この気持ちに気づくまで

猫谷 一禾

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新たな出会いと再会

《28》

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 皇輝に想いの丈をぶつけられ、緋縁は熱にあてられたように呼吸が荒くなる。胸が上下し、何か言葉を紡ぎ出さなければと焦ってくる。

「あ、俺…」

スー

生徒会室の扉が開く音がする。皇輝と緋縁、そのままの体制でドアの方を向く。手にA4用紙を持って視線は手元の紙を見ながら副会長、貴一が入って来た。

「会長、この来週にやる例の…」

生徒会室に入り、数歩歩くと

ガリンッ

「お、何だこれ…何か踏んだ、ん?メガネ?何でこんな所にメガネが落ちてるん…だ……」

手元の紙から視線を上げて動きが止まる。

「貴様……生徒会室で何をやってる……」

貴一の視線の先に、会長が真昼間から赤い顔で泣いている生徒をソファーに押し倒していた。強い視線で睨みつけられた緋縁は思わずビクリとして皇輝の腕を持ってしまった。

「ちっ…邪魔しやがって…見て分かんねぇのか」
「やるなら他所でやれ、合意ならな…ん?」

皇輝と貴一の睨み合いが始まった時、貴一は何かに気がついた。

「その子……まさか……」
「か~いちょ!来なくて良いって言ってたけど来週の歓迎会気になっちゃって皆来ちゃったよ~って……うわぁおぅ!」

貴一に続き将も生徒会室に入って来た。

「あら~昼からお盛んなことで……」

次から次へと人がやって来る、緋縁はオタオタとこの状況を見られてしまった事に焦り出す。恥ずかしくて恥ずかしくて両手で顔を隠す。

(うわーうわーうわー!!)

「あ、あ、あ、あぁぁあ~!サキちゃん!」

将は指をさして貴一の肩をバンバン叩いている。

「なんでぇ!?なんでなんで??ここにいるのぉ!?あ、制服!え、ここの学校にいたのぉ!?」
「はぁ~……マジか…」

皇輝がガックリと肩を落とし、頭を緋縁の肩にうずめる。

(あぁ~どうしよどうしよどうしよぉ)

緋縁はすっかりパニックだ、心のどこかで助かったと感じているが、恥ずかしくて堪らない。コソコソと皇輝に訴える。

「ど、退いて…退いてって…」
「あぁ~恥ずかしがってるぅ。だーいじょうぶ、思う存分イチャついて良いよ~っ痛」

茶化す将の頭を貴一が叩く。

「辞めろ、ここは生徒会室だ、仕事しろ」
「なんで…お前ら来てんだよ、来んなっつったろ」

恨めしそうに皇輝が生徒会メンバーを睨んでくる。

「あーらら、緋縁くん捕まっちゃったの」

後ろからゆったりと来た弥菜が髪をかきあげながらヤレヤレといった雰囲気で言っている。

「噂のサキだ~俺初めて見ましたー!」

将の後ろにピッタリくっ付いて野次馬のように庶務の修次が言っている。

「会長、緋縁くんが可哀想だから退いてあげなよ」
「お前らがうるせぇんだよ!」

皇輝は一度緋縁をぎゅうっと抱き締めてからため息をひとつして体を起こした。そしてその勢いで緋縁の手を取り引っ張り起こし、自分の膝の上に乗せてしまった。

「俺様の譲歩はここまでだ」

と、偉そうに宣言した。

(は?え?俺今コウの膝の上に座ってんの!?)

「う、うそだろ~」

緋縁はまたしても両手で顔を隠して嘆いた。

「さ、お前たちは仕事に戻るぞ」

貴一は騒ぎがひと段落したと判断して声をかける。緋縁には申し訳ないが、生徒会長が大人しくしているのでそのままにしておく。

「会長、10分だけだからな」
「ふざけんなっ!30分は堪能しなきゃ気が済むわけないだろう」
「さ、ささ30分!?ふざけてんのはどっちだよ」

大人しくしていた緋縁だが、信じられない会話に勢い込んで入っていく。

グゥ~~

お腹に力を入れて大きな声を出してしまった緋縁はお腹が鳴ってしまった。まだお昼を食べていないのである。途端に緋縁は真っ赤になりお腹を抱え込む。

(わぁ~俺のバカバカバカ!)

「ふっ絶妙なタイミングだな。何が食べたい?」

皇輝が緋縁の髪を撫でながら聞いてくる。その皇輝の甘い雰囲気にビックリしている生徒会メンバー。

「うーわーマジもんだったんだぁ」
「はぁ……会長、お昼を食べ終わるまでならその格好に口出ししないから」
「も、辞めてくださいぃ…」

結局、下っ端の修次がサンドイッチを買いに走らされた。緋縁は申し訳なくて居た堪れない。膝上だけは嫌だと言い張り、今の体制は皇輝の足の間に横向きで座り、皇輝の腕が緋縁の腰に巻きついていた。これ以上離れるのは許さないとガッシリ巻き付き、時折お腹を撫でてきた。

「買ってきましたぁ」
「すいませんっ」
「いいっていいって、いつもの事だし」
「緋縁、食べさせてやろうか?」

皇輝が受け取り緋縁に尋ねる。緋縁は無言で睨みつける。ソファーの上に足の裏を乗せているので上履きを脱いでいる。足の指先をモジモジとさせてしまう。上履きを履いていないだけなのに心許なく感じる。

「甘っ…ブラックコーヒー飲もう…」

弥菜の辟易した表情がこの場の者達の気持ちを代弁していた。

(こんなの、食べた気しないよ…喉通らないって…あぁ井上くんと佐藤くんにすぐ行くって言っちゃったよ)

緋縁はヤケクソでパクパクと食べきった。
その様子を満足そうに眺める皇輝、学園に君臨する王の様だった。

「修次、ハサミ寄越せ」

緋縁の食べ終わった頃を見計らって皇輝が声を掛ける。そろそろ仕事でも始めるのかと思い、やっと解放されると胸をなで下ろした緋縁だったが、イキナリ髪を掴まれてジャキンと音がする。

「あ、コウ、それは……」

弥菜が心持ち焦った風に言った。

「こうじゃなきゃな、邪魔で見えねぇ」

生徒会室の時が止まる。緋縁の顔が現れた。

「ゴミ箱持ってこい、将、お前髪切れたよな。この後任せる。仕方ねぇから仕事してやるよ」
「へ?俺?あー……わかっ…たぁ」

緋縁は目をパチパチさせながら皇輝を見る。

「よし、可愛い顔がちゃんと見える」

固まる緋縁を横に座らせ、頭を撫でて会長用の机に向かう。その行動を生徒会室の全員が見守ってしまう。

「あ、緋縁の髪、短くし過ぎんなよ」
「は、はああぁぁああ"!?」

緋縁の怒りに充ちた声が響いた。
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