この気持ちに気づくまで

猫谷 一禾

文字の大きさ
46 / 62
そして回る

《46》

しおりを挟む


 皇輝には手下が学校に沢山いた。その手下を使えば匠の一挙手一投足を監視して、事件を未然に防げたはずだ。その負い目が合った。緋縁の顔はすぐに冷やしたことが功を奏し腫れはしなかったが、切れてカサブタになった唇と痣がある痛々しい感じになっていた。捻挫をした足では踏ん張りが効かず、何時でもひょこひょこ歩いている。時々、打ち付けた箇所が痛むのか、眉間に皺を寄せて顔を歪めていることがある。そんな緋縁にとてもじゃ無いが手は出せず、キスをするだけの連休だった。

(こんなに近くにいるのに…キツイ……)

最初こそ夜中にうなされている事もあった緋縁だが、それも休みが明けようかという時には落ち着いてきた。

「そろそろ、学校始まるし自分の部屋に帰ろうかと思うんだ。怪我もだいぶ良くなってきたし…」
「……帰したくない」
「駄目だよ……。これ、制服ありがとう、助かったよ。後さ……あの…付き合ってるって、内緒にしたいんだけど…」

無言で目付きがキツくなる皇輝。

「今回のこともあったし、ちょっとまだ…」
「くそっ……それ出されると何も言えない。……分かったよ、少しの間は様子見だ。仕方ない…」
「良かった…じゃあ、またね」

そう言うと、あっさりと部屋を出て行ってしまった。

(緋縁は寂しいとか、無いのかよ…)

一度逃げられた経験のある皇輝は、強引に出来なくなっていた。


 休み明け、何事も無かったかのように平和な日々が過ぎていった。ただ、毎朝の恒例行事が見られなくなっていた。数名の生徒と親衛隊の隊長がいなくなっていた事は憶測を呼んでいたが、何か問題を起こした事だけ噂で出回り、詳細は知られることは無かった。

「井上くん、もうすぐテストだよね?」
「そうだよ、連休の少し後にあるよ。多咲くんずっとバタバタしてて大丈夫?」
「あはは、なんとか…」

武通学園は進学校の面もあるので、度々テストがあった。放課後、中庭で緋縁は里葉に改めてお礼を言っていた。

「ここで里葉さんと知り合えて良かったです」
「大袈裟だよ。元気そうで良かった。怪我も、もういいの?」
「はい、休みの間でほとんど治りました」
「そっか、良かった……。はぁ……もうすぐテストだね……僕、本当に気が重いんだ」
「そうなんですか?里葉さんって勝手にS組だと思ってたんですけど…」
「あー違う違う、僕はギリギリA組。必死にやってもギリギリなんだ……これ以上は落とせないから」
「俺も、入試の時は今までにないくらい勉強したからな…」
「最近、会長とはどう?風紀室に一緒にいたの見たけど、上手くまとまったんでしょ?」
「あーはい、そう、なんですけど…」
「何?またぐちゃぐちゃ考えるのが好きなの?」
「うっ里葉さんってズバズバきますよね…」
「好きだから付き合ってるんでしょ?なんか問題でもあるの?強引過ぎて困ってるとか?」
「それが、優しいです。俺の事気遣ってくれて、そこが問題じゃなくて……問題は俺自身です」
「緋縁くんって……悩むのが趣味なの?」
「何ですかその趣味!俺だってグチグチ悩むのは嫌なんですよ。でも、どうしても…こう…グルグル考えちゃって…恋をしてる好きって、今の俺の好きって想いで合ってるのかな、とか。コウの想いにちゃんと答えられてるのかな、とか…」

里葉が呆れた顔で口を開けている。

「ピュア過ぎるのも……問題なんだね」
「これ、失礼じゃないのかな…って不安です」
「はぁ~…緋縁くん…はぁ~…」
「そんなにため息つきます?」
「だってさ……僕は勘違いしてたのかも…緋縁くんは生徒会長って大変な相手に好かれちゃってって思ってたんだけど…実は、大変な相手を会長の方が、好きになっちゃったんだ…会長も不憫だ…」

