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使用人
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侯爵により、アティラン様を庭に案内することになったエストレヤ様の後ろを幽霊にならないよう気力を振り絞って付いていった。
何故なら、侯爵からアイコンタクトがあったような気がしたからだ。
普段であれば断言できるのに、今の私には朦朧としているように脳が上手く機能してくれずにいた。
誰か…代わってくれないか…いやっ見たいから私が最後までお付き合い致します。
二人は侯爵の言葉通り庭を散歩している。
数メートル後ろを私は邪魔にならないよう付いていった。
お二人は仲睦まじげに散歩し婚約者になったばかりとは思えぬ親密さを醸し出しながら歩いていく。
耳元で囁き合う姿は微笑ましいのかもしれないが、情事の密会を密談しているうように見えてしまう。
おかしい。
お二人は今まで清廉潔白、如何わしい噂など一切無いというのにピンクな霧に包まれているようだった。
観劇の一幕のように、二人は抱き合い口付けを交わしていた。
口付けを交わしていた?
…交わしてる。
私や数名の使用人が居ることに気づいていないはずが無いのに…。
お二人は激しく唇を重ねていた。
私からはアティラン様の後ろ姿しか見ることが出来なかった。
好奇心から身体が勝手に二人が見える位置に移動し漸く見える位置に来た時には、二人の唇は離れ潤んだ瞳に誘うような唇をしたエストレヤ様の姿があった。
美しく控えめでそちら方面には誰が見ても疎いエストレヤ様の艶やかな表情に胸が高鳴った。
エストレヤ様の膝か崩れぺたんと座り込んでしまっていた。
使用人の私が急いで駆け寄らなければならないのに、足が動かなかった。
二人の邪魔をしていいのか判断できないほど躊躇っていた。
すると、アティラン様がすっと流れるようにエストレヤ様を抱き抱え、二人は屋敷の中へ消えていった。
…消えていったって見送ってどうする、二人を追わねば。
侯爵様に報告が出来ない。
侯爵家の使用人としては優雅さに欠けるが、今はそんなことを言っている場合ではなく、私は急いで二人を探した。
見つけた時には、二人がエストレヤ様のお部屋に入ってしまった。
してはいけないことだが、扉に耳をつけ中の様子を確認した。
会話しているようだが、あまりよく聞こえない。
だが、次第に「あっんっあっあっあっん」という喘ぎ声が聞こえてきた。
私も子供ではない、それがどういう意味で中で何が始まっているのか想像できる。
仕える屋敷の情事は見て見ぬふりをするのが礼儀であり、盗み聞きするものではない。
分かっている…分かっているがその場を離れることが出来なかった。
会話は何を言っているのかは聞き取れないが、エストレヤ様の喘ぐ声は聞き取れた。
「ぁんっあんっんあんっぁん…あああ゛あ゛ん゛んんふぅん」
中でどんなことが行われているのか容易く想像でき、妄想が膨らんだ。
如何わしい知識など一切触れず何年も仕えてきた…。
恥ずかしがりやで人前で話すことも苦手で困惑の表情を浮かべていることが多いエストレヤ様は、他者からの第一印象はお綺麗な顔だが不機嫌な印象を与えてしまっていたらしい。
新しく入る使用人からよく、そのような相談を受けた。
事実を話せば皆恐れることはなくなり、エストレヤ様の笑顔を見た時は盛り上がっていた。
私が礼儀に欠けた醜態を晒していると、後ろから肩を叩かれた。
叫び声がでなかったのは奇跡だった。
振り向けば最近仕えるようになった新人が興味津々に私に近づいた。
「なにしてんすか?」
突然耳元に囁き声で尋ねてくるのは最近入ったばかりの新人だ。
