【完結】全ては王子の手のひらの上

天冨 七緒

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番外編

彼女を迎えるまで

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 レオナルド・ヴァン・ガランディオール

 卒業パーティーであの平民が喚いていた事が事実ではないにしろ、公平に二人の調査が行われた。 
 平民が訴えていたスカーレット・ファルビアンクスの疑惑と平民自身の疑いを調査をしていくと、スカーレットの方は濡れ衣ということが立証され、平民の方は全てが虚偽であったことが判明。

 私は唯一秘密を共有している司教に報告へ向かった。

「あれからどうですか?」

「決断は間違っていなかったと思っています」

 スカーレットと平民は別人の魂が乗り移っていた。
 その魂を元に戻そうとした時、どちらか一方だけ戻せるのか、それとも二人同時に戻ってしまうのか、二人が同時に戻ってしまうリスクを考えた時、本当に魂を戻す事が最善の選択なのかを周囲の人間に話を聞き判断することにした。
 結果、現状維持という選択をした。
 彼女には、前世を思い出したことで今の記憶が無くなってしまったんだと話し、魂は同じだから無理に思い出す必要はないと言い聞かせた。

「新しいファルビアンクス嬢とは良好ですか?」

「あぁ、以前よりか断然良い」

「それは…二人を比べた時に今のファンビアンクスが良いという事ですか?」

「比べるまでもなく彼女が良い」

 別人と分かってからは、「煩わしくない」「静かだ」「面倒事が消えた」くらいの感情だったが、周囲に悟られないよう一人で努力している姿を見ると自分と重なり密かに見守っていた。
 彼女が教師と温室で二人きりで親密になっていくのを気にしないようにしていたが、内心は彼女の気持ちが教師のリルコット先生に向かったらと焦っていた。
 リルコット先生は侯爵家という立場だけでなく、女生徒に大変人気な容姿を備えている。
 今のスカーレットが見た目に惑わされてほしくないと思っているが、一緒にいる時間が長くなると相手に好意を抱きやすくなる。
 なので、何も知らない彼女に「婚約者」という立場で私と一緒にいる時間を増やした。
 自分でも気付いていなかったが、浮かれていたようで彼女の不愉快な噂が出回っている事に気が付くのが遅れてしまった。
 対処を考えていた時には温室事件が発生し、彼女の立場は更に悪くなり犯人にされ、一人苦しみ耐える姿に「守ってやりたい」と思うようになっていた。
 その頃には、側近や側近候補を失っても彼女を離したくないと思うほどに…

「そうですか」

「調査も一段落し彼女が王宮に上がることが決定した…それで…彼女の魂と体の結び付きは未だに弱いままなんでしょうか?」

 私が必死に繋ぎ止めようとしても、何かの拍子で突然元のファルビアンクスに戻ることもあるかもしれないと思うと不安だった。

「多少は強くなりましたが、彼女は肉体から抜けやすいのかもしれません。今後も気を付ける必要があるでしょう」

「…そうなんですね、分かりました」

 不安を抱えたまま王宮で彼女を迎え入れる準備をする。
 今回が最後になるだろう報告書がファルビアンクス家に忍び込ませた密偵から送られた。
 スカーレットは最近甲斐甲斐しく世話をしている花がある。
 詳しく聞けば温室事件後にリルコット先生に種を頂いき「課題」として育てているらしい。
 それだけなら気にすることはないが、その花が問題だった。
 その花は恋人や婚約者、妻に贈る花と言われプロポーズに活躍する花でもある。
 教師で真面目なリルコット先生が婚約者のいる女性を口説くとは思えないが、誰に対しても無関心な彼がスカーレットに興味を示しているのは薄々気が付いていた。
 植物に精通している者は花言葉にも精通しているとは思っていないが、偶然愛しい人に贈る花の種を贈ったと楽観的に考えるのも胸騒ぎがあった。
 本人は自身の感情に自覚がないようだったが、無自覚だからこそ危険に感じる。
 学園を卒業した今、二人が会うことはないだろうと思うも不安は拭えなかった。

 彼女が王宮に移り住む日、柄にもなく緊張していた。
 彼女は本当に来るだろうか?
 馬車が到着しても誰も乗っていないのでは?
 王宮へ来る途中誰かと駆け落ち…など悪いことを考えてしまう。
 彼女の到着を待つ間、どうも落ち着かなかった。

「早く来てくれ…」

 願いを口にすると王族の家門の入った馬車が見えてきた。
 王子の婚約者を乗せている為、普段より安全運転なのかもしれないがやけに遅いと感じる。
 自分を短気だと思ったことはないが遅すぎるんじゃないか? と御者に視線をやる。
 決して睨み付けたわけではない。
 馬車が停車し、誰よりも先に私が動き彼女を出迎えた。
 調査を公平に期す為、私が二人の女性に接触する事はなかったので約一ヶ月ぶりの再会となる。
 久しぶりの彼女は綺麗だ。

「…待っていた。今日からよろしく」

「…はぃ…よろしくお願いします」

 照れながら告げる彼女に愛おしさが募る。
 今日から私達の新たな関係が始まろうとしている。
 私は決して、彼女を手放すつもりはない。
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