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二章 ハーレムルート

アレッサンドロ ギノフォード

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夕食を届ける為フィンコックの部屋に向かっている。

私はあの事実を伝えるべきか迷っていた。
例え全てでなくとも獣人研究家達が恐ろしい集団だと伝えておくべきだと…。
そしてフィンコックの婚約者である彼にも…。

食事を受け取ると周囲を確認しつつ、自身に認識阻害魔法を掛ける。
フィンコックが滞在している棟には保護魔法や認識阻害等多くの魔法が掛かっているとは言え、完全に安心するわけにはいかない。
念には念を入れ行動していた。
棟へ向かう途中・認識阻害魔法が効いている敷地内・建物に入った瞬間・フィンコックの部屋に入る直前等は必ず周囲を確認している。
扉を開ける瞬間が一番危険を伴い、神経を研ぎ澄ます。
一歩入り扉を閉めるまで気を抜いてはいけない。

部屋が暗い、何かあったのか?
  
バサッと音がした後、暗闇でモゾモゾと動く影を捉える。
フィンコックではあると予想するも、そうでないという想定もしなければならない。

「もしかして眠っていましたか?」

声をかけてから明かりを付けた。

パチン

フィンコックであることを確認し安堵する。

「夕食です。」

あえて私は真正面に食事を用意した。
近くにいると自身を押さえられるか不意に対応出来る自信がなかった。
私は今まで生きてきた中で味わったことのない感情に戸惑っている。

「にゃーん…」

寂しそうな鳴き声を勝手に勘違いしてしまいそうだ。
今日はなんだか食事のペースが遅いように感じる。
そう感じてしまうのはフィンコックと二人きりになるのを恐れているのだろうか?

「お腹…空いてないんですか?」

無言で首を振り私と目を合わせようとしない。
今は気持ちが落ち着かないのだろう。
他人が側にいるより一人になりたいのかもしれない。

「ゆっくり休んでくださいね。」

「にゃーんにゃーんにゃーん」

私を引き留めるように鳴き続けるフィンコックの意志が私にはわからない。
何をして欲しいのか、何を望むのか。
やはり、私ではなくサンチェスターが…。

服を掴まれていた。

「フィンコック?」

突然のフィンコックからの抱きつきに驚いた。
それは、私を求めて?それともサンチェスターの代わりですか?

抱きしめ唇を奪いたい、許されるのであれば…。

「…淋しいんですか?」

「………にゃん」

「そうですよね、ずっと独りですもんね。分かりました、もう少しいましょう。」

「にゃんっ」

この対応が正しかったのかわからない。
側にいるべきではなかったのかもしれない。
フィンコックの反応が嬉しかった。
私の服を掴み上目遣いをする姿は誘惑以外の何者でもない。

「………分かりました。今日ここに泊まっていいですか?」

「にゃぁ、にゃん」

フィンコックの願いを叶えた振りで、本当は私の欲望だった。
断って欲しいと願う反面、断らないでくれとも願っていた。
嬉しそうに私をベッドへ誘導する、そんなことをされては抱きしめたくなるというのに無防備過ぎる。
ふと、フィンコックの首筋が見えた。
身長さから襟と首の隙間から痕を確認した。
同じ身長では見えず、見下ろす差があった時に確認できる場所に…。

コイツは俺のだと言われているようだった。

見た瞬間、フィンコックには婚約者がいる事を思い出す…。
サンチェスターもいい場所に残したな…一気に私の立場を思い出させてくれた。

「こらっそれは出来ません。」

エロさなんてなく爽やかにベッドへ誘われたが先生らしい一面を見せ、彼一人をベッドへ寝かせた。
幼い子のように手を求められ差し出せばギュッと握られる。

「フィンコック、安心してください。大丈夫、これは今だけですから。」

この言葉は自分に言い聞かせた。
嬉しそうに私に頭を撫でられる姿、これくらいは許して欲しい。

「もう、寝なさい。側にいますから。」

素直で純粋なフィンコックは私の言葉に従い眠りに付いた。
これでは、愛人候補が直接現れた時簡単に騙されるのではと不安が過る。
手を離し、一人ソファに戻った。
いつまでも近くにいることは出来ない…。
私ももう、寝てしまおう。

何かがゴソゴソと蠢いた。
私の身体に寄り添うように何かがやってくる。
柑橘系の香りをさせながら。
私の心臓の鼓動を聴いているかと思えば、匂いを嗅ぎだした。
可愛らしいと思えたがこれ以上は危険だと判断する。

「こら、擽ったいですよ。」  

「にゃぁん」

「一緒に寝るのは許可出来ないと話したはずですよ。」

色んな危険が貴方にはあるんですから。

私を信じてはいけない…。

「…にゃん」

「全く…仕方ないですね。」

「にゃんっ」

「フィンコック」

私は教師だ。
確り拒絶することは出来たがしなかった。
フィンコックを強く抱きしめ場所を入れ換えた。
私が抱きしめたことで、少し動揺が見れたのさえ喜ぶ自分がいた。

「ソファと私に挟まれ狭くないですか?」

「にゃぁん」
 
私を見上げる顔にキスしてしまいたくなる。

「分かりました…もう、寝ますよ。」

「にゃん」

信用しきっている生徒を騙しているようで罪悪感が生まれる。
こんなに無防備では簡単に誘拐できてしまう…。
公爵家や辺境伯爵だけで果たして守れるのか?
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