侯爵家に仕え数年という月日を過ごしている私が新人にこのような姿を見せるとは…。
「あなたはここに何を?」
「私は食事の準備が整いましたので声をかけに…。」
「分かりました。」
一度中の様子を確認するも喘ぎ声は聞こえず、会話しているようだった。
私自身を落ち着かせ、こんこんこんとノックした。
「お食事の準備が出来ております。」
「ぇっと…準備出来たら食堂に向かいます」
エストレヤ様が焦っているのは、声からして分かってしまう。
「畏まりました。」
私は新人を連れて調理場に向かった。
「まさか中で二人が?」
新人がニヤつきながら私に尋ねてくる。
先程の行動を見られているので、安易に窘めることも出来ず無言で誤魔化した。
食堂でお二人をお待ちしていると、エストレヤ様は衣服を着替えていた。
それだけではなく、瞳も潤ませアティラン様に抱き寄せられている。
私達の困惑などには気付かず、アティラン様に支えられながら席に着くエストレヤ様。
その事には一切触れず「では食事にしよう」という侯爵の言葉で食事が進められた。
「ぁっあの…」
食事の席でエストレヤ様から発言など珍しく、驚いた。
「どうした?」
それは侯爵も同じように見受けられた。
「あの…もう…遅いですし皆さんには我が家に…泊まって頂いては…。」
これは、エストレヤ様の意思というより別の人間の思惑が見てとれる。
エストレヤ様自身にはその言葉に下心なくとも、言わせた本人には下心満載に見えた。
言わせた本人だろうアティラン様はこのようなお方だったのか?
「今日はっ書類の手続きなどで色々と有ったし、グラキエス公爵も忙しく引き留めるのは良くないぞ゛」
私の不安は当然侯爵も感じ取っているようだった。
「俺は構いませんよ?」
なんとふてぶてしい。
噂に聞いていたアティラン様像はすっかり消え去っていた。
「なら、エストレヤが来るか?いずれ結婚すれば一緒に住むんだ早いうちに公爵家に慣れていた方がいいだろ?」
屋敷に連れ込んで何する気だっ?
「一人では行かせない、私も行く。」
「当主は忙しいのでは?安心してください、エストレヤは俺が守ります。」
「…ん゛、グラキエス公爵、本日は泊まってはいかがですか?」
結局、アティラン様を追い返すことは叶わずお泊めすることになった。
それでも、エストレヤ様を一人で行かせるよりは断然ましである。
それに侯爵家であれば多少は…止められるのか?
「えぇ、客室に・客室に・客室にお泊まりください。」
侯爵は客室と何度も念を押していた。
使用人に支持し、急いで客室の準備をするようにと頼んだ。
「ありがとうございます…エストレヤ客室に案内してくれるか?」
耳を疑った。
「使用人が案内します。」
ですね。
私は侯爵の意見に同意した。
私が丁寧に案内をいたしましょう。
「そうですか。エストレヤ、学園主催パーティーについても話し合おう。客室に来てくれるよな?」
学園主催のパーティー…。
忘れていたわけではありませんが、エストレヤ様は婚約者が居りませんでしたので常に一人で参加していました。
それは婚約者がいるアティラン様もお一人でしたので深く気にすることも焦ることもありませんでした。
だが、今日お二人は婚約なさった。
なのに、エスコート無しで参加するのは…。
アティラン様は王子が婚約者でもお一人でしたが、エストレヤ様は耐えられないだろう。
「ん゛っ」
侯爵もアティラン様より、エストレヤ様の社交界での立場を優先するとなれば…。
「そうだな、婚約して学園とはいえ初めてのパーティーだ確りしないとな。」
「だけど、今からでは衣服と宝石も間に合いませんよ。」
「…せめて、色だけでも…。」
侯爵と私以外の人間は、アティラン様とエストレヤ様の関係を咎めることも不安になることもせず受け入れてしまっている。
能天…朗らか…おおらか過ぎませんか?