(あ、これ……イチにも言われた……)

「緋縁くん、悪いけどさ……僕お手上げ」
「え、えぇ!?そんなぁ里葉さん……」
「気持ちを切り取って、形を見比べるなんて出来ないんだから、もぅそこら辺は主観っていうか…ニュアンス?受け取り方の違いっていうか……あぁ!  もう僕も分かんないよ」
「すみません……」
「頑張って悩んで納得できると良いね……」
「はい……」
「学校の雰囲気を悪くしない程度に会長と話し合ったら?」
「難しいこと言いますね……」
「僕は退散するよ、それじゃ満足いく答えが出たら教えてね」

(僕って冷たい奴なのかも…)

里葉は、去って行った。最後は若干、面倒くさそうだった。

(ヤバい、俺、ヤバいよな…ウザイよ。恋に恋する乙女を更にややこしくして悩んでいる奴…酷い…)

「どうにかしなくちゃ」

緋縁は葛藤と迷走の日々を過ごしていたが時間は過ぎていき、取り敢えずテストに集中しようと抜群の言い訳を見つけて問題を先送りにしていた。
そんなモヤモヤした気持ちだと、皇輝と会うことがあってもギクシャクとした気まずい雰囲気が漂ってしまうのだった。

(最近、緋縁の様子が変だ…)

それは波紋のように皇輝にも伝わり悶々とした気持ちで、いつ爆発してもおかしくない、我慢の限界が近づいていた。

しおりを挟む
感想 12

あなたにおすすめの小説

天啓によると殿下の婚約者ではなくなります

ふゆきまゆ
BL
この国に生きる者は必ず受けなければいけない「天啓の儀」。それはその者が未来で最も大きく人生が動く時を見せる。 フィルニース国の貴族令息、アレンシカ・リリーベルは天啓の儀で未来を見た。きっと殿下との結婚式が映されると信じて。しかし悲しくも映ったのは殿下から婚約破棄される未来だった。腕の中に別の人を抱きながら。自分には冷たい殿下がそんなに愛している人ならば、自分は穏便に身を引いて二人を祝福しましょう。そうして一年後、学園に入学後に出会った友人になった将来の殿下の想い人をそれとなく応援しようと思ったら…。 ●婚約破棄ものですが主人公に悪役令息、転生転移、回帰の要素はありません。 性表現は一切出てきません。

とある金持ち学園に通う脇役の日常~フラグより飯をくれ~

無月陸兎
BL
山奥にある全寮制男子校、桜白峰学園。食べ物目当てで入学した主人公は、学園の権力者『REGAL4』の一人、一条貴春の不興を買い、学園中からハブられることに。美味しい食事さえ楽しめれば問題ないと気にせず過ごしてたが、転入生の扇谷時雨がやってきたことで、彼の日常は波乱に満ちたものとなる──。 自分の親友となった時雨が学園の人気者たちに迫られるのを横目で見つつ、主人公は巻き込まれて恋人のフリをしたり、ゆるく立ちそうな恋愛フラグを避けようと奮闘する物語です。

学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語

紅林
BL
『桜田門学院高等学校』 日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する幼少中高大院までの一貫校だ。しかし学校の規模に見合わず生徒数は一学年300人程の少人数の学院で、他とは少し違う校風の学院でもある。 そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語

