなのか? しかしそれはループを壊す為にいろいろ試した結果だろう!?」

 エリアスは察しがいいな。長い説明をしなくていいのは助かる。

「そうだ。しかし過程はどうでもいい。俺はロックウィーナに本気で恋をした」
「!!!」
「わっ、私は、人前でおっぱい出してる人なんて御免よ!」

 参戦してきた小娘に俺は身体を見せつけた。

「ちゃんと見ろ、ギリ出ていない。そういう風に布の長さを調節している。そもそも少年の姿だった時もこの格好だったろうが」
「いやー! こっち来ないで!!」

 小娘はまたキースの背中に隠れた。さっきから白に頼り過ぎだろ。ムカつく。

「子供と大人とじゃ違うのよ! 子供はおへそ出してても可愛いけど、大人になると一気にえっちになるの! だいたい何でアンタ大人になってるのよ!?」
「これが俺の本来の姿だ」
「えっ、そうだったのか? アル」
「魔王様……何気にイイ身体してる……」

 マキアが自分の貧相な身体と俺を比べて落ち込んでいた。当然だ。「魔術師系は頭でっかちなモヤシっ子」と言われるのが嫌で、俺は隠れて毎日筋肉トレーニングをしている。少年の身体には筋肉が付きにくいが、成長させてみたらあら素敵。
 俺は素晴らしい肉体を見せる為に小娘の周りをうろついた。

「いや────ッ、あっち行って!」

 俺は天然ではない。これがセクシャルハラスメントに該当すると解ってやっている。訴えられたら裁判で確実に負けるだろう。
 しかし照れる小娘は非常に可愛いのだ。夫婦になった十五周目でも散々からかったもんだ。

「いいかげんにして下さい!」

 バチッ。

 痛っ。キースの防御障壁に弾かれた。野郎。
 俺は弾かれた尻をさすりながら疑問を呈した。

「……聞きたいのだが、おまえ達はどうしてここが判ったんだ? 俺は戦う場所を誰にも告げていないぞ」

 答えたのは普段無口なエンだった。

「早朝稽古でギルドの中庭を走っている時に、窓から出て空を飛んでいく魔王様を見つけたんです」

 見られていたのか。あの時は朝5時ちょい過ぎだったので油断していた。おまえもたいがい早起きだな。おじいちゃんか。

「取り敢えずみんなを起こしてそれを伝えました。ロックウィーナは何故か魔王様の部屋で寝ていたけど……」
「そう、ソレ! アンタのせいであらぬ誤解をされたんだからね!!」
「それからが大変でした。あなたを追って馬車を二台走らせて追いかけたんですが、飛んでいった方角しかヒントが無かったので、地図を見て戦いに適した開けた場所を片っ端から当たったんです。こっちだって言ってるのに何度もエリアスさんが操縦する馬車が違う方角へ行こうとするし、マキアは酷い乗り物酔いでダウンするし」
「だって五時間くらい乗りっ放しだったんだもん……」

 ここまで到達するのに苦労させたようだな。ただ二度と方向音痴に御者ぎょしゃはさせるな。
 俺は改めて、慣れない謝罪の言葉を口にした。

「皆、悪かった。今回世話になった分はいつか返そう」
「謝罪は聞かない」

 ちゃんと謝ったのに小娘が口を尖らせた。ブス顔になっているぞ。

「どう詫びたらいい?」
「だから謝罪はらないって。他に言うこと有るでしょ?」
「他に……」

 考えて、思いついた。そうだな、言わなきゃならない大切なことが有ったな。

「来てくれて……ありがとう」

 ロックウィーナはようやく笑った。他の者達も。 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

転生したら、実家が養鶏場から養コカトリス場にかわり、知らない牧場経営型乙女ゲームがはじまりました

空飛ぶひよこ
恋愛
実家の養鶏場を手伝いながら育ち、後継ぎになることを夢見ていていた梨花。 結局、できちゃった婚を果たした元ヤンの兄(改心済)が後を継ぐことになり、進路に迷っていた矢先、運悪く事故死してしまう。 転生した先は、ゲームのようなファンタジーな世界。 しかし、実家は養鶏場ならぬ、養コカトリス場だった……! 「やった! 今度こそ跡継ぎ……え? 姉さんが婿を取って、跡を継ぐ?」 農家の後継不足が心配される昨今。何故私の周りばかり、後継に恵まれているのか……。 「勤労意欲溢れる素敵なお嬢さん。そんな貴女に御朗報です。新規国営牧場のオーナーになってみませんか? ーー条件は、ただ一つ。牧場でドラゴンの卵も一緒に育てることです」 ーーそして謎の牧場経営型乙女ゲームが始まった。(解せない)