「エストレヤ、案内してくれるか?」
「はいっ」
二人は食堂を出ていった。
睨み付けるように二人の背中を見つめる侯爵…あなたの気持ち、私だけは理解しております。
客室の前に立つも中に入る勇気はなかった。
いつまでも扉に張り付いているわけにもいかず、調理場へと向かった。
「あっ、どうでした二人は?もうイチャついてる頃ですよね?」
私の醜態を目撃した新人が声を押さえることなく尋ねてくる。
「えっ?二人ってもうそんな関係なんてすか?」
「あぁ、さっきだって…。」
「止めなさい、言いふらすようなことてはありません。」
私の制止に空気が一転してしまった。
私でさえ二人の関係が気になり、盗み聞きしてしまうくらいだ皆だって同じ気持ちのはず…だからと言って許されることではない。
「…あの方達は恋人同士のようですね。」
「…本当っすか?」
「えぇ、なので部屋の掃除は念入りにお願いしますよ。」
私の言葉でその場にいたもの達は何を意味するのか、正確に感じ取ったようだ。
一度エストレヤ様の部屋に向かったが、部屋には誰もいなかった。
恐ろしくはあったが、侯爵には事実を報告した。
エストレヤ様の部屋には衣服が散乱しパンツには…。
いくら報告の義務があっても、その事は黙っておきました。
それでも侯爵は翌朝に困惑し客室の前にいた私達を押し退け、情事を交わしていた二人の部屋へ乗り込んで行った。
怒鳴り声を聞いたが、侯爵は一人落ち込んだ様子で部屋から出てきました。
エストレヤ様がアティラン様に愛されているのは伝わったが、少しは侯爵の気持ちも…。
侯爵はエストレヤ様を大事に思っておりました。
王子の第二妃の座もエストレヤの為です。
エストレヤ様の綺麗な顔は相手に冷たい印象を与えてしまいます。
そして、人見知りの性格が更に誤解を生んでしまっていることも。
エストレヤ様を守るためには権力者に嫁ぐのが一番だと私達使用人も感じておりました。
侯爵家に似合う家門でエストレヤ様を守ることが出来る者。
それは、アティラン様でした。
王子の婚約者で潔癖な程の公平を貫くことが出来るあの方の側なら、エストレヤ様も傷付くことはないと侯爵は考えており我々も納得でした。
噂によると王子とアティラン様の仲は冷えきっており、嘘でも良好とは言えない関係だと使用人の耳にも入っておりました。
側妃として爵位的にもエストレヤ様が選ばれる確率は高い。
好かれていることはなくとも、アティラン様程毛嫌いされることはないだろう。
であればきっとエストレヤ様が世継ぎを産み、政務はアティラン様が行う事になる。
そうなればエストレヤ様はきっと傷付くことはないだろう…。
…まさかのアティラン様が記憶喪失…。
更には色欲に走るとは…。
エストレヤ様の身が心配でなりません。
人を疑わないエストレヤ様は、アティラン様の頭の中がエストレヤ様の裸で一杯など夢にも思ってないでしょう。
アティラン様と会話したことはありませんが、見る限りその男はエストレヤ様をどんな風に辱しめてやろうかしか考えていないのは会って間もない私にも分かることなんです。
愛されているのは喜ばしいことですが、その愛され方は心配でなりません。
エストレヤ様、お願いですから少しは「拒絶」してください。
朝食の席では、和やかな雰囲気ではあったものの侯爵の目が厳しくエストレヤ様を確認すれば誤魔化しようの無い程首に様々な痕が付いておりました。
堂々としているエストレヤ様をみると、ご自身の首にそんな痕が付いていることなど夢にも思っていないはず。
公爵夫妻や奥様は寛大に受け入れてますが、侯爵だけは…。
食事を終えお二人が部屋に戻ってしまわれた。
扉の向こうでお二人が何をしているのか考えたくもないです。
ですが、食事の為にお二人に声をかけなければなりません。
扉に耳を付ければエストレヤ様の艶かしい声が聞こえてきます。
私は廊下で終わるのをひたすら待つしか出来ませんでした。
願わくば、食事に間に合うように終えてください。
何故なら、侯爵からアイコンタクトがあったような気がしたからだ。
普段であれば断言できるのに、今の私には朦朧としているように脳が上手く機能してくれずにいた。
誰か…代わってくれないか…いやっ見たいから私が最後までお付き合い致します。
二人は侯爵の言葉通り庭を散歩している。
数メートル後ろを私は邪魔にならないよう付いていった。
お二人は仲睦まじげに散歩し婚約者になったばかりとは思えぬ親密さを醸し出しながら歩いていく。
耳元で囁き合う姿は微笑ましいのかもしれないが、情事の密会を密談しているうように見えてしまう。
おかしい。
お二人は今まで清廉潔白、如何わしい噂など一切無いというのにピンクな霧に包まれているようだった。
観劇の一幕のように、二人は抱き合い口付けを交わしていた。
口付けを交わしていた?
