ギルド回収人は勇者をも背負う ~ボロ雑巾のようになった冒険者をおんぶしたら惚れられた~

水無月礼人

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魔王の牽制(3)

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 歯を磨いてから自室へ戻り、早速出動準備に取りかかった。
 アンダー・ドラゴンの本拠地は国のはしっこ、ここから遠いダイレグ地方に在るとの情報だ。馬車でも三日近くかかる。
 前の周回で首領達がフィースノーのアジトに居たから、もっと近くに本拠地が在ると推測していたのだが、私達が捕らえた連絡係の話だと、たまたま首領は所用で近場に来ていただけみたいだ。 

(必要な物は武器、薬と包帯、水筒と保存食、着替えにタオル……)

 野営をすることになるだろうけれど、汚れ物を洗える場所が在るのかな? 無いとなると着替えが多くなって荷物がかさばる。
 あと女性兵士さんが居るといいな。男の中に女が独りで行軍はいろいろとキツイ。

 トントントン。

 荷物をまとめたタイミングで扉がノックされた。

「はい?」
「俺だ」

 扉越しに聞こえてきたのはアルクナイトの声だった。ヤバイ。今一番会いたくない相手だよ。

「あなた一人? 他にも誰か居る?」
「俺だけだ」
「……ごめんね、まだ旅の支度が終わってないんだ。また後でね」

 二人きりでは会えない。
 だというのに内鍵が勝手にカチャリと音を立てて開き、ドアノブが回された。

「え? え? ええ?」

 ドアを開けて部屋に入ってきた魔王へ私は抗議した。

「ちよっと、また後でねって言ったじゃない! それに何で開いたの!?」
「開錠の魔法だ」

 魔法にはそんなものまで有るの? 泥棒し放題じゃん。
 勝手に室内へ入ったアルクナイトは、やはり勝手に私のベッドに腰かけて脚を組んだ。

「ほら、荷物の整理を続けろ」

 いつものことだが偉そうだ。

「あなたの準備は済んだの? 落ち着かないからって部屋をあれだけ改造したほどなんだもん、持っていく物はたくさん有るんじゃない?」
「デキる人間は荷物を少なくまとめるものだ。それに足りない物が有ったら、城に残った部下達に持ってこさせる」
「へっ? まさか、独身寮のあなたの部屋の装飾品は全部……」
「部下に持ってこさせた。頭が良くて空を飛べる魔物は便利だぞ?」

 王様め。

「ところで小娘。一見おまえも荷物は出来上がっているように見えるんだが……?」

 あ、バレた。
 アルクナイトが私を睨んだ。

「噓をいて俺の訪問を拒もうとしたのか?」
「いや、だって……。あなたが意味深なことを言うから」
「意味深?」
「俺の女がどうとか……」
「ふ」

 魔王は鼻で笑った。ムカつく。

「俺が真っ昼間から子種を仕込むとでも思ったのか?」

 ぎゃああ。ストレートに言ったよこの人。

「安心しろ、そんな真似はしない。性急過ぎるだろうが」

 ……あ、本当? 取り敢えずは安心した。そうだよね、最年長者だもん。そうガッツいたりはしないよね。

「隣に座れ。おまえには言っておかなければならないことが有る」

 何だか説教モードだな。それはそれで嫌なんだけど。

「す・わ・れ」

 魔王に命令されて私は渋々奴の隣に腰を下ろした。こうなったらさっさと話を聞いて帰ってもらおう。そうしないとコイツ動きそうにないから。

「んで? 何?」
「……本当におまえは魔王に対して遠慮が無いな、小娘」
「丁寧語で対応したら気持ち悪いって言ったじゃない」
「ふ。そうだったな」
「だいたい人を小娘なんて呼ぶ人に、敬意なんて払えませんから!」
「ロウィー」

 え。

「ロウィー。これでいいか?」

 何だろう? 心がくすぐったくて温かくなるような。

「……ロウィーって?」
「十五周目、俺とおまえが結ばれた時間軸で、俺ははおまえをそう呼んでいた」
「ロウィー……」

 私とアルクナイトが結婚した未来も存在した。その周の二人はどんな風に過ごしたのだろう。

 アルクナイトの指が私の顔に伸びてきそうになって、私は慌てて顔を伏せてかわした。

「おまえは俺を愛していた」
「……前にも言ったよ? それは私であって私じゃないの」
「俺も言った。どちらのおまえもおまえだと」

 アルクナイトの腕は私の肩を捉え、そして私を後方へ押し倒した。
 ドサッと、私のベッドに二人で寝転んだ。

「ちょ、ちょっと!」
「何だ」
「何だじゃないでしょう!?」

 私に覆い被さるアルクナイト。これはマズイ、本気でピンチ。

「え、えっちなことはしないって言った!」
「子種は仕込まない、とは言ったな」

 詭弁だ。魔王の急所を蹴り飛ばそうかと迷っている間に、彼の顔が私の顔に近付いてきた。
 キス!? とっさに両手で私は口元をガードした。



「………………」

 出鼻をくじかれたアルクナイトは私に非難の目を向けた。やーい。
 しかし彼はその姿勢のまま、私の瞳をじっと見つめていた。諦めてくれないの!?

「は、早く私の上から ど、どきなさ、い」

 平静を装いたかったのだが無理だった。声が震えて繋がらない。だって男の人が上に乗っかっているんだよ!?

「俺の印を付けさせてもらう」

 印? 何のこと?
 考えている間にアルクナイトの頭が、私の肩方向へ沈んで行った。

「!!!」

 首の左側に、柔らかく熱を持つものが押し付けられた。
 アルクナイトの銀髪が私の頬をくすぐった。

(何? え、何をされているの……?)

 訳も解らず逃げようとした肩を掴まれて、私はベッドの上に拘束された。
 左の首筋が熱い。与えられる熱と圧力に頭がぼぅっとした。

(キスだ……。首筋にキスをされているんだ……!)

 長く濃厚な接触に、私の全身から力が抜けていった。

(ヤバイ……抵抗できない……)

 恥ずかしさと興奮と恐怖。いろんな感情が入り混じって思考が定まらない。
 そこでふっと、アルクナイトが私から離れた。そして腰砕けになっている私を見下ろして宣言したのだ。

「他の男達への牽制だ」
「けんせ……い?」

 奴は自分の首を指差して言った。

「印を付けた。後で鏡を見て確認してみろ」

 はい? 印? 首に……。
 私はトロンとしていた目を見開いた。

「あっ、あなたまさかキスマーク付けたの!?」

 アルクナイトは綺麗な顔でクックッと怪しく笑った。

「ではな、ロウィー。集合場所で会おう」
「ちょ、待ちなさいよ馬鹿魔王!」
「いいのか? 俺がここに残れば次の段階へ進むが」
「~~~~! うわあぁぁ出てけぇ──!!」

 笑いながら魔王はベッドから降りた。えっちな置き土産ができたことで満足したようだ。

 どうしようどうしようキスマークだよ!? みんなに見られたら絶対にひと悶着有るよね。私自身そんなの付けて歩き回るのは恥ずかしいよ!
 今着ているギルドの支給シャツは首元出るデザインだから。まぁだからアルクナイトにキスを許してしまった訳なんだが。
 ううう。思い出すとまた力が入らなくなる。

 ああもう魔王の大馬鹿野郎~~~~~~!!!!
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