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序章
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レオナルド・ヴァン・ガランディオール
ガランディオール王国の第一王子。
「最近体の調子がおかしい……」
十七歳でありながら、疲れが取れない、身体が重怠い、睡眠障害、耳鳴り、集中力の欠如等に悩まされるようになった。
「あの女のせいだな……」
あの女とは、幼い頃に決められた婚約者。
令嬢には長年悩ませている。
『どちらに行かれるんですか? では、私もご一緒します』
『これから婚約者同士の時間です、貴方は席を外しなさい』
『ちょっと、婚約者は私なのよ。気安く話しかけないで』
どこまでも引っ付き、周囲の迷惑など考えない令嬢。
スカーレット・ファルビアンクス。
公爵令嬢という立場で、政略的に決められた婚約者。
私は一度として令嬢を好ましく思ったことはない。
幼い頃から五月蝿く私に付きまとい、人の交遊関係に口を挟み人間関係を悪化させる。
『私はレオナルド様の婚約者よっ』
公爵令嬢で王子である私の婚約者という立場から、周囲が気を使っていることに気が付かず傍若無人に振る舞う姿にうんざりしていた。
『ちょっと、そういう事は事前に私に伝えておくべきじゃないのっ。全く、そんな事も出来ないなんて』
公爵令嬢としてそれなりに教養を身に付けているかと思えば、知らないことは事前に教えてくれなかった周囲のせいにして自身の怠慢に目を向けない。
令嬢に対しては婚約者になる以前から不満しかなかった。
『レオナルド、婚約者が決定した。相手はスカーレット・ファルビアンクスだ』
「スカーレット……ファルビアンですか? 」
何故父である国王はこのような令嬢を私の婚約者にしたのか疑問でしかない。
喩えファルビアンクス公爵が素晴らしい方であっても、結婚は令嬢とするのだから令嬢の本質を見極めて婚約を進めるべきだ。
「待ってください、何故令嬢なのでしょうか? 」
私が苦言を呈したとこで決定が覆ることはなかった。
「はぁ……なんなんだあの女は……」
不満を吐き出さないと身体を悪くしそうだった。
それなのに私の身体は異変を来した。
令嬢とまともな会話が出来ると思っていないので、私は私の体調不良の改善を探る。
「気分転換が必要ですね。体を動かすのはどうでしょうか? 」
医師から軽い運動を勧められ実行に移すも睡眠不足は解消されず。
それどころか身体が更に疲れを感じている。
「レオナルド様っ、今度のお休み観劇に行きませんか?」
婚約者は私の不調になど気付かず、一方的に話続ける。
「レオナルド王子、そろそろ時間が……」
「あなた、婚約者で公爵令嬢の私が今レオナルド様と話しているのに割り込むだなんて失礼ね。貴方はどこの者っ」
周囲の者も私に気遣い令嬢を引き離そうとするのだが、令嬢の口から公爵家の名を出すので皆引き下がっていく。
冗談ではなく令嬢なら本気でやりかねないと感じ、彼らは申し訳なさそうな表情で引き下がる。
「折角の誘いなのだが、これからまだやることがあるんだ。休日に関しても既に予定が入っている」
「そんなことは彼らに任せればいいんです。レオナルド様なら仕事より婚約者の私を優先してくださいますよね? 」
私も彼らにそこまでさせるわけには行かないと感じ令嬢を宥めるも、いつも会話にならない。
令嬢の理想に私を当てはめようとしている。
「レオナルド様ぁ~」
王宮にいても令嬢は「婚約者」と「公爵令嬢」という立場を利用し、私との時間を取ろうとする。
一度使用人が独自に動いたことがあった。
「レオナルド様はいまはどちらに? 」
「王子は不在です」
「不在? では、何処へ行ったの?」
「本日は支援先に挨拶をと話しておられました」
「それはいつ帰ってくるの?」
「時間の方は伺ってはおりません」
「ふ~ん、そう」
使用人から報告を受け、私を追いかけるだけだろうと安易に考えていた。
だが、令嬢は私の予想を超えていた。
「そこの使用人、貴方この前私にレオナルド様は不在と言ったわよね? 」
「……はい」
「レオナルド様は支援先へはいなかった事が分かったわ。貴方、私に嘘を吐いたの? 」
「た……大変申し訳ありません。私の聞き間違いでした」
「貴方の妹さん、今使用人として我が家にいるわ」
「妹が……」
「本日、レオナルド様はどちらに?」
「レオナルド王子は……執務室かと……」
令嬢は私が本当にその場所にいたのか調べあげ、嘘だと分かると「公爵家」を使い、その使用人の家族を雇う事で人質にした。
そんな事があったので、私は使用人に嘘を吐かせる訳にもいかず休みたいと思いながら王宮ではない場所へ向かう。
毎回同じ場所では令嬢に先回りされてしまうので、様々なところへ行く。
そして今日は教会へ行くことにした。
「レオナルド王子、最近体調が優れないのではありませんか?」
最年少で教会最高責任者である司教になったベルナール。
彼には特殊な能力があり、三十二歳の若さで司教に抜擢。
そんな彼は初対面だというのにレオナルドを見ただけで何かを感じ取る。
「あぁ、そうなんです」
「やはり」
「やはり?」
「王子。貴方には今、生き霊が取り憑いております」
「……生き霊?」
「はい」
「……ベルナール様には見えているのですか?」
「……はい、はっきりと」
私はその手の話を直接聞いたことがなかったので信じがたいが、真剣な眼差しのベルナールが嘘を吐いているようには見えなかった。
「それは……どういう…」
「幽霊は死んだ人間ですが、生き霊は生きている人間の魂が肉体から離れる事です。誰でも出来ることではありません。強い信念や執着、純粋な思いから自らの意思で飛ばす人もいれば無意識に飛ばしてしまっている人もいます」
「生き霊……私は誰かに恨まれているということですか?」
「何か不運な出来事はありましたか?」
「不運?」
不運とはどの程度の事を指す?