…交わしてる。
私や数名の使用人が居ることに気づいていないはずが無いのに…。
お二人は激しく唇を重ねていた。
私からはアティラン様の後ろ姿しか見ることが出来なかった。
好奇心から身体が勝手に二人が見える位置に移動し漸く見える位置に来た時には、二人の唇は離れ潤んだ瞳に誘うような唇をしたエストレヤ様の姿があった。
美しく控えめでそちら方面には誰が見ても疎いエストレヤ様の艶やかな表情に胸が高鳴った。
エストレヤ様の膝か崩れぺたんと座り込んでしまっていた。
使用人の私が急いで駆け寄らなければならないのに、足が動かなかった。
二人の邪魔をしていいのか判断できないほど躊躇っていた。
すると、アティラン様がすっと流れるようにエストレヤ様を抱き抱え、二人は屋敷の中へ消えていった。
…消えていったって見送ってどうする、二人を追わねば。
侯爵様に報告が出来ない。
侯爵家の使用人としては優雅さに欠けるが、今はそんなことを言っている場合ではなく、私は急いで二人を探した。
見つけた時には、二人がエストレヤ様のお部屋に入ってしまった。
してはいけないことだが、扉に耳をつけ中の様子を確認した。
会話しているようだが、あまりよく聞こえない。
だが、次第に「あっんっあっあっあっん」という喘ぎ声が聞こえてきた。
私も子供ではない、それがどういう意味で中で何が始まっているのか想像できる。
仕える屋敷の情事は見て見ぬふりをするのが礼儀であり、盗み聞きするものではない。
分かっている…分かっているがその場を離れることが出来なかった。
会話は何を言っているのかは聞き取れないが、エストレヤ様の喘ぐ声は聞き取れた。
「ぁんっあんっんあんっぁん…あああ゛あ゛ん゛んんふぅん」
中でどんなことが行われているのか容易く想像でき、妄想が膨らんだ。
如何わしい知識など一切触れず何年も仕えてきた…。
恥ずかしがりやで人前で話すことも苦手で困惑の表情を浮かべていることが多いエストレヤ様は、他者からの第一印象はお綺麗な顔だが不機嫌な印象を与えてしまっていたらしい。
新しく入る使用人からよく、そのような相談を受けた。
事実を話せば皆恐れることはなくなり、エストレヤ様の笑顔を見た時は盛り上がっていた。
私が礼儀に欠けた醜態を晒していると、後ろから肩を叩かれた。
叫び声がでなかったのは奇跡だった。
振り向けば最近仕えるようになった新人が興味津々に私に近づいた。
「なにしてんすか?」
突然耳元に囁き声で尋ねてくるのは最近入ったばかりの新人だ。
侯爵家に仕え数年という月日を過ごしている私が新人にこのような姿を見せるとは…。
「あなたはここに何を?」
「私は食事の準備が整いましたので声をかけに…。」
「分かりました。」
一度中の様子を確認するも喘ぎ声は聞こえず、会話しているようだった。
私自身を落ち着かせ、こんこんこんとノックした。
「お食事の準備が出来ております。」
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エストレヤ様が焦っているのは、声からして分かってしまう。
「畏まりました。」
私は新人を連れて調理場に向かった。
「まさか中で二人が?」
