【完結】全ては王子の手のひらの上

天冨 七緒

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本題

初めまして

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 教室へ向かっているだけなのに緊張する。
 私が通るだけで皆が視線を向け道を開けるものだから申し訳ないと感じる。
 私は貴族の中でも高い位の公爵家、平等を掲げる学園でも自然と道を開けてしまうものなのか?
 きっとこの中には平民もいるはず。
 私が公爵令嬢というのは貴族の中では認知されてはいても、平民は知らないはず。 
 それでも道を開けてしまうのは場の空気、貴族の反応、学園の暗黙の了解からの行動だろう。

 気まずさを感じながら、教室を目指す。
 静かに教室に入ったつもりたが、私が一歩踏み入れた瞬間和やかな雰囲気がピリつく。
 「学園は平等です」とジャメルに念を押されたが、平等には感じない。
 このクラスは公爵令嬢が支配し、誰もが私の顔色を伺っていた…
 異様な空気の中、私は平静を装いながら後方の掲示板に貼り出されている座席表を確認する。
 私の席は前から四列目の窓際、結構良い席だと思う。

 担任が現れるまで席で大人しく待っているだけなのに、どうも視線を感じる。
 既に私は何か間違いを犯したのだろうか?ただ教室に入り席に座るまでに何らかの作法でもあるの?
 周囲を確認すれば誰もがあからさまに顔を背ける。
 動物園のパンダのような歓迎はなく、腫れ物扱いという言葉の方が今の私には似合っていた。

 授業が始まり生徒からの視線から解放される…授業中だけが余計なことを考えず無心でいられた。
 また、移動教室などは流れに乗って移動すれば問題なく、私に声をかけてくる人物もいないので今のところは乗り切れている。
 昼食となり食堂へ向かえば皆が道を開ける。
 私としては順番通りに並び特別扱い等してほしくないのに、自然と道が拓けてしまう。
 これは一体どうしたら良いのやら…学園は平等なのに、平等に感じない。
 こんなところを学園長に目撃されたら退学等にはならないだろうが、要注意人物として認識されてしまう。
 どうにかこの状況を打破しなければ…きっと、本物のスカーレットも困惑しどうにか変えたかったはず。
 私は拓かれた道を歩まず、最後尾に向かい静かに並ぶ。
 それだけなのに周囲はざわめき、食堂中の視線が私に集まっているんじゃないかと思う程注目されている。
 凝視する者はいないが、チラチラと見てくるのに耐えながら順番を待てば、食堂の従業員さえも隠すことなく驚いていた。
 沢山あるメニューを確認するも聞きなれないものばかりで何を頼んで良いのか分からなくなり、私が悩んでいると先ほどまで驚いていた従業員は冷静になり己の仕事を思い出す。
 私はとても小心者で後ろの人を待たせてはいけないと思うと、焦ってしまい中々選べずにいた。

「えっと…今日のおすすめはなんでしょうか?」

「へっあっはい、本日はこちらの…」

 従業員の彼は、震えながらもメニューの説明を丁寧にしてくれる。
 彼の説明が上手で、とても美味しそうに感じたので「では、それをお願いします」と笑顔で頼むと「ふェっハっはィい」と声を裏返していた。
 そして、私が頼んだ料理がカウンターから出されたのだが、私が持つよりも先に彼が受け取り運ぼうとする。
 他の生徒は自分達で席まで運ぶのだが、何故か彼が運ぼうとする。
もしかしたら、私が声をかけてしまい「あなた運んで」という意味に解釈してしまったのかもしれない。
 ジャネルの「お嬢様、学園は平等です」という言葉が瞬時に蘇る。

「あの、私自分で運べます」

「えっ?」

 私が当たり前の事を言ったのたが、彼は声に出して驚いた。硬直している彼からトレイを受け取る。

「貴方のお気遣い感謝いたします。ですが、自分の食事は自分で運びますのでお気になさらないで」

 私は彼の返事を待たず空いている席を探し始めるも、周囲の生徒は彼と同じように私を見て硬直している。
 え?
 私はまた何か失敗してしまったんだろうか?
 皆と同じように自分の食事を自分で運ぼうとしただけなんだけど、貴族はそんなことしないの?
 恐ろしくなり周囲を見渡すと、私と同じように従業員にトレイを運ばせていた令嬢と目があってしまった…

「間違った…」

 貴族は自らトレイを運ばないらしい。
 今更「やっぱり持って頂ける?」なんて言えず、私は急いで出来るだけ人々の死角になるような場所を見つけ席に座る。

「えっ?」

 私が座ると再びざわめきが起きる。
 心中では「今度は何?」と半泣きだった。
 隣の生徒が私を見て困惑していることに気付き、もしかしたら友人と座ろうとしていたのを私が横取りしてしまったのかもしれないと察した。

「…あの…もしかして、この場所は先約がありましたか?」

「へっあっいえっあり…ません…」

 明らかに動揺しているので、彼女は平民で本当は友人と共に食事を取る予定だったが私が隣に座り貴族だった為に真実が言えないでいるのではと考えられた。周囲の生徒も何だか挙動不審だ。

「あっ、もしかして友人の方がいらっしゃるの?でしたら私は…」

 席を立ち、別の場所を探す。

「あっ、違います。本当にここは空いてます…」

「…そう…なんですか?」

 空いていると言う割には、彼女の様子はおかしい。
 あっ、私が貴族だから隣で食べるのに気を使うって思われてるとか?
 私という存在が威圧的過ぎて、混乱させた?
 どうする?どうする?別の場所に移動した方がいいの?
 分かんない…こんなことなら従業員にトレイを運んでもらっていた方がよかった。

「あの…本当に宜しいんですかこちらで?」

「へっ?」

 困惑していた彼女が小声で尋ねる。
 もしかして、学園の規則?貴族のマナーがあったりするの?