「怪我や病気、取り返しのつかない失敗などはありましたか?」
「……いや、今のところはない」
「その方も王子に不幸になってほしいわけではないようです」
「では何故?」
「純粋な思いからです」
「純粋な思い……」
「この場合は、純粋すぎる思い……ですかね」
「純粋過ぎる思い?」
「王子の事を常に思い、傍にいたい、全てを知りたい、誰にも渡したくないと思っている人物」
そんな人物いる訳がっ…
「……はっ」
私は一人の人物の顔が頭に過る。
「誰か心当たりでも?」
「……婚約者の……スカーレット・ファルビアンクス公爵令嬢……ですか?」
「はい」
ベルナールは正解という表情を見せる。
彼には初めから相手の顔まで見えていたのか?
「純粋すぎるって……あの令嬢は私ではなく、王子の婚約者という立場を欲しているだけだ」
「令嬢が王子の何に対して純粋かは私にも分かりません。王子個人なのか、次期国王という立場なのか、それとも私達には分からない何かなのか。ただ分かるのは、その思いは生き霊を飛ばしてしまうほど強く純粋だということです」
「……純粋」
迷惑な感情だ。
生身の時は一方的に追いかけ回し頭痛の種だったのに、生き霊の時は常に纏わりつき体調不良まで引き起こさせるとは……
「私に逃げ道はないんですか?」
「……祓うことはできます」
「お願いします」
祓うことが出来るなら今すぐにでもお願いしたい。
それで今までの体調不良から解放されるなら、私は何でもする。
「では本人をここに呼びましょう」
王子として不満を顔に出さないように教え込まれていたが、つい顔を引きつらせてしまった。
「……本人を…呼ばなければ出来ませんか?」
現状を改善するためなら、私に出来ることならなんでもするつもり。
だが令嬢に会うのは避けたい。
「出来ないことはありませんが、令嬢の身に危険が及ぶ可能性もあります」
「……私がそれでも構わないと言ったら……」
権力を笠に着る令嬢を嫌悪していたが、今私は最も嫌う令嬢と同じことをしていた。
「畏まりました。ですが事前にお伝えしておきます。生き霊を祓った時、問題がなければ飛ばしていた魂は肉体に戻り以前のように生活できます。ですが魂が肉体に戻れなかった時、令嬢は感情を失くした人形のようになります。他にも魂が肉体に戻る際、誤って別の魂が令嬢の肉体に入り令嬢も別の肉体に入る可能性もあります。そして、最も恐れるべきは、空いている肉体に悪魔が取り憑くこともあります」
「……では、やはり令嬢本人を呼ぶべきだと?」
これだけ迷惑をかけられ共に過ごす時間など割きたくないのに……
私の方から令嬢に声をかけなければならないなんて……
「いえ、監視するべきです」
あの令嬢に会わないですむなら、ファルビアンクス家を監視下に置く事に躊躇いはない。
「監視……すぐにでも」
私はすぐさま密偵にファルビアンクス家を見張るように指示し、ベルナールと私の二人だけで生き霊を祓う儀式を執り行った。
「……生霊は払えたのだろうか? 」
「はい」
その日から私の体調は回復し、本当に生き霊に取り憑かれていた事を実感する。
そして、私自身も学園でのファルビアンクス公爵令嬢を卒業までの一年間を監視し見極めることにした。
その結果次第では婚約解消も視野にいれている。
「良いことづくめだ」
ガランディオール王国の第一王子。
「最近体の調子がおかしい……」
十七歳でありながら、疲れが取れない、身体が重怠い、睡眠障害、耳鳴り、集中力の欠如等に悩まされるようになった。
「あの女のせいだな……」
あの女とは、幼い頃に決められた婚約者。
令嬢には長年悩ませている。
『どちらに行かれるんですか? では、私もご一緒します』
『これから婚約者同士の時間です、貴方は席を外しなさい』
『ちょっと、婚約者は私なのよ。気安く話しかけないで』
どこまでも引っ付き、周囲の迷惑など考えない令嬢。
スカーレット・ファルビアンクス。
公爵令嬢という立場で、政略的に決められた婚約者。
私は一度として令嬢を好ましく思ったことはない。
幼い頃から五月蝿く私に付きまとい、人の交遊関係に口を挟み人間関係を悪化させる。
『私はレオナルド様の婚約者よっ』
公爵令嬢で王子である私の婚約者という立場から、周囲が気を使っていることに気が付かず傍若無人に振る舞う姿にうんざりしていた。
『ちょっと、そういう事は事前に私に伝えておくべきじゃないのっ。全く、そんな事も出来ないなんて』