新人がニヤつきながら私に尋ねてくる。
先程の行動を見られているので、安易に窘めることも出来ず無言で誤魔化した。
食堂でお二人をお待ちしていると、エストレヤ様は衣服を着替えていた。
それだけではなく、瞳も潤ませアティラン様に抱き寄せられている。
私達の困惑などには気付かず、アティラン様に支えられながら席に着くエストレヤ様。
その事には一切触れず「では食事にしよう」という侯爵の言葉で食事が進められた。
「ぁっあの…」
食事の席でエストレヤ様から発言など珍しく、驚いた。
「どうした?」
それは侯爵も同じように見受けられた。
「あの…もう…遅いですし皆さんには我が家に…泊まって頂いては…。」
これは、エストレヤ様の意思というより別の人間の思惑が見てとれる。
エストレヤ様自身にはその言葉に下心なくとも、言わせた本人には下心満載に見えた。
言わせた本人だろうアティラン様はこのようなお方だったのか?
「今日はっ書類の手続きなどで色々と有ったし、グラキエス公爵も忙しく引き留めるのは良くないぞ゛」
私の不安は当然侯爵も感じ取っているようだった。
「俺は構いませんよ?」
なんとふてぶてしい。
噂に聞いていたアティラン様像はすっかり消え去っていた。
「なら、エストレヤが来るか?いずれ結婚すれば一緒に住むんだ早いうちに公爵家に慣れていた方がいいだろ?」
屋敷に連れ込んで何する気だっ?
「一人では行かせない、私も行く。」
「当主は忙しいのでは?安心してください、エストレヤは俺が守ります。」
「…ん゛、グラキエス公爵、本日は泊まってはいかがですか?」
結局、アティラン様を追い返すことは叶わずお泊めすることになった。
それでも、エストレヤ様を一人で行かせるよりは断然ましである。
それに侯爵家であれば多少は…止められるのか?
「えぇ、客室に・客室に・客室にお泊まりください。」
侯爵は客室と何度も念を押していた。
使用人に支持し、急いで客室の準備をするようにと頼んだ。
「ありがとうございます…エストレヤ客室に案内してくれるか?」
耳を疑った。
「使用人が案内します。」
ですね。
私は侯爵の意見に同意した。
私が丁寧に案内をいたしましょう。
「そうですか。エストレヤ、学園主催パーティーについても話し合おう。客室に来てくれるよな?」
学園主催のパーティー…。
忘れていたわけではありませんが、エストレヤ様は婚約者が居りませんでしたので常に一人で参加していました。
それは婚約者がいるアティラン様もお一人でしたので深く気にすることも焦ることもありませんでした。
だが、今日お二人は婚約なさった。
なのに、エスコート無しで参加するのは…。
アティラン様は王子が婚約者でもお一人でしたが、エストレヤ様は耐えられないだろう。
「ん゛っ」
侯爵もアティラン様より、エストレヤ様の社交界での立場を優先するとなれば…。
「そうだな、婚約して学園とはいえ初めてのパーティーだ確りしないとな。」
「だけど、今からでは衣服と宝石も間に合いませんよ。」
「…せめて、色だけでも…。」
侯爵と私以外の人間は、アティラン様とエストレヤ様の関係を咎めることも不安になることもせず受け入れてしまっている。
能天…朗らか…おおらか過ぎませんか?