王宮侍女は穴に落ちる

斑猫
恋愛
婚約破棄されたうえ養家を追い出された アニエスは王宮で運良く職を得る。 呪われた王女と呼ばれるエリザベ―ト付き の侍女として。 忙しく働く毎日にやりがいを感じていた。 ところが、ある日ちょっとした諍いから 突き飛ばされて怪しい穴に落ちてしまう。 ちょっと、とぼけた主人公が足フェチな 俺様系騎士団長にいじめ……いや、溺愛され るお話です。

英雄の番が名乗るまで

長野 雪
恋愛
突然発生した魔物の大侵攻。西の果てから始まったそれは、いくつもの集落どころか国すら飲みこみ、世界中の国々が人種・宗教を越えて協力し、とうとう終息を迎えた。魔物の駆逐・殲滅に目覚ましい活躍を見せた5人は吟遊詩人によって「五英傑」と謳われ、これから彼らの活躍は英雄譚として広く知られていくのであろう。 大侵攻の終息を祝う宴の最中、己の番《つがい》の気配を感じた五英傑の一人、竜人フィルは見つけ出した途端、気を失ってしまった彼女に対し、番の誓約を行おうとするが失敗に終わる。番と己の寿命を等しくするため、何より番を手元に置き続けるためにフィルにとっては重要な誓約がどうして失敗したのか分からないものの、とにかく庇護したいフィルと、ぐいぐい溺愛モードに入ろうとする彼に一歩距離を置いてしまう番の女性との一進一退のおはなし。 ※小説家になろうにも投稿

異世界に喚ばれた私は二人の騎士から逃げられない

紅子
恋愛
異世界に召喚された・・・・。そんな馬鹿げた話が自分に起こるとは思わなかった。不可抗力。女性の極めて少ないこの世界で、誰から見ても外見中身とも極上な騎士二人に捕まった私は山も谷もない甘々生活にどっぷりと浸かっている。私を押し退けて自分から飛び込んできたお花畑ちゃんも素敵な人に出会えるといいね・・・・。 完結済み。全19話。 毎日00:00に更新します。 R15は、念のため。 自己満足の世界に付き、合わないと感じた方は読むのをお止めください。設定ゆるゆるの思い付き、ご都合主義で書いているため、深い内容ではありません。さらっと読みたい方向けです。矛盾点などあったらごめんなさい(>_<)

異世界に落ちて、溺愛されました。

恋愛
満月の月明かりの中、自宅への帰り道に、穴に落ちた私。 落ちた先は異世界。そこで、私を番と話す人に溺愛されました。

ご褒美人生~転生した私の溺愛な?日常~

紅子
恋愛
魂の修行を終えた私は、ご褒美に神様から丈夫な身体をもらい最後の転生しました。公爵令嬢に生まれ落ち、素敵な仮婚約者もできました。家族や仮婚約者から溺愛されて、幸せです。ですけど、神様。私、お願いしましたよね?寿命をベッドの上で迎えるような普通の目立たない人生を送りたいと。やりすぎですよ💢神様。 毎週火・金曜日00:00に更新します。→完結済みです。毎日更新に変更します。 R15は、念のため。 自己満足の世界に付き、合わないと感じた方は読むのをお止めください。設定ゆるゆるの思い付き、ご都合主義で書いているため、深い内容ではありません。さらっと読みたい方向けです。矛盾点などあったらごめんなさい(>_<)

転生したら乙女ゲームの主人公の友達になったんですが、なぜか私がモテてるんですが?

山下小枝子
恋愛
田舎に住むごく普通のアラサー社畜の私は車で帰宅中に、 飛び出してきた猫かたぬきを避けようとしてトラックにぶつかりお陀仏したらしく、 気付くと、最近ハマっていた乙女ゲームの世界の『主人公の友達』に転生していたんだけど、 まぁ、友達でも二次元女子高生になれたし、 推しキャラやイケメンキャラやイケオジも見れるし!楽しく過ごそう!と、 思ってたらなぜか主人公を押し退け、 攻略対象キャラからモテまくる事態に・・・・ ちょ、え、これどうしたらいいの!!!嬉しいけど!!!

召喚とか聖女とか、どうでもいいけど人の都合考えたことある?

浅海 景
恋愛
水谷 瑛莉桂(みずたに えりか)の目標は堅実な人生を送ること。その一歩となる社会人生活を踏み出した途端に異世界に召喚されてしまう。召喚成功に湧く周囲をよそに瑛莉桂は思った。 「聖女とか絶対ブラックだろう!断固拒否させてもらうから!」 ナルシストな王太子や欲深い神官長、腹黒騎士などを相手に主人公が幸せを勝ち取るため奮闘する物語です。

処理中です...