【完結】全ては王子の手のひらの上

天冨 七緒

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本題

婚約者

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 衝撃的な内容を聞かされた誰もが硬直している所に、たった一人彼らに近付く姿があった。

「私もよろしいですか?ディカバル様」

 女性はメイリーと共に入場したもう一人の男性の名前、へルマンルイス・ディカバルを呼んだ。

「はっ…ま…まさか…」

 男は次に発する女性の言葉を先読みし動揺し始める。

「あら、察しが良いですね?その通りですよ」

 男は表情を失い顔面蒼白し、女の嫣然たるさまに一気に場が支配される。

「…どう…し…」

 ヘルマンルイスは震える手を女性に伸ばす。

「どうして?パーソンズ様のお話をお聞きになっていなかったのですか?」

 笑顔で拒絶する人物に女の怖さを見たようで、心臓を握りしめられたように苦しかった。

「…すまない…婚約解消だけはっ」

 ヘルマンルイスは恐怖を振り払うかのように彼に不釣り合いなくらいの声を上げる。

「…んふ、手遅れです」

「…そんな…た…頼む…それだけは…」

 貴族社会では婚約解消されると傷を負うのは女性の為、女性が男性に追い縋る事は目にするが、男性が周囲の目を気にせず追い縋るのは初めての事だった。

「お止めください。何を言われても私の気持ちは揺るぎませんし、公爵様には既に「今後ディカバル様を信頼することはありません」とお伝えしてあります」

 元婚約者の完全なる決別宣言に、ヘルマンルイスはまるで人形のように魂が抜け、私は初めて人が生気を失う瞬間を目撃した。

「こんな結果になる前に二人には己を見つめ直してほしかった」

 二組の婚約の結末を目撃した王子が惜しむように二人に告げるが、王子の言葉が彼らに届いたかは不明。
 二人はただ、目の前で苦しみ自分を頼る生徒を守りたかっただけに過ぎず、己の行動が婚約解消に繋がるとは一切考えていなかった。
 誰かを守りたいにしてはとても浅はかな行動だった。

「…私は以前、君に「己の行動を見つめ直せ」と言ったはずだ。にも拘らず二組が婚約解消になった。これが君の望む事だったのか?」

 王子はメイリーに向き直り、二組の婚約解消の発端は君にあると伝えた。

「わ…私は…」

「婚約解消になった貴族は二組だけでなはい」

「えっそれは…私のせいじゃ…」

「君のせいではないと?では何故婚約者のいる貴族令息と親密にする?令嬢達から何度か忠告されていると聞くが違うのか?」

「…が…学園は…平等で…わっ私は…皆と…仲良く…」

「「皆と仲良く…」君は勘違いしている。「平等」と言えば平民が何をしても許されるわけではない。学園での平等は立場関係なく互いの価値観を理解する為に、垣根をなくし「平等」と掲げているだけだ。今回の事で学園は変わるかもしれない。たった一人の平民が何組もの貴族の婚約を解消させ、あまつさえ王子の婚約者に対しても暴言を吐いた。私の婚約者は公爵令嬢だ「平等」だがらと証拠もなく犯罪者のように扱って良い身分ではない。君は一体何を考えている? 彼ら貴族が学園にいくら寄付しているのか考えたことがあるのか? 君が特待生として学費が免除されているのも、彼らの寄付があってこそだ。そんな彼らが婚約解消となれば、今後通う貴族は学園に対し不信感を抱き学園への寄付を躊躇うだろう。そうなれば来年度の特待生の平民の人数を減少せざるを得ない。それどころか、貴族の意向により平民の入学は禁止となる可能性もある。君がしたことは貴族達の関係に亀裂を入れただけでなく、いずれ国に貢献するであろう優秀な平民の未来を閉ざしたことになる。その責任を君一人が取れるのか?」

「…そっんな…私はただ…」

「「私はただ…」なんだ?身分関係なく皆で仲良くしましょう。学生のうちは貴族の役目など忘れ学園では自由に己の欲望のまま過ごすべきだと?多くの人間の人生を歪めておいて自分は悪くないと本気で思っているのか?」

「…ご…ごめ…なさぃ…」
 
「…ごめんなさいではすまされない。現に婚約解消は二組以外に何件も報告されている。件数や時期が重なった事で不審に思い調査すれば、原因の一つに親密すぎる平民の存在があった。平民とは誰の事なのか辿れば、全てが君の事だった。君の我が国を混乱に導く姿から他国と繋がっているとの嫌疑までかけられている」

 他国との繋がりそれは工作員を意味し、戦争や乗っ取りなどが考えられる。

「ちっちがっます…わっ私、他国と繋がりなんて…」

 彼女自身も己の欲望を満たすた為の安易な行動が、まさか国を陥れる壮大な計画の一部なのではと疑われていることなど露ほどにも思っていなかった。

「あぁ、今のところ確認は出来ていない。だが、君には今後も監視が付く。それだけの事をしたんだ理解しろ」

 彼女は自力で立っていられず、その場にへたり込んでしまった。
 普段彼女に甘い言葉を囁き親密な関係を連想させるような行動を取る男性達も今の彼女を助け出る者はいなかった。

「ヘルマンルイス、リオネル。君たち二人は私ではなく彼女を優先し続けた、そんなに彼女を守りたいのであれば今後私の側近でいる必要はない。いつまでも彼女と一緒に居たら良い」

 王子は恋愛に夢中となり自身の役割を疎かにしていた側近二人に解雇通告を宣言した。
 衆目の中での側近二人の解雇は数日のうちに貴族に知れ渡る事だろう。
 二人は今日、既に決定されていた自身の婚約解消を知り、側近としても不必要と判断された。
 己の愚行により貴族としての人生を棒に振った男達の末路は、今後戒めとして語り継がれることになる。
 喩え彼らが廃嫡にならずとも、そんな男と爵位目当てで結婚する貴族令嬢はいないだろう。
 爵位を得たとしても社交界でこの日のことを話題にされ侮辱され続ける日々に耐えなければならいのは目に見えている。
 わざわざ精神的に苦しむ人生を選ぶ者は少ない。
 全てを理解したかは分からないが、二人は己の置かれた状況を受け入れる為に思考を停止していた。
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