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再びの自宅
しおりを挟むおいおいおいおい
俺さんよ。
何故、
なにゆえ
また此処に。
目の前にはまたパチパチと薪が爆ぜる暖炉。
いつものソファーに俺の青灰のコート。
テーブルにはこの前、食ったまま置いて行った固いパンの残りと皿。
カビた様子は、無い。
「ああ?」
これって、強制送還?
また?
てか、完全にアイツの所為だよな?!
俺の頭の中には
あの雪の女王の、あの時に限って露出の多い衣装と
驚いて見開いた
俺の
おれの
彼女の 若草の瞳。
「ああーーーーーーーーーーーー。」
大きな溜息とも嘆きともつかない
そんな声を上げ、ソファーに沈み込んだ俺は
そのまましくしくしたかったが
少しだけ
少しだけ
出ていった時とは違う位置にあるあの菓子の缶に
気が付いた。
「もしや。」
そう、気が付いてすぐに開けた、その缶。
きちんと収まっているあの報告書を急いでめくる。
するとやはり、8頁目が
現れていたんだ。
とりあえず、通しで読んだ。
「三回くらい読め」と書かれていたので
めっちゃ目を見開いて
よくよく覚えられる様に
心に刻みつける為に
五回読んだ。
「ふむ。」
報告書をテーブルに置いてまたソファに沈む。
どうやらお上品な「僕」は
色々、考え過ぎて
きっとうまくいかなかったらしい。
「うまくいく」の定義がよく分からないが
俺は多分
「僕」よりは
成長していると思う。
拙いなりに
彼女に ことば を
伝えてきたとは 思うのだ。
「僕」は
何が足りなくて、森に帰れなくなったのだろうか。
その後、森には辿り着けたのだろうか。
もし。
もしもし。
「僕」が辿り着く森があったのなら
それは
「この俺」が帰る森と
同じなのだろうか。
違うのだろうか。
「よく、分かんね。」
しばしボーッと
見慣れた三角屋根の天井を見つめていた。
森では朝で
ここは夜。
外はやはり雪で
暖炉では赤い火が揺れ
火の粉は元気だ。
「おう おまえさん ぷらいど と
やらは 入れないのかい」
そう 火の粉達が
楽しそうに弾けながら言うものだから
俺は報告書の内容を思い出して
俺の中の、プライドというヤツを探した。
何処だ?ある??あるよね?多分。
あのあの、甘い俺の甘いののところに、
あそこへ帰る為に邪魔な荷物は全て、燃やして行くよ。
しかし
俺は超人では無い為
俺の中のプライドだけをヒョイとつまみ出して
暖炉にポイするスキルは
持ち合わせていない。
その
代わりに
俺の中の小さくなっているプライド的な何かを
拳の中に入れる 形にして
暖炉の中に、ポイした。
きっと、これは
ポーズでいい筈なんだ。
この、報告書。
「僕」が俺の為に書いた、報告書を五回読んだ、俺ならば。
だって分かんねーし。
「火の粉よ。受け取れ。俺はこれしか、できん。」
「せいかい 」
パチパチとまた爆ぜる薪と、その瞬間だけ派手に踊る炎、楽しそうな火の粉を見て
俺はそれで正解だったのだと知る。
俺は ただの おとこだ。
彼女を
失わない為に また 森へ行く。
ただそれだけの。
何にも無い おとこ。
昔からおかしなものは見えるが
特に 何という 能力も無く
魔法が使えるわけでもない。
ただ
持っているものは
まだ生きているこの からだと
彼女が
彼女を
俺の 甘い 甘い あの子が
大事だと
いう
気持ち だけ。
それだけでいいのなら。
なぁ
俺の君よ。
また迎えにきては くれないだろうか。
……………
そうして俺は報告書のアドバイス通りにすぐに家を出る事にする。
戸棚からビー玉を持って行くのは忘れずに。
ぶつけてやろうかな………。
ケッ
火の始末、戸締り、飴を一つ。
そういや
ハンカチ使うの忘れてたな。意味ねぇ。
まぁ、いい。
とりあえず言い訳は歩きながら考えよう。
ぐるぐるさん無くても
思いつくかな。
いやいや、俺よ。
ちゃんと考えろ。
そうだ。
おまえにはお前がいる。
そうして逸る気持ちが抑えられずに俺は
またコートを羽織り
鍵をかけ
また森へ向かった。
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