ギルド回収人は勇者をも背負う ~ボロ雑巾のようになった冒険者をおんぶしたら惚れられた~

水無月礼人

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幕間  少女との再会(1)

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 見渡す限りの草原。雲の流れが速い空。風が私の頬をくすぐって、私は今ここに立っているのだと気づかされた。
 この風景を私は過去にも見たことが有る気がした。
 何となく振り返と、黒い塊がこちらへ向かって駆けてくる。近付くにつれて相手の風貌が明らかとなった。黒いワンピースと長い黒髪を風にはためかせた少女だった。

「あなたは……」

 思い出した。この子は私達が神と呼んでいる存在だ。
 しかし神話の絵本に出てくるような威厳はこの少女には無かった。ややぽっちゃりという以外にさして特徴の無い容姿。どこにでも居る十代の女の子、そんな印象を受けた。

「何てことをしたの!」

 私の側に辿り着いた少女がまずしたことは、私……いや私達に対する非難だった。

「あなた達は、自分が何をしたのか解ってるの!? とんでもないことをしたのよ!?」

 心当たりは一つだけだ。神が造った時間のループを破壊した。

「私達は未来へ進みたかったの」
「未来だったらあげたじゃない! エリアスと結婚して幸せになれるって未来を! アルクナイトがいろいろやって相手が変わることも有ったけど、それでも幸せになれるように私が調整してあげたのに。どうして幸せを否定したのよ!」

 私は少女の言い分を真っ向から否定した。

「ナレーションで語られるだけの未来なんてらない。それに幸せは用意されるものじゃないよ。自分で努力して築くものでしょう?」
「努力したって駄目なことって有るじゃない! だから私があなたの幸せに協力してあげたのに!」

 どうやらこの少女は見た目通りの精神年齢のようだ。視野が狭いと言うか。

「解ってない……あなた達は何も解ってない……」

 少女はワナワナと震え出した。怒り? いや恐怖のようだ。顔が蒼ざめている。

「……私が書いた物語はあの十日間だけだったのに」
「え?」
「あの十日間は、私が造った防御障壁に護られていた世界だったのよ。そこにいる限り、あなたは決して死ぬことなく私に護られることができた」
「…………?」
「だから十日間を永遠に繰り返そうとしたの。全てはあなたを幸せにしたかったから」
「待って、ちょっと待って!」

 私には少女の言っていることがよく解らなかった。取り敢えず一番気になっていたことを聞いた。

「どうしてあなたは、そんなにも私を気にかけるの? あなたは世界を造った神様なんでしょう? 私は普通の人間だよ?」
「普通……」

 少女の顔が苦しそうに歪んだ。言ってはならないことを言ってしまったのだろうか。
 発言の失敗を心配した私に、少女はか細い声で衝撃の事実を伝えた。

「ロックウィーナ。……あなたはね、この世界に生み出した私の理想なの」

 風が二人の間を吹き抜けて、細長い草がお辞儀をするように倒れた。

「理想……? 私が……?」

 全くピンと来なかった。ルパートが綺麗になったと評価してくれたが、「絶世の美女とまではいかないが」という枕詞まくらことば付きだ。身体能力は中の上、事務能力と家事スキルは並みレベル。誇れる特技を持たない器用とは言えない私。
 卑屈になっている訳ではなく、神様が理想する象徴では決してないだろう。
 それに生み出した、とは? 私にはちゃんと人間の両親が居る。

「あなたが幸せそうにしていると、私は救われる気分になれたの」
「待って。あなたは……今、不幸なの……?」

 今の質問には答えてくれず、少女はわずかに微笑んだだけだった。

「ロックウィーナ、ここから先の世界に私の加護は届かない」
「あなたが創造した世界なのに?」
「ええ。私が作ったお話は十日分だけ」

 作ったお話? さっきもそんなことを言っていたな。

「これから世界がどう動くか私にも解らない。気をつけて」
「あの、お話って何の……」
「気をつけて。私はもう世界に干渉できない。あなたの危機に際して誰かを向かわせることもできなくなった」

 危機に誰かを? ふとガロン荒野に銃を持って単身乗り込んできたリーベルト(リリアナ)を思い出した。まさか……あれは神の干渉だった?
 アルクナイトを封じる為に彼の元部下を差し向けたように、私の危機を防ごうと神はずっと裏で働きかけていたのだろうか?

「気をつけて、ロックウィーナ。死は簡単に訪れる」

 一際ひときわ強い風が吹いた。私達が居る草原全てを吹き飛ばすかのように。
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