公爵令嬢としてそれなりに教養を身に付けているかと思えば、知らないことは事前に教えてくれなかった周囲のせいにして自身の怠慢に目を向けない。
令嬢に対しては婚約者になる以前から不満しかなかった。
『レオナルド、婚約者が決定した。相手はスカーレット・ファルビアンクスだ』
「スカーレット……ファルビアンですか? 」
何故父である国王はこのような令嬢を私の婚約者にしたのか疑問でしかない。
喩えファルビアンクス公爵が素晴らしい方であっても、結婚は令嬢とするのだから令嬢の本質を見極めて婚約を進めるべきだ。
「待ってください、何故令嬢なのでしょうか? 」
私が苦言を呈したとこで決定が覆ることはなかった。
「はぁ……なんなんだあの女は……」
不満を吐き出さないと身体を悪くしそうだった。
それなのに私の身体は異変を来した。
令嬢とまともな会話が出来ると思っていないので、私は私の体調不良の改善を探る。
「気分転換が必要ですね。体を動かすのはどうでしょうか? 」
医師から軽い運動を勧められ実行に移すも睡眠不足は解消されず。
それどころか身体が更に疲れを感じている。
「レオナルド様っ、今度のお休み観劇に行きませんか?」
婚約者は私の不調になど気付かず、一方的に話続ける。
「レオナルド王子、そろそろ時間が……」
「あなた、婚約者で公爵令嬢の私が今レオナルド様と話しているのに割り込むだなんて失礼ね。貴方はどこの者っ」
周囲の者も私に気遣い令嬢を引き離そうとするのだが、令嬢の口から公爵家の名を出すので皆引き下がっていく。
冗談ではなく令嬢なら本気でやりかねないと感じ、彼らは申し訳なさそうな表情で引き下がる。
「折角の誘いなのだが、これからまだやることがあるんだ。休日に関しても既に予定が入っている」
「そんなことは彼らに任せればいいんです。レオナルド様なら仕事より婚約者の私を優先してくださいますよね? 」
私も彼らにそこまでさせるわけには行かないと感じ令嬢を宥めるも、いつも会話にならない。
令嬢の理想に私を当てはめようとしている。
「レオナルド様ぁ~」
王宮にいても令嬢は「婚約者」と「公爵令嬢」という立場を利用し、私との時間を取ろうとする。
一度使用人が独自に動いたことがあった。
「レオナルド様はいまはどちらに? 」
「王子は不在です」
「不在? では、何処へ行ったの?」
「本日は支援先に挨拶をと話しておられました」
「それはいつ帰ってくるの?」
「時間の方は伺ってはおりません」
「ふ~ん、そう」
使用人から報告を受け、私を追いかけるだけだろうと安易に考えていた。
だが、令嬢は私の予想を超えていた。
「そこの使用人、貴方この前私にレオナルド様は不在と言ったわよね? 」
「……はい」
「レオナルド様は支援先へはいなかった事が分かったわ。貴方、私に嘘を吐いたの? 」
「た……大変申し訳ありません。私の聞き間違いでした」
「貴方の妹さん、今使用人として我が家にいるわ」
「妹が……」
「本日、レオナルド様はどちらに?」
「レオナルド王子は……執務室かと……」
令嬢は私が本当にその場所にいたのか調べあげ、嘘だと分かると「公爵家」を使い、その使用人の家族を雇う事で人質にした。
そんな事があったので、私は使用人に嘘を吐かせる訳にもいかず休みたいと思いながら王宮ではない場所へ向かう。
毎回同じ場所では令嬢に先回りされてしまうので、様々なところへ行く。
そして今日は教会へ行くことにした。
「レオナルド王子、最近体調が優れないのではありませんか?」
最年少で教会最高責任者である司教になったベルナール。
彼には特殊な能力があり、三十二歳の若さで司教に抜擢。
そんな彼は初対面だというのにレオナルドを見ただけで何かを感じ取る。
「あぁ、そうなんです」
「やはり」
「やはり?」
「王子。貴方には今、生き霊が取り憑いております」
「……生き霊?」
「はい」
「……ベルナール様には見えているのですか?」
「……はい、はっきりと」
私はその手の話を直接聞いたことがなかったので信じがたいが、真剣な眼差しのベルナールが嘘を吐いているようには見えなかった。
「それは……どういう…」
「幽霊は死んだ人間ですが、生き霊は生きている人間の魂が肉体から離れる事です。誰でも出来ることではありません。強い信念や執着、純粋な思いから自らの意思で飛ばす人もいれば無意識に飛ばしてしまっている人もいます」
「生き霊……私は誰かに恨まれているということですか?」
「何か不運な出来事はありましたか?」
「不運?」
不運とはどの程度の事を指す?
