【完結】全ては王子の手のひらの上

天冨 七緒

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番外編

真実

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 ティメアノール・ファルビアンクス公爵夫人

 夫に愛人がいることは結婚して直ぐに、気が付きながら気付かないフリをしていた。夫に愛人がいても見て見ぬふりをするのが、夫婦円満の秘訣…そう言われてきた。騒ぎ立てれば醜聞となり、品格を失い社交界で噂の的になってしまう。愛人を上手く手懐けてこそ、貴族夫人としての名が上がる。それが出来ないようなら、何もしないか…お金で処分するの二択になる。

 伯爵家だった私が公爵家に嫁いだ時、周囲には「愛人を本邸に入れるのは貴族の恥よ」「愛人が平民だったら尚更立場を分からせないといけないわ」と忠告を受けた。結婚して公爵夫人として参加した初めてのお茶会での事だった。
 新婚だった私には、何故愛人の存在を認めなければならないのか分からなかったが、一年もしないで夫人達の言葉の意味を理解する。夫に変な趣味とは言わないが、貴族に相応しくない行為は平民に任せるのが一番だと気が付いた。夫は私を愛しているし、貴族としての立場を尊重してくれている。この関係が続くのであれば、愛人の存在には目を瞑ることにした。

 私が身籠ると、夫の帰りが極端に遅くなった。愛人のところに行っているのだろうと察したが口を挟むことはなかった。公爵邸での私の立場は揺るがないし、私の領域を侵すものは無かったから。

 生まれたのが女の子でがっかりはしたが、数ヶ月前には王族が男の子を出産していたので爵位を考えても私の子が選ばれる可能性があったので耐えられた。喩え今後の出産が私の命に拘わると医師から申告され、後継ぎを産めないことが分かっていても私の立場は揺るがない。
 私が出産を終えるとあの人の帰りが早くなった。愛人はやはり私の代わりであって、私がいれば必要ない存在と認識し彼女を無理に処分するまでもないと考えてしまった。

 スカーレットをレオナルド王子の婚約者にさせるべく私もあの人も尽力し、夫婦で協力しあい絆を深められたと感じていた。その甲斐あってあの子はレオナルド王子の婚約者になった。これで私の立場は安泰だと確信する。

 だけど時間が経つにつれて、新たな不安が生まれた。スカーレットはレオナルド王子に夢中だが、レオナルド王子の方が分からなかった…いや、薄々気が付いていた。スカーレットはレオナルド王子に拒絶されている、と…

 伯爵令嬢と育った私と違い、スカーレットは公爵令嬢として育ち威厳や振る舞いに遠慮がないと感じていたが夫はスカーレットに苦言を呈することはなかった。男性から見て問題なければ私も口だすことではないと考えていたのが間違っていた。気が付いた時には、レオナルド王子とスカーレットの関係改善は不可能と噂され婚約破棄は目前、その後釜をどの家門も狙っていた。王子と年齢の近い者はスカーレットを反面教師のように扱い、年齢の合う令嬢がいない家門は遠い親戚から養子を取る者や、孤児院に出向く者もいた。周囲がそれ程躍起になっているというのに、等の本人には噂が一切耳に入っていないのか王子の婚約者である自身の立場は揺るがないと謎の自信を持っている。このままでは噂通り婚約破棄が濃厚になってしまうと焦るも、夫は私と違い余裕を見せる。こんな状態というのは夫も気が付いているはずなのに、何故なんの策も講じないのか疑問に思い、使用人の一人に夫を尾行させた。すると夫は愛人にずっと会いに行っていた。

「もう潮時だ、あの子はこのままでは婚約破棄される。公爵邸に移り住む準備をしておけ」

「はいっ、リリアンにも伝えておくわ。あの子は優しくて愛嬌もあるからすぐに公爵邸にも慣れるはずよ」

「あぁ。それよりも、あの子には来年度の学園編入に間に合わせる。勉強しているんだろうな?」
 
「んふ。私の子よ、当然じゃない。本人も王妃の座を手に入れるために勉強を欠かしてないわ」

 報告書を握る手に力が入る。あの人は私がスカーレットを産んだ一年後に愛人に女の子を産ませていた。私はずっと前から夫に裏切られていて、今度は公爵夫人という立場を乗っ取られる計画が練られている事がわかった。この状況をどうにかしないとと焦るようになっても、スカーレットは私の言葉に聞く耳を持たない。
 夫は仕事の後には愛人の屋敷に、娘は学園の後には婚約者を追い駆けに王宮へ向かう。そっくりな二人に苛つき、ふと呪いたくなった。どうせ私の娘は婚約破棄される。そうなれば愛人が公爵家を占拠し、私は捨てられる。そうなるくらいなら「全部消えてなくなれ」と思うようになった。その日から黒魔術の本を読み漁り、人を呪う方法を探していた。沢山の本を読み共通点を探し、最も効果が現れるように私なりの呪いを作り上げた。「呪い」なんて本当に出来るとは思っていない。ただ「呪い」を考えている間だけは、嫌なことを忘れられた。材料を集め、満月を待って私流の「呪い」を実行した。成功しなくて良い…失敗したって構わない…ただ憂さ晴らしがしたかっただけ。

「スカーレットが…起きない?」

 使用人が慌てた様子で報告するので急いで娘の部屋に走り確認すると、あの子は穏やかな表情で眠り続けていた。

「私の…せい…」

 このまま目覚めなかったらと思うと怖かった。確かに「消えてなくなれ」と願ったが本気じゃなかった…怖くなり眠り続ける娘を直視出来ず、私は本を読み漁り目覚める方法を探した。いくら探しても見つけられず時間だけが過ぎ三日が経った頃、スカーレットが目覚めた。嬉しさと同時に後ろめたさもあり近付けずにいると、目覚めた娘は全ての記憶を失っていた…これは、私への罰だと感じた。私は命を懸けて産んだ娘を呪った愚かな母親…これからは何があってもあの子を守り、私だけは味方でいようと決めた。
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