拝啓、目が覚めたらBLゲームの主人公だった件

碧月 晶
BL
さっきまでコンビニに向かっていたはずだったのに、何故か目が覚めたら病院にいた『俺』。 状況が分からず戸惑う『俺』は窓に映った自分の顔を見て驚いた。 「これ…俺、なのか?」 何故ならそこには、恐ろしく整った顔立ちの男が映っていたのだから。 《これは、現代魔法社会系BLゲームの主人公『石留 椿【いしどめ つばき】(16)』に転生しちゃった元平凡男子(享年18)が攻略対象たちと出会い、様々なイベントを経て『運命の相手』を見つけるまでの物語である──。》 ──────────── ~お知らせ~ ※第3話を少し修正しました。 ※第5話を少し修正しました。 ※第6話を少し修正しました。 ※第11話を少し修正しました。 ※第19話を少し修正しました。 ※第22話を少し修正しました。 ※第24話を少し修正しました。 ※第25話を少し修正しました。 ※第26話を少し修正しました。 ※第31話を少し修正しました。 ※第32話を少し修正しました。 ※第33話を少し修正しました。 ──────────── ※感想(一言だけでも構いません!)、いいね、お気に入り、近況ボードへのコメント、大歓迎です!! ※表紙絵は作者が生成AIで試しに作ってみたものです。

幼馴染がいじめるのは俺だ!

むすめっすめ
BL
幼馴染が俺の事いじめてたのは、好きな子いじめちゃうやつだと思ってたのに... 「好きな奴に言われたんだ...幼馴染いじめるのとかガキみてーだって...」 「はっ...ぁ??」 好きな奴って俺じゃないの___!? ただのいじめっ子×勘違いいじめられっ子 ーーーーーー 主人公 いじめられっ子 小鳥遊洸人 タカナシ ヒロト 小学生の頃から幼馴染の神宮寺 千透星にいじめられている。 姉の助言(?)から千透星が自分のこといじめるのは小学生特有の“好きな子いじめちゃうヤツ“だと思い込むようになり、そんな千透星を、可愛いじゃん...?と思っていた。 高校で初めて千透星に好きな人が出来たことを知ったことから、 脳破壊。 千透星への恋心を自覚する。 幼馴染 いじめっ子 神宮寺 千透星 ジングウジ チトセ 小学生の頃から幼馴染の小鳥遊 洸人をいじめている。 美形であり、陰キャの洸人とは違い周りに人が集まりやすい。(洸人は千透星がわざと自分の周りに集まらないように牽制していると勘違いしている) 転校生の須藤千尋が初恋である

若頭と小鳥

真木
BL
極悪人といわれる若頭、けれど義弟にだけは優しい。小さくて弱い義弟を構いたくて仕方ない義兄と、自信がなくて病弱な義弟の甘々な日々。

2度目の恋 ~忘れられない1度目の恋~

青ムギ
BL
「俺は、生涯お前しか愛さない。」 その言葉を言われたのが社会人2年目の春。 あの時は、確かに俺達には愛が存在していた。 だが、今はー 「仕事が忙しいから先に寝ててくれ。」 「今忙しいんだ。お前に構ってられない。」 冷たく突き放すような言葉ばかりを言って家を空ける日が多くなる。 貴方の視界に、俺は映らないー。 2人の記念日もずっと1人で祝っている。 あの人を想う一方通行の「愛」は苦しく、俺の心を蝕んでいく。 そんなある日、体の不調で病院を受診した際医者から余命宣告を受ける。 あの人の電話はいつも着信拒否。診断結果を伝えようにも伝えられない。 ーもういっそ秘密にしたまま、過ごそうかな。ー ※主人公が悲しい目にあいます。素敵な人に出会わせたいです。 表紙のイラストは、Picrew様の[君の世界メーカー]マサキ様からお借りしました。

大嫌いなこの世界で

十時(如月皐)
BL
嫌いなもの。豪華な調度品、山のような美食、惜しげなく晒される媚態……そして、縋り甘えるしかできない弱さ。 豊かな国、ディーディアの王宮で働く凪は笑顔を見せることのない冷たい男だと言われていた。 昔は豊かな暮らしをしていて、傅かれる立場から傅く立場になったのが不満なのだろう、とか、 母親が王の寵妃となり、生まれた娘は王女として暮らしているのに、自分は使用人であるのが我慢ならないのだろうと人々は噂する。 そんな中、凪はひとつの事件に巻き込まれて……。

処理中です...