「怪我や病気、取り返しのつかない失敗などはありましたか?」
「……いや、今のところはない」
「その方も王子に不幸になってほしいわけではないようです」
「では何故?」
「純粋な思いからです」
「純粋な思い……」
「この場合は、純粋すぎる思い……ですかね」
「純粋過ぎる思い?」
「王子の事を常に思い、傍にいたい、全てを知りたい、誰にも渡したくないと思っている人物」
そんな人物いる訳がっ…
「……はっ」
私は一人の人物の顔が頭に過る。
「誰か心当たりでも?」
「……婚約者の……スカーレット・ファルビアンクス公爵令嬢……ですか?」
「はい」
ベルナールは正解という表情を見せる。
彼には初めから相手の顔まで見えていたのか?
「純粋すぎるって……あの令嬢は私ではなく、王子の婚約者という立場を欲しているだけだ」
「令嬢が王子の何に対して純粋かは私にも分かりません。王子個人なのか、次期国王という立場なのか、それとも私達には分からない何かなのか。ただ分かるのは、その思いは生き霊を飛ばしてしまうほど強く純粋だということです」
「……純粋」
迷惑な感情だ。
生身の時は一方的に追いかけ回し頭痛の種だったのに、生き霊の時は常に纏わりつき体調不良まで引き起こさせるとは……
「私に逃げ道はないんですか?」
「……祓うことはできます」
「お願いします」
祓うことが出来るなら今すぐにでもお願いしたい。
それで今までの体調不良から解放されるなら、私は何でもする。
「では本人をここに呼びましょう」
王子として不満を顔に出さないように教え込まれていたが、つい顔を引きつらせてしまった。
「……本人を…呼ばなければ出来ませんか?」
現状を改善するためなら、私に出来ることならなんでもするつもり。
だが令嬢に会うのは避けたい。
「出来ないことはありませんが、令嬢の身に危険が及ぶ可能性もあります」
「……私がそれでも構わないと言ったら……」
権力を笠に着る令嬢を嫌悪していたが、今私は最も嫌う令嬢と同じことをしていた。
「畏まりました。ですが事前にお伝えしておきます。生き霊を祓った時、問題がなければ飛ばしていた魂は肉体に戻り以前のように生活できます。ですが魂が肉体に戻れなかった時、令嬢は感情を失くした人形のようになります。他にも魂が肉体に戻る際、誤って別の魂が令嬢の肉体に入り令嬢も別の肉体に入る可能性もあります。そして、最も恐れるべきは、空いている肉体に悪魔が取り憑くこともあります」
「……では、やはり令嬢本人を呼ぶべきだと?」
これだけ迷惑をかけられ共に過ごす時間など割きたくないのに……
私の方から令嬢に声をかけなければならないなんて……
「いえ、監視するべきです」
あの令嬢に会わないですむなら、ファルビアンクス家を監視下に置く事に躊躇いはない。
「監視……すぐにでも」
私はすぐさま密偵にファルビアンクス家を見張るように指示し、ベルナールと私の二人だけで生き霊を祓う儀式を執り行った。
「……生霊は払えたのだろうか? 」
「はい」
その日から私の体調は回復し、本当に生き霊に取り憑かれていた事を実感する。
そして、私自身も学園でのファルビアンクス公爵令嬢を卒業までの一年間を監視し見極めることにした。
その結果次第では婚約解消も視野にいれている。
「良いことづくめだ」
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