【完結】全ては王子の手のひらの上

天冨 七緒

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本題

レオナルド・ヴァン・ガランディオール

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 令嬢が犯人ではないと思ってはいても、二人のあんな姿を目の当たりにすると揺らいでしまう部分がある。
 自分が正しいと思いたく、側近候補に考えているジャンマルク・ラスウェル伯爵令息の意見を聞くことにした。
 したのだが、偶然平民の彼女と親しくしている姿を目撃し躊躇ってしまう。

 悩んでいると自然と温室へ足が向いていた。
 今も温室は生徒の出入りが禁止している。それは犯人が分かるまで、熱が冷めるまでは続く。
 私も王子だからと特別扱いはなく、扉の前で中を眺め立ち尽くしている。

「どうしました?」

 振り返ると教師のリルコットが立っていた。

「…いえ…」

「…令嬢は大丈夫ですか?」

 名前を言われなくても、私達には誰の事なのか分かった。

「…噂を…気にしてます」

「そう…ですよね…」

「犯人の手掛かりとか無いんですか?」

「犯人は放課後に侵入し花や道具を荒らしました。下足痕は有りましたが、学園支給の靴のためサイズが同じ生徒としか絞ることが出来ません」

「…先生は、目撃証言した生徒をご存知ですか?」

「授業で受け持ってますからね」

「その生徒は、よく温室を訪れるんですか?」

「…温室で見たことはないですね」

「そうですか…温室によく出入りしている生徒ってどのくらいですか?」

「定期的に出入りしている者は、五名~十名の薬学研究の生徒、デッサンに訪れる生徒は五名程、不定期には十名前後の令嬢が来ますね。令嬢達は私が不在の時は訪れません…」

 薬学研究の生徒は研究のために花を調達するので、あんな無作法に持っていくことはない。
 不定期に訪れる令嬢の方はリルコットに興味のある人達ばかりなので、彼が世話をしている花を荒らすような真似はしない。
 他に温室を出入りしているのはスカーレット・ファルビアンクスだが、令嬢は真面目に花の世話を行っている。
 そんな令嬢が犯人だとは思っていない。
 やはり、一番怪しいのは…

「何かあれば私も協力します」

「はい…先生は令嬢の事をどう評価していますか?」

「彼女は最近、変わったように感じます。人間関係について身分関係なく接する姿は好ましくあります」

「…先生は…いえっなんでもありません」

 リルコットは今の令嬢に対し好感を持っているようだが、その表情は柔らかく愛する人を思い浮かべているようにも見てとれた…胸騒ぎがして確認したい気持ちが生まれたが、途中で踏みとどまった。
 今の私と令嬢の関係とリルコットと令嬢の関係の方が良好に感じられ、もしかしたら「奪われてしまう」と感じ聞くのを躊躇い、温室を後にした。

 疑念を抱いて平民の彼女を観察すると、違和感を感じた。
 入学当初の彼女は今よりかは礼儀があったように記憶している。
 学園に三年もいれば最低限の貴族に対するマナーが身に付きそうなものだが、彼女にはそれが一切感じられない。
 彼らとそれほど親密ということか…

「ラスウェル」

「レオナルド殿下」

 彼が一人なのを確認して声をかけた。

「君に聞きたいことがあるんだが今、時間良いか?」

「はい。構いません」

「最近学園で広まっている噂についてなんたが、どう思う?」

「あぁ、その事ですね。本人は大事にしたくないと話してました。卒業後の進路を考えると…やはり相手が相手なんで、温室の件以外は報告するつもりはないようです」

 彼の言葉は犯人をファルビアンクスと決めつけ、完全に彼女が被害者の構図となっていた。

「…ラスウェルは彼女と親しいのか?」

「…親しい?…彼女は学園の象徴だと思いませんか?」

「象徴?」

「えぇ、彼女は学園の理念である「平等」を体現している。目の前の相手が貴族平民関係なく接する姿は学園が必要としている人材そのもの。だが、その振る舞いは身分関係なく反感を受けやすいのも確か。敵がいるのであれば見方も必要だと思いますよ」

「彼女が体現している平等は、学園が望む平等なのか?」

「王子には今の学園は平等に見えますか?何かあれば貴族は身分を持ち出し金銭で相手を従わせる。平民は貴族の顔色ばかり伺い、不遇な扱いを受けているにも関わらず声をあげる事をしない。おかしいと思いませんか?」

「その部分だけを見れば平等は保たれていないな…」

「率先して崩しているのは誰か分からないわけでもないですよね?」

「もしそれが私の婚約者の事を言っているのであれば、最近の令嬢は違う…それに、平民の彼女は本当に学園の象徴に相応しいと本気で思えるのか?」

「…殿下も彼女を「平民」と言っている時点で差別の片鱗が見えます」

「ではなんと呼べば良い?平民にはファミリーネームがないのでファーストネームを呼ぶことになる。本人の許可なく私がファーストネームを呼ぶ事は出来ない。私が女性のファーストネームを呼ぶことは他者に誤解を生む可能性がある」

「たかがファーストネームですよ」

「私の立場が許さない。ラスウェルは婚約者になんと呼ばれている?」

「…ラスウェル様です」

「婚約者さえファミリーネームなのに、婚約者以外の女性にファーストネームを許すことに周囲が誤解するとは思わないか?」

「…彼女は友人なので問題ないです。婚約者は、私の事をファミリーネームで呼びますがファーストネームを呼ぶなと言ったわけではないです。ファーストネームで呼びたいのなら呼べば良いんですよ。私達の関係は政略的なものなので、私が誰になんて呼ばれようとあちらも気にするような人ではありませんよ」

「友人…か…友人の立場から見て、最近の平民の彼女は貴族に対して馴れ馴れし過ぎていると感じないか?」

「貴族ではない女性にとっては、あの距離は問題ないと感じますよ」

 回りくどい言い方をしてでも、彼女を「平民」と言いたくない姿を見ると、彼の方が立場を意識しすぎているように見える。

「端から見て勘違いされると思うが」

「それは…嫉妬じゃないですか?」

「嫉妬?」

「相手と話したければ、自ら動くべきだ。遠くから羨んで罵る姿は醜いだけですよ」

「…それが平等なのか?」

「人を陥れ従わせ、助けを求められないよう追い詰めるよりかはましです」

「令嬢は今生活態度を改めている。以前とは違う」

「人はそんな簡単に変わらないと思いますよ、いつかボロがでます」

「…あぁ、そうだな」

 彼は彼なりに学園の問題点を見つけ改善しようとしている。
 だが、一度思い込んだら考えを変えない頑固さを持っているらしい。
 彼は微塵も平民が貴族令嬢を陥れているとは考えていない様子。
 私もファルビアンクスに起きたことを知らなければ、噂を信じていたに違いない。
 だが、令嬢に起きた事を告げることも出来ない…

「婚約者に対してもう一度検討すべき時期に来ているのではないですか?令嬢の我が儘からの婚約なんですよね?卒業がタイムリミットですよ」

「…言われなくても検討中だ」

 令嬢と彼女について悩んでいたんだが、側近二人の今後とラスウェルの側近候補についても見直すべきか悩み事が増えてしまった…
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