短編集

天冨 七緒

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ヒロインを選ばなかった攻略対象

ヒロインを選ばなかった攻略対象  侯爵令息の場合 前編

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「デスピナ嬢。俺が誰と親しくしようと、君との関係を変えるつもりはない」

「それは、私との婚約を解消するつもりがないという事でよろしいでしょうか? 」

「……あぁ」

「それを聞けて安心いたしました」

 侯爵令息、フロリネル・アルバネーゼ。
 侯爵令嬢、デスピナ・ナルトヴィッチ。
 二人の関係は、婚約者。

「フロリネル? 」

 二人を……フロリネルを心配気に見つめるイリーナ。

「イリーナ。ここではっきり言っておく。俺はどんな事があろうとデスピナ嬢と婚約を解消するつもりはない」

「二人は親同士が決定した婚約なんでしょう? 」

「親同士ではない。家族で話し合い、俺は同意した」

「二人の婚約は子供の頃の話でしょ? 色んな人と出会って気持ちが変わる事はあるわ。愛する人が出来ることは、悪い事ではないのよ」

「平民の君には分からないだろうが、貴族の婚約は簡単に解消できるものではない」

「貴方達は人を平民や貴族で分類するけど、同じ人間よ。私達には感情がある」

「感情はある……だからと言って、感情を優先することは出来ない。俺達には理性がある」

「……お二人の関係は……私には、良好には見えません。それでも、デスピナ様と結婚されるおつもりですか? 」

「君にどう思われようと、俺はデスピナ嬢と結婚するつもりだ。俺から令嬢に婚約解消を提案するつもりは無い」

「なら、私との関係は何? 」

「勘違いさせたのなら悪いが、俺は君に特別な感情は無い。平民の君の意見を知りたかっただけだ」

「……私だって、貴方に特別な感情なんか無いわよっ。勘違いしないでっ」

 イリーナはその場を走り去り、残されたデスピナは満足そうに微笑む。
 学園の廊下での出来事に、見物人は多数。
 高位貴族の問題となれば誰もが興味を持つ。
 デスピナは高位貴族の象徴と言える人物。
 イリーナは最近、平民でありながら多数の高位貴族令息と親密になり噂の対象。
 そんな二人の揉め事となれば、注目され一気に噂が学園を駆け巡る。

「見ました? デスピナ様の勝ち誇った顔」
「イリーナも令息達が優しいのはご自身が『特別』だと勘違いしていたのを、ようやく認識したようですね」
「やはりフロリネル様は、平民に惑わされる人ではありませんでしたわ」

 生徒達は好き勝手に噂する。
 物語通りであれば、平民のイリーナをデスピナが態度を改めるよう諭す。
 イリーナは平等を掲げる学園で身分を持ち出すデスピナの方が間違っていると反論。
 騒動を聞きつけたフロリネルが到着。
 デスピナと友人達が涙目のイリーナを取り囲むような場面を目撃。
 両者の話を聞き、フロリネルの答えは……

『学園では身分を持ち出すな。俺達の婚約は両親が決定したもので、デスピナ嬢は俺の交友関係に口を挟む権利はない』
 
 フロリネルはデスピナを残しイリーナと共に去って行く……はずだった。
 物語と違うのは、彼が転生者……だからではない。
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