「こちらは…その…日当たりが悪く、薄暗いので…貴族の方は…」

 確かにここは薄暗く奥まっている。
 視線を浴びたくない私は逃げ場所としてここを選んだのだが、貴族はこのような場所を選ばないのできっと私が知らないでこの席を選んでしまったのだと彼女は困惑しながらも教えてくれたのだろう。

「…ここが落ち着くと思ったのですが…迷惑でしょうか?」

 しまった。
 「迷惑でしょうか?」なんて聞いて、貴族に対して平民が「はい、迷惑です」なんて応えられるわけがない。

「いえっ迷惑では…その…本当に大丈夫でしょうか?こちらの席は…平民しかおりません」

 平民しかいない中で貴族がいたら私だけでなく彼女達も気まずい。
 周囲を見渡すと皆が彼女と同じような表情で私を伺っていた。
 こんなにも注目される中、私が移動したら「平民なんかと一緒に食事は取れないわっ」と言っているようなもの…この場合どうするのが正しいですか?教えてください。

「そう…なんですね…私は…移動した方がよろしいでしょうか?」

 もう分からず、目の前の彼女の意見を参考にすることにした。

「えっそんなっファルビアンクス公爵令嬢様に私などが意見するなんて…申し訳ありません」

 何で急に謝るの?私間違えた?もう分からない、誰か助けてぇ。

「いえ、そんな謝罪はいりません。あの…私はここで食事をしたいのですがご迷惑でしょうか?」

「ととととととんでもござりません。ファルビアンクス公爵令嬢様さえ良ければ、ぜひこちらでお召し上がりくだしゃい」

「…ありがとうございます…それと、学園では平等ですので私の事はスカーレット、もしくはファルビアンクスと呼んでいただけますか?公爵令嬢様は付けなくても良いかと」

「…ひょぇええええ、そそそそんな、そんな、そんな事は出来ません。私は平民ですから」

 初めて私は、お化けでも見たような悲鳴を目の前であげられた。
 貴族社会というものを勉強したつもりでも、長年染み付いている彼女達とは感覚が違うよう。
 またしても私は失敗してしまったのかもしれない…

「学園では貴族も平民も関係なく平等であるべきですよ?そうだ、あなたの名前を伺っても宜しいですか?」

「ひっ私のっ名みゃえ…ですか?」

 彼女の反応からして貴族に名前を教えるのは平民にとっては怖いことなんだと判断した。
 学園は平等と掲げてはいるが、貴族側はそうではないと容易に想像できる。
 貴族の矜持が「平民と平等」を許せるとは思えない。
 行きすぎた行為には罰が下るが、どこまでが行きすぎた行為なのか判断は学園側にある。
 多少の事は黙認されるだろう…私はまたしても後先考えずの行動してしまった事を反省する。
 言い訳としては、普通?平等であれば問題ないように思った自己紹介なのだが、私の考えるよりも貴族と平民の関係はとても厄介なのかもしれない…って、こんなことを考えているよりも、この後どうしようか。
 安易に名前を尋ねてしまった彼女は、私に名前を知られたくないが貴族に尋ねられ応えないわけにもいかない。
 だけど教えるのは後が怖いという表情だ。
 私から聞いておいて「やっぱりいいです」は相手に失礼だが、今回相手の気持ちを考えると私から遠慮した方が良いんだよね?

「あら私ったら…食事の途中でしたよね?申し訳ありません。とうぞ食事にしましょう」

 あら?
 なんて初めて言ったが、怪しまれずになんとか名前を聞かずに済みそう…うまく乗り切れた…

「私の名前はカリーナです。よろしくお願いします…ファルビアンクス様っ」

 折角濁したのに律儀というか真面目というか、彼女は私を恐れながらも名乗った。

「へっ…あっ、よろしくお願いします…カリーナ様」

「ひゃっさ、さ、様だなんてそんな…私の事はカッカリーナとお呼びください」

「では、私の事もファル…」

「それだけは出来ません。ファルビアンクス様とお呼びできるだけでも凄いことなのにこれ以上は…」

 えっ?
 同級生を様付けで呼ぶだけでも凄いことなの?
 私が言い終わる前に、私の言葉を予想して返答してしまう程に…だけど、無理強いはよくないよね?

「では、そうしてください」

「はいっ、ありがとうございます」

 …ありがとうございます…なんだ。
 貴族社会は私には難しい。初日から色々と疲れる。
 私はこれ以上ボロがでないよう食事を始めた。

「…ぁっ、美味しい」

 漸く食事にありつけ安心したのか、つい声に出してしまった。

「え?」

「なに?どうかしました?」

 カリーナが私を見て驚くので、つい反応してしまった。

「いえ、貴族の方は学園の食堂など…その…口に合わないのかと…」

「それは貴族かどうかは関係なく、味覚は人それぞれだと思います。私は美味しいと思いましたよ?…カリーナは美味しくないですか?」

「美味しいです。こんな美味しい食事は学園に入って初めて知りました」

「では、学園のシェフは優秀なんですね」

 私達は美味しい食事を頂き笑顔を見せた。
 今まで緊張していたカリーナの笑顔はとても可愛かった。
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