「エストレヤ、案内してくれるか?」
「はいっ」
二人は食堂を出ていった。
睨み付けるように二人の背中を見つめる侯爵…あなたの気持ち、私だけは理解しております。
客室の前に立つも中に入る勇気はなかった。
いつまでも扉に張り付いているわけにもいかず、調理場へと向かった。
「あっ、どうでした二人は?もうイチャついてる頃ですよね?」
私の醜態を目撃した新人が声を押さえることなく尋ねてくる。
「えっ?二人ってもうそんな関係なんてすか?」
「あぁ、さっきだって…。」
「止めなさい、言いふらすようなことてはありません。」
私の制止に空気が一転してしまった。
私でさえ二人の関係が気になり、盗み聞きしてしまうくらいだ皆だって同じ気持ちのはず…だからと言って許されることではない。
「…あの方達は恋人同士のようですね。」
「…本当っすか?」
「えぇ、なので部屋の掃除は念入りにお願いしますよ。」
私の言葉でその場にいたもの達は何を意味するのか、正確に感じ取ったようだ。
一度エストレヤ様の部屋に向かったが、部屋には誰もいなかった。
恐ろしくはあったが、侯爵には事実を報告した。
エストレヤ様の部屋には衣服が散乱しパンツには…。
いくら報告の義務があっても、その事は黙っておきました。
それでも侯爵は翌朝に困惑し客室の前にいた私達を押し退け、情事を交わしていた二人の部屋へ乗り込んで行った。
怒鳴り声を聞いたが、侯爵は一人落ち込んだ様子で部屋から出てきました。
エストレヤ様がアティラン様に愛されているのは伝わったが、少しは侯爵の気持ちも…。
侯爵はエストレヤ様を大事に思っておりました。
王子の第二妃の座もエストレヤの為です。
エストレヤ様の綺麗な顔は相手に冷たい印象を与えてしまいます。
そして、人見知りの性格が更に誤解を生んでしまっていることも。
エストレヤ様を守るためには権力者に嫁ぐのが一番だと私達使用人も感じておりました。
侯爵家に似合う家門でエストレヤ様を守ることが出来る者。
それは、アティラン様でした。
王子の婚約者で潔癖な程の公平を貫くことが出来るあの方の側なら、エストレヤ様も傷付くことはないと侯爵は考えており我々も納得でした。
噂によると王子とアティラン様の仲は冷えきっており、嘘でも良好とは言えない関係だと使用人の耳にも入っておりました。
側妃として爵位的にもエストレヤ様が選ばれる確率は高い。
好かれていることはなくとも、アティラン様程毛嫌いされることはないだろう。
であればきっとエストレヤ様が世継ぎを産み、政務はアティラン様が行う事になる。
そうなればエストレヤ様はきっと傷付くことはないだろう…。
…まさかのアティラン様が記憶喪失…。
更には色欲に走るとは…。
エストレヤ様の身が心配でなりません。
人を疑わないエストレヤ様は、アティラン様の頭の中がエストレヤ様の裸で一杯など夢にも思ってないでしょう。
アティラン様と会話したことはありませんが、見る限りその男はエストレヤ様をどんな風に辱しめてやろうかしか考えていないのは会って間もない私にも分かることなんです。
愛されているのは喜ばしいことですが、その愛され方は心配でなりません。
エストレヤ様、お願いですから少しは「拒絶」してください。
朝食の席では、和やかな雰囲気ではあったものの侯爵の目が厳しくエストレヤ様を確認すれば誤魔化しようの無い程首に様々な痕が付いておりました。
堂々としているエストレヤ様をみると、ご自身の首にそんな痕が付いていることなど夢にも思っていないはず。
公爵夫妻や奥様は寛大に受け入れてますが、侯爵だけは…。
食事を終えお二人が部屋に戻ってしまわれた。
扉の向こうでお二人が何をしているのか考えたくもないです。
ですが、食事の為にお二人に声をかけなければなりません。
扉に耳を付ければエストレヤ様の艶かしい声が聞こえてきます。
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