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そして回る
《45》
しおりを挟む少し考え込んでから皇輝が話し始める。
「それ、その処罰。緩くないか?」
「え!?退学だよ…緩いの?俺それ以上の罰知らないんだけど……」
「はい、多咲くんの正解。これ以上は無いです」
「いや…学校追われるだけじゃ…多額の罰金、じゃ甘いな…稼業の停止、とか?」
「そんな権限、学校にあるわけないでしょ!」
「ちっ使えねぇな…」
(いや、俺怖い目に合ったけどさ…それは引くわ)
コンコンコン
ノックの音が聞こえた。
「どうぞ~」
「失礼します。事情聴取で呼ばれた森です」
ぱっと振り返る緋縁。
「あ、緋縁くん!大丈夫?」
里葉が駆け寄ってくる。その表情は情けなく眉が垂れ下がり泣きそうに見えた。
「ごめんっ僕がしっかりしていれば、こんな事には…ごめんなさい…」
「な、何で里葉さんが謝るんですかっ…悪くないですよ里葉さんはっ。散々注意しろって、制裁するつもりだって、教えてくれてたじゃないですか…俺が耳を傾けて無かったんです」
「緋縁くんはこの学校に来たばかりで、まだよく分かってなかったんだ…慣れてない気持ち…知ってるのに…」
「はいはい、そこまでにしよう。多咲くんは疲れてない?この連休中に休んで、また学校に来てね」
「俺からも良いか?」
黙って聞いていた風紀委員長が重々しく口を開く。貴一の兄だ。
「今回は、ここに居る森の功績が多大だ。俺にも情報は入っていたが、そんなに緊迫していないと判断していた。その点についてはすまなかった」
「なにぃ?俺まで伝わらないのは何でだっ!」
「お前に関する話がイマイチ信用出来なかった。これまでの己の行いを悔いるんだな」
「にしたって、貴一には一言言っても良かっただろ!」
「……あいつとは…暫く口を聞いていない」
「兄弟の不仲は知らねぇ、どこからの情報だっ」
「七海だ」
「ガード…ちっくそ」
皇輝は1人蚊帳の外にいる気分だ。周りに情報は飛び交っていたのにキャッチ出来なかった自分の未熟さを噛み締めていた。
「あ、でも…色々な人が俺の為に動いてくれたって聞いてます。ありがとうございました。ちょっとした怪我だけで済んだので…大丈夫です」
「緋縁くん、怪我しちゃったんだ……強がらないで良いからね。何かあったら何でも聞くから、また話聞かせて」
「はい、ありがとうございます」
嬉しかった、入学して1ヶ月弱。周りの人の温かさに触れた気がした。井上と佐藤からも連絡が入っていた。先輩たちも動いて、怒ってくれたりもした。緋縁は唇の切れて傷が塞がり始めた口元で笑っていた。
「失礼しました」
皇輝と緋縁が寮へと帰っていく。捻挫した足を庇うようにひょこひょこと歩く緋縁の腰を支える皇輝を見てから里葉は先程まで彼らが座っていた椅子に座る。
「森、連絡が来た。処分をなるべく重くするように、と」
「あ、はい」
「サト…連絡取ったんだ。うん、今回は本当にお疲れ様」
「そんな…僕が出来ることってこれくらいしか無いから…僕の話、聞いてくれるか不安だったけど…良かったです」
「それで、親衛隊についても処分が出ている。トップの不祥事だ、活動停止1ヶ月。森の話は山岡から聞いてる、わざわざこの時間に呼び出したのは誰かに会わせたかったんだろ?山岡」
「バレてましたか。心配してたからね、せめて顔くらい見せてあげたかっただけですよ」
(また、甘やかしてくる…)
里葉は央歌を軽く睨む。
「目的は果たしたな。じゃあ連休中なんだからもう戻って良い。山岡、功労者を送ってお前も帰れ」
「はい、ありがとうございます」
「失礼します」
「森、理事長に宜しくな」
「……いえ…進に言ってください」
「あの親子も余計な話はしないらしいから」
風紀室を後にする里葉と央歌。
「サト、理事長と連絡取れて良かったね」
「…これ以上、迷惑掛けたくなかったんだけど…」
「武藤の話じゃ、サトに我儘言って欲しいらしいけどね。遠慮しすぎてるって」
「……そんなの、無理だ…面倒見てもらってて」
「サトはすぐに、何でもかんでも我慢しちゃうんだから…じゃあさ、もっと俺に甘えちゃえば良いじゃない?」
「充分だって、皆して僕のこと甘やかそうとしないでよ」
「ほっとけないんだって……それで、連休は帰るの?」
「寮にいる。ここのが気が楽」
「お願い聞いてもらったんでしょ?顔出しなさい」
はぁっと深いため息をする里葉。気が進まないと表情と態度で示していた。
武通学園、理事長の武藤 一(むとう はじめ)息子が2人。うち次男は風紀委員に属し武藤 進(むとう すすむ)2年S組。里葉はある事情で武藤家に引き取られていた。理事長は父親代わりである。里葉はこの家族の全てにおいて引け目を感じていた。それは里葉がA組である事実も多分に関係していた。
4月後半から5月の頭までの連休は帰省が許されていた。半数程の生徒は自宅に帰っていた。緋縁が制裁された噂はこの連休に入った事で出回らなかった。元親衛隊隊長の匠は家の力で退学になるとは思っていなかった。権力と言うものは上には上があると思い知ったのだ。人の思考は簡単には変わらない、自分に都合が悪いことは認めないのは染み付いた癖になっていた。匠は皇輝が緋縁に惚れていると、悔しくて吹聴することなく大人しく学園を去って行った。
「休みの間はこの部屋に居ればいい」
「え?うーん…うん。そうしよっかな…」
緋縁は家に帰っても一人でいる事の方が多いと判断した。万が一親と顔を合わすことになったら、この怪我の説明をしにくい。息子が殴られた跡をつけて帰って来たら、流石に驚くだろう。風紀や生徒会に大事にして欲しくないと、家への連絡を控えてもらっていた。
「じゃあ…お言葉に甘えて……」
「他人行儀な言い方するな。素直にうんって頷くだけで良いんだ」
チュッと唇に触れるだけのキスをされる。恋人の触れ合いに慣れていない緋縁の心の中はそれだけでワタワタと大騒ぎをしていた。
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